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子どもの写真をSNSで発信する「シェアレンティング」。再生数の裏に隠された実態とは

  • 2026.5.23
Getty Images, Netflix, Vicki Broadbent, Beckii Flint, Sawyer Sharbino, Dreamy Fox Photography

ベッキー・フリントがYouTubeスターになったのは13歳のときだった。マン島出身の少女だった彼女は、それまで都市に行った経験すらほとんどなく、もちろん海外とも無縁。それにもかかわらず、突然東京へ飛び、2万5,000人の観客の前でダンスを披露することになった。「本当に信じられなかった」と、現在30歳になったベッキーは振り返る。「自分の部屋にいただけなのに、どうしてこんな大きなステージに立つことになったんだろうって。夢みたいな気持ちだった」。その後2年間、彼女は学校の休暇のたびに両親の付き添いのもと日本を訪れ、その体験は後にBBC3のドキュメンタリー番組の題材にもなった。

キッズインフルエンサー黎明期、少女が見たネットの熱狂と残酷さ

ベッキーがYouTubeへの投稿を始めたのは12歳の頃。庭で日本のポップソングに合わせて踊る、素人っぽい動画だった。高めのツインテールにチェックのミニスカートという姿で、当時の初期YouTubeユーザーたちと同じように、自分だけのニッチなコミュニティを見つけていた。彼女の場合、それは世界中のJ-POPファンだった。しかし登録者数が13万人に達する頃には、それはもう「楽しいだけ」のものではなくなっていた。

「最初はかなり打たれ強かったのに、最後にはものすごく傷つきやすくなっていた」と彼女は語る。「ネガティブなコメントがひとつでも目に入ると、ポジティブな言葉より何倍も気になってしまう。匿名アカウントの人たちって、本当に残酷になれるんだって思った」

ベッキーは17歳でダンス動画の投稿をやめた。現在はインフルエンサーマーケティング事務所を共同設立し、時に過酷で搾取的でありながら、同時に人生を変えるほどの利益も生むこの業界で、他のクリエイターたちがうまく活動できるようサポートしている。

ベッキーが一気に注目を集めた2008年頃は、まだ今よりずっと無邪気な時代だった。YouTubeがすべてのユーザーに広告収益やスポンサー契約による収益化を解禁する4年前のことだ。両親は「慎重に応援する」という立場で、動画投稿自体は彼女自身のアイデアだったという。「(両親は)“もし日本に行かなかったら?”っていう後悔を残してほしくなかったんだと思う」とベッキーは振り返る。

家族の日常がコンテンツになる時代。急成長するキッズインフルエンサー市場

2012年以降、キッズインフルエンサーは爆発的に増加した。そしてその多くは、自分が何をオンラインで共有されているのかを判断できる年齢にすら達していない。

ナラ・スミスと4人の子どもたち(@naraazizasmith/TikTokフォロワー1,240万人)から、ハンナ・ニールマンと9人の子どもたち(@ballerinafarm/Instagramフォロワー1,040万人)まで、SNSには何百万人もの視聴者に向けて、料理をしたり、遊んだり、学校へ行く準備をしたりする子どもたちの日常を発信するアカウントがあふれている。本来なら家庭内だけに留まっていたはずの愛らしい日常だ。それらはどれもキラキラと高度に演出されていて、Facebookに家族写真をたまに投稿する親たちとは、まるで別世界のように映る。

こうした子どもたちが成長したとき、彼らはどう感じるのだろう。YouTube用、ブランド案件用、友人用と3種類の誕生日会を開くような日常の中で、現実感覚は保たれるのだろうか。最初のキッズインフルエンサー世代が成人し始めた今、その答えが少しずつ見え始めている。

虐待、誹謗中傷、長時間労働。表面化してきたダークサイド

初期のファミリーVlogの多くは、有名になりたいという欲望からではなく、「必要」によって生まれていた。孤独な育児一年目を過ごす女性たちが、情報や支え、時には笑いを求めてつながり合っていたのだ。子どもたちはスライム作りのレシピや歌に合わせた口パク動画、サッカーのコツなどを共有していた。アメリカの子ども、ライアン・カジは3歳でYouTubeチャンネル「ライアンズ・ワールド」でおもちゃレビューを始め、現在14歳にして世界で最も成功したキッズインフルエンサーとなった。登録者数は4,000万人、年収は3,000万ドル超とも言われている。

しかし近年、“シェアレンティング(子どもの情報をSNSで共有すること)”の暗い側面が大きく報じられるようになっている。2024年には、YouTuberのルビー・フランキーが、自身の6人の子どものうち2人に対する虐待とネグレクトを認め、ユタ州で最低4年の禁錮刑を言い渡された。子どもたちは、最盛期には登録者250万人を誇ったチャンネル「8 Passengers」の中心的存在だった。

Getty Images、Netflix、Vicki Broadbent、Beckii Flint、Sawyer Sharbino、Dreamy Fox Photography

