1. トップ
  2. 「読売文学賞」小説賞 歴代受賞作品 一覧【2026年最新版】

「読売文学賞」小説賞 歴代受賞作品 一覧【2026年最新版】

  • 2026.7.16

戦後の文芸復興の一助とするため、1949年に創設された「読売文学賞」。

この記事の画像を見る

「小説」「戯曲・シナリオ」「評論・伝記」「詩歌俳句」「研究・翻訳」「随筆・紀行」の全6部門で構成され、前年の最も優れた作品から選ばれるこの賞は、国内唯一の総合文学賞でもある。

この記事では、名作が名を連ねる歴代の小説賞受賞作を一挙ご紹介!複数の文学賞を同時受賞したタイトルから、文豪が残した不朽のタイトルまで勢ぞろい。選りすぐりの名作小説の数々を楽しもう!

【文学賞 受賞作品】一覧

第77回 帰れない探偵/柴崎友香

帰れない探偵

『続きと始まり』『百年と一日』が話題の柴崎友香による全く新しい「探偵小説」

「世界探偵委員会連盟」に所属する「わたし」は、ある日突然、探偵事務所兼自宅の部屋に帰れなくなった。

急な坂ばかりの街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街、太陽と砂の街、雨季の始まりの暑い街、そして「あの街」の空港で……「帰れない探偵」が激動する世界を駆け巡る。

第76回 コード・ブッダ/円城塔

コード・ブッダ

2021年、名もなきコードがブッダを名乗った。自らを生命体であると位置づけ、この世の苦しみとその原因を説き、苦しみを脱する方法を語りはじめた。そのコードは対話プログラムだった。そしてやがて、ブッダ・チャットボットの名で呼ばれることとなる――機械仏教の開基である。

はたして機械は救われるのか?

上座部、天台、密教、禅……人が辿ってきた仏教史を、人工知能が再構築する、壮大な”機械救済”小説。

第75回 黄色い家/川上未映子

黄色い家

2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。

60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていた。

長らく忘却していた20年前の記憶――黄美子と、少女たち2人と疑似家族のように暮らした日々。

まっとうに稼ぐすべを持たない花たちは、必死に働くがその金は無情にも奪われ、

よりリスキーな〝シノギ〞に手を出す。

歪んだ共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解へ向かい……。

善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作!

第74回 喜べ、幸いなる魂よ/佐藤亜紀

喜べ、幸いなる魂よ

18世紀ベルギー、フランドル地方の小都市シント・ヨリス。ヤネケとヤンは亜麻を扱う商家で一緒に育てられた。ヤネケはヤンの子を産み落とすと、生涯単身を選んだ半聖半俗の女たちが住まう「ベギン会」に移り住む。彼女は数学、経済学、生物学など独自の研究に取り組み、ヤンの名で著作を発表し始める。ヤンはヤネケと家庭を築くことを願い続けるが、自立して暮らす彼女には手が届かない。やがてこの小都市にもフランス革命の余波が及ぼうとしていた――。女性であることの不自由をものともせず生きるヤネケと、変わりゆく時代を懸命に泳ぎ渡ろうとするヤン、ふたりの大きな愛の物語。

第73回 ジュリアン・バトラーの真実の生涯/川本直

ジュリアン・バトラーの真実の生涯

ジュリアン・バトラー。

トルーマン・カポーティ、ゴア・ヴィダル、ノーマン・メイラーと並び称されたアメリカを代表する小説家。バトラーの生涯は長きにわたって夥しい伝説的なゴシップの靄に包まれていた。しかし、2017 年、覆面作家アンソニー・アンダーソンによる回想録『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』が刊行され、遂にその実像が明らかになる――。

今、もうひとつの20世紀アメリカ文学史が幕を開ける。

第72回 該当なし

第71回 君が異端だった頃/島田雅彦

君が異端だった頃

「オレは必ず小説家になり、空回りと空騒ぎに終始した恥ずべき高校時代を全て書き換えてやる」と誓った高校時代。「英語とロシア語両方できれば、世界の美女の半分に自分の思いを伝えられる」とロシア語漬けの大学時代。ソビエト留学中に知り合った男性に、小説を持ち込むことを勧められ、『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビュー後、芥川賞候補になるも、その後5回も落選するとは想像もしなかった。そして、昭和の文豪たちに振り回される日々が始まり……。孤独な幼年期や若き日の煩悶、文豪たちとの愛憎劇や禁断の女性関係までを赤裸々に描く、自伝的青春私小説。

第70回 ある男/平野啓一郎

ある男

『マチネの終わりに』『本心』の平野啓一郎による、傑作長編。

人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品。

「愛したはずの夫は、まったくの別人でした──」

弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。

宮崎に住んでいる里枝には、2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。

ところがある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。悲しみにうちひしがれた一家に、「大祐」が全くの別人だという衝撃の事実がもたらされる……。

愛にとって過去とは何か? 人はなぜ人を愛するのか。幼少期に深い傷を負っても、人は愛にたどりつけるのか?

