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患者「いちいち聞いてこないで!」部屋の空気が一気に凍った、看護師が“良かれと思ってかけた一言”とは…?

  • 2026.5.19
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

訪問看護の現場では、身体のケアだけでなく、その人の日常に関わる時間が多くあります。だからこそ、何気ない会話一つが、支えにも負担にもなり得ると感じることがあります。

今回は、「良かれと思って続けていた関わり」が、思わぬ形で揺らいだ出来事についてお話しします。

点滴のあとの、いつもの時間

訪問看護を利用している若年女性のAさん。経口摂取がほとんどできない状態で、週に5回点滴を行っていました。

体力的にも消耗が強く、日によっては会話もつらそうな様子があります。それでもこれまでの関わりの中で、少しずつ好きなことを話してくれるようになっていました。

好きな音楽のこと、最近見た動画のこと。

「この人の声が落ち着くんです」そんなふうに、自分から話題を出してくれる日もありました。

私たちは、点滴処置が終わったあと、できるだけその人の好きな話題に触れながら関わるようにしていました。「少しでも気分転換になれば」そんな思いからでした。

「いちいち聞いてこないで!」突然の拒否

その日も、いつものように点滴を終え、軽く声をかけました。

「今日はどうですか?」
「最近、何か見てますか?」

すると、Aさんが急に顔をしかめて言いました。

「いちいち聞いてこないで!」

思ってもいなかった強い言葉に、一瞬言葉が出ませんでした。

Aさんは続けて言います。「別に、何気なくやってるだけやのに」「なんでも言わなあかんの?」

部屋の空気が一気に張りつめました。

関わらないと、それも違う

その後、私たちは関わり方を少し変えました。

会話による負担を減らすため、必要な処置と最低限の確認だけにとどめ、あえてこちらから話題を振らないようにしました。

すると、数日後。

帰り際にAさんがぽつりとこう言いました。

「今日は、ずいぶん冷たいですね」

その言葉を聞いたとき、正直、どう関わればいいのか分からなくなりました。関われば拒否される。関わらなければ、距離を指摘される。どちらを選んでも、何かが違う。

見えてきたしんどさの正体

そんな中で、ある日ふとしたやり取りがありました。点滴中、沈黙が続いたあと、Aさんが小さな声で言いました。

「聞かれると、答えなあかん気がするんです」

私は「うん」とだけ返しました。

「でも、別に何もしてないし」「言うこともないし」

少し間があって、続けます。

「ちゃんとできてないのに、なんか…聞かれるとしんどい」

その言葉を聞いたとき、これまでのやり取りが一気につながった気がしました。

Aさんにとってしんどかったのは、会話そのものではなく、答えなければいけない状況だったのかもしれません。

何かしている前提で聞かれること。それに対して「何もできていない自分」を感じること。

その積み重ねが、負担になっていました。

怒りの向き先

「いちいち聞いてこないで」

あの言葉は、私たちに向けられたもののように聞こえました。けれど実際には、少し違っていたのかもしれません。

できていない自分。コントロールできない状態。どうにもならない現実。その中で生まれたしんどさが、たまたま私たちの関わりの中で表に出ただけだった。そう思うと、あの言葉の重さが少し違って感じられました。

関わり方を変えるということ

それ以降、私たちは関わり方を少しずつ調整していきました。

質問を重ねるのではなく、「今日は家でゆっくり過ごされてたんですね」といった共有に近い言葉に変える。

無理に会話を広げるのではなく、沈黙もそのまま受け取る。すると、ある日Aさんがぽつりと話しました。

「昨日、ちょっとだけ動画見ました」

こちらから聞いたわけではありませんでした。それでも、その一言はこれまでより自然に出てきたもののように感じました。

正解のないコミュニケーション

訪問看護では、「どう関わるのが正解か」と考える場面が多くあります。けれど今回の出来事を通して感じたのは、正解の言葉があるわけではない、ということでした。

同じ言葉でも、そのときの状態によって受け取り方は変わる。良かれと思った関わりが、負担になることもある。だからこそ必要なのは、その人の今の状態に合わせて、関わり方を柔軟に変えていくことなのかもしれません。

あの日の「いちいち聞いてこないで」という言葉は、私にとって忘れられない一言になりました。それは、関わり方を否定された言葉ではなく、その人のしんどさが表に出た瞬間だったのだと思います。



ライター:こてゆき
精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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