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「彼女の荷物は少なめなので」引っ越しの見積もりで彼がそう告げた日、私は黙ってうなずきました

  • 2026.6.18
ハウコレ

新しい暮らしへの一歩のはずでした。それなのに、彼の言葉を思い出すたび、自分の荷物が邪魔者のように思えてくるのです。この引っ越しは、本当に二人のものなのでしょうか。玄関先で、引っ越し業者の方が部屋をぐるりと見回していました。隣では彼が、手際よく見積もりの相談を進めています。二人で暮らす部屋を決めたばかりで、私はこの新しい生活を心から楽しみにしていました。

ところが、彼が業者に告げた一言で、その気持ちは行き場をなくしてしまったのです。

二人の暮らしが始まる日のはずでした

付き合って2年になる彼と、いよいよ一緒に暮らすことになりました。間取りを選び、家具の配置を相談し、休みのたびに新しい部屋の話で盛り上がっていました。

引っ越しの見積もりも、私にとっては楽しみな準備のひとつだったのです。業者の方が訪れたその日も、私は少しそわそわしていました。自分の本やキッチン用品、季節ごとの服。ひとつひとつに思い出のある荷物を、これから彼と分け合う部屋へ運んでいく。そう考えるだけで、自然と笑みがこぼれていました。

彼が業者に告げた一言

業者の方が部屋を見て回り、荷物のおおよその量を確認していたときのことです。彼は私の本棚やクローゼットの前を通りながら、こう言いました。「彼女の荷物は少なめなので、これで足りると思います」。私は思わず彼の顔を見ました。少なめ。そんなはずはありません。私の荷物は、彼のものよりずっと多いくらいです。

けれど彼は、私と目を合わせることなく、業者の方との話を進めていきます。何かの間違いだろうと思いたかったのに、彼の口調はとても自然でした。気の利いた言葉も出てこなくて、私はとっさに黙ってうなずいてしまいました。

荷物の量が映していたもの

その日から、彼の一言が頭から離れませんでした。少なめと申告すれば、確かに費用は抑えられます。でも私が引っかかっていたのは、お金のことではありませんでした。私の荷物は、私がこれまで生きてきた時間そのものです。それを彼は、業者の前で「少なめ」と言い切りました。まるで、私の存在を小さくまとめてしまいたいかのように。

二人で暮らす部屋のはずなのに、私はお邪魔する側になってしまったのでしょうか。問いただしたい気持ちはあるのに、言葉にすると重く響いてしまいそうで、私はうなずくふりを続けていました。

そして...

引っ越しの準備は、それからも淡々と進んでいきました。彼は相変わらず優しくて、家具を選ぶときも私の意見をいちばんに聞いてくれます。だからこそ、あの一言だけが小さなとげのように残っているのです。

ある夜、私は段ボールに自分の名前を書いていました。本をまとめた箱は、持ち上げるのもやっとなほど重くなっています。きっとこれが、いちばん運びにくい荷物になるでしょう。それでも、ひとつも置いていくつもりはありません。荷物が多くても少なくても、私が私であることは変わらないのですから。きっと彼にも、言えなかった事情があったのかもしれない。そう思えた今なら、ちゃんと向き合える気がします。

引っ越しの日を待つのではなく、その前に自分の気持ちを言葉にしようと決めました。少なめだなんて言わせない。私の荷物も、私の時間も、まるごと二人の暮らしに連れていくのだと、いちばん重い箱に、いちばん大きく名前を書きました。

(20代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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