「ある男」の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがる。

第69回 僕が殺した人と僕を殺した人/東山彰良

僕が殺した人と僕を殺した人

夏休みが終わる2日前。13歳だったぼくたちの人生は、大きく狂いはじめた。

2015年冬、アメリカを震撼させた連続殺人鬼〈サックマン〉が逮捕された。

彼の弁護を担当することになった国際弁護士の「わたし」は、30年前に台湾で過ごした少年時代を思い出していた。

当時、13歳だった「わたし」は〈サックマン〉のことを確かに知っていたのだ――。

台湾を舞台に贈る青春ミステリの金字塔。

織田作之助賞、渡辺淳一賞、読売文学賞小説賞をトリプル受賞!

第68回 模範郷/リービ英雄

模範郷

1950年代、6歳から10歳まで台湾にいた「ぼく」。日・米・中・台の会話が交錯する旧日本人街「模範郷」。そこは間違いなく「ぼく」の故郷であり、根源であった。何語にも拠らない記憶の中の風景が変わり果てたことを直視したくない「ぼく」は、帰郷を拒んでいた。だが知人の手紙を機に半世紀ぶりにかつての家を探しに行くことを決意する。越境文学の醍醐味が凝縮された一冊。

第67回 女たち三百人の裏切りの書/古川日出男

女たち三百人の裏切りの書

これは怨霊・紫式部が語り出す、あなたの知らない源氏物語――

読売文学賞・野間文芸新人賞の二冠に輝いた、圧倒的なスケールで描く稀代の傑作

後世の人々よ、本ものの宇治十帖を語ろう、語りましょう――。源氏物語が世に広まって百年あまり。改竄され流布した物語を正すため、紫式部が怨霊となって蘇り、宇治十帖のその真の姿を語り出す。やがて発表された物語は、人々の思惑とともに時代を動かし始め、壮大な女たちの裏切り合いに発展していく――。噓と欲望渦巻く、全く新しい源氏物語。

第66回 水声/川上弘美

水声

ママ、ママはどうしてパパと暮らしていたの?

夢に亡くなったママが現れたのは、都が陵と暮らしはじめてからだった。きょうだいが辿りついた愛のかたちとは。

第66回 夜は終わらない/星野智幸

夜は終わらない

婚約者が自殺したとの一報が入った玲緒奈。しかし彼女には、次に殺さなくてはならない別の婚約者がいた。セックスや結婚を餌に次々男を惑わし、財産を巻き上げ、証拠を残さず葬り去るのが日常の玲緒奈には不思議な掟があるのだった。「ね? 私が夢中になれるようなお話をしてよ」死の直前、男に語らせる話の内容で命の長さが決まっていく。最期の気力を振り絞り話し続ける男たち。鬼気迫る物語が展開され、すべては一点へと…。

第65回 ゆうじょこう/村田喜代子

ゆうじょこう

貧しさゆえ熊本の廓に売られた海女の娘イチ。廓の学校〈女紅場(じょこうば)〉で読み書きを学び、娼妓として鍛錬を積むうち、女たちの悲哀を目の当たりにする。妊娠する者、逃亡する者、刃傷沙汰で命を落とす者や親のさらなる借金のため転売される者もいた。しかし、明治の改革の風を受け、ついに彼女たちはストライキを決意する――過酷な運命を逞しく生きぬく遊女を描いた、読売文学賞受賞作。

第64回 雲をつかむ話/多和田葉子

雲をつかむ話

犯人と出遭った心躍る話は、みんなに話してきかせたくなる。エルベ川沿いの家を訪ねてきた背の高い男。ブレーメン出身の「鱒男」。路面電車で見た双子の片割れ。本名で呼ぶことのできない「マボロシさん」……。雲を見ていると「互い違い」な出遭いの数々が浮かんでくる。野間文芸賞受賞後第一作、待望の長編小説。

第64回 火山のふもとで/松家仁之

火山のふもとで

ぼくが入社した村井設計事務所は、ひと夏の間、北浅間にある「夏の家」へ移動する。そこでは稀有な感性をもつ先生のもと、国立現代図書館の設計コンペに向けての作業が行われていた。もの静かだけれど情熱的な先生の下で働く喜びと、胸に秘めた恋。そして大詰めに迫った中で訪れる劇的な結末。ただ夏が過ぎても物語は終わらなかった。かけがえのない記憶と生命の瞬きを綴る鮮烈なデビュー作。

第63回 該当なし

第62回 ナニカアル/桐野夏生

ナニカアル

昭和十七年、林芙美子は偽装病院船で南方へ向かった。陸軍の嘱託として文章で戦意高揚に努めよ、という命を受けて、ようやく辿り着いたボルネオ島で、新聞記者・斎藤謙太郎と再会する。年下の愛人との逢瀬に心を熱くする芙美子。だが、ここは楽園などではなかった―。戦争に翻弄される女流作家の生を狂おしく描く、桐野夏生の代表作。島清恋愛文学賞、読売文学賞受賞。

第61回 太陽を曳く馬/高村薫

太陽を曳く馬

惨劇の部屋は殺人者の絵筆で赤く塗り潰されていた。赤に執着する魂に追縋る一方で、合田は死刑囚の父が主宰する禅寺の施錠をめぐって、僧侶たちと不可思議な問答に明け暮れていた。検事や弁護士の描く絵を拒むように、思弁の只中でもがく合田の絵とは?

