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【ルームツアー】南アフリカの光と風を織り込んだ黒い邸宅

  • 2026.6.29
Nicolas Matheus

ケープタウン近郊の急斜面に立つ未完の建築を、インテリアデザイナーのシャーリー・ウェインが自然と調和する住まいへと昇華した。『エル・デコ』6月号より。

Nicolas Matheus

アフリカの陽光できらめく無数のガラスパネル

ケープタウンから約15kmの町、ハウトベイの険しい谷の高台に、この黒い家は建てられた。眼前には緑豊かなオーバークルーフ渓谷と山並みが広がり、この躯体はその壮大な風景を支配するかのように見えるが、静かに溶け込んでもいる。

<写真>急勾配の敷地に建てられたこの家は、約8mの高低差の中に軽やかに立ち上がり、息をのむような眺望を享受している。金属製のサッシと小さなガラスパネルを通してたっぷりと陽光が差し込む設計だ。テラスの床は無垢のパイン材。テラコッタの鉢はインドから運ばれたもの。

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遠く連なる山並みまでを一望に収めるテラス

元々この建物は未完成のまま忘れ去られるところだった。急勾配の立地、無数のガラスの小窓を持つ外観、内部には仕切りもなく、ただ大きく空虚な空間が広がるのみ。その荒々しさと可能性に惹かれたのが、オランダとポーランド出身の夫妻だ。

<写真>テラスからは、緑豊かなオーバークルーフ渓谷と周囲の険しい山々を見渡すことができる。リビングから続くテラスには、建設時に出た廃材を利用して製作した、テーブルとベンチが配されている。右手のチェアはイギリス人デザイナー、リチャード・ヘンリーによる“スプリングウッド”。

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鮮やかな森の緑が格子の向こうに広がる

彼らはこの特異な建築のオーナーとなり、約2年の歳月をかけて再生に取り組む。インテリアデザイナーのシャーリー・ウェインと協働しながら、「この場所にふさわしい住まいとは何か」を問い直し、室内に機能と秩序を与えていった。

キッチンやバスルーム、寝室、子どものためのプレイルーム、ゲスト用のスイートが新たに組み込まれ、巨大なワンルームだった構造体は、暮らしにふさわしいスケールへと編集された。

<写真>家の中心に位置するダイニングは、格子状の大開口から豊かな光を取り込む。南アフリカのデザイナー、グレゴール・ジェンキンによる長さ4mを超えるテーブルを囲むのは、1960年代のアルフレッド・クリステンセンの“ブーメラン”(手前中央)などのビンテージチェア。

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借景を楽しみながら特注のバスタブでくつろぐ

その再生の過程において、核となったのが「黒」という色の選択だった。内外を貫くこの色は、単なる装飾ではなく、風景と建築を結び直すための手段である。日本の伝統的な技法「焼杉(やきすぎ)」によって炭化させた木材は、深くマットな質感を帯び、周囲の樹木や岩肌と呼応する。黒は光を吸収し、時間や天候によって表情を変え、内部に奥行きをもたらす。

<写真>主寝室のバスルームには、真ちゅう製の水栓を備えた、カッパー・バスに特注した銅製のバスタブが据えられている。奥のシャワーブースは、黒の釉薬を施したセラミックタイルで仕上げた。ラダー型の黒いラッカー仕上げのタオルラックにはウールワースのタオルが掛けられている。

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手仕事に彩られた旅の記憶が集うリビング

建築の骨格をなすのは、金属フレームと細かなガラスパネルによるファサード。グリッド状の開口部からは一日を通して光が差し込み、内部に繊細な明暗のリズムを生み出す。天井高8mのリビングには、東洋の装飾扉、現代アート、デザイナーによる家具がコーディネートされ、オーナーの審美眼にかなう旅の記憶が空間に刻まれている。

<写真>リビングの一角、天井高が8mあるサロンには、竣工当時から残るレンガ壁を背景に多彩な個性が集う。中でも存在感を放っているのは、アジアから運んだアンティークのドア。3つ並んだ照明は、レザーのストラップを用いてハンドメイドで仕立てたイグ・ソーンのアイテム。

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ユーカリの木陰から渓谷の絶景を楽しむ

外部に展開するテラスは、建物に沿うように延びながら森へとつながり、敷地の境界を曖昧にする。建設時に出た木材を再利用した家具や、掘削時の石材を用いた擁壁など、この地に由来する素材が随所に用いられている点も象徴的だ。プールは空や木々を映し込み、景色そのものを取り込む装置として機能している。

<写真>心地よい木陰に包まれたテラスは、魅惑的な眺めをゲストにもたらす。木製のアームチェアとベンチにはアウトドア用のファブリックが張られている。クッションは「メゾン・ド・ヴァカンス」。木の幹をくりぬいてつくられたスツールや石のローテーブルは地元の職人によるもの。

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焼杉と茶色のリネンが深い眠りへといざなう

黒い室内では、リネン、木、石、銅といった自然素材が際立ち、視覚と触感を補完する。空間を構成する全ての要素は、アートとデザインに強い関心を持つオーナー夫妻の視点と、シャーリー・ウェインの知見のもとに厳選されている。

<写真>寝室の壁には、日本の伝統的な技法「焼杉」で仕上げた羽目板が張られている。同色系のベルベットで仕上げたヘッドボードと呼応する。木製のサイドテーブルの上に置かれたのは、リチャード・サッパーによる「アルテミデ」の照明“ティチオ”。床に敷いたキリムはアンティーク。

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深い森の湖畔を思わせる黒い石造りのプール

このプロジェクトは、未完の構造体に新たな生命を与える試みであると同時に、自然と建築の関係を再定義する実験でもあった。風景を支配するスケールを持ちながら、その一部となる。その解を成立させるために選ばれた「黒」という色彩が、この家の本質を物語っている。

<写真>うっそうと茂る植生の中にひっそりと隠れるように設けられた7m四方のプール。側壁を黒く塗装することによって巧みに奥行きを感じさせている。プールサイドの縁には、敷地を掘削したり造成した際に出た石材が再利用された。これらの石材は擁壁にも用いられている。

Realization:LAURENCE DOUGIER Photo:NICOLAS MATHEUS

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『エル・デコ』2026年6月号

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