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「そのルール」は単なる“礼儀”ではなかった…2階の角部屋で“見えてしまった“裸足の爪先”と若者たちのその後

  • 2026.5.3
写真はイメージです。提供:アフロ

北九州在住の書店員・かぁなっきさんと、彼の後輩であり映画ライター加藤よしきさんのコンビが織り成す、配信サイト「TwitCasting」の人気怪談チャンネル「禍話(まがばなし)」。リスナー投稿や知人から聞いたというおぞましい実話怪談の数々は、放送から10周年を迎えた今も衰えていません。

今回はそんな禍話から、奇妙な貼り紙があるアパートへ肝試しに行った若者たちが体験したお話をご紹介します――。


貼り紙のあるアパートで起きた出来事

写真はイメージです。写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

思わず尻込みする一同に再び発破をかけたE先輩。

「あんなもんな、例のやばい寮長のババアが、お前が下見しにきたのを見て脅かそうって仕込んだんだよ。なめられてるわけ。そんなん、許せねぇじゃん」

しかし、入り口のロープを乗り越えて階段に踏み出すと、ミシミシッ……という鈍い音が響いて赤サビがパラパラと落ち、勇み足だったE先輩も、流石に一瞬二の足を踏んだそうです。

その隙を逃さずUさんが進言しました。

「先輩、階段崩れますってこれ絶対! これ落ちたらシャレにならないっすよ。普通に怪我するし警察呼ばれますよ」

乾いた目でこちらの度胸を値踏みするように睨みつけてくるE先輩でしたが、“警察”という単語が効いたのか「まぁなぁ~」と聞き入れてくれました。

結局、E先輩はUさんとAさんを「臆病者」とからかい、2人を周囲の警戒のために車に戻すと、自らは“別の入り口を見つけるため”に、他数名を連れて建物の周囲の探索に出ていってしまいました。

「ったく……付き合いきれねぇよ……好き放題言いやがって……なぁ?」

文句を垂れながらしばらく車に寄りかかってタバコをふかしていたUさんは、ふと隣のAさんに目をやりました。

「下げたぞ……今下げたじゃん……あのときは違くて……」

深々とうつむいたまま脂汗をかき、ブツブツとつぶやく独り言。

「おい、大丈夫かよ、お前……」

そのときでした。建物の向こうから先輩たちが駆け足で戻ってきたのです。

E先輩の口から聞かされたのは…

「どうしたんすか?」

「は、貼り紙確認しろ……」

「え?」

「階段の貼り紙まだあるか確認しろ!」

怒鳴り散らかすE先輩と後ろで真っ青な表情をしている他のメンバー。その様子に気圧されたUさんは、階段の方に足を運びました。

「……あれ?」

奇妙なことに、さっきまで数枚貼られていた貼り紙が綺麗さっぱりありませんでした。

車に戻ってそのことを伝えると、E先輩はおずおずとことの顛末を語り始めました。

写真はイメージです。写真:ideyuu1244/イメージマート

数分前、Uさんらをからかいつつ建物周辺を合計2周ほど回っていたE先輩たち。しかし、入り口は例の外階段しか見つからず、1階の部屋も鍵がかかってカーテンが閉められており、めぼしいものを見つけられなかった彼らは引き上げようとしていました。

ですが、帰り際に入り口とは反対の窓側を通りかかったところで、ふいに建物の2階からバンッ! と鋭い音が響いたというのです。

慌ててE先輩がスマホの明かりを音の方に向けると、ちょうど噂の2階の角部屋がある窓に、内側から何かが貼り付けられていました。

【あなたが何を見ようが、それは幻覚です】

入り口で見たあの貼り紙でした。

あの建物には誰かがいる。

「一礼しないから怖い目に遭うんですよ」

中にいる誰かがこちらを脅かすために、別の貼り紙を押し付けたに決まっている……でも、その汚れ具合は何度も回って見た、あの外階段入り口の貼り紙そのものに思えてならない。そうだとしたら、突然部屋の中に貼り紙が移動したことになってしまう――E先輩はそんな思いが駆け巡ってUさんに確認させたというのです。

