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希望の明かりをもう一度、豊かさとは何か by 渋澤健【真の豊かさを問う vol.5】

  • 2026.6.21

シブサワ・アンド・カンパニーを創業し、より良い社会を次世代に残すべく活動する渋澤健さん。渋沢栄一さんの玄孫でもあり、「論語と算盤」経営塾や数々の講演を通じてその思想を世に広めています。今回は渋澤さんが、これまで量的な価値観によって語られてきた豊かさと、その喪失を経験した世界で求められる新たな成長について、思いを語ってくださいました。

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<Profile>
渋澤健(しぶさわけん)/シブサワ・アンド・カンパニー 代表取締役

1961年生まれ。'87年UCLA大学経営大学院にてMBAを取得。2001年にシブサワ・アンド・カンパニー、'07年に現コモンズ投信、'23年に&Capital(アンドキャピタル)を創業。経済同友会幹事および中東・アフリカ委員会筆頭委員長の他、「サステナブルファイナンス有識者会議」など、複数の政府系委員会の委員を務める。「『論語と算盤』経営塾」を主宰。著書多数。

量から質へ。これからの時代で問われる真の「豊かさ」

例えば、夕日を眺めるときに感じる小さな希望──数字だけでは実感できない生活の豊かさがある。 Ken Shibusawa

「豊かさ」とは何でしょう。昭和33年(1958年)の東京下町を舞台とした映画『ALWAYS 三丁目の夕日』は、「助け合い」「つながり」「ささやかな喜び」など、人と人の間にともる素朴で温かい人間ドラマを描きました。悲惨な第2次世界大戦の記憶がまだ鮮明に残る時代でしたが、同時に、明日への小さな希望が積み重なっていく「豊かさ」を感じていた日本人も多かった時代です。

ちなみに、当時の日本のGDP成長率はおおよそ8~9%前後と推定されています。家電の普及、都市インフラの整備、地方からの集団就職、東京タワー建設といった外的な豊かさの萌芽が、映画の背景に反映されています。

豊かさは次第に量的な指標で測られるようになり、GDPが国家規模の経済活動を比較可能かつ継続的に測定する「共通言語」となりました。GDPは、家計が行う「消費」、企業の設備や住宅などの「投資」、公共事業などの「政府支出」、そして輸出と輸入の差額である「純輸出」という4つの要素から構成されています。言い換えれば、「生産=豊かさ」とみなす尺度です。

また、昭和33年には第1回「国民生活に関する世論調査」が実施され、7割以上が自分を「中の上~中の下」と回答していました。1970年代に定着した「一億総中流社会」という表現に先立ち、その意識はすでに芽生えていたのです。中間層が増え、国が豊かになるという現象は、日本に限らず世界共通の公式でもあります。

しかし現在では、産業革命を先行して豊かさを築いた西洋社会においても、「中間層社会には戻れない」という声が聞こえ始めています。GDPで測る成長(豊かさ)は“総額”です。つまり、全体のごく一部が飛躍的に生産・成長している一方で、大多数が停滞していても、総額としては成長として表れてしまう。この「取り残された感」の増大こそが、豊かさの喪失や社会の分断の根源にあるのではないでしょうか。

世界中の私たちは、夕日を眺めるときに「今日よりも良い明日が訪れる」という小さな希望としての「豊かさ」を、いつの間にか失ってしまったようにも見えます。

真の富や成長はGDPだけでは測れません。生態系の豊かさとともに、人間の包括的な繁栄を評価する尺度も重要です。個々人のアイデンティティーや目標も、物質的消費だけではなく、社会構造としての安全性、個々の潜在能力の発揮、そして選択肢の拡大といった要素を含むべきでしょう。「量」だけを追う成長ではなく、「質」の成長にはまだ大きな伸びしろがあります。

日本が大切にしてきた価値観には、「わびさび」「もののあわれ」「もったいない」など、趣や情緒、自然との共生を前提とした要素が多く含まれています。質素でありながら意味に富み、物質的には軽やかでも感情的には深く満たされ、限界を受け入れつつも運命論には陥らない。西洋型の成長モデルによって豊かさを実現してきた日本だからこそ、これからの時代に世界が求める新しい成長の定義づけに貢献できるはずです。

【トラベルノート@伊豆】二人で歩いて眺める、冬の伊豆

久しぶりに妻と訪れたスポットで海を眺め、心を穏やかに。 Ken Shibusawa

1泊目は、富戸(ふと)に新築された会員制セカンドホームに泊まりました。独身時代に友人たちとよく訪れていた貸別荘から徒歩圏内で、土地勘のある場所です。妻も独身時代に近くの友人の別荘を訪れ、富戸海岸に来ていたそうで、懐かしそうにしていました。ただ、30年ほど前と比べると空き家が増え、老朽化が目立つ地区もあり、少し寂しい気持ちにもなりました。2泊目は西伊豆に移動し、堂ヶ島に泊まりました。東側と比べると人影が少なく、自然の豊かさをより強く感じられます。冬の西伊豆から海越しに眺める富士山は本当に素晴らしいです。新婚のときに立ち寄った同じ場所で、写真を撮りました。険しい岩肌の展望台から眺める海は、大荒れの日もあるでしょうが、この日はキラキラと輝いていました。

初出:リシェスNo.55 2026年3月27日発売

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