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世界が注目する「ロンジェビティ」とは? 老化研究の現在地

  • 2026.6.5
Jarren Vink

欧米のテック長者が積極的に投資し、健康寿命延伸を目的とした国際的コンペ、XPRIZE Healthspan(エックスプライズ ヘルススパン)が開催されるなど世界で盛り上がる老化研究。東京科学大学副理事で医療ジャーナリストの宇山恵子さんと、ロンジェビティ・エコノミーに精通した後藤宗明さんに、その現状を解説していただきます。

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<Profile>
宇山恵子(うやまけいこ)/東京科学大学副理事(広報・社会連携担当)、医療ジャーナリスト

新聞社、広告会社、出版社などを経て、2021年より東京医科歯科大学特任教授。’24年より現職。分かりやすく医学・医療を伝え海外アンチエイジング情報の取材が得意。最新刊『内臓アンチエイジング』(メディアパル)。

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<Profile>
後藤宗明(ごとうむねあき)/ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事

日本初のリスキリングに特化した非営利団体、ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事。富士銀行(現みずほ銀行)を経て、米国で起業。2008年に帰国。米国のフィンテック企業の日本法人代表などを経て’21年、ジャパン・リスキリング・イニシアチブを設立。

巨額の投資が集まるロンジェビティ研究。国際的老化研究のコンペ、XPRIZE Healthspanが進行中

まず、日本ではまだなじみのない人も多い「ロンジェビティ」という言葉の概念と取り巻く状況について、ロンジェビティをテーマとする国際会議に数多く出席する後藤宗明さんに説明していただきます。

「ロンジェビティは日本語で直訳すると長寿ですが、ただ長生きするのではなく生き生き、躍動的というキーワードが軸となり、健康的で活力に溢れた人生を長く送る、という概念です。医師で起業家のピーター・ディアマンディスの本、『ロンジェビティ・ブック』が昨年ニューヨーク・タイムズのベストセラーになったことで急速に広まったと思います。シリコンバレーのテック長者たちが若返りや不老不死を目指すために巨額投資を行い、老化研究のスタートアップやテクノロジー分野が、大きく進化する流れができています。ロンジェビティ・テックには、老化防止、予防医療、健康寿命の延伸、ゲノム編集、また肌年齢を若返らせる美容などがあり、多くの分野でロンジェビティ・ビジネスが過熱化しているのが今のアメリカです」

こうした中、米国に拠点を置く賞金型の国際研究開発プラットフォーム、XPRIZE財団が主催の世界規模のコンペ、XPRIZE Healthspanが進行中です。世界58カ国、600以上のチームが応募した中、日本からの6チームが準決勝(トップ40)進出。現在、上位10チームとなる決勝を目指し、臨床試験を実施しているそうです。長年、大学病院や医学研究所で専門家の取材を続け、このコンペにも注目している医療ジャーナリストの宇山さん曰く、

「XPRIZE Healthspanは、健康に長く生きられる年数を劇的に伸ばすという、極めて挑戦的な目標を掲げていることに大きな意義があると考えます。従来の医療は病気が起きてから治す“リアクティブ型”が中心ですが、XPRIZE Healthspanは老化という生物学的プロセス自体を積極的に遅らせたり逆転させたりする研究を加速する点で画期的とされており、多くの大学・企業・研究者から注目を集めています。またこのコンペでは、単一のアプローチではなく、遺伝子治療や幹細胞治療、AIによるパーソナル健康管理、栄養補助食品や代謝改善法、医療機器・ウエアラブル・デジタルヘルス医療とテクノロジー、生活習慣改善などを統合したアプローチを求めている点も、新しい未来型医療の方向を示しています。さらに注目しているのは、研究室レベルの仮説や動物実験だけでなく、ヒト(50〜80歳)に対して明確なエビデンスをもって効果を示すことが前提となっているところです。安全性・費用・再現性といった“社会実装”を見据えた評価項目も導入され、実用化・一般化が可能なアイデアを求めていることも高く評価できると思います」

後藤さんも「XPRIZE Healthspanが面白いのは、健康寿命延伸に取り組む思想やチャレンジそのものに賞金を出す点。準決勝に日本から6チームが残っているというのは、日本がこの特定分野で優れていることの証明ではないでしょうか」