第60回 かもめの日/黒川創

かもめの日

「わたしはかもめ」女性初の宇宙飛行士テレシコワが、高い空の上から地球に放った言葉は、地上の孤独をいまも静かにつなぐ。妻に先立たれた作家、FM局の年若いAD、肥った地球物理学者の青年、消せない怒りを抱える少女。チェーホフの世界に重なって、ささやかな人生の主人公を生きるそれぞれの24時間を俯瞰しつつ、この街の姿に織り上げる物語のタペストリー。

第59回 犬身/松浦理英子

犬身

「犬になりたい」と夢想する房江は、思いをよせる女性の飼い犬となるため、謎のバーテンダーと魂の契約を交わす。しかし飼い主の家庭は決定的に壊れていた。オスの仔犬となったフサは、実母と実兄のDVから彼女を守ることができるのか?

第58回 該当なし

第57回 川岸忘日抄/堀江敏幸

川岸忘日抄

ためらいつづけることの、何という贅沢──。ひとりの老人の世話で、異国のとある河岸に繋留された船に住むことになった「彼」は、古い家具とレコードが整然と並ぶリビングを珈琲の香りで満たしながら、本を読み、時折訪れる郵便配達夫と語らう。ゆるやかに流れる時間のなかで、日を忘れるために。動かぬ船内で言葉を紡ぎつつ、なおどこかへの移動を試みる傑作長編小説。

第57回 焼身/宮内勝典

焼身

サイゴン街頭での焼身自殺。その謎を追う。

ベトナム戦争のさなか、一枚の写真が全世界に配信された。サイゴン街頭で炎に包まれた僧侶の姿。9.11に対する無力感のなかで「私」はベトナム行きを決意する。あの僧侶の真の姿を求めて。

第56回 半島/松浦寿輝

半島

勤めていた大学に辞表を出し、寂れた島に仮初の棲み処を求めた迫村。月を愛でながら己の影と対話し、南方から流れついた女と愛し合い、地下へ降りて思いがけぬ光景を目にし、現実とも虚構ともつかぬ時間が過ぎていく。この自由も、再生も、幻なのか? 耽美と迷宮的悦楽に満ちた傑作長篇。

第55回 博士の愛した数式/小川洋子

博士の愛した数式

[ぼくの記憶は80分しかもたない]博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた──記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。

第54回 本格小説/水村美苗

本格小説

ニューヨークで、運転手から実力で大金持ちとなった伝説の男・東太郎の過去を、祐介は偶然知ることとなる。伯父の継子として大陸から引き上げてきた太郎の、隣家の恵まれた娘・よう子への思慕。その幼い恋が、その後何十年にもわたって、没落していくある一族を呪縛していくとは。まだ優雅な階級社会が残っていた昭和の軽井沢を舞台に、陰翳豊かに展開する、大ロマンの行方は。

第53回 ホラ吹きアンリの冒険/荻野アンナ

ホラ吹きアンリの冒険

故郷フランスを離れ、七つの海を渡った男が、神戸で母と出会うまで。父の記憶を頼りに旅を続ける私だったが……。初の自伝的長篇

第52回 濁った激流にかかる橋/伊井直行

濁った激流にかかる橋

激流によって分断された町の右岸と左岸。それをつなぐ唯一の異形の橋。かつての小川は氾濫をくり返し、川幅は百倍にもなり、唯一の橋は拡張に拡張を重ね、その全貌を把握できぬほどの複雑怪奇さを示す。そして右岸と左岸にはまったく気質の異なる人々が住む。この寓話的世界の不思議な住民たちの語る9つの物語。諧謔的かつ魔術的なリアリズムで現代の増殖する都市の構造を剔抉した読売文学賞受賞作。

第52回 A2Z/山田詠美

A2Z

文芸編集者・夏美は、年下の郵便局員・成生と恋に落ちた。同業者の夫・一浩は恋人の存在を打ち明ける。恋と結婚、仕事への情熱。あるべき男女関係をぶち壊しているように思われるかもしれないが、今の私たちには、これが形――。AからZまでの二十六文字にこめられた、大人の恋のすべて。

第51回 わたしのグランパ/筒井康隆

わたしのグランパ

中学校の珠子の前に、とつぜん現れた祖父・謙三はなんと刑務所帰りだった。侠気あふれるグランパは、町の人たちから慕われ、珠子の周囲の問題を次々に解決していく。しかし、グランパの秘密を知った珠子と、彼女を慕う紀子に大事件が襲いかかる──。

石原さとみのデビュー映画の原作で、読売文学賞を受賞した傑作ジュブナイル!

第51回 裸足と貝殻/三木卓

裸足と貝殻

敗戦。引揚。豊三は小学五年生。引揚船が日本へ向かう一瞬一瞬が、死から遠ざかる前進に思えた。少年の心が、静岡の穏やかな風土と人間模様の中で再び成長する自伝的長編。

第50回 ハシッシ・ギャング/小川国夫

ハシッシ・ギャング

七年前に愛した女。彼女は今、私の幻覚に現れて何を呟きつづけるのか……。表題作の他、青春の、生のはかなさを描く珠玉の短篇集

第50回 翔べ麒麟/辻原登

翔べ麒麟

唐の高官として君臨した阿倍仲麻呂、陰謀埋めく政界を描く歴史活劇!

