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日本の「生きた文化」を、日常から世界へ ルミネ代表取締役社長 表輝幸 × 日本文化発信機構代表理事 齋藤峰明

  • 2026.7.23

日本文化発信機構 JCCOが目指すもの

ルミネ表社長<br />
ルミネ表社長

パリ・ファッションウィーク期間中の2026年6月14日〜7月7日、ルミネが初めてパリで開催したポップアップ「tokyo sense」。日本ブランドの魅力を世界に発信するこのプロジェクトでは、世界的なバイヤー・リーテーラーである、アンドレアス・ムルクディス氏をはじめとするグローバルなパートナーと連携し、日本独自のものづくりの精神や感性、美意識を世界へ紹介した。その会場で、ルミネ代表取締役社長・表輝幸氏と、日本文化発信機構代表理事でありルミネ顧問も務める齋藤峰明氏が、日本の美意識やライフバリュー、そしてプレミアムジャパンアワードに寄せる期待について語り合った。

暮らしの中に息づく、日本の文化

 

ルミネはこれまで「ライフバリュープレゼンター」として、お客さまの半歩先、一歩先の未来を提案してきました。単に商品を販売するのではなく、お客さま一人ひとりの暮らしや価値観に寄り添い、ワクワクする気持ちや、明日への勇気、元気につながるような体験を届けたい。それが私たちの使命だと考えています。

 

ですから、私たちにとっての文化発信も、伝統文化をただ紹介することではありません。日本の長い歴史の中で育まれてきた精神性や美意識、人への思い、自然との共生、調和やバランスといった価値を、今の暮らしの中で楽しめるもの、身につけたくなるもの、使いたくなるものとして提案していくことだと思っています。

 

 

 

 

 

齋藤 おっしゃる通りで、日本文化というのは、どこか上から与えられるものではなく、日々の生活の中で育まれてきたものだと思うんです。日本人の毎日の暮らしの中に、美意識や気質、ものの考え方が脈々と生きている。だから、昔のものだけが日本文化なのではなく、今の日本の若い人たちが身につけているファッションや、暮らしの中で選んでいるものにも、現代の日本文化があるわけです。

 

ルミネが提案してきたライフスタイルやライフバリューは、まさにその現在進行形の日本文化とつながっていると思います。今の生活の中で価値あるものを見つけ、一歩先の形で提示する。そのこと自体が、日本文化の系譜の中にあるのではないでしょうか。

そうですね。特別な時だけの特別なものではなく、日常の中で親しみ、楽しめることが大事だと思っています。いいものをただ「いいものですね」と見せるだけでは、そこで止まってしまう。今の時代に使ってもらい、身につけてもらい、楽しんでもらう形に翻訳しなければ、文化も技術も次の世代につながっていきません。

 

 

齋藤 それはフランスでも同じです。たとえばエルメスは、もともと馬具を作ってきたメゾンです。19世紀には馬や馬車が移動手段でしたから、感性の高い顧客は馬具にもこだわった。もっと紐を細くしてほしい、ここに装飾を入れてほしい、というような注文があり、その中で美意識や技術が磨かれていったわけです。

 

今は馬具を日常的に使う時代ではありません。でも、その技術や美意識は、バッグや革製品の中に形を変えて生きている。つまり、文化はそのまま保存されるだけではなく、時代に合わせて変換されることで生き続けるんです。日本のものづくりも同じで、昔からの精神性や技術を、今の生活にふさわしい形で提案することが大切なのだと思います。

ポップアップ「tokyo sense」を訪れた、ルミネ代表取締役社長の表輝幸氏。

世界へ出て初めて、日本が見えてくる

 

 

世界を見て回る中で、改めて日本にはこれからの時代にとって大切なものがたくさんあると感じるようになりました。自然との共生、ものづくりの丁寧さ、人を思いやる心、世のため人のためという精神性。そうしたものは、日本では当たり前に感じられているかもしれませんが、世界から見ると非常に本質的で、これからの社会に必要とされる価値なのだと思います。

 

ただ、日本人自身は、自分たちの良さに気づいていないことも多い。だからこそ、外へ出て、世界の目で見てもらうことが大切なのだと思います。

齋藤 本当にそうですね。日本人は、自分たちが日々使っているものの質の高さに、意外と気づいていません。洋服のディテールや縫製の美しさ、道具の完成度、サービスの細やかさ。海外から見ると、それはとても高い水準にあります。

 

私はエルメスに長く関わってきましたが、フランスのラグジュアリーブランドが特別な価格帯で実現しているような細やかなものづくりを、日本では日常の中で普通に享受している面があるんです。そこに、日本の生活の質の高さがある。ファッションにしても、町工場や職人の技術が支えたものを、日常のライフスタイルの中で自然に着ている。これは世界に誇れることだと思います。

