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「変顔こそ面白い」という一心で突き進んだ。「あたらしい絵本大賞」大賞『まねてみよう』構想の過程を全部見せてくれた【青物横丁 インタビュー】

  • 2026.4.29

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夢が形に!「第1回読者と選ぶ あたらしい絵本大賞」大賞受賞作品が発売開始へ

応募総数1,076作品、読者投票12,374票という大反響のうちに終わった『第1回読者と選ぶ あたらしい絵本大賞』。その栄えある「大賞」に輝いたのが青物横丁さんの作品『まねてみよう』です。

大賞決定からおよそ9か月、ついに書籍版『まねてみよう』が完成。本日2026年4月14日に待望の発売日を迎えました。その発売を記念して、書籍版の完成を目前に控えた青物横丁さんに特別インタビューを実施。『まねてみよう』の制作秘話や、賞に応募したきっかけなど、ここでしか聞けない貴重なお話をたっぷりとうかがいました。

アイデアの出発点は「変顔こそおもしろい!」

――改めまして、大賞受賞、そして書籍版の発売日決定、おめでとうございます! 目の前には完成目前の書籍版『まねてみよう』がありますが、今のお気持ちはいかがですか?

青物横丁さん(以下、青物横丁):ありがとうございます! 制作途中で紙に出力された状態というのは都度見ていますが、やはり本という形になると、紙の厚みや発色も全然違って……感動します。本を出すという実感がわいてきますね。もともと「本」という形に憧れがあったので、ひとつの夢がかなったという気持ちです。

――審査で拝見した時から印象的だったのは、なんといってもたくさん登場する顔の表情。喜怒哀楽という括りにも入らないような、絶妙に変な顔といいますか(笑)、表情の選び方にも独特の感覚があるように感じました。この作品のアイデアの出発点というのは、どんなところにあったのでしょうか?

青物横丁:このコンテストのタイトルが「あたらしい絵本大賞」でしたので、じゃあ何を新しくしようかなと考えました。私にとっての「絵本」は、ちゃんと座って読むというイメージがあったのです。でも、絵本に主導権があるのではなく、読み手側が好きなように、体を動かしたり遊んだりできる絵本というのがあっても楽しいのではないかと。その時に浮かんできたのが「変顔」でした。

ファイルの中から次々に登場する、すべての出発点となった「変顔スケッチ」の数々
ファイルの中から次々に登場する、すべての出発点となった「変顔スケッチ」の数々

「変顔」だったら、顔と絵本を見比べながらどんどん遊べるのではないか。子どもはともかく、普段大人が変顔をする機会なんて、あまりないですよね。この絵本を読んでいる間だけでもそんな時間があってもいいんじゃないか。じゃあ、どんな変顔が面白いか。普通の顔は入れないようにしよう、とか。もう「変顔こそ面白い」という一心で。それだけで突き進んでいったような感じでした。今見ると、結構この顔怖いですよね(笑)。

――「変顔」にそこまで強いこだわりが(笑)。だからこそ、そのまま真似するだけでなく、読み手の解釈にもかなり委ねられているような複雑な表情も多くて……。

青物横丁:そうですね。顔の造形だけでなく、気持ちを考えてみたり、体も使って表現してもらえたら面白いかなという思いもありました。応募時点のものは、さらに「顔真似」以外の遊びにも広がるよう、「自撮りをしてみよう」「ポーズをつけてみよう」「披露してみよう」というようなイラストも入れてみたりして。今思えば、ちょっと対象年齢がバラバラになっていた気もするけれど、遊び方のアシストのようなイメージでしたね。

――そして、この作品のもう一つの大きなポイントになっているのが写真の場面。説明があるわけでなく、突然写真があらわれる。そこがとてもいいですよね。

青物横丁:ありがとうございます。イラストだけの顔が続くとちょっと飽きちゃうかなというのもあり、後半に向かって転換点のような場面を作りたいと思っていたんです。展開を広げていく枠ですね。

たとえば有名な絵画の顔だったり、大好きな漫画家の先生が描いた顔を入れてみようとかも考えたのですが、その中に写真というアイデアもあって。同じ顔でも、イラストと写真では見え方がだいぶ違ってきますよね。あるいは、顔そのものではなくても見方によっては顔に見える、というのも面白いかなと。