「お前ら、部屋の中入ってふざけたことしたりしてねぇよな……?」

「……いやいや、中に入って俺らが仕込めるわけないですって! そもそもどうやって気がつかれずにここ戻るんすか!」

「……だよな。もういい、帰ろうぜ。わけわかんねぇ……」

「一礼していないからですよ」

E先輩の言葉に食い気味に言い放ったのは、さっきからずっと脂汗をかいてうつむいていたAさんでした。

「一礼しないから怖い目に遭うんですよ……俺はお昼にちゃんと下げましたからね……」

ブツブツと語るAさんの口調は、いつもの先輩を立てるものとはかけ離れたぶっきらぼうさに満ちていました。

写真はイメージです。写真:travelclock/イメージマート

「お前らだよ……お前らが頭下げないからだよ!」

突然、激昂したAさんがE先輩の胸ぐらに掴みかかったそうです。

「おい! 何すんだテメェ!!」

そう凄んではいたものの、E先輩の表情は困惑しており、いつもの怒りは鳴りを潜めていました。

「ほ、ほら。もう戻りましょう! ここやばいですよ……。Aも――」

「頭下げないとなぁ、顔見えちゃうぞ」

「顔?」

「……チッ、だからドアが開いて女の顔が見えちゃうって言ってんだよ!!」

「もう爪先まで見えちゃったんだよ!!」

写真はイメージです。写真:beauty_box/イメージマート

絶叫するAさんが指差した2階を見るも、ドアは閉まったまま。

「一礼するっていうのはさ、礼儀とかそういうことじゃないんだよ! 頭上げたままだと見えちゃうんだよ!!」

なんとか皆を車に乗せようと右往左往するUさんをよそに、Aさんは依然血走った目で怒鳴り散らしていました。

「もうさっき爪先まで見えちゃったんだよ……どうすんだよ……くそ。さっきドア開いていて中に立っているのが一瞬見えて、危ないって思って頭下げたのに……もう目の前に爪先見えちゃってるじゃん……」

ブルブルと震える彼はついに涙まで流していました。

「目の前って……ドアの前で見たんじゃないの?」

戸惑うUさんの問いに、Aさんは誰も理解してくれないと言わんばかりの絶望の表情でシナシナと語気を弱めると、こう返しました。

「きっと幻覚だ……。でも、今も目の前に見えるんすよ……皆の足に紛れて、裸足の爪先がこっち向いてるんすよ……これどう説明つけるんだよ……」

自分たちしかいないはずの周囲に不穏な気配を感じ始めた一同。

この沈黙を見かねたE先輩は、不意にAさんの服を掴むと車に押し込み「帰るぞ!」と怒鳴りました。

「とにかく、全員頭下げろって!!」と再び車内からわめき散らすAさん。

その乱高下する異様な気迫に押されたメンバーの1人がつい建物に向かって一礼をしたのを皮切りに、皆次々と頭を下げ始め、Uさんも流されるがままに頭を下げたそうです。

1人、E先輩だけが抵抗していたそうですが、「こうでもしないとAのやつ帰らないっすよ! このまま騒いでいたら近所の連中に絶対警察呼ばれます!」という周囲の説得もあり、彼も最後にはしぶしぶ頭を下げました。

起きてしまった現象…「あれ? おい、Aは?」

「うおあっ!!」

すると突然、一礼していたE先輩が悲鳴をあげたのです。

「えっ! うわっ!」

直後に皆もその理由に気がついて悲鳴をあげました。

いつの間にかE先輩の足元にグシャグシャに丸められた貼り紙が転がっていたのです。

パニックになった一同は蜘蛛の子を散らすように車に駆け込み、急発進でその場を後にしました。

「あれ? おい、Aは?」

人通りの多くなった道に差し掛かったところで、車内にいたはずのAさんの姿がないことに気がつきました。

写真はイメージです。提供:アフロ

戻るとは言いだせず、かといってそのまま帰ることもできなかった一同。

仕方なく近くのファミレスに逃げ込むと、そこで近所に住んでいた後輩を2名呼び出し、詳細を告げずにAさんの安否確認に行かせたのでした。

Aさんは、あの建物の前で頭から血を流して倒れた姿で見つかりました。

後輩たちがその場ですぐに救急車を呼び、命に別状はありませんでしたが、土下座して頭をアスファルトに擦り付けていたせいで血を流していたそうです。

Aさんは傷が治った後も『奇妙な幻覚が消えてくれない』と周囲に漏らすようになりました。しかし、お見舞いに行くと嬉々としてUさんらにこう言うというのです。

『でも、貼り紙にあったように全部幻覚だと思うようにしているし、親族の勧めで行った神社でお祓いをしたおかげで失明も免れたよ』と。

文=むくろ幽介

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