 

 

そうした日本の価値を、今の時代にきちんと変換し、ビジネスとしてつないでいくことが大切だと思っています。素晴らしいものを作っている方々も、後継者不足や市場の縮小で苦労されています。でも、それを世界に向けて今の暮らしに合う形で提案できれば、大きな可能性があるはずです。

 

 

齋藤 世界に出ることで、作り手自身も自分たちの価値に気づくことがあります。日本の近くのお客さまだけを見ていると、売れた、売れないという話になってしまう。でも、海外の人が違う視点から評価してくれると、「自分たちがやっていることは、世界でも通用するのだ」と分かる。そこから新しい可能性が開けていくと思います。

日本文化発信機構代表理事で、ルミネ顧問も務める齋藤峰明氏。

シンガポールからパリへ

 

 

ルミネの海外展開は、今回のパリから突然始まったものではありません。これまでもシンガポールにグローバル旗艦店を構え、東南アジアから世界へ向けてライフバリューを提案してきました。

 

シンガポールで展開してきたことで、現地の方々にルミネを知っていただき、そこから日本を訪れた際に「ルミネに行きたい」と言っていただくような流れも生まれています。つまり、海外での接点が、日本への関心や来訪にもつながっていく。そうした循環をつくれることに、大きな手応えを感じています。

 

その上で、次の挑戦の場として選んだのがパリでした。パリはファッションだけでなく、美術、デザイン、食、ライフスタイルまで、世界中のクリエイティブが集まる場所です。審美眼の高い人々が集まり、新しいものを見つけ、世界へ発信していく都市でもあります。そこで日本の価値をどう受け止めてもらえるのか。これは、私たちにとって大きな挑戦でした。

 

齋藤 パリを選んだことには、とても大きな意味があると思います。日本の価値を世界へ届けるには、日本人だけの目で「これが日本です」と示すのではなく、世界の目を通して、どう見えるのかを知る必要があります。

 

そこで重要だったのが、アンドレアス・ムルクディスさんの存在ですね。彼はベルリンで長年セレクトショップを営み、ファッション、デザイン、インテリアを横断して、世界中の質の高いものを見てきた人物です。日本にも長く通い、日本人が見過ごしている日本の良さを、外から見抜く目を持っている。

 

 

アンドレアスさんとの出会いは、本当に大きかったです。彼はルミネのことを最初からよく知っていたわけではありませんでしたが、齋藤さんと一緒にお会いして話していくうちに、私たちがやろうとしていることにとても共感してくれました。「これはやるべきだ。自分も協力したい」と言ってくださった。

彼はヨーロッパのマーケットを熟知していますし、世界のいいものを見続けている。その中で、日本の良さも深く理解している。ですから、私たちが日本の価値をパリで発信する上で、彼の視点は非常に心強いものでした。

齋藤 アンドレアスさんの素晴らしいところは、日本らしさを過剰に演出しようとしないことだと思います。日本人はどうしても、あれも見せたい、これも説明したいとなりがちです。でも、彼は本当に伝えるべきものだけを選び、余分なものを削ぎ落としていく。その編集の力によって、日本の魅力がかえって際立って見えてくるのです。

 

 

実際、彼に言われて気づかされたことはたくさんあります。たとえば縫製ひとつ、襟元の仕上げひとつでも、私たちからすれば当たり前にきれいに作られているものが、彼から見ると「これは日本でしかできない」と映る。しかも、それを特別な価格ではなく、日常の中で身につけられる形で提案している。そこに大きな価値があるのだと教えられました。

 

今回の「tokyo sense」は、日本のブランドをただ並べるポップアップではありません。日本のものづくりや美意識を、世界の人々に伝わる形へ編集し、翻訳する試みでした。その意味で、シンガポールで築いてきた海外展開の経験と、パリという世界の舞台、そしてアンドレアスさんの視点が重なったことが、このプロジェクトの大きな意味だったと思っています。

パリ・マレ地区で開催された「tokyo sense」では約30の日本のブランドが集結した。
ルミネのパートナーであるアンドレ アス・ムルクディス氏とともに選定した商品が並ぶ。

パリで見えた、日本の価値

 

 

今回パリを選んだのは、単にヨーロッパへ進出するということではありませんでした。シンガポールはアジア市場への展開拠点として位置づけており、日本へのインバウンドとも相乗効果を生み出しています。一方でパリは、マーケットというより、日本の価値が世界でどのように受け止められるのかを確かめるための場所でした。

 

ファッションやデザイン、美術、食など、世界中から新しい価値が集まり、厳しい目で評価される都市です。だからこそ、そこで日本のものづくりやライフスタイルがどう評価されるのかを知ることに、大きな意味があると考えました。