まねてみようの言葉とともに突然現れるのが……
まねてみようの言葉とともに突然現れるのが……
絵本の奥に置いてあるのは、青物横丁さん自作(!)の香炉
絵本の奥に置いてあるのは、青物横丁さん自作(!)の香炉

応募作品のアンコール・トムの仏様の顔の彫刻はカンボジア旅行に行った時に撮った写真ですね※。この壺みたいなものは、実は陶芸体験教室で私が作ったものなんです。香炉なのですが、ずっと私の書斎の本棚に置いてあって、視界に入るたびに顔に見えるなと思っていて(笑)。ピーマンの断面も面白いですよね。可愛さと怖さが混在している感じ。でも書籍版を完成させるにあたって、結果的に一番迷いが生じたのも写真の場面でしたね……。

※応募時の写真と、絵本発売時に掲載している写真は異なります。

試行錯誤を繰り返しながら、たどりついた着地点は……

――その写真の場面や、顔の横に添えられたコミカルなイラストの部分も含めて、応募作品の内容と今回出来上がってきた内容はかなり変わりましたね。

青物横丁:そうなんです。せっかく紙の絵本として残るという貴重な機会をいただいたので、後悔しないよう、思いつく限り全ての可能性は試しておこうと思いまして。

ずらりと並んだダミー本!
ずらりと並んだダミー本!

子どもたちへの読み聞かせの見学に行かせてもらったり、自分でも読み聞かせをしてみたりして。その経験が大きかったですね。子どもたちの反応がすごく良くて。顔真似だけだと飽きちゃうかなという思いもあったのですが、絵本の世界にすぐに入り込んで集中している。素直に面白がってくれていたり、表情を理解して上手に真似してくれたり、そういう姿を見て感動しました。でも、あまり具体的に遊び方を示すようなコメントがあったり、表情の説明が入っていると、言われた通りにやってしまうという側面もあって。自由さが減ってしまう。そういう様子を見ながら、表情を選んだり、順番やページ数を変更していったり、コメントを減らしてみたり、試行錯誤していきました。

特に写真の場面の入れ方や内容については、変更を繰り返しました。写真の数を増やしてみたり、もう少し顔の表情に近い写真や、動物や植物の写真を入れてみたり。そうすると、写真そのものの面白さは増すけれど、真似する面白さからは遠ざかっていく。

そんな中、今回この本のデザインを担当してくださった「コズフィッシュ」の祖父江さんと志間さんから「子どもが好きそうな動物や写真を取って付けたように見える」「子どもに寄せていこうとしていると、子どもは察知するよね」というアドバイスをいただいて。その時に、自分自身が「子どもに手加減はしたくない。子どもたちには容赦なく変顔をさせたい!」という思いで制作をスタートしたことを思い出したんです。

――「容赦ない」という言葉、まさにこの写真の場面にぴったりですね! 完成までにそんな紆余曲折があったんですね。

青物横丁:振り返ってみると、書籍化にあたって一番大変だったのは、『まねてみよう』の「あたらしさ」という部分と、紙の絵本として親しんでもらいたいという思い、そのバランスを取ることでした。

ただの喜怒哀楽からはみ出た、少し複雑な表情をたくさん見せること。そして、読者がどう真似するかの余地を残すこと。それが私なりの「あたらしい絵本」へのこだわりでした。一方で、紙の絵本として子どもたちの反応を見てみたらどんなに可笑しな顔でも難しすぎたり顔の数が多すぎたりすると集中力が続かないことや、「ガイド」が見えると素直にその通りやろうとするため「変顔のやり方本」になってしまう、ということが明らかになりました。

あたらしさを残しつつ、子どもたちが楽しく遊べるものにすること。このバランスを取ることがとても難しかったです。最終的に、難しすぎないけれど易しすぎない「変な顔」、やり方や遊び方を指示はしないけれど、思い思いに真似ればいいということをそっと促す、読み手と同じ目線のイラストという最善のバランスに着地できたのではないかと思っています。