さらに今年初めには、16歳のプリンセス・ディクソンがゴシップサイト「タトル・ライフ」で中傷を受け、自ら命を絶った。これを受け、20人の国会議員が同サイト閉鎖をイギリス放送通信庁に求めている。プリンセスは3歳の時、母でありインフルエンサーのソフィー・メイ・ディクソンとともに、2015年のChannel 5のドキュメンタリー「Blinging Up Baby」に出演。その後も母娘で頻繁にオンラインに登場していた。

『Teen Vogue』誌の記者フォルテサ・ラティフィは、新著『Like, Follow, Subscribe: Influencer Kids And The Cost Of A Childhood Online』の中でこう綴っている。「ママブロガーたちは、閉じることのできない扉を開いてしまった。ファミリーVlogの現場には、子どもの擁護者はいない。いるのは親だけ。そして家族のあり方は、やがてビジネス契約のようなものへと変わっていく」

それはつまり、トイレトレーニングから娘の初潮に至るまで、子どもの成長のあらゆる瞬間がSNSに投稿され、さらにはスポンサー案件として消費されうるということだ。

元キッズインフルエンサーたちが語る後悔と本音

昨年のNetflixドキュメンタリー『ダークサイド・オブ・キッズフルエンサー:“バズり”は何を犠牲にするか』に登場した若者たちは、そんな世界をよく知っている。

彼らはティーンYouTuber、パイパー・ロッケルの“スクワッド(仲間たち)”として、いたずら動画やチャレンジ企画を投稿し、1,200万人以上の登録者を抱えたグループのメンバーだった。活動していたのは11歳から16歳前後の頃。2022年、スクワッドから脱退した11人が、パイパーの母でありマネージャーだったティファニー・スミスを提訴。適切な報酬を受け取っていなかったことに加え、性的暴行を含む「不適切で侮辱的、虐待的な扱い」を受けたと訴えたことで世間に衝撃を与えた。訴訟は185万ドルで和解し、スミス側は法的責任を認めていない。

ソーヤー・シャルビノ。 Peacock / Getty Images

ソーヤー・シャルビノは、明るい笑顔とブロンドの前髪が印象的だったスクワッド初期メンバーのひとりだ。オンライン取材時、20歳になった彼はナッシュビルにいた。現在は、子どものデジタル収入を保護する法案作りにも携わっている。同様の法整備は、1930年代以降、子役俳優に対して行われてきた。ソーヤーは自身の両親について、「常に支えてくれていた」と強調する。「憎しみを抱えたり、ネガティブで不安定で落ち込んだ人間にならないよう助けてくれました」

ソーヤーによれば、前述のドキュメンタリー『ダークサイド・オブ・キッズフルエンサー』で描かれたのは、真実の一部にすぎないという。「Netflix側が反発を懸念していたことは理解しているし、それは尊重している。でも、『本当に大変だったね』と言われるたびに、『いや、実際はもっとひどかったんだ』って心の中で思ってる」

彼にとって最もつらかったのは、長時間労働にもかかわらず、報酬がほとんどなかったことだった。「でも、友人たちの経験はもっと深刻だったし、証明するのも難しかった」

それでもソーヤーは、パイパー・ロッケルの動画に参加していた時代を後悔していないという。「今の自分を形作った経験だし、自分自身を気に入っているから」。彼が最初のYouTube動画を投稿したのは9歳。「かなり面白いリッチアピール系ドッキリ動画」だったという。その後音楽活動を経て、現在は130万人の登録者を抱える自身のチャンネルに再び力を入れている。

姉のブライトン・シャルビノがドラマ『ウォーキング・デッド』でリジー役を演じ、批判を浴びる姿を幼い頃から見てきたこともあり、ソーヤーはオンライン上の誹謗中傷に比較的動じない。「ネットの人たちは真実を知らなくても好き勝手言うんだって、小さいころから理解していた。『この人たちは僕のことを知らないんだから、真に受けなくていい』って思えたんだ」

ママブロガーたちの葛藤と現実

ヴィッキー・ブロードベントにとって、2010年に第一子を出産後、ママブロガーになったことは、家庭と仕事を両立する方法でもあった。当時、映画・テレビ監督としてのキャリアは、不規則な労働時間ゆえに続けるのが難しくなっていた。「ブログを始めたころは怖かった。業界の知人たちに母親になったと知られたくなかったから。仕事に予期しない影響があるとわかっていたので。でも、ブログで収入を得るようになって、監督業と同じくらい稼げると気づいた」

現在、「Honest Mum」(Instagramフォロワー14万8,000人)として活動するヴィッキーは、4歳の娘フローレンスとの動画を投稿しながら、最新の育児研究について発信している。16歳と13歳になった息子たちは、妹より登場頻度がかなり少ない。子どもたちから投稿の削除依頼があれば、彼女は応じているという。ひとりの息子は、昔のサッカー動画が恥ずかしいから(今のほうがずっと上手だから)、もうひとりは学校でからかわれたからという理由で、歌っているInstagram動画を削除してほしいと頼んできた。