齋藤 私も、その違いはとても大きいと思います。シンガポールはマーケットとして成長している地域ですが、パリは文化の発信地です。ここで評価されることは、世界中の人たちが日本を見る視点にもつながっていきます。

 

今回のポップアップを見ていて強く感じたのは、日本のものづくりは、決して一部の有名デザイナーだけが支えているわけではないということです。町工場や中小メーカー、地方の作り手たちが積み重ねてきた技術や美意識が、日々の生活の中に息づいている。その価値をパリの人たちが自然に受け止め、高く評価してくれたことは、作り手にとっても大きな励みになったと思います。

 

日本国内だけを見ていると、その時代の市場のトレンドという尺度で物事を考えがちです。しかし、世界の視点から「ここが日本ならではの魅力だ」と評価されることで、自分たちでも気づいていなかった価値が見えてくる。その経験は、日本のものづくりの未来にとって、とても大きな意味を持つのではないでしょうか。

私も、今回改めて感じたのは、日本には世界で十分評価される価値がまだまだあるということです。ただ、それを「いいものですね」で終わらせてしまっては意味がありません。

 

人口減少が進む日本では、これから世界とつながるビジネスを育てていくことが不可欠です。そのためには、日本の文化や技術を現代の暮らしの中で使われる形へ翻訳し、継承していかなければならない。そうしなければ、後継者も育たず、歴史もそこで止まってしまいます。

 

私たちは今回、その可能性をパリで証明したかったのです。

会場前で、表輝幸氏と齋藤峰明氏。
オープニングイベントにはファッション関係者を中心に約300人のお客さまが来店した。

「tokyo sense」が編集した、日本という一つの世界観

 

 

齋藤 今回、私が最も印象的だったのは、約30のブランドが一つの空間に集められていたことです。

 

これまでも、日本のブランドが海外で展示会を開くことはありました。しかし、多くは一社ごと、一つのブランドごとの発信でした。これほど多彩なブランドが一堂に会し、日本という一つの世界観として見せられた例は、ほとんどなかったと思います。

 

それぞれの商品を見ているうちに、日本人ならではの丁寧さや美意識、自然観、細部へのこだわりといった共通する価値観が浮かび上がってくる。それが非常に新鮮でした。

そこは、まさにルミネが日本でずっと取り組んできたことでもあります。

私たちは一つのブランドだけを紹介するのではなく、ライフスタイル全体を編集し、お客さまに提案してきました。その考え方を、そのままパリへ持っていったのです。

 

小規模なブランドは、個々では世界で戦うことが難しい場面もあります。しかし、共通する価値観を持ったブランドが集まり、一つのプラットフォームとして見せることで、日本全体の魅力や総合力が伝わる。それが今回の「tokyo sense」の大きな狙いでした。

 

実際に来場された方々も、一つひとつの商品だけでなく、その奥に流れる日本の精神性を感じ取ってくださいました。真面目さや丁寧さ、人への思いやり、自然との調和。そうしたものが全体を通して伝わり、「これを身につけると自分も心地よくなれそうだ」と感じてくださった。それが何より嬉しかったですね。

齋藤 もう一つ面白かったのは、「パリコレ」とは全く違うアプローチだったことです。

通常、海外へ出るブランドは、「世界に認められたい」という意識で勝負します。しかし今回のポップアップは、そうではありません。

毎日の生活の中で自然に着てもらい、使ってもらう。その延長線上に日本らしさがあるという見せ方です。だから力んでいない。その自然さこそが、日本の暮らしや文化そのものを映し出していたと思います。

 

私は、こうした発信はフランスの人たちだけでなく、日本人自身にも大きな意味を持つと感じました。

海外で評価される姿を見ることで、「私たちの日常には、こんな価値があったのか」と改めて気づくことができる。いわば、日本文化の逆輸入です。

世界へ発信することは、同時に日本人自身が日本を見直す機会にもなる。その循環が生まれることは、とても意義深いことだと思います。

今回、多くの方が「価格以上の価値を感じる」と言ってくださいました。それも、日本のものづくりに共通する精神が背景にあるからだと思います。

 

日本には、「自分だけが良ければいい」という考え方ではなく、「世のため、人のため」という精神があります。地方の作り手ともよく話しますが、「もっと高く売れるのでは」と言っても、「この価格で十分です」とおっしゃる方が少なくありません。

 

誰かだけが利益を得るのではなく、みんなで支え合い、長く続けていく。その精神性が商品の価格にも、品質にも表れている。そして、それをパリの人たちが感じ取ってくださったことは、大きな自信になりました。

 

 

会場には、ファッション、クラフト、ビューティー、ジュエリー、アートブックなどが並んだ。

Premium Japan Awardが担う役割

 

