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小林賢太郎作・演出『オールトの雲 ~天文台の大問題~』開幕 それぞれの居場所と向き合う普通の人々を描く“アカデミック・コメディ”

  • 2026.8.24
『オールトの雲 ~天文台の大問題~』ゲネプロ舞台写真 撮影:小林未和 width=
『オールトの雲 ~天文台の大問題~』ゲネプロ舞台写真 撮影:小林未和

劇場へ入るとブルーで統一された照明に、月や惑星を思わせる球体がいくつも浮かび上がっている。ここは近未来? 宇宙? いや、プラネタリウム…? 始まったのは、田舎の村に住む等身大の私たちのような人々を描く物語だ。劇作家・小林賢太郎が脚本・演出を手掛ける『オールトの雲 ~天文台の大問題~』が、大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで開幕した。

【写真】吸い込まれそうなブルーの照明も印象的!『オールトの雲 ~天文台の大問題~』ゲネプロ舞台写真

◆登場人物誰かしらに自分を当てはめられる物語

仕事を辞め、離婚して東京から故郷の宵待村に出戻ってきた網野翠香(鈴木サアヤ)。老舗旅館の4代目の平家紀夫(鍛治本大樹)や、村役場に勤める根本辰也(三原一太)は、翠香の天文学者の父が、村の莫大な資金を使って作りかけたが未完成で、今や負の遺産といわれる天文台を完成させ、村おこしをすることを計画する。しかし、この天文台は通常とは違い、謎めいていた…。

村の料理屋には、世界の料理の腕を振るう常盤里乃(前田友里子)や、ワイナリーを営む望月洋(松本亮)、村で動画配信する犬山青菜(松井香乃)、オーガニックな生活を求めてやって来たモデルのMINAKO(三枝奈都紀)、天体カメラマンの大場鶴人(オクイシュージ)が集う。田舎暮らしを楽しむ今どきの人々に見えるが、天然だったり、素っ頓狂だったり、変わっていたりして、ユーモラスでコミカルな会話が展開し、クスクスと笑ってしまう。人に知られたくない話を、翌日には村人全員が知っていたり、人生でヤモリを見たことがない人がいたり、〝田舎あるある〟も盛り込まれる。

なぜ、皆、この辺ぴな何もない村にいるのか。それぞれの理由が段々と明かされていく。自己肯定感が低い翠香や、東京に強い憧れを抱く平家。誰もがこうありたい、あるべき自分の姿を求めてもがいている。

小林は、「この物語のテーマは『居場所』です。自分の居場所に納得してる人。自分の居場所を疑っている人。自分の居場所が変化した人。8人の登場人物が、それぞれの『居場所』といろんな向き合い方をしています。観てくださった人は、きっと誰かしらに自分を当てはめられるんじゃないかと思います」と語っている。

今作は、2025年に上演した『学芸員 鎌目志万とダ・ヴィンチ・ノート』に続く〝アカデミック・コメディ・シリーズ〟の第2弾。アカデミック・コメディと銘打つ通り、天文学に詳しくない観客にも分かりやすく、見やすいように作られている。中でも、大場が翠香に星を見せるシーンは学ぶことが多く、かつ目を見張らされた。今作のタイトルの「オールトの雲」とは、太陽系を包む小天体の層で、彗星のふるさとと言われている。科学的に存在は認められているが、まだ誰も見たことがないという。

常日頃、格別に輝いてもいない翠香のような、私たち普通の人々を星屑の層の「オールトの雲」に例えている。大場の「見えないイコール存在しないってことじゃない」と言うセリフに優しく励まされた。

◆オーディションで選ばれたキャスト陣の演技に惹きこまれる

全国オーディションで翠香に選ばれた鈴木は、ヒロインに抜擢されたのが強くうなずけるほど、周りをパッと明るくする華と、芯のある演技力の持ち主だ。ミュージカル『1789-バスティーユの恋人たち-』など数々の大作ミュージカルに出演しているだけあり、劇中で、宮沢賢治作詞・作曲の「星めぐりの歌」を歌うシーンでは、彼女のしっとりとした歌声が会場中に澄み渡った。キャスト全員も歌唱に加わり、胸を打たれる。星屑の一つひとつが、劇場で点と線になり、結びついたような感覚を覚えた。鈴木は、「初日から千穐楽まで、きっと日ごとに進化していくと思います。ぜひ、その変化もお見逃しなく」と意気込んでいる。

同じくオーディションで選ばれた、鍛治本、三原、松井をはじめ、オファーを受けて出演したオクイ、松本、前田、三枝も好演。小林は役者とコミュニケーションを取りながらあてがきしていくそうだが、本当に皆、こんなキャラクターなのでは?と思わせるほど違和感なく役にはまっている。小林のちょっとゆるくて笑えて、時に核心を鋭く突く会話を、安定した表現力とチーム力で、心地よいテンポで運んでいた。

はたして、天文台は完成できるのか? 宵待村の運命は? 自分の居場所で生きていくことに腹をくくったり、前へと進んだりしていく人々が潔い。同じ星の下にいる人や、もう会うことのない人、星の向こうにいる人にも夜空と共に思いを馳せてみたくなる作品だ。

『オールトの雲 ~天文台の大問題~』は、千秋楽のライブビューイングが9月6日16時から、イオンシネマの20劇場(調整中)で開催される。また、本編映像や未公開メイキングシーンを含んだBlu-rayも予約受付中。本作の世界をさまざまな形で楽しみたい。

(取材・文 米満ゆう子)

『オールトの雲 ~天文台の大問題~』は、8月28日・29日福岡・キャナルシティ劇場、9月2日~6日東京・サンシャイン劇場にて上演。

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