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アンドリュー・ワイエスとロン・ミュエク|身近な世界を描く画家と、 現実を追求する彫刻家

  • 2026.5.21
©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo

《クリスティーナ・オルソン》1947年 テンペラ、パネル 83.8×63.5cm マイロン・クニン・コレクション、ミネアポリス Myron Kunin Collection of American Art, Minneapolis, MN photo: Curtis Galleries, Inc.

河内タカさん、小崎哲哉さん、山口桂さんが交代で担当している『婦人画報』のアートコーナー「アートの杜 賢者の深掘り」では、開催中の注目の美術展をピックアップ。

アートライターとして、美術・建築・デザインなど幅広い分野で執筆する河内タカさんが今回ご紹介するのは、『東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展』と、『ロン・ミュエク』です。

緻密な描写で心に響く絵画と驚きの立体作品

アンドリュー・ワイエスは、20世紀のアメリカン・リアリズムを代表する日本でも絶大なる人気を誇る画家。幼少の頃から病弱だったワイエスは、学校に通わず、画家でイラストレーターだった父のN.C.ワイエスから絵の手ほどきを受けた。すでに10代後半から卓越した描写力が認められ、故郷ペンシルベニア州と、夏を過ごしたメイン州の景色を生涯にわたり描き続けたことで知られる。

ワイエスは、卵を使った古典的な「テンペラ技法」を使って、草の一本一本、納屋の板壁、風に静かに揺れるレースのカーテンなどを極めて緻密に描く。テンペラ独特の乾いた質感や、色数を抑えた色彩が、どこか「幻影」のような静けさを生み出す。現実の光景を描写しているのに、どことなく夢のような感覚が観る者の心に染み入るのである。

見知らぬ土地で描くこともせず、自分と家族が暮らす故郷と夏を過ごしたメイン州、そして風景と隣人だけを描き続けたワイエスは、オルソン家、あるいは極秘に15年間も描き続けた《ヘルガ・シリーズ》など、特定の人物を何十年も描き続け、ある人物の成長や歩みを記録した。脚に障がいを持つ女性を描いた《クリスティーナ・オルソン》に象徴されるように、困難の中でも気高く生きる人間への温かい眼差しが、作品の底流に流れているのもワイエスの魅力だろう。

没後、日本初となる回顧展は、10点以上の国内初公開の作品が含まれ、この孤高の画家が生涯をかけて創り出した独自の世界観を浮かびあがらせる内容となっている。

ロン・ミュエク《エンジェル》 1997年 ミクストメディア 110×87×81 cm 個人蔵 画像提供:アンソニー・ドフェイ(ロンドン)

オーストラリア生まれのロン・ミュエクは、英国を拠点に活躍する具象彫刻の可能性を押し広げてきた現代美術作家。映画や広告の模型制作で培った卓越した技術で、シリコンやファイバーグラスを素材に、皮膚の質感、毛穴、しわ、血管、髪の毛に至るまで、血が通った本物の人間と見分けがつかないほど、精密に作り込んだ立体作品で世界的に評価されている。

人の誕生、死、老いといったテーマを、実物とは異なる巨大または極小サイズで提示し、観る者に強い違和感と感情を抱かせるミュエク。日本では18年ぶりとなる今回の展示では、孤独感が漂う初期の代表作《エンジェル》や100個の巨大な頭蓋骨の彫刻を積み上げた話題作《マス》など、どれも必見だ!

東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展

アメリカ抽象表現主義やネオ・ダダ、ポップアートの潮流から距離を置き、独自の世界を求めた画家の回顧展。窓やドアなど「境界」の表現に着目し、その内面的世界を読み解く。

会期/~7月5日(日)
時間/9時30分~17時30分(金曜~20時)※入室は閉室の30分前まで
休み/月曜、5月7日(5月4日、6月29日は開室)
料金/一般2,300円ほか
tel.050-5541-8600
会場/東京都美術館[東京・上野]
Google mapで確認
東京都台東区上野公園8-36

東京都美術館 公式サイト

ロン・ミュエク

カルティエ現代美術財団と森美術館との共催で、2023年パリで開催した『ロン・ミュエク』展の巡回展。《エンジェル》など日本初公開となる6点や、作家のスタジオや制作過程を記録した写真や映像作品も公開される。

会期/~ 9月23日(水)
時間/10時~22時(火曜~17時、5月5日、8月11日、9月22日~22時)※入場は閉館の30分前まで
会期中無休
料金/一般2,300円ほか
tel.050-5541-8600
会場/森美術館[東京・六本木]
Google mapで確認
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53F

森美術館 公式サイト

文=河内タカ 編集=吉岡尚美(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年6月号より

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