顔の表情だけでなく、表現方法も変化していきます
顔の表情だけでなく、表現方法も変化していきます
山ほど切ったピーマンから生まれたこだわりの場面
山ほど切ったピーマンから生まれたこだわりの場面
スタジオで撮影されるピーマンたち
スタジオで撮影されるピーマンたち

――応募された時の作品は画像データ、審査の一般投票の時にはナレーションを入れた読み聞かせ動画となり、最終的には紙の絵本になって。一つの作品が完成する中で、こんなにも見せ方が変化していくのもなかなかない機会でしたよね。

青物横丁:実は、読み聞かせ動画を観た時に、入れてくださったナレーションに本当に驚かされたのです。言葉はシンプルに「まねてみよう」の連続なのに、声の表現一つでこんなにもイメージが変わるのか! と。その感動がとても大きくて、最終的には紙の絵本の言葉の表現に影響していきました。

――そして完成したこの絵本。どんな風に楽しんでもらいたいですか?

青物横丁:たとえば「さあ、みんな自由に遊んで!」と言われたとき、とまどってしまう子もいますよね、私がそうでした。何もないところから遊びを考え出したり、楽しみ方を思いつくまでは、意外とハードルがあったりすると思うんです。そんなときに『まねてみよう』が自由に遊ぶきっかけやアシストとなってくれたら、こんなに嬉しいことはないです。

応募のきっかけは「あたらしい」というキーワード

――「あたらしい絵本大賞」に応募された時のことを伺ってもいいですか? 応募前、それまでは絵本を描かれていたのでしょうか?

青物横丁:いえ、絵本は描いていませんでした。もともと子どもの頃から絵を描くのは好きでした。落書きのような絵や漫画も大好きで。そのうち雑誌や本のイラストやデザインに興味を持ち、グラフィックデザインを学んで、一時期は広告デザインをしていたことも。でも、その後20年近くマーケティングや商品開発の仕事などをしていて、本格的な制作からは離れていたんです。もちろん絵はずっと好きでしたし、本を作りたいなあという憧れもあって。一枚絵というよりは、漫画や物語のように少し展開のある絵が好きなんです。自主制作の本やSNSに「スワイプ絵本」というものをアップしたり、ということはしていました。

そんな時にインスタの動画で「あたらしい絵本大賞の募集」が流れてきて。「あたらしい」という言葉に反応したんです。絵本のコンテストは原画を出すことの方が多いですよね。募集要項を見に行くと「動画でもOK」「原画がなくてもOK」と書いてあったので、なんて敷居が低いんだ! と(笑)。

その時すでに2025年の1月頭くらい。締め切りが1月末でしたよね。それで、世に出すきっかけになるかもしれないと、インスタに投稿していた「スワイプ絵本」を動画の形にして応募して。でも自分ではちょっとチープな感じがすると思っていたので、もう一つ作ってみようと制作をスタートさせたのが、この作品『まねてみよう』でした。

それがこんな形に展開していって。もうすぐ絵本が書店に並ぶと思うと、嬉しくて緊張もしています。でも夢がひとつかなった今、これからも絵本作家として続けていきたいと強く思っています。

――その言葉を聞いて、私たちもとても嬉しいです。第1回の大賞作品として、みんなが見守る中での制作となりましたよね。これから応募しようとしている方にもアドバイスなどありますか?

青物横丁:アドバイスなんて出来る身じゃないですけど……「あたらしい絵本大賞」は、本当に自由度が高くて、懐の深いコンテストだと思います。審査も徹底して「あたらしい」にこだわって選んでくださっていたように感じました。

従来の絵本の枠におさまらないアイデアや技術をお持ちの方がきっとまだまだたくさんいらっしゃるでしょうし、そんな方にこそ世に出る大きなチャンスになると思いますので、ぜひご参加いただければと思います。私も一読者として楽しみにしています!

――ありがとうございました!

インタビュー・文:磯崎 園子(絵本ナビ編集長)

青物横丁 (アオモノヨコチョウ)

作家。1982年静岡生まれ。『まねてみよう』で、『第1回読者と選ぶあたらしい絵本大賞』大賞を受賞。絵本は本作がデビュー作。

そっくりまねできても、できなくても大丈夫。自分だけの「まねてみよう顔」をつくったりして、自由に遊んでください。

本記事は「絵本ナビ」から転載しております

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