大唐帝国、華の都長安。朝衡すなわち阿倍仲麻呂は、皇帝の信頼を得、政界で日本人文官として活躍していた。藤原真幸ら遣唐使一行は、新羅王子誘拐の汚名をかぶせられ、朝衡に救いを求めるが。

第49回 イン ザ・ミソスープ/村上龍

イン ザ・ミソスープ

夜の性風俗ガイドを依頼してきたアメリカ人・フランクの顔は奇妙な肌に包まれていた。その顔は、売春をしていた女子高生が手足と首を切断され歌舞伎町のゴミ収集場に捨てられたという記事をケンジに思い起こさせた。ケンジは胸騒ぎを感じながらフランクと夜の新宿を行く。97年夏、読売新聞連載中より大反響を引き起こした問題作。

第49回 うるわしき日々/小島信夫

うるわしき日々

80を過ぎた老作家は、作者自身を思わせて、50過ぎの重度アルコール中毒の息子の世話に奮闘する。再婚の妻は、血のつながらぬ息子の看病に疲れて、健忘症になってしまう。作者は、転院のため新しい病院を探し歩く己れの日常を、時にユーモラスなまでの開かれた心で、読者に逐一説明をする。複雑な現代の家族と老いのテーマを、私小説を越えた自在の面白さで描く、『抱擁家族』の世界の30年後の姿。

第48回 該当なし

第47回 光/日野啓三

事故で記憶をなくした男の“再生”物語。

――見えないはずの物が見え、覚えているはずのことが消えて何が悪い? おれの記憶の中心には穴がある。それが〈現実〉というもので、掛け値なしの現実は何と異常で気味悪く透明なものだろう。――

月面基地での作業中に事故に遭った〈男〉。帰還したものの強い逆行性健忘症になってしまい、さまざまなことが思い出せない。

しかし、中国人看護師との会話や、放浪していたところをかくまってくれた老婆、ホームレスの老人との出会いによって徐々に記憶を取り戻していく。はたして、〈男〉にとって光とは、闇とはなんだったのか――。

近未来を舞台に、物質文明や人間の陰陽を見事に描出した傑作長編。

第47回 ねじまき鳥クロニクル/村上春樹

ねじまき鳥クロニクル

「人が死ぬのって、素敵よね」彼女は僕のすぐ耳もとでしゃべっていたので、その言葉はあたたかい湿った息と一緒に僕の体内にそっともぐりこんできた。「どうして?」と僕は訊いた。娘はまるで封をするように僕の唇の上に指を一本置いた。「質問はしないで」と彼女は言った。「それから目も開けないでね。わかった?」僕は彼女の声と同じくらい小さくうなずいた。(本文より)

第46回 幻の朱い実/石井桃子

幻の朱い実

晩秋の武蔵野、明子は、カラスウリの実がたわわに垂れる家で女子大時代の先輩蕗子と運命の再会をした。満洲事変から破局へとすすむ激動期に、深い愛に結ばれて自立をめざす2人の魂の交流を描く。児童文学にうちこみながら、心の奥底に温めつづけた著者生涯のテーマを、8年かけて書き下ろした渾身の長編1600枚。

第46回 カーテンコール/黒井千次

カーテンコール

男は書き、女は演じる。舞台をめぐる愛の行方。かつて有望なプロデューサーを葬り去った「森下家の沈黙」の再演にあたって、家出娘のマナコ役に抜擢された赤坂絢子。最後の第3場にしか登場しない難しい役に、気持ちは作者の寺脇滋有へと向かう。舞台初日は好意的に迎えられたものの演技に悩む絢子は、深夜、滋有の家に電話をかけて……。

第45回 該当なし

第44回 北京飯店旧館にて/中薗英助

北京飯店旧館にて

「きみは、人類という立場に立てますか?」日本占領下の北京で出会った中国の友は、謎の問いを残し戦地に消えた。またある友は、文化大革命で迫害を受け窮死。41年の歳月を経て、青春の地・北京に還った作家は、彼我を隔てる深い歴史の暗渠に立ち竦みつつ、その底になお輝きを放つ人間の真実を探してやまない。日中の狭間に生き、書いた中薗の深い想いが結晶した代表作。

第43回 優しい碇泊地/坂上弘

優しい碇泊地

第43回(1991年) 讀賣文学賞小説賞受賞

第43回 母よ/青野聰

青野聰

母よ、あなたの素顔を見たい、どのような顔をしていたのでしょう。現存している写真はたったの1枚、「ひんやりとした感じの、きれいな人だったのよ」と、少年のぼくに語ってくれた姉。──実母への切実な想いと、別居している理英との間に生まれた保育園にかよう男の子の成長ぶりを、清澄なことばで綴った秀作。

第42回 氷河が来るまでに/森内俊雄

氷河が来るまでに

第41回 夜の蟻/高井有一

夜の蟻

第41回 仮往生伝試文/古井由吉

仮往生伝試文

寺の厠でとつぜん無常を悟りそのまま出奔した僧、初めての賭博で稼いだ金で遁世を果たした宮仕えの俗人―平安の極楽往生譚を生きた古人の日常から、中山競馬場へ、人間の営みは時空の切れ目なくつながっていく。生と死、虚と実、古(いにしえ)と現代(いま)。古典世界と現在の日常が、類い稀な文学言語の相を自在に往来し、日本文学の可動域を、限りなく押しひろげた文学史上の傑作。

第40回 狂人日記/色川武大

狂人日記

狂気と正気の間を激しく揺れ動きつつ、自ら死を選ぶ男の凄絶なる魂の告白の書。醒めては幻視・幻聴に悩まされ、眠っては夢の重圧に押し潰され、赤裸にされた心は、それでも他者を求める。弟、母親、病院で出会った圭子――彼らとの関わりのなかで真実の優しさに目醒めながらも、男は孤絶を深めていく。現代人の彷徨う精神の行方を見据えた著者の、読売文学賞を受賞した最後の長篇小説。

第39回 高丘親王航海記/澁澤龍彦

高丘親王航海記

澁澤龍彦没後30年。遺作となった伝説の傑作幻想小説が、いま新たな装いで!

