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“デザイナー交代劇”が起こった背景とは⁉ プロが読み解くファッション業界のいま、そして未来

  • 2026.6.5
Hearst Owned

この数年、ファッション界の話題をさらっているのが「デザイナー交代」です。特に2026年春夏から秋冬コレクションにかけては、CHANEL(シャネル)、DIOR(ディオール)、LOEWE(ロエベ)等のパリの名門ブランドをはじめ、ミラノのGUCCI(グッチ)、FENDI(フェンディ)、BOTTEGA VENETA(ボッテガ・ヴェネタ)やJIL SANDER(ジル サンダー)、ニューヨークのPROENZA SCHOULER(プロエンザ・スクーラー)など、全部で20近いブランドのクリエイティブのトップが変わりました。

スターデザイナーがその座を降りる時、何かしらの事情が取り沙汰されるものですが、これほど多くのブランドが一斉に、デザイナー交代するというのは、個々の事情というよりも、むしろ時代の流れの不思議さが感じられます。一体何がファッション界で起こっているのでしょうか?

ブランドの根幹を担うアーカイブを復活させることでブランドのDNAを再定義

例えば、ジョルジオ・アルマーニやカール・ラガーフェルドなどの逝去に伴うデザイナー交代は当たり前のこと。

ただ最近の傾向、特に2026年はいわゆるデザイナーシャッフルといわれる、ブランドからブランドへとデザイナーが移動する、まさにシャッフル(混ぜる)状態になっているのです。無名の新人を育てるのではなく、実績と個性のある人気デザイナーを、ヘッドハンティング(もしくは、LVMHやKERINGなど同じ資本傘下内の人事異動)で、異なるブランドのヘッドに据えるというものです。

世界的な景気後退を受け、ラグジュアリーも決して例外ではありません。アーカイブを明確に打ち出し、野心的なクリエーションで、ブランドのさらなる差別化と成長を期待できる若手たちに焦点が当たったわけです。

2026年春夏コレクションを境に、職人技術にフォーカスする時代へと変化

2026年に行われたデザイナーシャッフルは、そんな流れを反映するのように、丁寧にブランドのアーカイブを研究し、習得し、デザイナーの個性で解釈していくという、伝統と新たな作家性との見事な融合でした。ここでは注目すべき6ブランドをクローズアップしていきます。

1. 【シャネル】老舗が誇る職人技術を現代に継承

良い例がシャネルです。ボッテガ・ヴェネタのヘッドであったマチュー・プレデジーを後任に抜擢したものの、すぐにコレクションを開くことなく、なんと10カ月という準備期間を経て、コレクションを披露したのです。老舗のアトリエの職人技と、ガブリエル・シャネルの思想を現代に継承し、それでいてマチューの個性は伸びやかに発揮されていました。

(C)CHANEL

オープニングの英国調のパンツスーツの斬新なバランスには驚かされましたが、「シャネルに新たな解釈が加わった!」といって良いと思います。続く中盤では、シャネルスーツという原点を独創的な素材を用い職人技ならではの仕立てで見せ、時にはスカートを腰履きにするというストリート感で、若々しさを表し、従来のシャネルファンをも釘付けにしました。

(C)CHANEL

フィナーレに登場した羽根の様に広がるマキシスカートと、白いトップスを合わせたイブニングは、マチュー特有の造形力と実用性、活動的というシャネルの思想をまさに具現化したものでした。万雷の拍手に包まれながら、にこやかに登場したマチューは、デザイナー交代劇の勝利者といって良いでしょう。

2. 【ディオール】メゾンのコードを現代的に再構築

作家性を打ち出し成功したのは「ディオール」も同じです。ロエベをビッグネームに押し上げた立役者ジョナサン・アンダーソンが、同じLVMHグループ傘下のディオールのクリエイティブディレクターに。

(c)dior

クリスチャン・ディオールのアーカイブを徹底的に研究し、伝説的な名作「バー」ジャケットや、「ニュールック」などをカジュアルなチェック柄やリボンブラウス、ジーンズ仕立てのウエストディテールなどに変換し、若く、品の良いマドモアゼルなディオールを甦らせました。オートクチュールの名門だけに、仕立ての難しい構築的なフォルムや、風をはらむ様なエアリーなボリュームの美しさは圧倒的でした。

