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27年前、ドラムが書いた”切ない恋のうた" 50万枚超ヒットした伸びやかな高音が描く「届かない想い」

  • 2026.7.31
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Hysteric Blue-2003年6月撮影(C)SANKEI

1990年代も終盤に差しかかった夏、テレビの前ではドラマ主題歌が街の空気をそのまま作っていた時代だった。木曜の夜にチャンネルを合わせれば、その週のヒット曲がまた耳に流れ込んでくる。そんな循環のまん中に、Hysteric Blueの一曲があった。

Hysteric Blue『なぜ…』(作詞・作曲:たくや)ーー1999年7月28日発売

バンドという編成のなかで、詞と曲を書くのはギタリストかボーカルというイメージが根強い。ところがこの曲を書いたのは、ドラムのたくやだ。

感情を叫ばず積み上げる書き方

Hysteric Blueというバンドの構造を知ると、まず面食らう人が多い。歌うのはTamaで、曲を書いたのはたくや。歌う人と書く人がはっきり分かれているバンドは珍しくないが、その書き手がドラマーだというのは、なかなか出会わない組み合わせかもしれない。

たくやは彼らのヒット曲である1999年の『春〜Spring〜』も手掛けている。バンドの看板を張る2曲を、リズムを支える人間が続けて生み出したという構図は、静かに驚きを誘う。ステージの中心でスティックを振るう姿からは想像しにくい、内側にため込んだ言葉の質感がこの曲には宿っている。

ドラムという楽器は、曲の骨格そのものを叩き出す位置にいる。テンポを決め、間を作り、サビへの踏み込みを支える。その場所に立ち続けてきた人間が言葉を書くと、感情を叫ぶより先に、曲全体の構造から気持ちを組み立てる癖が滲み出るように思える。実際にこの曲は、感情の高まりが唐突に来るのではなく、少しずつ積み上がっていく作りになっている。それはリズムを内側から知っている人だからこそ描ける、感情の「間」の設計に映る。

届かない想いを声で押し切る強さ

曲の中身に耳を澄ませると、まず届くのはTamaの伸びやかな高音だ。抑えて歌うタイプの声ではなく、サビに向かって迷いなく張り上げていく。その真っ直ぐさが、届かない想いを歌う言葉と正面からぶつかり合う。歌詞は、心のなかで温め続けてきた気持ちがうまく言葉にならないもどかしさを描いている。誰かへの想いを抱えたまま、答えの出ない自問だけが繰り返される。曲名がそのまま疑問の形になっているのも、はっきりした結論を出さずに歌にしたことの証だろう。

演奏面では、バラードに寄りかからない硬さが耳を引く。ギターとリズム隊がしっかり前に出て、切なさを湿らせすぎない。ロックバンドとして育ってきた骨格が、恋の歌のなかでもきちんと立っている。だからこそこの曲は、単なる泣かせるバラードにとどまらず、聴き終えたあとに背筋が伸びるような余韻を残す。

サビに向かうまでの助走にも耳を澄ませたい。声を抑えて溜めるでもなく、最初から力任せに突き進むでもない。音の重なりが一段ずつ増えていき、Tamaの声がその上に乗った瞬間に景色が一気に開ける。派手な転調で驚かせるのではなく、積み上げの果てに解放を置く作り方が、この曲を聴き終えたあとの充足感につながっている。

タイアップだけでは届かない評価

この曲はTBS系ドラマ『P.S.元気です、俊平』の主題歌として起用された。堂本光一が主演を務めたこの作品の顔として、『なぜ…』は毎週テレビから流れた。

ドラマ主題歌というだけなら数え切れないほどある。だがこの曲は、その年の第22回ドラマアカデミー賞でドラマソング賞を受賞している。主題歌に選ばれただけでなく、ドラマと曲の組み合わせそのものが評価されたということだ。タイアップという文脈に乗っただけの一曲ではなく、曲自体の力がドラマの世界観を支えていたことの裏づけになる。

物語の余韻がそのまま曲の入り口になり、曲の切なさがドラマの感情を後押しする。放送と歌が互いを高め合う関係が、この一曲では確かに機能していた。

もう一度聴きたくなる衝動が広げた輪

『なぜ…』は、累計50万枚を超える売上を記録した。バンドが持つ楽曲としては相当な広がり方で、当時のシングル市場のなかでもきちんと存在感を示した一枚だったことがうかがえる。

ドラマの主題歌という追い風はあったにせよ、それだけで50万枚を超える売上には届かない。曲自体がラジオでもカラオケでも選ばれ続けたからこそ、数字は積み上がっていった。カラオケであの高音域に挑んだ人も少なくないだろう。歌いこなせるかどうかより、あの問いかけを自分の声で言ってみたいという気持ちのほうが勝ったのかもしれない。

ヒットというのは結局、聴いた人がもう一度聴きたくなるかどうかにかかっている。この曲はその一点で、当時の耳を確かにつかんでいた。

遠い椅子から届いた確かな歌

『なぜ…』を聴き返すと、曲そのものの強さがまったく揺らがないことに気づく。Tamaの声が届かない想いを歌い、バンドの演奏がその感情を湿らせすぎずに支え続ける。この骨格があったからこそ、たくやという書き手の存在は驚きで終わらず、確かな一曲として今も残っている。

歌を書く場所は、ステージの中心である必要はない。ボーカルから遠い椅子に座っていても、そこから見える景色をそのまま言葉にすれば、聴く人の心には真っ直ぐ届く。ドラムの奥から生まれたこの一曲は、そのことを控えめに、しかし確かに証明している。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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