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「あの車が通れたなら大丈夫」と進入した20代男性、シート代だけで50万円近くかかった事態

  • 2026.7.28
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

昨今の夏は以前にも増して、ゲリラ豪雨や台風のニュースを目にする機会が多くなりました。短時間で道路は冠水し、特に立体交差で線路や道路の下をくぐるために掘り下げられた「アンダーパス」は、周囲より低い構造上、あっという間に水が溜まる危険な場所になります。

それでも、冠水した道路に進入してしまう車は後を絶ちません。その理由の一つが「前の車が通れたから、自分も大丈夫だろう」という油断です。

今回は、その油断が招いた水没事故の事例をご紹介します。

通り慣れた道が、その日だけは違った

私は損害保険会社で、対物賠償や示談交渉の難しい案件を主に担当していました。車両の損害そのものは主担当ではありませんでしたが、車両損害を担当する同僚から相談を受け、助言をする中で関わったのが今回の事例です。

その日、契約者のAさん(20代・男性)の住む地域はゲリラ豪雨に見舞われました。激しい雨は、車で帰宅中のAさんを直撃します。帰宅ルート上にあるアンダーパスは早くも冠水している状態でした。

いつもの見慣れた道路が冠水している光景を目の前にして、Aさんは迷ったそうです。

「帰宅時間は遅くなるが、遠回りするしかないか」

そのとき、迷うAさんの横を別の車が通り過ぎ、冠水した区間へ進み通過していきました。その様子を見てAさんは少々驚いたものの、「あの車が通れたなら、自分も大丈夫だろう」と判断。後に続いて進入しました。

しかし、車は道の半ばで動かなくなり、Aさんは退避を余儀なくされます。そして、車はそのまま水没してしまいました。

想像以上に広がる、水没車の損害

私が同僚を通して確認した損害の内容は、深刻なものでした。

車内には水が入り込み、シートは悪臭を放つ状態です。洗浄だけでは到底落としきれないため、すべてのシートを取り替えるのが妥当でした。その費用だけでも50万円近くに上っています。

加えて、エンジンへのダメージ、電子制御系統も一部が損傷。さらにブレーキに関わる部品も、今後の錆発生を懸念し一部交換が必要です。

修理費総額は、Aさんの車の車両保険金額を大きく上回りました。「全損」です。

車両保険の「車両保険金額」は、契約時にその車の時価、つまり「同じ年式・状態の車を中古車市場で買い直す場合のおおよその価格」を基準に設定されます。そして、修理費がこの車両保険金額を上回る場合や、修理そのものができない場合を「全損」と呼びます。つまりAさんの車は、「直すより買い直したほうが安い」状態になっていたのです。

修理は現実的ではないと判断し、Aさんは車両保険金額を受け取って、水没した車は保険会社が引き取る形を選択しました。

また、Aさんの契約には「全損時諸費用特約」が付いていたため、車両保険金額に加え、その10%が上乗せされて支払われています。

水没事故が全損になりやすいのは、損傷の範囲が広く、取り替えとなる部品が多いためです。損害額が積み上がり、車両保険金額を超えてしまうケースが決して珍しくありません。

では、こうした水没のリスクに対して、私たちにはどのような備えができるのでしょうか。ここからは、3つの対策をお伝えします。

対策1:車両保険の内容を確認しておく

水没は相手のいない単独の災害です。車両保険に加入していなければ、損害はすべて自己負担になります。

台風や洪水などによる水没は、一般型・エコノミー型のどちらの車両保険でも補償の対象になるのが通常ですので、まずはご自身の契約内容を確認してみましょう。

なお、水没のような自然災害による損害は、一般に「1等級ダウン」の扱いです。他の車との衝突事故(3等級ダウン)に比べると、翌年の等級への影響は小さく抑えられます。

ただし、これは「冠水した道路に入ってもあまり損はしない」という意味ではありません。

冠水を認識しながら無理に進入したと判断されるような場合は、状況によって補償を受けられない可能性もあります。等級への影響が小さいことと、そもそも補償の対象になるかどうかは、まったく別の話です。

今回のAさんのケースでは、普段から通り慣れた道でこれまで冠水を経験したことがなかった点などが考慮されました。直前に別の車が通過するのを目にして判断した経緯もあり、故意や無謀な進入とまでは言えないと判断され、保険金が支払われました。

とはいえ、紙一重の事案だったことは間違いありません。状況が少し違えば、補償の対象外と判断されてもおかしくなかったのです。

このことからも、補償内容だけではなく、補償要件も併せて確認しておくことを強くおすすめします。

対策2:冠水した道路には進入しない

前の車が通れたとしても、自分の車が通れるとは限りません。車高や吸気口の位置は車種ごとに異なり、同じ水深でも通過できるかどうかは変わってくるからです。

一つの目安として、タイヤの半分を超える水深や、車の床面に水が達するような水深では、走行は危険と言われています。マフラーや吸気口から水を吸い込めば、エンジンはその場で止まってしまいます。

また、アンダーパスは中央に向かって深くなる形状のものが多く、入り口付近の水深だけでは、奥の深さは判断できません。豪雨の中や夜間であれば、水深そのものを見誤る危険も高まります。

「ためらう程度の水深なら迂回する」

この判断が、結果的に車と自分の身を守ってくれるのです。

対策3:水に浸かった車のエンジンは再始動しない

もし車が水に浸かってしまった場合、エンジンを再始動しないことが、一般的に望ましいとされています。これはエンジン内部に水を吸い込んだ状態で再始動すると、「ウォーターハンマー現象」が起こる可能性があるためです。

水は空気と違って圧縮できないため、エンジン内部の部品に大きな力がかかり、破損につながるおそれがあります。また、車の電気系統に水が触れている状態では、感電などの二次的な危険も考えられるでしょう。

水没してしまったら、まずは安全な場所へ避難し、JAFや保険会社に連絡してください。

「通れた車」は、あなたの車ではない

最後に思い返してほしいのは、Aさんの前を通過していった一台のことです。

あの車が通れたのは、車高の違いによるものだったのか、水深のわずかな違いだったのか。はたまた、無事に通過したように見えても、後になって車に影響が出なかったのかどうか。それは今となっては分かりません。

確かなことは、「前の車が通れたこと」は、「あなたの車が無事に通れる根拠には一切ならない」ということです。

「前の車が通れたかどうか」ではなく、「いま、自分の車で、確実に安全」と言えるか。冠水路の手前で踏みとどまる、その判断こそが最大の備えとなるのです。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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