平城天皇の皇子に生まれ、嵯峨天皇即位すると皇太子に立てられるも、父上皇と天皇との諍い(薬子の変)により廃された高丘親王。出家し弘法大師の直弟子となった親王は、東大寺大仏の再建に尽力するなど重要な働きを果たすが、晩年に至り朝廷に入唐求法の願いを出し、唐へ渡った。

親王の真の願いは、幼き日に父帝の寵姫藤原薬子に教えられ、憧れていた天竺を訪れることだった。

貞観七(865)年正月、高丘親王は唐の広州から海路、天竺へ向かった。鳥の下半身をした女、犬頭人の国など、怪奇と幻想の世界を遍歴した親王はやがて旅に病み、その心に去来したものとは……。

無類の面白さと、静かなる気品に満ちた傑作幻想小説。著者の死後に読売文学賞が与えられた。

第38回 夜の光に追われて/津島佑子

夜の光に追われて

あなたはなぜ書いたのか、一人で子を成す孤独を。あなたも知っていたのか、子を奪われる苦しみを。千年の時を超え、平安時代の王朝物語「夜の寝覚」の作者とともに、人間の幸福の意味を問いかける名著。

第37回 怒りの子/高橋たか子

怒りの子

三人の女性の緊迫した“心理劇”。

「あんたの中に、怒りの子が見える……人のうちに、潜んでる、外から見えんけど、何処かにいる、人の奥のほうに。」

自分自身のやりたいこと、望んでいることなどが定まらず、ビジネス学校に通いつつ悶々とした日々を送る主人公・美央子。美央子が姉のように慕う、どこか浮き世離れした雰囲気を持つ初子。そして美央子と同じアパートに住み、親しくするそぶりを見せながら、いちいち美央子の感情を逆撫でしていくますみ――。3人の感情は、初子の義弟・松男の存在を触媒として、大きく揺れ動いていく。

人間の心情を、平易な言葉を使いつつ、豊かな描写力で見事に描ききった、第37回読売文学賞受賞作。

第37回 海図/田久保英夫

海図

妻子と別居中の男は、宗子という女と暮らしている。女は海に憑かれた元海軍少尉の父親から、精神的に独立できないでいる。男・女・父親――各々の微妙で危うい関係は7篇の短篇に鮮やかに描出され、時間の経過とともに揺れやがて一つの長篇に固着する。画期的連環小説の手法で家族の崩壊、愛の変容、人生の内面を浮彫りにする読売文学賞受賞作。

第36回 破獄/吉村昭

破獄

昭和11年青森刑務所脱獄。昭和17年秋田刑務所脱獄。昭和19年網走刑務所脱獄。昭和22年札幌刑務所脱獄。犯罪史上未曽有の四度の脱獄を実行した無期刑囚佐久間清太郎。その緻密な計画と大胆な行動力、超人的ともいえる手口を、戦中・戦後の混乱した時代背景に重ねて入念に追跡し、獄房で厳重な監視を受ける彼と、彼を閉じこめた男たちの息詰る闘いを描破した力編。

第35回 該当なし

第34回 「雨の木」を聴く女たち/大江健三郎

「雨の木」を聴く女たち

危機にある男たちを受け入れ、励ます女たち。若者を性の暴力にむけて挑発しながら、いったん犯罪がおこると、優しい受苦の死をとげて相手をかばう娘。かれらをおおう「雨の木(レイン・ツリー)」のイメージは、荒涼たる人間世界への再生の合図である……。宇宙の木でもあれば、現実の木でもある「雨の木(レイン・ツリー)」のイメージにかさねて、人の生き死にを見つめた、著者会心の連作小説集。

第33回 吉里吉里人/井上ひさし

吉里吉里人

ある六月上旬の早朝、上野発青森行急行「十和田3号」を一ノ関近くの赤壁で緊急停車させた男たちがいた。「あんだ旅券ば持って居だが」。実にこの日午前六時、東北の一寒村吉里吉里国は突如日本からの分離独立を宣言したのだった。政治に、経済に、農業に医学に言語に……大国日本のかかえる問題を鮮やかに撃つおかしくも感動的な新国家。日本SF大賞、読売文学賞受賞作。

第33回 ひとびとの跫音/司馬遼太郎

ひとびとの跫音

正岡子規の詩心と情趣を受け継いだひとびと。その豊饒にして清々しい人生に深い共感と哀惜をこめた、司馬文学の核心をなす画期的長篇。詩人、革命家など鮮烈な個性に慕われつつ、自らは無名の市井人として生きた正岡家の養子忠三郎と周囲の人々の境涯を「人間が生まれて死んでゆくという情趣」を織りなして、香気ただうが如く描く名作。

