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「玄関の外まで、声が響いています」ひとり暮らしで言えずにいた私。だが、名前の出ない1枚の紙が救った瞬間

  • 2026.7.26

壁の向こうの笑い声

ひとり暮らしをはじめて三か月、隣の部屋から話し声が聞こえるようになりました。

始まるのは、決まって夜の十一時過ぎです。何人かの笑い声と、床に物を置く音が、言葉の切れ目まで届きます。

週に二度か三度、それが二時近くまで続きます。

早番の前の日は、目を閉じたまま天井を見ていました。

インターホンを押しに行こうと思ったことは、何度もあります。廊下まで出て、扉の前で立ち止まり、結局そのまま部屋へ戻りました。

(女がひとりで住んでいると、知られたくない)

チェーンを掛け直すたび、そう思いました。

押せなかった最後の一桁

管理会社の番号は、冷蔵庫に貼ってありました。

受話器を持ち上げて、途中で戻したことが何度もあります。苦情を言ったのが私だと伝われば、隣の扉はすぐそこです。

友人に話すと、こう言われました。

「言わなきゃ何も変わらないよ」

「言った次の日から、あの人と廊下ですれ違うんだよ」

友人は黙りました。ひとりで住むのは、そういうことです。

エレベーターホールの紙

月が変わった朝、掲示板に紙が一枚、貼られていました。

管理会社の名前が入った、全戸あての用紙です。

角を四か所、テープで留めてあります。

「玄関の外まで、声が響いています」

その一文からはじまっていました。深夜の話し声と物音について複数のご相談をいただいている、

二十二時以降はご配慮をお願いしたい。どの部屋の話かも、誰が言ったのかも、どこにも書いてありません。

紙の前で、しばらく動けませんでした。私が言えずにいたことが、名前のつかない言葉になって貼られています。

その夜、壁の向こうは静かでした。

次の週も、その次も。十一時を過ぎても、笑い声が壁を通ってくることはありません。

数日後、ごみ置き場で一緒になりました。先に口を開いたのは、隣の方でした。

「あの紙、うちのことですよね」

「…分かりません」

「壁が、あんなに響くと思ってなくて」

友人が集まると、つい声が大きくなるのだと言っていました。責める言葉も許す言葉も出てきません。私は袋を置いて、頭を下げました。

それから、階段ですれ違うと向こうから会釈をされます。夜は静かなままです。

いまも、隣に誰かが来ている気配はします。けれど、声が壁を越えてくることはありません。名前の出ない紙が一枚あっただけで、私は誰にも知られずに済みました。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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