1. トップ
  2. エピソード
  3. 彼女の発言だけ議事録から消していた僕が、最後まで言えなかった理由

彼女の発言だけ議事録から消していた僕が、最後まで言えなかった理由

  • 2026.6.25
ハウコレ

彼女の発言だけを、議事録から外し続けていました。守るためだと信じていた行いが、本当は何だったのか。問い詰められて、僕は初めて立ち止まったのです。

会議のあと、議事録をまとめながら、僕はある一行の上でカーソルを止めました。彼女が口にした意見が、画面にそのまま残っています。少し迷ってから、その部分を選んで、消しました。

彼女が、まっすぐ手を挙げた

その日の会議で、彼女が思いきって手を挙げたのが分かりました。

「このスケジュールだと、現場が回らなくなります」

はっきりとした声でした。正しい指摘だと、僕も思いました。けれど同じ会議には、人の意見を正面から退け、あとから自分の手柄にしてしまう先輩がいました。

以前、彼女の提案がその人にいいように使われ、彼女だけが評価を落とした場面を、僕は見ています。記録を取りながら、僕の頭をよぎったのは、また同じことが起きるかもしれない、という不安でした。

彼女の名前を、残せなかった

だから僕は、彼女の発言を、議事録からそのまま外すことにしました。彼女の名前で記録が残れば、あの先輩の目に留まってしまう。そう考えたのです。

代わりに、似た指摘を僕自身の言葉として別の機会に持ち出し、彼女が矢面に立たずに済むようにしようと思っていました。

今思えば、それは独りよがりな判断でした。彼女に一言も相談せず、彼女の言葉を勝手に間引いていたのですから。守っているつもりで、僕は彼女から発言の場を奪っていたのかもしれません。

問い詰められた日のこと

彼女が思いつめた表情で、僕に尋ねてきました。

「どうして私の発言だけ、消したの?」

本当の理由を話せば、彼女を心配させてしまう。先輩の名前を出せば、社内のことに彼女を巻き込んでしまう。そんな言い訳が頭の中で渦巻いて、僕の口から出たのは短い一言でした。

「君の名前で残すと、面倒なことになると思ったんだ」

彼女の顔が、見るからにこわばりました。きちんと説明する勇気が、そのときの僕にはなかったのです。

そして...

僕がしたことは、彼女を信じきれていなかったことの裏返しだったのだと思います。彼女なら、自分の力で切り返せたかもしれないのに、僕は先回りして、その機会ごと消してしまった。

守りたかったのは本当です。でも、どう守るかを彼女と決めなかった時点で、それはただの押しつけでした。次に会ったら、全部話そうと決めています。先輩のことも、僕が勝手に間引いていたことも。

そのうえで、君の意見は君の名前で残すべきだと、自分の口で伝えたい。消した一行を取り戻すことはできません。それでも、彼女の言葉を二度と消さないことが、僕にできるせめてもの償いです。

(20代男性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる