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「旅行の予定があって」事故後1週間、車で長距離移動した60代男性が失ったもの

  • 2026.7.22
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

客観的証拠を記録してくれるドライブレコーダーは、交通事故に遭った時に自分の主張を裏付けてくれる心強い存在です。

しかし、そんなドライブレコーダーも「付けているだけ」では役に立たないことがあります。

今回ご紹介するのは、私が損害保険会社にいた時に担当した、ある事故のお話です。

緩やかなカーブで起きた接触事故

当事者は、乗用車を運転していたこちらの契約者であるAさん(男性・60代)と、同じく乗用車を運転していた相手方のBさん(女性・20代)。

事故現場は片側2車線の緩やかなカーブが続く道路。Aさんはその道路の左側の車線である第1車線を直進していました。そこに、後方から第2車線を走るBさんがスピードを上げてAさんを追い越し、急に車線変更。Aさんの車の側面に接触しました。

Aさんによれば、事故直後の現場でBさんはこう説明していたそうです。

「慣れない道で、前方にゼブラゾーン(車の通行を控えるよう促す縞模様の区域)が現れたことに動揺し、確認が不十分なまま車線変更してしまった」

幸いにも双方に怪我はなく、車の損傷も比較的軽いものでした。

問題になったのは「合図の有無」

Aさんとしては「一方的に幅寄せされた」という思いから、心情的には自分の過失(事故の責任の割合)ゼロを主張したいところです。

しかし、双方が走行中の事故の場合、原則としてお互いに多少の過失が認められます。私が、一般的にこの事故形態の基本過失は3:7(Aさん:Bさん)であることを説明すると、Aさんはそのくらいの過失であれば認めると了承。双方の保険会社が間に入り、解決を進めることになりました。

ここで争点となったのは、「Bさんが車線変更の合図(ウインカー)を出していたか」です。仮にBさんの合図なしが認められれば過失割合に修正が入り、一般的には1:9(Aさん:Bさん)とAさんの過失割合が下がる可能性があります。

Bさんにとって不慣れな道。Aさんを追い越すほどの速度。そして目の前に現れたゼブラゾーンへの焦り。Bさんが合図を出す余裕がなかった可能性は高い、それが当時の私の見立てでした。ただし、これはあくまで推論。証拠はありません。

Bさん側の保険会社からは「Bさんの車にドライブレコーダーはない」との回答。合図の有無を確認できる鍵は、Bさんのやや後方を走っていたAさんの車のドライブレコーダーだけでした。

1週間遅れの事故報告

しかし、私は一つだけ気になることがありました。Aさんから保険会社への事故報告が、事故日から1週間以上も遅れていたのです。理由を尋ねると、Aさんはこう答えました。

「もともと旅行の予定があって。車に大きな損傷もなかったので、事故の処理が終わったあと、そのまま事故車で旅行に行っていました」

嫌な予感がしました。

「今すぐ、ドラレコからSDカードを抜いてください」

私は、電話口でAさんにそうお願いし、ドライブレコーダーのデータを確認してもらいました。結果は、予感の通り。事故の時の映像は、旅行の長距離移動の映像にすべて上書きされ、消えていたのです。

決定的な証拠を失ったAさんは、基本の過失割合である3:7で合意せざるを得ませんでした。

Bさんが合図を出していたのかどうか。それを確かめる手段は、もうどこにもありません。「あと一歩で1:9を取れたはずだ」と言えるのも、映像があってこその話でした。

車は問題なく動く。損傷も軽い。旅行の予定は前からあった。同じ状況なら、同じ判断をする人は多いはずです。

ただ、ドラレコの映像は持ち主の事情を待ってはくれません。旅行を優先した1週間で記録は上書きされ、Aさんは自分の主張を証明する手段を失いました。

唯一の救いは、その旅行中に別の事故に遭わなかったことでしょう。もしそうなっていれば、どの事故で車のどこが壊れたのか、損傷箇所を証明することすら困難になっていたはずです。

事故に遭ったら、その日のうちにやるべきこと

ドラレコの映像は、いわば「生もの」です。走れば走るほど、古い映像から自動的に上書きされていきます。だからこそ、事故に遭ったら「車が走れるか」を確かめる前に、「記録が残るか」を確かめてください。

まずドラレコのSDカードを抜くか、予備のカードと差し替えて上書きを防ぐ。事故後も車に乗り続ける予定があるなら、これが最優先です。次に、事故現場と車両の損傷部分を写真に残し、保険会社へ速やかに事故を報告しましょう。

ドライブレコーダーは「付けている」ことではなく、「映像を守る」ことで、はじめてあなたの味方になります。事故のその日、ほんのひと手間をかけられるかどうか。あなたの主張を証明できるかどうかは、そこで決まるのです。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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