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建築と器が響き合う。「東京都庭園美術館」で出合う、ルーシー・リーの世界

  • 2026.7.15
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洗練されたフォルム、豊かな色彩、独創的な装飾によって、繊細かつエレガントな器のスタイルを創出したルーシー・リー(1902-1995)。この20世紀を代表する陶芸家の、国内では約10年ぶりとなる回顧展『ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―』が東京都庭園美術館で開幕した。

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会場の「東京都庭園美術館」は本館と新館の二棟からなり、本館は1933年に旧朝香宮家の私邸として竣工したアール・デコ建築で、国の重要文化財に指定されている。本展では制作初期から円熟期までを網羅する国内のルーシー・リー作品67点が一堂に会するとともに、ヨーゼフ・ホフマンやバーナード・リーチ、ハンス・コパーなど、リーが交流した作家たちの作品もあわせて紹介されるが、歴史ある建築と優美な器が互いの魅力を引き立て合う展示空間も大きな見どころの一つとなっている。

Takuya Neda

本館(旧朝香宮邸)で展開されているのは、そんなリーの作風を象徴する作品を集めたハイライト展示と、アール・デコスタイルが席巻した1920〜1930年代に重なるリーのウィーン時代からロンドン時代の途中まで。フランス人装飾美術家アンリ・ラパンが手掛けた室内装飾や、ガラス工芸家として名高いルネ・ラリックによるシャンデリア等が彩る瀟洒な生活空間で、器や茶器、花瓶など実用のために作られた陶器本来の美しさが楽しめる展示となっている。

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1902年にウィーンの裕福なユダヤ系の両親のもとに生まれたルーシー・リーは、「ウィーン工芸美術学校」で轆轤(ろくろ)による制作に魅了され、陶芸の道を歩みはじめた。リーがキャリア初期を過ごした20世紀初頭は、「ウィーン工房」のアーティストたちが建築や家具、陶磁器など幅広い分野で活躍した時代だった。

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<写真>リーの初期の作品。ルーシー・リー《鉢》1926年頃 個人蔵

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1938年、リーはナチスの迫害から逃れるためロンドンへの亡命を余儀なくされる。そこで出会ったのが、イギリスの陶芸界で中心的役割を担っていたバーナード・リーチだ。当時、リーチをリーダーとする「スタジオ・ポタリー」の陶芸家たちは日本や中国、朝鮮の陶磁器に関心を寄せながら陶芸表現の可能性を追求しており、この時期のリーにとっても東洋陶磁が規範のひとつになったという。また、1952年の「ダーティントン国際工芸家会議」で民藝運動の重要人物である柳宗悦や濱田庄司と直接交流する機会を得ていることも興味深い事実と言えるだろう。

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<写真>英国陶芸の礎を築いたリーチの代表作のひとつ。バーナード・リーチ《蛸図大皿》1925年 国立工芸館蔵

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<写真>渡英後のリーの作品には、バーナード・リーチの影響を感じさせる表現も見られる。ルーシー・リー《蓋碗》1940年代 個人蔵

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<写真>戦時下のロンドンで陶芸制作の継続が困難になるなか、生計を立てるために手がけた陶製ボタン。小さな造形にも、リーならではの色彩感覚と釉薬表現が息づく。1989年には、三宅一生が自身のコレクションに取り入れたことでも知られている。ルーシー・リー《ボタン》1940-50年代 公益財団法人岡田文化財団 パラミタミュージアム蔵

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<写真>鮮やかな黄釉に、マンガンによる縁取りと繊細なスクラフィート文様を組み合わせた、1950年代を代表する作品。端正なフォルムと軽やかな造形に、リーならではのモダニズムの美意識が宿る。ルーシー・リー《黄釉鉢》1958年頃 井内コレクション(国立芸館寄託)

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<写真>螺旋状に刻まれた繊細な線文が、窓から差し込む光によって豊かな表情を見せる。旧朝香宮邸の窓辺に配された展示は、建築空間と作品が響き合う本展ならではの見どころだ。ルーシー・リー《壺》1965年頃 京都国立近代美術館蔵

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1970年代に入り、リーの作陶はフォルムや色彩において新たな展開をみせ、自らのスタイルを確立した。これは、西洋の伝統と東洋の技術に学びながら、釉薬研究と造形・装飾の探究を重ねた成果でもある。

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例えば、細い高台から口縁にかけて大きく広がる「朝顔型」は、50年代からのフォルムの追求を経て確立された器形。また、濃い茶色に発色する「マンガン釉」や金属的な光沢の「ブロンズ釉」、大小の気泡の痕跡を表面に残す「溶岩釉薬」はリーが生み出した独自の釉薬だ。象嵌や掻き落とし技法に取り組むようになったきっかけが、青銅器時代の壺にあった骨による引っ掻き線だったというのも、印象深いエピソードではないだろうか。

<写真>1970年代以降に確立したリー独自の様式を示す作品。小さな高台や洗練されたフォルム、マンガン釉を用いた装飾に、円熟期の卓越した技術が息づく。ルーシー・リー《青釉鉢》1980年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)

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<写真>溶岩を思わせる粒状のテクスチャが特徴の「溶岩釉薬」の鉢。旧朝香宮邸の浴室空間に展示することで、器本来の佇まいがより身近に感じられる。ルーシー・リー《大鉢》1963年 京都国立近代美術館蔵

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<写真>熔岩釉が生み出す無数の粒子の表情は、思わず見入ってしまう美しさ。ルーシー・リー《熔岩釉鉢》1980年頃 井内コレクション(国立芸館寄託)

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<写真>マンガン釉のマットな質感を生かしながら、首と口部の内外に掻き落としで見どころをつくり、さらに素地の白色を残して青色の象嵌をあしらった作品。ルーシー・リー《壺》1965年頃 京都国立近代美術館蔵

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続く新館では、ロンドン時代の後半および東洋との影響関係に焦点を当てたパート、そして独自のスタイルを確立した1970年代以降の作品が展示されている。白とピンクを基調としたギャラリー空間で、ルーシー・リーの造形世界をダイレクトに感じることができる。

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<写真>規則正しく刻まれた繊細な線文と、マンガン釉のコントラストが印象的。シンプルな造形のなかに、卓越した技術と美意識が凝縮されている。ルーシー・リー《鉢》1975年頃 岐阜県現代陶芸美術館蔵

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<写真>やわらかなピンク釉とマンガン釉が融合する色彩が印象的。フォルム、釉薬、装飾が一体となった、円熟期のリーを象徴する作品。左上 ルーシー・リー《ピンク線文鉢》1975-80年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)右下 ルーシー・リー《ピンク象嵌小鉢》1975-79年頃 国立工芸館蔵

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さまざまな出会いが重要な役割を果たしたルーシー・リーの生涯。建築と器、東洋と西洋、そして工芸とデザインなど、複数の軸が交わりながら展開する本展は、建築と器が響き合う空間だからこそ見えてくる、ルーシー・リーの美意識を体感できる展覧会だ。

<写真>研ぎ澄まされたフォルムに、ごく細いピンクの線が静かなアクセントを添える。円熟期のリーが到達した、簡潔で洗練された美意識を体現する一作。ルーシー・リー《白釉ピンク線文鉢》1984年頃 井内コレクション(国立工芸館寄託)

『ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―』
会期/2026年7月4日(土)~9月13日(日)
開館時間/10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
※8月7日・14日・21日・28日(金)は21:00まで夜間開館
休館日/月曜日(7月20日は開館、7月21日は休館)


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