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【ルームツアー】谷崎潤一郎の美意識が息づく、イタリア・モンツァの美しい歴史的ヴィラ

  • 2026.6.10
Nathalie Krag

ミラノ近郊の街、モンツァの中心部に立つ歴史的な住宅の改修を手掛けたのは、建築家のニコロ・スピネッリ。公園に隣接する豊かな庭と柔らかな光が呼応し、内部と外部の境界が溶け合う空間が立ち現れた。『エル・デコ』6月号より。

Nathalie Krag

豊かな緑に包まれた広い庭を抜けるアプローチ

イタリア北部、ロンバルディア州の都市、モンツァ。その中心部に位置する歴史ある建物の一角に建てられたこのヴィラは、東洋的な“秘密の庭”を起点に再構築された。建築家のニコロ・スピネッリが若い起業家のために手がけた家は、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』に着想を得たぺノンブラ(イタリア語で柔らかい光、半影の意)の思想をベースに、建築、庭、インテリアの関係性の再編を試みている。スピネッリは語る。

「美は太陽の光ではなく影の中に、いや、半影の中にこそ見いだされます」

<写真>F1レースのサーキットがあることでも知られる、イタリア、ロンバルディア州の都市モンツァ。市内の中心部にあるこの住宅の改修は、建築家のニコロ・スピネッリが手掛けた。インテリアとランドスケープも担当し、住まいに日本的な表情を与えている。

Nathalie Krag

ガラスの反射によって緑を室内に取り込む

彼は続ける。「市内の中心部では稀な大きな庭は、既に日本的な性格を持っていました。施主と共にその傾向を尊重し、建築と緑、内部空間の対話を模索しました」

三層からなる建物は全面的に再設計され、長い改修期間の中で空間の骨格が見直された。解体時、内部は「空の教会のようだった」とスピネッリ。その状態の下に一年を通じて自然光の振る舞いを観察したという。北向きの条件を踏まえ、庭との共生を成立させる鍵として導かれたのが「半影」という美意識だった。

<写真>敷地内の濃厚な緑がガラスに映り込み、部屋に自然が投影される。ベルベットが張り込まれたソファには、草木のシルエットが重なる。中央の白いテーブルランプは、ルイジ・カッチャ・ドミニオーニが「アズチェナ」のためにデザインした“ポルチーノ”。

Nathalie Krag

室内の陰影が際立つ直線と幾何学のアンサンブル

床には土の骨材を含むセメントや樹脂、壁と天井には石灰仕上げを採用。光を吸収することで柔らかな陰影を生み出す。さらに、青みのある拡散光と朝夕の暖かい光を調和させる独自の色調を塗面に選んだ。外観は景観に配慮しつつ、極細のフレームの開口部によって現代性を加味した。ロールスクリーンは、夜には行灯のような光を演出する。

<写真>和室を思わせる直線的な要素で構成された室内。オランダのデザイナー、ヘリット・トーマス・リートフェルトが「カッシーナ」から発表したチェア“ジグザグ”が幾何学的なリズムを刻む。手前の壁面にはソニア・スカッカバロッツィの作品が掛かっている。

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窓外の緑が語りかける静謐なダイニング

インテリアはほぼ全て特注で構成。南米産のスープピラ材のテーブルや装飾壁、リネンの照明、スマック織の畳風ラグなど、木と天然素材を重用した場を形成し、庭との連続性を強調。リビングでは大開口のガラスに映る庭の緑が室内へと引き込まれ、ベルベットのソファと共に静かな奥行きを生み出している。

<写真>ダイニングから庭を望む。南米の広葉樹、スープピラ材のテーブルとリネンのペンダントライトは、共にスピネッリのデザイン。椅子はアフラ&トビア・スカルパの“ピグレコ”。奥の照明は「インゴ・マウラー」の“ランパンぺ”。テーブル上にはシモーネ・ネグリの陶芸作品が並んでいる。

Nathalie Krag

心地よい陰が支配する低い家具を配したリビング

また、家具とアートの境界を曖昧にする試みも特徴的だ。スピネッリ自身による「役に立たない家具」という皮肉な名を持つ彫刻的なオブジェは、視線を誘う役割を担う。

<写真>庭に面したリビングには、スピネッリがデザインしたソファとローテーブルが配されている。畳を思わせるラグも同様にスピネッリのデザイン。テーブルランプは“ポルチーノ”。左手の壁にはカプロッティ・イルミナツィオーネで購入したエットーレ・ソットサスのドローイングが掛かる。

Nathalie Krag

モンツァの喧騒から離れ和の様式に通じる隠れ家

庭には日本のカエデとスズランが植えられ、上下に被さる植栽が繊細な表情を宿す。その風景がガラス越しに重なり合う室内では、光、素材、背景が一体となり、時と共に変化する環境として成立している。

<写真>庭からリビングを眺める。手入れが行き届いた庭には、カエデ、スズラン、常緑で知られるパキサンドラなどが植えられている。テーブルランプの静かな光が緑の向こうに浮かび上がるさまは、この家がモンツァの市内にあることを忘れさせる。

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手仕事の薫りが漂うマスターベッドルーム

スピネッリは自身の背景について語る。「私はイタリアが誇るべき職人たちの仕事から多くを学んできました。さらに芸術や彫刻に着想したビジョンを追求しています」

<写真>壁を石灰で仕上げたマスターベッドルームではウォールナットの特注ベッドが眠りを誘う。「ルベリ」のテキスタイルを張ったヴィンテージチェアはルイジ・カッチャ・ドミニオーニの“カティリーナ”。ベッドカバーの素材はリネンとアフリカンラフィア。

Nathalie Krag

まばゆいばかりの緑がくつろぎのひと時を彩る

そして最後にこう結ぶ。「私にとって、人間的要素はあらゆるプロジェクトにおいて不可欠なもの。それが仕事に意味と価値を与えるのです」

自然と建築、光と素材、機能と詩性。その間に生まれる「半影」を丁寧に掬い上げた成果として、この住宅は深く感覚的な豊かさを享受している。

<写真>バスルームからはモンツァ王立庭園の緑を愛でることができる。洗面ブランド、「ケラム・カントゥ」のカウンターはパタゴニア産の大理石を用いて製作された。ミラーには、フォルカー・ハウグ・スタジオによるセラミックのウォールランプを仕込んだ。

Realization:FRANCESCA BENEDETTO Photo:NATHALIE KRAG

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『エル・デコ』2026年6月号

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