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看護師「あれ?」患者「ちょっとだけなら…」病室の引き出しから見つかった家族が“良かれと思って”差し入れしたモノとは…

  • 2026.5.16
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病棟では、症状の安定だけでなく、身体疾患とのバランスを取りながら治療を進めていく場面も少なくありません。

特にご家族が関わる場面では、「良かれと思っての行動」が、思わぬ形で治療に影響することもあります。

今回は、そんな善意がすれ違ってしまった出来事についてお話しします。

「元気が出ると思って持ってきました」

精神科病棟に入院していた男性のAさん。統合失調症の治療に加え、糖尿病のコントロールも必要な方でした。血糖値はやや不安定で、食事療法と内服調整を行いながら、少しずつコントロールを整えている段階でした。

Aさんは甘いものが好きで、入院生活の中でもたびたび

「たまには甘いもの食べたいな」と話していました。

そんな中、面会に訪れたご家族が、袋いっぱいの差し入れを持ってこられました。

「元気が出ると思って」

そう言って取り出されたのは、菓子パンやジュース、チョコレートでした。

その場では、看護師から食事制限の必要性を説明し、差し入れは持ち帰っていただくようお伝えしました。

ご家族も『そうなんですね』と納得された様子でした。

少しずつ崩れていったバランス

しかしその後、Aさんの血糖値に変化が出始めます。

それまで安定していた数値が、急に高くなる日が出てきたのです。

「なんか最近、体がだるくて」
「ちょっとふらつく感じもある」

Aさん自身も、そんな訴えをするようになりました。

食事内容や内服状況を確認しても、大きな乱れは見当たりません。それでも数値は不安定なままでした。

「何か、いつもと違うことはないですか?」

そう聞いても、Aさんは少し考えてからこう答えます。

「別に…変わったことはないです」

けれど、その表情はどこかはっきりしませんでした。

見えていなかった差し入れ

ある日、病室の整理をしていたときのことでした。引き出しの奥から、見覚えのあるパッケージがいくつか出てきました。チョコレートの空箱と、菓子パンの袋。

「あれ…これって」

確認すると、Aさんは少し気まずそうに笑いました。

「ちょっとだけならいいかなって思って」
「全部じゃないですし、少しずつ食べてました」

しかし話を聞くと、面会の際に『これくらいなら』と、看護師に見えないよう一部の菓子パンなどを手元に残していかれたようでした。」

「そんなに影響があるとは思わなかった」

ご家族にも状況をお伝えすると、驚いた様子でこうおっしゃいました。

「そんなに影響があるとは思わなかったです」
か「少しくらいなら大丈夫だと思って…」

その言葉に、責めるような気持ちは湧きませんでした。

実際、少しならいいのではと思ってしまうのは自然な感覚です。Aさん自身も同じように感じていました。

「我慢ばっかりやとしんどいですし」

「ちょっとくらい、いいかなって」

そのちょっとが、積み重なっていった結果でした。

治療の見直しへ

その後、Aさんの治療方針は見直しが必要になりました。血糖コントロールを優先するため、内服調整の再検討や、食事管理の強化が行われることになりました。

もともと順調に整い始めていた状態が、一度崩れてしまいました。

「またやり直しですね」

医師の言葉に、Aさんは少しうつむきながら

「すみません」

と小さく答えていました。

善意と治療のあいだで

今回の出来事は、誰か一人の問題ではありませんでした。

ご家族は、「元気になってほしい」という思いで差し入れを持ってきていました。Aさんも、「少しくらいなら大丈夫だろう」と思っていました。

どちらも間違っているわけではありません。

しかしその善意が結果として、治療を遅らせる要因になってしまいました。

そこには、医療者側の説明の伝わり方や、制限の意味の共有の仕方にも課題があったと感じます。

「わかっている」と「伝わっている」は違う

私たちは日々、患者さんやご家族に説明をしています。

「血糖値が上がると危険です」

「食事制限が必要です」

そういった説明は、確かに行われていました。けれど、それがどこまで実感として伝わっていたのか。「少しくらいなら大丈夫」と思わせてしまった時点で、十分に伝わっていたとは言えなかったのかもしれません。

あの日の差し入れ

あの日、ご家族が持ってこられた差し入れは、ただの食べ物ではありませんでした。

そこには、「元気になってほしい」「少しでも喜んでほしい」という思いが込められていました。だからこそ、それが治療に影響したという現実は、簡単に切り離せるものではありません。

治療を守ることと、気持ちに寄り添うこと。そのどちらも大切にしようとしたとき、思わぬすれ違いが起きることがあります。今回の出来事は、「良かれと思って」の中にある難しさを、改めて考えさせられる出来事でした。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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