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「これが今の新しい自分」サカナクション山口一郎、うつ病とともに音楽を続けた4年

  • 2026.7.6
©CEIPA /MUSIC AWARDS JAPAN2026

うつ病による活動休止から復帰を果たした、サカナクションのボーカル・山口一郎。去る6月13日に開催されたMUSIC AWARDS JAPANでの受賞を経て、メンタルヘルスに苦しむ人々への思いを改めて伝えた。そこでELLEでは、この言葉に至るまで、病気と向き合いながら歩んできた彼の約4年の道のりを振り返る。

※本記事では、YouTubeメンバーシップ会員限定配信の内容について、事前に許可を得たうえで一部取り上げています。

授賞式の壇上で語った、3年前の活動休止

「サカナクションは、3年前に活動を休止しました。僕がうつ病を患ったからです」

2026年6月、MUSIC AWARDS JAPAN(MAJ)で最優秀楽曲賞を受賞した際、山口氏はスピーチの冒頭でこう語った。休養後、最初に発表した「怪獣」での受賞だった。「まだまだ頑張れるなと、勇気をいただきました」と声を詰まらせた。

MUSIC AWARDS JAPANでのサカナクション ©CEIPA /MUSIC AWARDS JAPAN2026

同じMAJのステージに立ったサム・スミスは、2025年に公開されたポッドキャストで、かつてステージ上でパニック発作を起こし、その後約1年間歌うことができなかった経験を明かした。直近ではローラが、芸能界での全盛期に拒食症やパニック障害、うつ病を経験したと語っている。

自身の弱さを明かすことは、いま同じ苦しみの中にいる誰かへのメッセージにもなる。

山口氏は授賞式後の深夜に行われた配信で、受賞を振り返るなか、壇上で「一個言い忘れた」ことを思い出し、こう語った。

「『怪獣』が生まれるまでのリアルなストーリーは、このYouTubeに残してある。今回の受賞が、今苦しい人やしんどい人の希望になったらいいなと思う。病気と付き合いながらでも、ここまではやれるよって」

約3年前、休養中の山口氏は、個人のYouTubeチャンネルでひっそりと配信を始めた。

リハビリとして始めたYouTube

2022年7月、山口氏の休養が発表され、予定されていたツアーが中止に。突然の知らせに、ファンからは驚きや心配の声が上がった。

実は以前から続いていた心身の不調があった。それが強まったのは、2022年5月の配信コンサートを終えた頃。考えがまとまらない、疲れが取れないといった変化がありながら、当初は心の病気だとは考えず、少し休めば元に戻れると思っていたという。

数カ月後、山口氏はInstagramライブに姿を見せた。この時点ではうつ病という病名は明かさず、“燃え尽き症候群”と説明。一時は日常生活もままならないほど体調が悪化していたことを語った。

それまでにも、限界まで働いて体調を崩し、回復すると再び走り出すことを繰り返してきたという。職業柄、感情の起伏を創作の糧にするうちに、心の疲弊に鈍感になっていたとも振り返っている。

同年末にYouTubeでゲーム配信を始めたのは、「小さな成功体験を積み重ねるといい」と聞いたことがきっかけだった。自ら機材をセットし、ゲームをクリアすることを、一つひとつの成功体験にしようとしたという。

次第に雑談が増え、リスナーから寄せられた悩みに耳を傾けたり、自身の体調や音楽に戻るまでの迷いを語ったりする場になっていった。

ソロツアーから、サカナクションの再始動へ

2023年10月、サカナクションの本格始動に向けた準備として、ソロツアーをスタート。うつ病を患っているということも自身の口から観客に明かされた。

「僕が患った病気はうつ病です。すごく苦しくてあがいていました」

ソロツアー「懐かしい月は新しい月 “蜃気楼”」にて ©Takehiro Goto

「次、僕らが生み出す曲は今までのサカナクションとは違うかもしれない。もう元には戻らないかもしれない。新しくなります」

ツアーファイナルにはサカナクションのメンバーが登場し、バンドの活動再開とアリーナツアーの開催が発表された。

ソロツアー「懐かしい月は新しい月 “蜃気楼”」ファイナル公演のアンコールにてメンバー5人が集結 ©Takehiro Goto

元に戻るのではなく、新しくなる

ソロツアーを完走した後も、体調には波があった。サカナクションとしての全国ツアーを控えた2024年4月、山口氏はInstagramにこう記している。

「はっきり言ってしんどい。でもこれが今の新しい自分だ。それを受け入れてミュージシャンとして生きると決めた」

同月20日、約2年ぶりとなるサカナクションの全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2024 “turn”」が開幕。

全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2024 “turn”」にて ©Takehiro Goto
全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2024 “turn”」にて ©Takehiro Goto

病気になる前の自分に戻るのではなく、新しくなる。山口氏はソロツアーから「turn」にかけて、この考えを繰り返し口にしていた。ツアー終盤の配信では、YouTubeで葛藤を見せることについて、こう語っている。

「僕、新しくなろうとしてるから、その葛藤も見せることが、このYouTubeの一つの目的だし、こういう人間がどう向き合っていって、どんな歌を作るのか。それを見てもらうということが、今の時代の表現の一部だと思っているんです」

「SAKANAQUARIUM 2024 “turn”」ツアーファイナルのぴあアリーナMM公演にて ©Takehiro Goto

うつと共存しながら生まれた「怪獣」

2025年2月、サカナクションは約3年ぶりとなる新曲「怪獣」をリリースした。アニメ『チ。―地球の運動について―』のオープニングテーマとして書き下ろされた、バンド初のアニメ主題歌でもある。

「鬱病と共生しながら歌を書くという、新たなる音楽人生の始まり」

山口氏はInstagramで「怪獣」の制作をこう振り返る。

制作は当初の予定より大幅に長引いた。薬の副作用による眠気や倦怠感で集中が続かず、断薬しようとすれば体調が悪化した。体調に合わせて作業を区切り、書けないときには別のことをしながら、再び歌詞に向き合った。

「怪獣」制作中の配信では、病気と付き合いながら音楽を続ける一つの「リファレンス」を残したいと話した。

「次のしんどい誰かのためにね。こんなやついたんだって」

同じ配信で、リスナーから寄せられた相談に答えるなか、以前から口にしてきた「乗りこなす」という言葉についても語っている。

「乗りこなすんだよ。乗り越えるんじゃなくてね。乗り越えようと思うと大変よ。乗りこなすならできる」

「怪獣」編の先へ

「怪獣」はロングヒットとなり、2026年6月のMAJでは、同曲を中心にミュージックビデオやアートワーク、ライブ制作を含む計8部門を受賞。音楽をともに作る仲間やライブスタッフにも光が当たったことへの喜びと、支えてきたファンへの感謝を語った。

「怪獣」を携えて開催された全国ツアー「SAKANAQUARIUM 2025 “怪獣”」 ©Takehiro Goto

授賞式後の配信で、山口氏は一連の活動を「怪獣編」と呼び、こう締めくくった。

「多分ここでサカナクション『怪獣』編は完結。ここからは新しいサカナクション、新しい曲で、また新しい物語を作っていくから。ちょっと時間がかかるかもしれないけど、みんながいればやれるので。これからもサカナクション、尽力いたします」

元に戻るのではなく、新しくなる。その過程も見せてきた山口氏とサカナクションが次にどんな音楽を生み出すのか、時間をかけて待ちたい。

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