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岸谷五朗、「いつかまた」と思い続けた原点・小劇場にカムバック 作・演出・出演『ジャコメッティのように』開幕

  • 2026.7.21
PRIME VINsTAGE 『ジャコメッティのように』取材会の様子 クランクイン! width=
PRIME VINsTAGE 『ジャコメッティのように』取材会の様子 クランクイン!

俳優の岸谷五朗が作・演出を務めるPRIME VINsTAGE『ジャコメッティのように』が、東京・恵比寿のシアター・アルファ東京にて開幕した。PRIME VINsTAGEは、岸谷が小劇場空間でしかありえない芸術創造を具現化するために始動。本作は、唯一無二の彫刻家アルベルト・ジャコメッティの生き様と現代日本の人々とを対比させつつ、「生きる意味」を模索する姿を描いた物語となっている。キャストには渡部豪太、純名里沙、岸谷五朗の3人に加え、大駱駝艦の小田直哉、石井エリカが身体表現で作品を彩っていく。初日に先駆け開催された会見とゲネプロの様子をレポートする。

【写真】岸谷五朗の新たな一歩 PRIME VINsTAGE『ジャコメッティのように』ゲネプロの様子

◆ジャコメッティの生き様と現代日本の芸術家の生き様を対比

舞台にはイーゼルが印象的に配置され、中央にはゆるやかな坂道もあり、平坦な舞台セットではない。壁はコンクリート打ちっぱなしのようにも、白灰色に塗りつぶされたキャンバスのようにも見える。上手・下手にはPRIMEシートが配置され、真横から間近で作品を鑑賞できる座席となっていた。

冒頭、暗がりの中現れたのは日本人哲学者の矢内原伊作(渡部豪太)。魂の器を思わせるようなランタンを手に、ジャコメッティ(岸谷五朗)が生きた時代へと観客を誘う。ジャコメッティは、納得できなければ、どれほど時間もかけた作品でも容赦なく没にし、捨ててしまうほどのこだわりの強い人物。そんな彼の作品のモデルをすることになった伊作は、毎日のように彼のアトリエに通った。そしてモデルをした後は、ジャコメッティの妻・アネット(純名里沙)も含めて、いつものカフェで食事をする。いつまでたっても作品は完成せず、何度も帰国を引き延ばす伊作だったが――。

芸術に魅入られているジャコメッティのこだわりに、戸惑いつつも抗えない魅力を感じているであろう伊作。やや狂気じみた空気を、アネットが朗らかに笑い飛ばし、3人だけの奇妙な“日常”が出来上がっていく。渡部はジャコメッティの芸術性に戸惑いながらも惹かれていく伊作を熱量をもって演じ、語り部として観客を巻き込んでいく。そして岸谷演じるジャコメッティの飄々とした振る舞いが、彼のストイックさをより匂い立たせ、そんな2人の間を純名が演じるアネットがしなやかに包んでいた。

場面は変わって現代。壁も服装もカラフルに彩られ、賑々しさが漂う。かつて学校の宿題の絵で「佳作」を得たことから、芸術家を目指している幸一郎(岸谷)は、弟の幸三(渡部)をモデルに作品制作に励む。幸一郎の妻・道子(純名)も、ジャコメッティに心酔する夫にあきれながらも、作品作りを応援していて――。

芸術に突っ走る幸一郎を支えつつ、やいのやいのと軽口でやりあう幸三からは、兄弟ならではの距離感が感じられて温かい。それは、妻の道子も同じで、ヤジるような言葉であっても、見守るような、日向のようなあたたかさが感じられた。

どちらの時代の3人も、奇妙ながらも強い絆を感じさせる一方で、ふとしたきっかけで崩れてしまいそうな脆さもある。天才と言われながらひとつも作品を完成させることのなかったジャコメッティ。なかなか評価されなくても、命を削るように作品を作ろうとする現代の芸術家。環境や状況は違えど、芸術に魅入られ、芸術に生きようとする姿には重なるものがある。幸一郎が芸術の本質に近づいた時、彫像が動き始めるように絡みついてくる、大駱駝艦の小田、石井の両名の身体表現による圧巻のパフォーマンスは見ものだ。

また、客席を含めたハコ全体が舞台となるような臨場感は小劇場だからこそできるパフォーマンス。映像なども多用され、鮮やかに物語を魅せるテクニックも素晴らしいが、役者が生身で演じているという“舞台”の根幹たる魅力も存分に味わえるはずだ。

◆「ようやくこれまで培ってきたことを小劇場でお届けできる」(岸谷)

ゲネプロの前には、岸谷五朗、渡部豪太、純名里沙による取材会も行われた。

岸谷は「芝居がしたくてしょうがなかった頃、それを受け止めてくれたのが小劇場」と、20代を振り返る。地球ゴージャスで大きな劇場での公演を追求しながらも、いつかまた小劇場で、という思いはずっと持っていたと話し「ようやくこれまで培ってきたことを小劇場でお届けできるのではないかと、旗揚げしました」と明かした。題材となったジャコメッティについては「物心ついたとき出合い、魅了されたのがジャコメッティ。歳を重ねて、ジャコメッティとその周りを取り巻く人たちの魅力あふれる人生を描きたいと思っていたので、旗揚げ公演でやれることを幸せに思います」とその胸中を語った。

「覚悟して準備したのですが、本当にセリフが多くてびっくり」と話す渡部。事前に岸谷から多いと聞かされていたものの、台本を読んでその膨大さに圧倒されたという。一方で「演出家・岸谷五朗としての葛藤のようなものが随所にあって、岸谷さんとジャコメッティが交錯していくようなところが垣間見えて、ゾクゾクしました」と、芸術にまい進する岸谷の姿が物語と重なると話した。

純名も「読めば読むほど、稽古すればするほど、台本から愛の深さを感じられた」と話し、「キャスティングから私を信じてくださっていることを感じられて、期待に応えられる自分でいたいとエンジンをかけながら稽古を重ねてきました」と、稽古の日々を振り返った。また、小劇場という空間についても「お客さんとの距離が近く、とても贅沢な空間。作品に飲み込まれるように没入できるので、すべての席がスペシャルシート」と印象を語った。渡部も「演劇がお客さんを迎えに行っているかのような、飛び出していくような美術や舞台装置だな、と。とてもリッチな空間」と、小劇場ならではの表現を実感している様子だった。

そして岸谷は、「我々のエネルギーを集結させ、新たな演劇になることを祈って、全国のお客様にお見せできるよう、できれば海外のお客様にもお見せできるように、旗揚げ公演を大成功に収めたい。その成功の証人になっていただけるよう、劇場に足を運んでいただければ」と、このシリーズで目指すビジョンを言葉にし、作品をアピールした。

(取材・文・写真:宮崎新之)

PRIME VINsTAGE「ジャコメッティのように」は、8月2日まで東京・シアター・アルファ東京、8月13日~20日大阪・ABCホールにて上演。

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