1. トップ
  2. 建築家・田根剛が語る、福島「時の海 - 東北」プロジェクトの現在地

建築家・田根剛が語る、福島「時の海 - 東北」プロジェクトの現在地

  • 2026.7.17
MARIKO YASAKA

現代美術家・宮島達男が東北に思いを寄せて始めた「時の海 - 東北」プロジェクト。東京・日本橋では、展示予定作品の実証実験とともに、美術館の最新完成予想図が披露された。宮島達男と、ヴィジュアル・アイデンティティを手掛ける長嶋りかこがそれぞれの構想を、建築を担う田根剛には、美術館の建築に込めた思想やビジョンを聞いた。

宮島達男|《Sea of Time - TOHOKU》コンセプトドローイング|2024

宮島達男が東北に思いを寄せる『時の海 - 東北』プロジェクト

現代美術家・宮島達男が東日本大震災に思いを寄せて立ち上げたアートプロジェクト「時の海 - 東北」プロジェクト。震災の犠牲者への鎮魂と記憶の継承、そして未来への希望をテーマに掲げ、日本全国3,000名の参加者それぞれが、宮島を象徴する9から1へとカウントダウンするLEDカウンターガジェットへ、自身の想いを込めた時間を設定した作品《Sea of Time - TOHOKU》を制作してきた。先日、この作品を常設展示する美術館の建設を目指し、実証実験を実施。実際の美術館での展示スケールに近いイメージで、最終段階のプロセスを日本橋・三井ホールで公開した。

「制作のワークショップで出会った東北の沿岸地域の方々は、どなたに聞いても海に恨み事を言う人はひとりもいませんでした。やはり海のそばで生きてきた人たちというのは、 悲しみも喜びも海とともにしてきたからこそ、家族のようなものになっているのではないかと思うんです」と振り返る宮島。作品を東北の地で常設展示できる場所を求め、沿岸を北から順に自ら歩いて見つけたのが福島県・富岡町の敷地だった。面積は36,744㎡。サッカーコート約5面分にも及ぶ広大な高台の敷地からは、美しい太平洋の海の姿を望むとともに、静かな波音を聞くことができる。

<写真>宮島達男による《Sea of Time - TOHOKU》のコンセプトドローイング。

デザイン:長嶋りかこ(village®️)

美術館のロゴマーク、およびヴィジュアル・アイデンティティを手がける長嶋りかこは、今回の実証実験に合わせてそのロゴデザインの意図と展示の構想について語った。

「この美術館は、例えば震災を経験した人、しなかった人、家族をなくした人とそうでない人、原発賛成の人、反対の人、ここに暮らす人、そうでない人など。思いも意見も背景も立場も異なる人々が出会う場所になると考えます。その間には、たくさんのグラデーションがあり、複雑な景色が広がっています。異なる人々が同じ海を見ながら、それぞれの思いをめぐらせる場所であると思います。ですのでロゴは、ゴシックと明朝体、日本語と英語という異なるもの同士を同じ大きさで並列しました。また、制作に参加された方々のメッセージを書籍化し、展示の一部を構成することも考えています」

集まった膨大なメッセージの一部を紹介しながら、デザインのコンセプトについて語る長嶋。メッセージを丁寧に読み解くことで立ち現れる思いや風景を視覚化する試みは、美術館のアイデンティティを象徴する重要な要素となる。

<写真>今回発表された、長嶋りかこによるロゴデザイン。

©Atelier Tsuyoshi Tane Architects

新たなイメージを初公開。田根 剛が描く美術館の姿とは

さらに、美術館の設計を手がける田根剛からは新たなイメージパースが披露された、より具体的な美術館の構想が見えてきた。

「未だ震災と原発事故からの復興の只中にあるこの町には、過去の災害を忘れないための資料館などが多く存在します。その中で、私たちは少し違った形で、地域の人たちと未来を描く文化施設を作ろうと考えています」と語る田根。圧巻なのは、作品を収める直径50メートルの円環状の展示室。水平に切り取られた開口部は、暗闇の中で水盤に浮かび上がる作品と海を一体の風景として結びつける。

<写真>美術館の外観イメージ。円盤状の展示室は大小2つ用意され、メインの展示室(写真)の直径は50メートルにも及ぶ。小さい方の展示室には、長嶋りかこが制作する作品制作の参加者メッセージを集約した書籍などを展示予定。

©Atelier Tsuyoshi Tane Architects

「一般的な現代美術館ですと、概ね天井高が6メートルほどなのですが、この美術館では、梁下で4.5メートルと低めに設定しています。さらに、円形のホールは作品に向かってすり鉢状になっていて、周囲をぐるりと歩きながら鑑賞できる。そのことで、より近くで作品を体感することができ、また開口部を介した海との一体性も、より高まるのではないかと思います」

今回の実証実験では、2,000個のLEDカウンターを30メートル×19メートルの長方形の箱に配置。実際の美術館では3,000個を展示する予定で、展示規模も1.5倍ほどになる。

<写真>海と作品を一体に繋ぐ水平窓。「海と作品との対話やつながりを感じていただければ」と田根。

©Atelier Tsuyoshi Tane Architects

<写真>外観(予定)のイメージ。外壁の石積みは、被災地から譲り受ける。

MARIKO YASAKA

「実験を見て、作品としてやはり本当にすごいものだな、と感じました。ドライな表現の中から、生き生きとした一人一人の思いが立ち上がってくるのを目の当たりにして、実際の美術館での展示が実現したら、きっと素晴らしいものになると確信しました」と田根は語る。加えて田根は、構想の当初から、「普請」──いわゆる仏教用語で、大勢の修行僧や地域の人々に広く呼びかけ、共同で労働や作業を行うことを意味する──という考え方で美術館を立ち上げたいと語っていた。

現在まで、自治体や企業など多くの団体・個人が参加しながらプロジェクトが進行中で、資金調達には、地元・富岡町のふるさと納税も加わる予定だ。建物の外壁には、東北の被災地域にて津波被害やそれに伴う宅地の高台移転によって生じた石礫を譲り受け、積み上げる計画だ。

MARIKO YASAKA

<写真>日本橋・三井ホールで行われた実証実験の様子。2000個のLEDカウンターが一面に並び輝く姿は圧巻。

MARIKO YASAKA

“ドライな表現の中から、生き生きとした思いが立ち上がるのを目の当たりにしました”

「この美術館への思いが地元の人々の中で徐々に積み上がっていくことが大切だと考えています。それには時間がかかるかもしれませんが、少しでも多くの人たちに、この場所に関わっていただける機会になればと思っています」

田根自身も、「宮島さんからお誘いがなければ、福島の富岡町を訪れることはきっとなかったと思います」と振り返る。

「私は宮島さんにこの地を訪れる目的を与えてもらいました。ですから今度は、美術館がその目的地になれたらと思っています。海と作品の対話を感じていただく時間を提供できる場所にしたいですね」

MARIKO YASAKA

<写真>福島県の川内村と富岡町にある2つのワイナリーから、宮島達男がラベルデザインを手掛けた特別なワインが登場。売り上げの一部は「時の海 東北 美術館」の建設資金に寄附される。

「時の海 - 東北」プロジェクト

Hearst Owned

あわせてこちらもCheck!

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