国際的老化研究のコンペ、XPRIZE Healthspan。日本参加6チームを解説
宇山さんに伺います。「世界各国の著名な研究機関や超一流大学、バイオ系や医療系のスタートアップなど、世界最高峰の研究者・資金・技術を持つ600超の登録者が競争相手の中で、日本勢が6チームも選ばれたのは異例で誇らしく、世界的に見ても強力な存在感。
●阿部養庵堂薬品は、NMNなどの抗老化成分を活用したサプリメント型の若返りアプローチを提案。
AutoPhagyGO(小林製薬などと連携)は、細胞のオートファジー活性を生活習慣の改善によって引き出すというユニークな健康介入法を開発。
Japan Longevity Consortium(順天堂大学など)は、医療・栄養・社会支援を組み合わせた包括的なプログラムを展開。
LOGIN(東北大学)は、運動・遺伝子・免疫の多角的介入による若返り効果を狙います。
Goda Lab(東京大学)は、再生医療の最新技術である、細胞外小胞(エクソソーム)を用いた治療を進めています。
TIME TRAVELERは、運動機能改善を中心とした体の若返りに取り組んでいます」

世界が注目する日本の健康長寿。“ロンジェビティ先進国”の呼び名も

実は後藤さん、ロンジェビティ関連の国際会議に出るたびに海外からの日本への期待を感じるそうです。

「日本では今まで、アメリカのように医師や理系出身者によるスタートアップが少なく、最近少しずつ増えてきた印象。日本は100歳超えの方が多く、国際会議に出ると、多くの人から日本のロンジェビティの秘訣を知りたいと言われます。100歳超えの方が集中して住む京都府京丹後市や、世界最高齢のプログラマー・若宮正子さんなどが世界的に注目されています。日本はロンジェビティ先進国と思われているのです。ただ、私は“天然ロンジェビティ”と呼んでいますが、彼らは長寿を目指していたわけではなく、生きがいをもって一生懸命働き、たまたま健康に良い生活をしてきた結果、長寿者となったわけです。アメリカでは血小板交換で細胞の若返りを目指すような治療も行われていますが、日本の天然ロンジェビティの方々の長寿の秘訣を解明することが、大切なのではと思います」

2018年の小誌「不老不死」特集でも執筆していただいた宇山さんは、「当時と比べ、今では再生医療や遺伝子研究など細胞レベルの抗老化が主流となり、内側からの健康維持への関心が高まっています。人々が筋力や免疫、認知機能など、本当の若さに目を向けることは喜ばしい一方、10~20代の若者までが老化を恐れ、美容医療に過剰に頼る姿には懸念もあります。抗老化とは老いを止めることではなく、健やかに年を重ねることが基本、土台です。その本質を見失わないことが、これからの時代に必要と感じています」

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2018年秋号のリシェスでは
「人生100年時代」という言葉がよく使われ始めた2018年。リシェスは秋号で「不老不死」をタイトルに掲げ、健康長寿を目指す大特集を組み、宇山恵子さんにも執筆していただきました。表紙に掲載したベニクラゲは理論上唯一の不死の生物。アメリカでは今、何度も若返るそのメカニズムを医療に役立てるべく研究が進められています。

【深掘りトピックス】

XPRIZE Healthspanのミッションとは

「賞金総額は約1億100万ドル(約156億円)、期間は約7年という非常に高額、大規模な国際的なコンペで、そのミッションは明確です。50~80歳の人々の“筋肉機能・認知機能・免疫機能”を、最低でも10年間、理想は20年間も若返らせるような、安全でアクセスしやすい治療・介入法を1年以内に実証することが参加チームに求められています」(宇山さん)

テック企業による長寿研究への投資額

「額の大きいところでは、細胞の若返りを目指すアルトス・ラボへの投資。ジェフ・ベゾスらが投資したことでアルトス・ラボは合計約30億ドルを調達。直近で話題になったのは、OpenAIのサム・アルトマンによるレトロ・バイオサイエンス(AIで人間の健康寿命を10年延ばすことを目指す抗加齢スタートアップ)への1億8000万ドルの投資でしょう」(後藤さん)

ロンジェビティの文脈、米国と欧州の違い

「アメリカではベビーブーマー世代の消費額が大きな市場としてみなされてターゲットとなり、ロンジェビティ・テックをビジネスにという流れに。一方、既に少子高齢化社会が進んでいるヨーロッパでは、社会課題解決目的で注目されています。またアジアではシンガポールが先手を打っており、日本はこれに続くのでは、という状況になっています」(後藤さん)

天然ロンジェビティが多い京丹後市の秘密

「海に面し、青魚が多く取れる京丹後市は、同時に豆の産地としても知られています。そのためこの地域の長寿者たちは、日常的にDHAやオメガ3脂肪酸や豆類を取ってきたと考えられます。また漁業と農業が盛んで、年を取っても働き続けている方が多く、筋肉量が維持できているため寝たきりになりにくい傾向があるのでは、とも考えられます」(後藤さん)

初出:リシェスNo.55 2026年3月27日発売
PHOTOGRAPH:JARREN VINK

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