「息子たちはシャイだから、それを尊重してきました。でも(ファミリーVlogは)自信を持つ助けにもなったと思う。『締め切りだから、みんな撮影するよ』って言えば、仕事というものを学ぶ機会にもなる。子どもたちがすごく頑張って働いているとは言いたくない。だって実際に違うから。無料の旅行に行って、写真を2枚と短い動画を撮るだけ。重労働みたいに言うのは大げさよ」。彼女は息子たちに、家のローン返済にも貢献していると話しているという。「そんな子ども、なかなかいないでしょう?」。収入が多い年には、彼女は6桁台を稼ぐこともある。

現在はエージェントとして活動するベッキーは、自身の経験から、ファミリーVloggerに対して確認すべきポイントをまとめている。「子どもの収入をどう管理しているのか、実名をどこまで公開する方針なのか。さらに、コンテンツ制作が子どもの生活リズムに影響しないよう、どんな工夫をしているのか。そういったことは必ず確認するようにしています」

成人男性ファンという見過ごされがちな問題

ソーヤーと同じように、ベッキーもまた、キッズインフルエンサーとして活動した経験から多くのスキルや人生の教訓を得た。しかしその一方で、匿名のファンコミュニティが抱える危うさについても、身をもって知ることになった。

『ダークサイド・オブ・キッズフルエンサー』でも描かれていたように、キッズインフルエンサーのファンには成人男性が非常に多いことが知られている。ベッキーが初めて東京を訪れたときも、そのことに衝撃を受けたという。「日本の女性アイドルって、主に男性向けに売り出されているんです。女の子のファンもいたけれど、年上の男性が本当に多かった」

一部の元キッズインフルエンサーは、かつて築いた視聴者層をそのまま引き継ぐ形で活動を続けている。なかでも、今年1月にOnlyFansを開設した18歳のパイパー・ロッケルの動向は、大きな注目を集めた。

世界で進み始めたキッズインフルエンサー保護の取り組み

_jure / Getty Images

昨年、ベッキーは「Responsible Kidfluence Code」を発表。子どもたちのオンライン上のプライバシー、安全性、心身の健康、収入保護に関する法整備を提言した。「ほとんどの親は、愛情と本能で行動している。でも、明確なガイドラインがない以上、子どもたちの経験には大きな差が生まれてしまいます」。イギリスでは規制が急がれているが、すでに先んじている国もある。フランスでは2020年、キッズインフルエンサーの労働時間や収入、コンテンツ削除権を保護する法律が成立。アメリカの一部州でも同様の法律が導入されている。

エセックス大学で法律を教えるフランシス・リース博士は、キッズインフルエンサー市場を研究する数少ない専門家のひとりだ。彼女はイギリスとアイルランドの数十組の家族にインタビューを行い、シェアレンティングする親を4タイプに分類した。ヴィッキーのようなママブロガー型、同じ境遇の親とつながりたいコミュニティ型、才能ある子どもにチャンスを与えたい「#futureproofer」型、そして自身のブランド拡張として子どもを登場させる有名人親タイプだ。

「長年この空間にいた子どもたちにとって、今は非常に重要な転換点です」とリース博士は言う。「私は、引っ越しを余儀なくされたり、名前を変えたりした若者たちにも話を聞いてきました。初デートの相手や同僚、雇用主に過去を検索されたくなかったんです」

無法地帯の業界に、プラットフォーム責任が問われる

オーストラリアでは16歳未満のSNS利用を一律に禁止している。 NurPhoto / Getty Images

リース博士は、多くの親たちが意図的にビジネス化を目指したわけではなく、気づけばファミリーVlogの世界に足を踏み入れていたことを理解している。そのため、一方的に親だけを責めるべきではないと考えている。そのうえで、より大きな責任を負うべきなのはSNSプラットフォーム側だと指摘する。「現在の制限は、子どもの最善の利益ではなく、収益化モデルを守るために存在しています。TikTokは(公開アカウントでは)13歳未満は利用できないと言うけれど、20秒も見れば何百と子どものアカウントが見つかります」

取材した関係者の多くは、16歳未満のSNS利用を一律に禁止しても、実効性は低く、現実的な取り締まりも難しいと考えていた。「オーストラリアでも、大きな成功にはつながっていません」とリース博士は指摘する。「結局、親の負担が増えるだけなんです」。ベッキーによれば、年齢確認を突破するために顔をしかめて年上に見せたり、AIで偽造IDを作成したりする子どもたちもいるという。禁止によって、むしろSNSが“禁じられたもの”として魅力的に映り、さらに管理の届かない状況を生みかねないという懸念も少なくなかった。

ソーヤーは、子どもたちを守る制度整備はもはや先送りできないと訴える。「今の業界は、まるで西部開拓時代みたいなもの。子どもがこんな長時間働くべきじゃない。でも撮影は家庭内で行われるから、外部の監視が入らない。悪意を持った大人が数人いるだけで、簡単に危険な状況になってしまうんです」

それでも、ソーヤーのYouTubeへの愛情は失われていない。「素晴らしい友達にも出会えたし、ナッシュビルみたいな、自分ひとりでは絶対に来ることのなかった場所にも連れてきてもらえた。そもそも動画を始めた理由は、誰かを楽しませたいと思ったから。他の人の動画を観ると、少し幸せな気持ちになれたり、元気をもらえたりするでしょう? 自分も、誰かにとってそんな存在になれたらいいなって思うんです」

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