(C)ADRIEN DIRAND

とはいえ、ショーの演出にはジョナサンらしいアート性が盛り込まれ、ショーの幕開けには「ディオールに入る勇気はあるの?」という自分への覚悟を確認する様な文字が書かれたライトが輝き、歴代のデザイナーが登場するドキュメンタリー風のショートムービーが上映され、ドラマティックな未来を予感させました。

3. 【バレンシアガ】メゾンの神髄である正統派クチュールへと回帰

パリコレクションで、目が離せないのが老舗BALENCIAGA(バレンシアガ)です。デムナが抜けた後、ヴァレンティノを退任したピエールパオロ・ピッチョーリが着任。辛口のガブリエル・シャネルをして「彼こそ本物のクチュリエ」といわしめたクリストバル・バレンシアガの卓越したカットとフォルムを、精巧にモダンに軽やかに再現し、クチュールの職人技ここにありと思わせる完璧さで表現。前任者が得意としたストリート感は拭い去られ、本来の正統なクチュールへと回帰しました。

(C)BALENCIAGA

カジュアルなオーバーサイズの着こなしに慣れた私たちにとっては、ペールピンクのコクーンラインやバルーンシルエット、サックドレスなどのブランドのアイコンが、天の恵みの様な美しさでうっとりしてしまいます。

4. 【ロエベ】スペイン発祥のブランドらしく革素材の可能性を探求

ロエベは新たにプロエンザ スクーラーの創設者、ジャック・マッコローとラザロ・ヘルナンデスがクリエイティブ ディレクターに就任。

(C)LOEWE

スペイン発祥の皮革をルーツとするブランドの原点に立ち戻り、革素材の可能性を探求し、立体的なフォルムや、流れる様なラインを、スペインの太陽を思わせるヴィヴィッドカラーで表現し、スペインへの愛を滲ませました。

5. 【グッチ】ランウェイではなくポートレートとショートムービーで序章をお披露目

そして、ミラノでは、グッチに就任したデムナが、デビューコレクションと思いきや、なんとポートレートとショートムービーを上映するという驚きのお披露目を果たしました。

(C)GUCCI

架空のグッチファミリーの誕生日のお祝いパーティという筋書のショートムービーでは、デミ・ムーアを主役に、ゴージャスな配役と、登場人物のドレスなどが全てグッチの新作という煌びやかさ。ショーの前には、2026年春夏コレクション「La Famiglia」のルックブックが配られ、これまでのデムナとは一味違うクラス感が漂う、上品で華やかな服が並び、期待が膨らみます。ランウェイでのデビューは2026年秋冬のGucci Primavera コレクションからでしたが、こちらはまさにグッチに新たなルネッサンスをもたらす予感漂う「プリマヴェーラ(ボッチチェリ作。ルネッサンスを代表する絵画)をテーマに現代のヴィーナス像を描きだしました。

6. 【フェンディ】歴史を紡いだアイコンたちへのオマージュ

(C)FENDI

そしてフェンディは、2026年秋冬コレクションから、これまでディオールのデザイナーであったマリア・グラツィア・キウリがチーフクリエイティブオフィサーに就任。自身のキャリアの出発点であるフェンディに戻ってきたのです。マリア・グラツィアらしく「私よりも、私たち」というメッセージをフロアに描き、これまでのフェンディを紡ぎ続けた5人姉妹への共感と尊敬の念を表しました。

(C)FENDI

ほぼブラックという研ぎ澄まされたコレクションに中に1点だけ「真紅」の優美なドレスで時代を超えたフェミニンさを印象付けたり、多用されたシャツ襟のようなチョーカーは、50年以上フェンディと共に歩んだカール・ラガーフェルドを思わせるなど、膨大なアーカイブとそこにまつわる人々に洗練された手腕で敬意を払う、ベテランならではの素晴らしいデビューショーでした。

話題が満載の大成功を収めたデザイナー交代。どうしてこんなに注目を集めるのか?

考えてみれば、これらの人気ブランドの多くは100年前後の歴史があり、創業者のデザイナーが残したブランドアイコンが、時代を超えた魅力を放っていることがまず一番に挙げられます。それを、代々引き継いできたデザイナーたちが、自分の個性で、その時代に合わせて築き上げてきたものが歴史です。

デザイナー交代が、私たちをドキドキといつもときめかしてくれるのは、その歴史やアイコンをどう現代の自分たちに寄り添いながら提案してくれるのか、未知数の期待があるからではないでしょうか 。

ブランドの継承というのは、才能に溢れたデザイナーたちの集積、そして脈々と続くアトリエの職人技がつくり出す壮大な物語といって良いかもしれません。

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