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益田ミリ『スーパーマーケット宇宙』いつもの買い物が“宇宙の旅”になる、日常再発見コミックエッセイ【インタビュー】

  • 2026.6.20
『スーパーマーケット宇宙』(益田ミリ/KADOKAWA)
『スーパーマーケット宇宙』(益田ミリ/KADOKAWA)

スーパーマーケットの自動ドアが開いた瞬間、気持ちが切り替わり、まるで別世界へ——。イラストレーターの益田ミリさんが雑誌『ダ・ヴィンチ』で7年にわたり連載した作品に描き下ろしを加えた単行本『スーパーマーケット宇宙』が発売された。野菜や鮮魚、お惣菜の並ぶ売り場を“惑星”に見立て、いつもの買い物を小さな宇宙の旅として描く日常再発見コミックエッセイだ。タイトルに込めた思いや、7年の連載で見つめてきた暮らしの変化、お気に入りの売り場まで、益田さんに話を聞いた。

毎日通っても飽きない、スーパーという名の「宇宙」

――本作の連載が始まったきっかけや、最初の着想についてお聞かせください。また、『スーパーマーケット宇宙』という、日常と壮大さが同居するタイトルには、どのような想いを込められたのでしょうか。数ある日常的な場所の中から、「スーパーマーケット」を題材として深掘りしようと思われた理由についてもお聞かせください。

【益田ミリ(以下、益田)】自宅が職場なので、夕方、気分転換も兼ねてスーパーマーケットに行くのが日課です。スーパーに向かっているときは、まだ少し仕事モードを引きずっているのですが、スーパーの自動ドアが開いた瞬間、気持ちが切り替わって別世界に入って行くような気分に。そこから「スーパーマーケット宇宙」という言葉が浮かびました。スーパー内でいつも考えていることを気負わずに漫画にできればいいなと思っていました。

スーパーにはさまざまな商品が並んでいるわけですが、自分は買わないけど誰かが買うであろう商品に安堵するんです。街を歩く人が全員知り合いだとしたら息苦しいみたいに、買わない商品があることでホッとするのかもしれません。毎日行くのに飽きないってすごい場所だなと思います。

たくさんの自転車がとめられているスーパーが見えてくると、わたしもこの世界の営みに参加していて、何もしなかったような気分の日でも、「今日を生きただけで充実!」という気持ちになります。

――7年という長期連載の中で、コロナ禍や物価高騰など、私たちの生活様式やスーパーマーケットの風景を大きく変える出来事が数多くありました。外出自粛期間中には、スーパーマーケットでの買い物が社会との数少ない接点だったという方も多かったと思います。そうした状況を経て、スーパーマーケットという場所の存在意義に対する新たな気づきや変化、また、社会状況の変化を受けてスーパーマーケットを舞台にした作品を描くうえで意識されたことは? ご自身の“生活者”としての視点の変化や、日常的にスーパーマーケットを観察し続けたことで生まれた新たな発見や独自の着眼点についてもお聞かせください。

【益田】連載中にコロナ禍になり、マスクが棚から消えた時期がありました。ソーシャルディスタンスでレジに並ぶ列も間隔がすごく広くなって。マスクやトイレットペーパーや水がたっぷり並び、レジの列に「足型」のシールがない今を当たり前に思ってはいけないなと思うようになりました。ありがたさが増しました。

店内を歩くように読める、単行本ならではの構成

【画像】イラストレーターの益田ミリさん
【画像】イラストレーターの益田ミリさん

――単行本化にあたり、加筆修正や掲載順の大幅な再構成を行われていますが、一冊の本としてまとめる際に、どのような点を意識されたのでしょうか。雑誌連載時とは異なる、単行本ならではの読みどころや、構成し直したことで生まれた発見があればお聞かせください。

【益田】実際にスーパーの中を歩いているみたいに読んでいただきたいなと漫画の順番を組み替えました。スーパーと同じように、野菜、果物、生花の漫画から始まり、鮮魚、たまご、納豆とつづき、最後はパン売り場です。わたしは朝食用によく食パンを買うのですが、食パンが並んでいるのを見ると本棚を思い出すんです。「明日もまた食パンみたいな真っ白な新品の一ページが始まることを願い」という言葉をこの本のラストにしました。

――スーパーマーケットの店内で、益田さんのお気に入りのコーナーや、つい買ってしまうもの、つい見てしまうポイントがあれば教えてください。

【益田】甘党なのでチョコレートの棚はついつい長居してしまいます(笑)。漫画にも出てきますが「アルフォート」や「パイの実」はよくカゴに入れています。あとは、節分、子どもの日、七夕など、店内の飾り付けで季節を感じるのも楽しみの一つです。

――本作では旅先のスーパーマーケットも登場しますが、その土地ならではの日常が垣間見える点がとても印象的です。益田さんは、旅先でも積極的に現地のスーパーマーケットへ足を運ばれるのでしょうか。最近訪れた場所で、特に「これはおもしろい!」と感じた売り場や、思わず手に取った商品など、印象に残っているエピソードをお聞かせください。

【益田】国内外とも旅先のスーパーはわたしにとって「観光名所」です。時間があれば立ち寄っています。漫画にも出てきますが、フィンランドのスーパーではハム売り場スペースがびっくりするほど広くて、思わず歩幅で測ってしまいました。なんと15歩分ありました。わたしがここで生まれ育っていたらどのハムを買うんだろう?と想像するとき、一度きりの人生を思わずにはいられません。旅先のスーパーが楽しいのは単に珍しさだけでなく、そこで暮らす人々を理解したい気持ちもあるからだと思います。

「お買い物中のリラックスのヒントになればうれしい」

――毎日のお買い物や献立作りに、少しお疲れ気味の読者の方も多いかもしれません。本作を読み終えた方が、次にスーパーマーケットの自動ドアをくぐるときに、どんな気持ちになってもらえたらうれしいですか。読者の皆様へメッセージをお願いいたします。

【益田】スーパーには、思い出と結びつく商品もたくさんあります。夏休みの昼によくそうめんを食べたこと、かまぼこの板で工作したことなど。今は亡き父が好きだったものを見かけると、懐かしい声までがよみがえってきます。わたし自身、宇宙をさまよう惑星のように記憶の中を漂っていることがあります。何かを懐かしんでいるとき、日々の緊張がちょっとほどけている気がするんです。お買い物中のリラックスのヒントになればとてもうれしいです。

『スーパーマーケット宇宙』(益田ミリ/KADOKAWA)
『スーパーマーケット宇宙』(益田ミリ/KADOKAWA)

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