 

今回、プレミアムジャパンアワードに協賛させていただいたのは、私たちが目指している方向と、とても近いものを感じたからです。

 

日本には、本当に素晴らしい技術や文化があります。しかし、それが十分に知られていないまま、後継者不足や市場の縮小によって失われつつあるものも少なくありません。だからこそ、そうした価値をもう一度見出し、社会へ、そして世界へ発信していく場が必要だと思っています。

 

私たちも商業施設という立場から同じことを考えていますし、プレミアムジャパンアワードは、それを別の角度から実践されている。そういう意味で、とても共感しました。

齋藤 私も、このアワードには単なる「表彰」にとどまらない役割があると思っています。日本には優れたものがたくさんあります。しかし、日本人自身がその価値に気づいていないことも少なくありません。

海外で評価されることで初めて、「自分たちがやってきたことには意味があった」と実感できることがあります。そうした再発見のきっかけをつくることも、このアワードの大切な役割ではないでしょうか。

 

 

そうですね。私たちは今回パリで、日本のものづくりが世界で十分通用することを改めて実感しました。それを一過性の出来事で終わらせるのではなく、日本の作り手の皆さんへ還元していくことが大切です。

「世界はこう評価してくれていますよ」「だから、自信を持ってください」そういうメッセージを届けられる存在になれたらと思っています。

齋藤 文化というものは、一人では育ちません。作り手がいて、伝える人がいて、それを受け取る人がいる。プレミアムジャパンも、ルミネも、それぞれ立場は違いますが、日本の価値を未来へつないでいこうとしているという意味では、同じ方向を向いていると思います。

 

 

まさに、同志ですね。それぞれ役割は違いますが、「日本の価値を未来へつないでいく」という思いは共有しています。今回のご縁をきっかけに、これからもいろいろな形でご一緒できれば嬉しいですね。

100年先、1000年先へつなぐために

 

 

齋藤 私は長く海外で仕事をしてきましたが、今ほど世界が日本に期待している時代はないのではないかと思っています。

 

環境問題や社会の分断など、多くの課題を抱える中で、日本が昔から大切にしてきた自然との共生や、人との調和を重んじる考え方には、これからの世界にとって大きな示唆があります。それは宗教でも思想でもなく、私たちが日々の暮らしの中で自然に受け継いできた文化です。だからこそ、それを今の時代の言葉で世界へ伝えていくことが大切なのだと思います。

 

 

私も同じように考えています。日本には「三方よし」という言葉があります。売り手、買い手、世間、みんなが幸せになるという考え方です。

 

私自身は、それをさらに広げて、「五方よし」という考え方が必要だと思っています。社会や地域だけではなく、未来や地球環境まで含めて考える。これからの企業には、その視点が欠かせないのではないでしょうか。

齋藤 日本文化の魅力は、決して華やかさだけではありません。自然への畏敬、人への思いやり、調和を大切にする姿勢。そうした目に見えない価値が、ものづくりやサービス、暮らしの中に自然と息づいています。

世界の人たちが日本に惹かれるのも、そうした精神文化を感じ取っているからだと思います。

 

 

文化は、守るだけでは続きません。今の暮らしの中で使われ、楽しんでもらい、次の世代へ受け継がれていくことで初めて生き続けます。だから私たちは、これからも日本の価値を現代のライフスタイルの中で提案し続けたい。

それが、100年先、1000年先へ日本文化をつないでいくことにつながると信じています。

 

 

齋藤 今回のパリでの挑戦も、その長い歴史の中の一歩ですね。

一歩かもしれません。でも、その一歩が誰かの未来につながる。日本には、まだ世界へ届けるべき価値が数え切れないほどあります。それを一つひとつ丁寧に伝え、次の世代へ受け渡していく。その積み重ねこそが、日本文化の未来をつくっていくのだと思います。

輝幸 Teruyuki Omote

株式会社ルミネ代表取締役社長。1988年東日本旅客鉄道株式会社入社。帝国ホテル出向を経て、JR東日本で駅開発や商業施設事業に携わり、東京駅「グランスタ」の開発や紀ノ國屋事業などを担当。ルミネ専務取締役を経て、2023年より現職。「the Life Value Presenter」の理念のもと、日本のライフスタイルや文化の価値を世界へ発信する取り組みを進めている。

 

 

 

齋藤峰明 Mineaki Saito

シーナリーインターナショナル代表。パリ第一大学芸術学部卒業後、三越パリ駐在所長を経てエルメスインターナショナル入社。1998年エルメスジャポン社長、2008年外国人として初めてエルメス本社副社長を務め、2015年退社。フランス共和国国家功労勲章シュヴァリエ叙勲。日本文化発信機構代表理事。

Text by Izumi Fily-Oshima

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