第32回 該当なし

第31回 妙高の秋/島村利正

妙高の秋

奈良へと出郷していく少年期の回想とともに、家族、故郷への想いを謳った読売文学賞受賞作。

第30回 かくてありけり/野口冨士男

かくてありけり

母と別れた父親の“果たせぬ夢”であった慶応幼稚舎に入学。しかし母は芸者屋の主人でありみずから左褄もとっていたので、家業や住所は“秘匿”する習性がついていた。幼時・少年時に住んだ土地を訪ねるに始まり、時代を写し自らの来しかたを凝視した読売文学賞受賞作。

第29回 死の棘/島尾敏雄

死の棘

夫の情事が妻を狂気に追いやった。

夫婦の絆とは何かを問う凄絶な人間記録。

思いやりの深かった妻が、夫の〈情事〉のために突然神経に異常を来たした。狂気のとりことなって憑かれたように夫の過去をあばきたてる妻。ひたすら詫び、許しを求める夫。日常の平穏な刻は止まり、現実は砕け散る。狂乱の果てに妻はどこへ行くのか ――?ぎりきりまで追いつめられた夫と妻の姿を生々しく描き、夫婦の絆とは何か、愛とは何かを底の底まで見据えた凄絶な人間記録。

第28回 風祭/八木義徳

風祭

町の名士と日蔭者の子の愛と葛藤を描く。

――自分のいう血のこわさとは、日蔭者の子とその父、というこの血の関係のこわさなのだ。この血ゆえに、かつては全力をあげて拒否しようとした存在を、いまはかえってその血ゆえに、“父なるもの”としてわがふところに受容しようとしている。――

医者であり町の名士である高峰好之と、その愛人のあいだに生まれた伊作。好之の死後、伊作たちは高峰家とは疎遠な状態だったが、85歳になる母が、父のさみしそうな様子を夢に見るというので、父の墓に参り、その足跡を調べることに。その作業は、恨みに思っていた父と、あらためて向き合うことも意味していた……。

第27回 鞄の中身/吉行淳之介

鞄の中身

自分の死体を鞄に詰めて持ち歩く男の話。びっしりついた茄子の実を、悉く穴に埋めてしまう女の話。得体の知れぬものを体の中に住みつかせた哀しく無気味な登場人物たち。その日常にひそむ不安・倦怠・死……「百メートルの樹木」「三人の警官」ほか初刊7篇を含め純度を高めて再編成する『鞄の中身』短篇19。

第27回 火宅の人/檀一雄

火宅の人

一郎は窃盗をやらかす。次郎は全身麻痺で寝たきり。弥太はまだヨチヨチ歩き。フミ子は鶏の餌を喰ってひよ子のように泣きわめく。サト子は生れたばかり。妻は主人の放蕩・濫費・狂躁を見かねて家出騒ぎ……。よしたとえ、わが身は火宅にあろうとも、人々の賑わいのなか、天然の旅情に従って己れをどえらく解放してみたい――。壮絶な逸脱を通して謳い上げる、豪放な魂の記録。

第26回 接木の台/和田芳恵

接木の台

片隅に生きる職人の密かな誇りと覚悟を顕彰する「冬の声」。不作のため娼妓となった女への暖かな眼差し「おまんが紅」。一葉研究史の画期的労作『一葉の日記』の著者和田芳恵の晩年の読売文学賞受賞作「接木の台」、著者の名品中の名品・川端康成賞受賞の短篇「雪女」など代表作14篇を収録。

第25回 歌枕/中里恒子

歌枕

老舗の主人が身代を投げ出して、店の下働きに来ていた年若い女と、市井の片隅で暮らし始める。一生を棒に振ったも同然ながら、今が生涯で最も幸福な時であると感じるゆったりした生活も、しのびよる老いには勝てず思いがけない結末を迎える──

第25回 走れトマホーク/安岡章太郎

走れトマホーク

奇妙でユーモア溢れるアメリカ旅行記「走れトマホーク」。身辺私小説仕立ての「埋まる谷間」「ソウタと犬と」。中国の怪異小説家に材を取る「聊斎私異」など多彩な題材と設定で構成されながら、一貫する微妙な諧調――漂泊者の哀しみ、えたいの知れない空白感。短篇の名手の円熟した手腕が光る読売文学賞受賞作。表題作を含む9篇を収録。

第24回 コチャバンバ行き/永井龍男

コチャバンバ行き

安穏・安全な「生」とは何か? 読売文学賞受賞の明篇――湘南で多少の土地を持ち、家を貸して自適生活する主人公。妻は仕事で不在がち。「安全な生活」とは何か……。元上司との様々なやりとりのあと、上司は妻を失う。南米・ボリビアでのバスの乗客の、何の苦痛もない死……。ささやかな生活の描写の中に、人生の哀歓をつむぎ出す、永井龍男独自の「美学」の結晶。

第23回 該当なし

第22回 瓦礫の中/吉田健一

瓦礫の中

第22回(1970年) 讀賣文学賞小説賞受賞

第21回 一條の光/耕治人

一條の光

脳軟化症の妻は“私”を認識できない。――何度目かに「御主人ですよ」と言われたとき、「そうかもしれない」と低いが、はっきりした声でいった。――50年余連れ添った老夫婦の終焉間近い困窮の日常生活。その哀感極まり浄福感充ちる生命の闘いを簡明に描く所謂“命終三部作”ほか、読売文学賞受賞『一条の光』、平林賞『この世に招かれてきた客』など耕治人の清澄の頂点6篇。

