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25年前のアイドルソングが「選挙で外食」をスタンダードに変えた トンチキなのに名曲すぎる歌が生まれた理由

  • 2026.7.25
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※ChatGPTにて作成(イメージ)

「投票行って、外食する」

選挙の日の過ごし方として、この組み合わせを思い浮かべる人は少なくないはずだ。そしてそのとき、頭の中では決まってあの歌が鳴っている。25年前、モーニング娘。が放った祝祭のダンスナンバーだ。

モーニング娘。『ザ☆ピ〜ス!』(作詞・作曲:つんく)ーー2001年7月25日発売

12枚目のシングルは週間ランキングの1位を獲得し、累計60万枚を超えるヒットになった。グループ全盛期のど真ん中。選挙という、およそポップスに似合わない題材を、これほど幸せな歌に変えてみせた例を、ほかに知らない。

鉄板の湯気の大きさまで縮めた平和

この曲の出発点には、作詞・作曲を手がけたつんく♂自身の、幼い頃の記憶がある。選挙の日に家族そろって投票へ出かけ、その帰りにお好み焼きを食べに行く友人の一家。その光景が、少年の目にはまぶしく映っていた。

うらやましかったのは、投票そのものではない。投票を口実に家族が集まる、上機嫌な休日のほうだ。鉄板の上で生地がじゅうと鳴って、家族の誰もが笑っている。子どもの目に焼きつく「幸せ」とは、案外そういう湯気の立つ風景だったりする。

だから『ザ☆ピ〜ス!』は政治の歌にならなかった。歌われるのは、選挙の日に投票を済ませて、家族で外へごはんを食べに行くという、ささやかで幸せな一日。政党も政策も出てこない。出てくるのは、休みの日の家族の段取りと、ごはんの楽しみだけ。硬い題材はあくまで入り口で、核にあるのは「こんな休日がうらやましい」という体温だ。

タイトルに掲げた「ピース」も、世の中が平和で、日常が上機嫌であってほしいという願いをそのまま看板にしたもの。21世紀が始まったばかりの日本に向けて、大上段の主張ではなく、家族の外食というスケールで平和を描く。壮大な言葉を使うほど嘘くさくなる「平和」を、湯気の立つテーブルの大きさまで縮めてみせた。この目線の低さこそ、つんく♂という作家のすごみに映る。

「行きなさい」と言わずに足を動かす歌

驚くのは、この歌が四半世紀たった今も現役だということだ。選挙が近づくたび、SNSにはこの曲の歌詞になぞらえた投稿が並び、「投票に行って、おいしいものを食べよう」という過ごし方が、半ば合言葉のように飛び交う。実際に、投票の帰りに外食を楽しむ、そんな選挙の日を過ごす人も現れた。

発売当時にまだ生まれていなかった世代までが、このフレーズで盛り上がる。ポップソングの寿命として、これは相当に息が長い。流行歌の多くが「あの頃の歌」として思い出の棚に収まっていくなかで、この曲だけは数年おきに、選挙のニュースと一緒に日常へ戻ってくるのだ。

理由ははっきりしている。この歌の「投票へ行く」には、説教の匂いがまったくないのだ。義務でも正義でもなく、楽しみとセットで差し出される選挙の日。難しい顔をせずに、鼻歌まじりで投票所へ向かわせてしまう。ポップソングと社会との関わり方として、これほど鮮やかな成功例はなかなかない。

しかもこの歌は「行きなさい」とは一度も言わない。ただ、投票のあとにおいしいものが待っている一日を、これ以上ないほど楽しそうに歌ってみせるだけ。聴いた人が勝手にその一日を過ごしたくなる。広告や標語が束になっても届かない場所へ、ポップスの上機嫌だけがするりと届いてしまう。その構造の美しさに、あらためて感心する。

あの夏一度きりの並びが踊っている

この曲の記憶をいっそう鮮やかにしているのが、当時のパフォーマンスだ。初代リーダー中澤裕子の卒業直後、9人体制で初めて世に出たシングルで、センターに立ったのは石川梨華だった。結果としてこの9人での表題曲シングルは本作だけになったから、あの夏の一瞬の並びを封じ込めた1枚でもある。

真ん中で笑う石川梨華のフレッシュな輝き。MVの華やかな衣装の印象。そして一度見たら真似したくなる、可愛らしい振付。チャールストンを思わせる軽快な間奏で、石川梨華が踊ってみせる場面は、この曲のハイライトのひとつだ。新しい真ん中がここにいる、と宣言するようなその晴れやかさは、卒業という節目を経たグループの不安を、一瞬で祝祭に塗り替えていた。実際、石川梨華はこの後、グループの主力として存在感を増していく。その出発点の初々しさが、映像にまるごと残っている。

サウンドにも仕掛けがある。つんく♂が思い描いたのは、ファンキーなダンスミュージックに1920年代のアメリカンジャズの香りを重ねること。それを編曲のダンス☆マンが形にした。イントロの「ピースラップ」と呼ばれる号令から、管楽器の華やかな鳴り、レトロなステップの似合う間奏まで、アイドルポップの枠を軽々と飛び越えた音作りになっている。

なかでも、冒頭の「ピースラップ」を抜けて管楽器が一斉に鳴り出す瞬間の高揚は格別だ。考えるより先に体が動く。この曲の「上機嫌」は、歌詞よりも先に、まず音が運んでくる。

にぎやかなのに、どこか懐かしい。この不思議な手触りが、選挙という「昔からある日本の休日」の題材と絶妙に響き合っているのも、聴き返すたびに唸らされるところだ。

四半世紀後の食卓をまだ祝福する

投票を済ませた帰り道、家族や友人と「なに食べる?」と相談する。ただそれだけの一日を、この曲は25年前からずっと祝福し続けている。

大きな声で世直しを叫ぶのではなく、お好み焼きの匂いのする休日を歌う。その柔らかさが、結果としてどんな標語よりも軽やかに、人の足を投票所へ向かわせてきたのかもしれない。少年の日のうらやましさから出発した歌が、四半世紀後の誰かの家族の思い出を、今度は本当に作っている。こんなきれいな循環は、狙って作れるものではない。

選挙の季節が来るたび、管楽器が鳴って、9人が弾けて、あの日の石川梨華の笑顔がよみがえる。四半世紀前のアイドルソングが、いまの日本の休日をまだ明るくしている。こんな幸せな生き残り方をした曲を、ほかに思いつかない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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