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「順番に受け継ぐものよ、この着物は」孫の私に着物を着せながら祖母が喜んだ。だが、私の表情が曇ったワケ

  • 2026.7.25

たとう紙を開いた朝

祖母の家の座敷で、着物を着せてもらうことになりました。

桐の箪笥から出てきたたとう紙を、祖母が両手で開きます。

祖母が嫁入りのときに持ってきた、淡い藤色の一枚でした。

「あなたに合うと思ってたのよ、これ」

肌襦袢の上から袖を通すと、絹の重みが肩に乗ります。

祖母が衿を合わせて、後ろにまわって衣紋を抜きました。

「背が伸びたねえ。丈がちょうどよくなった」

叔母は畳に膝をついて、腰紐を一本ずつ結んでいます。

祖母が衿を直し、叔母が帯板を差し込む。ふたりの手は、言葉を交わさずに動いていました。

順番という言葉

帯が背中でひと巻きされたところで、祖母が鏡越しに目を細めました。

「順番に受け継ぐものよ、この着物は」

母が一度だけ袖を通して、それから畳まれたままだったのだそうです。

「あなたの子が女の子だったら、いつか着せてあげられるわねえ」

ちょうど帯が締まって、息が浅くなりました。鏡のなかの自分の顔が、少しだけ動きを止めます。

祖母には、責める気持ちなど少しもありません。

長く手をかけてきた一枚が、これからも誰かの肩に乗る。その先を思い描いて、うれしくなっただけです。

けれど私の先には、行き先の決まった一本道が引かれていました。結婚、出産、そして女の子。

「…そうやね」

返事の声が、自分でも薄いと分かりました。

叔母が受けた一言

帯揚げを直していた叔母が、手を止めないまま言いました。

「この子が着たいときに、この子が着ればよかよ」

叱るでも笑うでもなく、帯の形を直すついでのような調子でした。

祖母の手が、衿の合わせのところで止まります。小さく「あら」と言って、それから素直にうなずきました。

「そうやねえ。着る人が決めるのが、いちばんよかね」

祖母が、ふと思い出したように言い足します。

「この着物ね、順番でうちに来たわけじゃないの」

嫁入り道具に着物を一枚も持たせてもらえなかった祖母へ、近所の人が黙って持たせてくれた一枚なのだそうです。

「もらった当時は、着ていく先もなかったのにねえ」

叔母が帯締めを結んで、指先で形を整えました。

「はい、できあがり」

祖母は座布団から立ち上がって、少し離れたところから全体を眺めています。

「今日は、あなたのために着てちょうだい」

鏡のなかの藤色が、さっきより明るく見えました。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、20代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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