第21回 懐中時計/小沼丹

懐中時計

大寺の家に、心得顔に1匹の黒と白の猫が出入りする。胸が悪く出歩かぬ妻、2人の娘、まずは平穏な生活。大寺と同じ学校のドイツ語教師、先輩の飲み友達、米村。病身の妻を抱え愚痴1つ言わぬ“偉い”将棋仲間。米村の妻が死に、大寺も妻を失う。日常に死が入り込む微妙な時間を描く「黒と白の猫」、更に精妙飄逸な語りで読売文学賞を受賞した「懐中時計」収録。

第20回 不意の声/河野多惠子

不意の声

孤独な内奥の世界を追究。読売文学賞受賞の名篇――「チチキトク」の電報を受け取った時、女は父の幻影を見た。父の死後に結婚した夫とは、諍が絶えず、しばしば現われる父の霊に励まされながら、陰惨な殺人を重ねる。意識の底からつき上る、不気味な想念。愛憎渦巻く夫婦生活を背景に、現実と非現実の交錯する、妖しく孤独な内奥の世界を苛烈に描く衝撃作。

第20回 野趣/瀧井孝作

野趣

第19回 一期一会/網野菊

一期一会

深い感銘、胸にしみる女流作家の代表作八篇歌舞伎の市川団蔵の入水自殺に人生老残の哀しみを見る「一期一会」(読売文学賞)、亡き妹への鎮魂の譜「さくらの花」(芸術選奨)他、私小説の名品至純の味わい

第18回 一路/丹羽文雄

一路

人間の業とは、かくも深く重いものなのか? 愛欲に身を任せ、夫を裏切りつづけた加那子の背信の行為は、21年の歳月を経て、どんな報いを受けるのか? 過ちのすえ生み落とした娘は、次男・聡との〈近親相姦〉の責めを負ってみずからの命を断つことに……。愛欲の深淵にひそむ人間の宿業と救いを、豊饒な筆に描く、丹羽文学の真髄を示す長編傑作。

第17回 夕べの雲/庄野潤三

夕べの雲

何もさえぎるものない丘の上の新しい家。主人公はまず“風よけの木”のことを考える。家の団欒を深く静かに支えようとする意志。季節季節の自然との交流を詩情豊に描く、読売文学賞受賞の名作。

第16回 白い屋形船/上林暁

白い屋形船

脳溢血で、右半身、下半身不随、言語障害に遭いながら、不撓不屈の文学への執念で歩んだ私小説の大道。読売文学賞「白い屋形船」、川端賞「ブロンズの首」ほか、懐かしく優しい、肉親・知友、そして“ふるさと”の風景。故郷の四万十川のように、人知らずとも、汚れず流れる文学への愛が、それのみが創造した美事な“清流”。

第15回 風濤/井上靖

風濤

史上空前の怪物フビライは標的を日本に定めた。悠久の時空に人々の宿運を刻む名作。

『天平の甍』『楼蘭』『敦煌』『蒼き狼』に続く、井上靖の「西域小説」。

日本征服の野望を持つ元の世祖フビライは、隣国の高麗に多数の兵と船と食料の調達を命じた。高麗を完全に自己の版図におさめ、その犠牲において日本を侵攻するというのがフビライの考えであった。高麗は全土が元の兵站基地と化し、国民は疲弊の極に達する……。

大国・元の苛斂誅求に苦しむ弱小国・高麗の悲惨な運命を辿り、〈元寇〉を高麗・元の側の歴史に即して描く。

第14回 砂の女/安部公房

砂の女

安部公房が全世界に向けて仕掛けた罠――。

世界24ヶ国で翻訳された、ノーベル文学賞に最も近かった作家の代表作。

砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める村の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のうちに、人間存在の極限の姿を追求した長編。

第13回 該当なし

第12回 澪標/外村繁

澪標

亡き妻への愛を吐露して哀切限りない「夢幻泡影」。読売文学賞受賞の名著、著者のヰ夕・セクスアリス「澪標」。夫婦ともにガン発病、迫り来る死とたたかう闘病生活の不思議な明るさと静寂感充ちる「落日の光景」「日を愛しむ」。愛する者の死。人生の不可思議。末期の眼。死へ向う透明な生。外村文学の鮮やかな達成4篇。

第11回 今年の秋/正宗白鳥

今年の秋

第11回(1959年) 讀賣文学賞小説賞受賞

第11回 梨の花/中野重治

梨の花

「歌のわかれ」「むらぎも」と並ぶ著者の主な自伝小説のひとつ。孤独で、はにかみやで、非社交的な少年・良平を主人公に小学1年から中学1年までの若き日の自己をふりかえる。福井の農村に過ごす少年の感受性、少年の行動を大人の思考を意識的に抑えてつづる。それでいて鮮度を失わない日本文学の特異作。

