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建築家は、何と闘っているのか? 映画『新凱旋門物語』が描く、「グランダルシュ」誕生秘話

  • 2026.7.16
photo Julien Panie ©2025 AGAT FILMS, LE PACTE

建築を通して都市と歴史、そして人をつなげ、未来を創り出す。夢と希望に溢れているように目に映る建築家の仕事だが、その背後では、無数の課題と向き合い、対話を繰り返し、難関を一つひとつ乗り越えなければならないという現実も存在する。

©2025 AGAT FILMS, LE PACTE

映画『新凱旋門物語』は、その名の通り、1989年にパリ西部郊外の再開発エリア、ラ・デファンス地区に完成した「新凱旋門(グランダルシュ)」の設計を担当した建築家の人間像と、建築を取り巻く人々との関係性を浮き彫りにした映画だ。

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ストーリーは1983年5月25日、当時のフランス大統領、フランソワ・ミッテランが「新凱旋門」の建築コンペの優勝者の名前を発表するところから始まる。

「ヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセン」。大統領はもとより、政府高官もコンペ関係者も誰もその名を知らない。大学で建築の教鞭を執るものの、これまでに手掛けた作品も4つの小さな教会と自邸のみという無名の建築家が、フランス革命200周年を記念する国家の威信をかけた一大プロジェクトのリーダーに任命された。

パリの歴史軸で一直線上に繋がるカルーゼルとエトワールの2つの「凱旋門」が、戦争に勝ったことを記念して建設されたものに対し、フォン・スプレッケルセンが「新凱旋門」のために掲げたコンセプトは「人道と博愛」。立方体の中央をぽっかりとくり抜いた空間に、雲のようなテント屋根が漂う。空の色を写しとる白い大理石、まるで存在を消すかのような浮遊感を匂わせるガラス窓。「新凱旋門」は、自然、時間、環境と一体に溶け合い、来たる新しい時代の象徴となるべく考えられたものだった。

©2025 AGAT FILMS, LE PACTE

その純粋な思いを貫くために、建築家は一切の妥協を許さなかった。建物の高さやフォルムはもちろんのこと、杭の打ち方から、素材の選定や仕上げに至るまで、とことんこだわり抜く。しかし、文化や法律の違いからエンジニアとの軋轢が起こり始め、さらに建築費の高騰や権力闘争、最終的には政局にまで翻弄され、建築の本意とは違うところで次々に危険信号が点り始める。優先すべきは、未来を見つめる崇高な思想か、それとも事態を収拾するための改善策か。建築家が取ったのは、意外とも言える選択肢だった。

©2025 AGAT FILMS, LE PACTE

本作には、主役のフォン・スプレッケルセン(写真左)以外にも、フランスを代表する建築作品を手掛けた建築家が登場するのも見どころだ。フォン・スプレッケルセンとともに、新凱旋門プロジェクトに取り組んだのは、「シャルル・ド・ゴール国際空港」を設計したポール・アンドリュー(写真右)。さらに、「新凱旋門」のガラス面の処理についてアドバイスするのが、「ルーヴル美術館」の中庭に「ルーヴル・ピラミッド」を手掛けたイオ・ミン・ペイ。同時代に生きた建築家が真摯に意見を交わしながら、いかに時代を前へと進めようとしていたかが伺える。

©2025 AGAT FILMS, LE PACTE

ある建築家が「クリアしなければいけない問題が多ければ多いほど、建築に熱中する」と話していたが、本作が描き出すのは、まさにそうした建築への情熱だ。私たちが日頃何気なく眺めているすべての建築は、こうした建築家たちの命を削るような日々の結晶と言えるだろう。

©2025 AGAT FILMS, LE PACTE

『新凱旋物語』は、史実に基づいた「新凱旋門」の誕生秘話をリアリティに満ちたかたちで伝えるドキュメンタリーであると同時に、登場人物一人一人の人間性を浮き彫りにした骨太なヒューマンドラマを掛け合わせたものだ。理想と現実のはざまに翻弄される主役のヨハン・オットー・フォン・スプレッケルセンを演じたのはデンマークの名優、クレス・バング(写真右)。

©2025 AGAT FILMS, LE PACTE


さらに、新凱旋門プロジェクトの立ち上げ当初から計画をともに進めてきたポール・アンドリュー役には、『落下の解剖学』でセザール賞助演男優賞を受賞したスワン・アルローを起用している。





©2025 AGAT FILMS, LE PACTE

そして大統領補佐官として予算管理や政治的な調整に東奔西走する大統領補佐官役として、グザヴィエ・ドランが登場。ファン・スプレッケルセンを陰ながら支える妻役のシセ・バベット・クヌッセンの静かな演技にも注目してほしい。

Getty Images

こうして数々の困難を乗り越えて完成した「グランダルシュ」は、いまなおパリのランドマークとしてその景観を形づくっている。本作は、その壮大な建築の背後にあった、一人の建築家の揺るぎない信念と、人々の葛藤を映し出す。建築を愛する人なら、ぜひスクリーンで見届けてほしい。

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