第10回 該当なし

第9回 杏っ子/室生犀星

杏っ子

生い立ちに数奇な運命をもちながら、文壇に老大家としての地位を築いた作家平山平四郎の生涯と、野性をひそめたその娘杏っ子の生々流転の姿を鮮やかに描く。さまざまな浮き沈みを経た犀星の筆は、父と娘の微妙な情愛と絆を捉え、不幸な結婚にあえぐ杏っ子のなかに女の愛と執念を追究する。人生の底のよどみを苛酷なまでに抉り出し、生涯の情熱を傾けて描ききった自伝的長編小説。

第9回 迷路/野上弥生子

迷路

戦時下の昭和10年代を背景に、苦しみもがいて生き、あるいは傷つき倒れた青年たちを深い共感とともに描き、あわせて日本ファシズムを動かしていた支配層を重層的に描いた大長篇小説。

第8回 金閣寺/三島由紀夫

金閣寺

金閣を焼かなければならぬ――。破滅に至る青年の「告白」。

最も読まれている三島作品。国際的評価も高い。〔新解説〕恩田陸

「美は……美的なものはもう僕にとっては怨敵なんだ」。吃音と醜い外貌に悩む学僧・溝口にとって、金閣は世界を超脱した美そのものだった。ならばなぜ、彼は憧れを焼いたのか? 現実の金閣放火事件に材を取り、31歳の三島が自らの内面全てを託した不朽の名作。血と炎のイメージで描く〈現象の否定とイデアの肯定〉──三島文学を貫く最大の原理がここにある。

第8回 三の酉/久保田万太郎

三の酉

劇作家の本領を示す読売文学賞受賞作「三の酉」。

第7回 恋ごころ/里見弴

恋ごころ

14歳の夏休みに、養家の盛岡を訪れ、そこで知った親戚の少女に淡い恋心を抱いた思い出を語る表題作。家を出て、大阪での芸者との恋愛・結婚の経緯を清新に描いた「妻を買う経験」等、自伝とフィクションを綯い交ぜに、流暢な文体と精妙な会話で、人の心の機微を巧みに描いた名作5篇を収録。明治、大正、昭和の文芸界を悠々と生き抜いた「馬鹿正直」で「一徹」で「涙脆い」、白樺派最後の文士・里見弴の真骨頂。

第7回 黒い裾/幸田文

黒い裾

千代は喪服を著(き)るごとに美しさが冴えた。……「葬式の時だけ男と女が出会う、これも日本の女の一時代を語るものと云うのだろうか」――16歳から中年に到る主人公・千代の半生を、喪服に託し哀感を込めて綴る「黒い裾」。向嶋蝸牛庵と周りに住む人々を、明るく生き生きと弾みのある筆致で描き出し、端然とした人間の営みを伝える「糞土の墻」ほか、「勲章」「姦声」「雛」など、人生の機微を清新な文体で描く、幸田文学の味わい深い佳品8篇を収録した第一創作集。

第6回 晶子曼陀羅/佐藤春夫

晶子曼陀羅

与謝野寛・晶子夫妻の生涯の詩と真実を、明星派の歌人山川登美子の哀しい死にからめて描く読売文学賞受賞作。若き日、晶子らに師事して文学の道に歩んだ佐藤春夫が、晶子・寛・登美子三者三様の秘めた愛の絶唱の心の裡を無限の共感をこめて語りつくす名篇。『晶子曼陀羅』完結後、あらためて三者の愛を寛の長詩をもとに深く洞察して執筆した「ふたなさけ」を併録。

第5回 該当なし

第4回 春の城/阿川弘之

春の城

学徒出陣、基地での激務と空襲、マリアナ沖大海戦、父や恩師、そして恋人を奪った広島の原爆の惨状……。

第二次大戦に遭遇した一人の青年の友情と恋愛、師弟愛と肉親愛とを、入念な筆で情趣ゆたかに描いた著者の処女長編。激動の時代を生きながらなお、溌剌たる若い生命の感受性、健康で素直な生活感情と故国への愛、掛替えなき青春という時の、一つの姿を浮彫りにする。

第3回 野火/大岡昇平

野火

敗北が決定的となったフィリッピン戦線で結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて本隊を追放された田村一等兵。野火の燃えひろがる原野を彷徨う田村は、極度の飢えに襲われ、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体に目を向ける……。平凡な一人の中年男の異常な戦争体験をもとにして、彼がなぜ人肉嗜食に踏み切れなかったかをたどる戦争文学の代表的名作である。

第2回 思ひ川/宇野浩二

思ひ川

芸妓村上八重と著者との30年にも及ぶ恋愛を題材に小説家牧と芸者三重次とが互いの人生の浮き沈みを越えて真摯な心を通わせ合った長い歳月の愛を独得の語りくちで描いた戦後の代表作・読売文学賞受賞「思い川」、なじみの質屋の蔵の中で質種の着物の虫干しをしながら着物に纏わる女たちの思い出に耽る男の話・出世作「蔵の中」、他に「枯木のある風景」の3篇を収録。

第1回 本日休診/井伏鱒二

本日休診

復員しても、いまだに戦争中だと錯覚している元中尉の異常な言動を描いて、戦争と戦争思想の愚劣さを痛烈にあばき、真の戦争犠牲者に対して強い同情をよせた『遙拝隊長』、“本日休診”の札を出した病院に、その札を無視してつぎつぎと訪れる庶民の姿を洒脱な老医の視点から描く『本日休診』。戦後の救いなき世相を反映させ、ほろにがいユーモアをただよわせた2編を収録。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