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看護師「あれ?」シーツ交換中、ベッドから“見つかったもの”に患者「バレると思ってなかった」

  • 2026.5.14
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病棟で働いていると、「ルールを守れているかどうか」だけでは見えない患者さんの背景に気づかされることがあります。

今回は、入院中のスマートフォン使用をめぐって起きた、ある出来事についてお話しします。

「スマホは持っていません」と話していたAさん

精神科病棟に入院していた若年女性のAさん。気分障害で、抑うつ症状が強く、生活リズムの立て直しを目的に入院されていました。

この病棟では、治療の一環としてスマートフォンの使用が制限されています。夜間の覚醒や外部刺激による症状悪化を防ぐためです。

入院時の確認でも、Aさんははっきりとこう話していました。

「スマホは持ってきていません」

表情は落ち着いていて、言葉に迷いもありませんでした。

私たちも、その言葉をそのまま受け取って関わっていました。

「夜は寝れてます」と言うけれど

入院してしばらく経った頃から、Aさんの様子に少しずつ違和感が出てきました。

日中、ぼんやりしていることが多い。声をかけても反応が遅い。朝の起床もスムーズではなく、何度も声をかける必要がある。

「昨日は眠れましたか?」と聞くと、Aさんは淡々と答えます。

「はい、寝れてます」

しかし、その言葉と実際の状態がどうも噛み合いません。

消灯後は比較的早くベッドに入っているはずなのに、日中は強い眠気が見られる。逆に、日中はウトウトしているのに夜間の様子ははっきりしない。

「もしかして、夜中に起きてるのかな…」

そんなふうに思いながらも、決定的な根拠はありませんでした。

積み重なる小さな違和感

違和感は、はっきりした何かではなく、あくまで小さなズレの積み重ねでした。

布団には早く入っているのに寝つきが悪そう、日中の眠気が強すぎる、会話のテンポが微妙に遅れる、時々、目線が泳ぐような瞬間がある。

どれも単体では説明がつくものです。抑うつ症状でも起こり得ます。けれど、それらが重なることで「何かがおかしい」という感覚だけが残っていきました。

枕カバーの中にあったもの

転機は、ある日のシーツ交換の時間でした。

ベッド周りを整えていたとき、枕を持ち上げた瞬間、違和感がありました。

「…あれ?」

枕カバーの中に、少し不自然なふくらみがあったのです。

確認すると、中から出てきたのはスマートフォンでした。一瞬、言葉が出ませんでした。

「…Aさん、これって」

私がそう声をかけると、Aさんは少しだけ目を伏せました。

数秒の沈黙のあと、小さな声で言いました。

「…バレてると思ってなかったです」

「夜がしんどくて」

場所を移して話をすると、Aさんはぽつりぽつりと話し始めました。

「夜が、しんどくて」

「寝ようと思っても、頭の中がずっと動いてて」

言葉を探しながら、ゆっくり続けます。

「何も考えたくないのに、いろいろ浮かんできて…」

「動画見てると、その間だけは静かになるんです」

私はその言葉を聞きながら、これまでの違和感が一つにつながるのを感じていました。

夜間にスマートフォンを使用していたことで、睡眠は浅くなり、生活リズムが崩れていました。そしてその背景には、「眠れない苦しさ」と「一人で過ごす夜の不安」があったのです。

ルール違反として見るか、その背景を見るか

スマートフォンの持ち込みは、病棟のルールとしては禁止されています。

その事実だけを見れば、Aさんの行動は明確なルール違反です。指導や制限強化という対応も、もちろん必要になります。

しかしあのとき私の中に残ったのは、「違反していた」という事実よりも、別のことでした。

「どうして、そこまでして使わないといけなかったのか」

Aさんは、最初からルールを破ろうとしていたわけではありませんでした。夜の不安や、眠れない苦しさの中で、頼れるものがそれしかなかった。

「ダメだとわかってるんですけど」

「でも、あれがないと余計にしんどくて」

その言葉には、どこか諦めのような響きもありました。

「守らせる」だけでは届かないもの

この出来事を通して、私は改めて考えさせられました。

私たちはつい、「ルールを守れているかどうか」に意識が向きがちです。もちろん、それは安全や治療のために必要な視点です。けれど、その行動の裏にある理由まで見ようとしなければ、本当に必要な支援にはつながらないのかもしれません。

Aさんにとってスマートフォンは、単なる娯楽ではなく「夜をやり過ごすための手段」でした。もしそこに目を向けなければ、「またルールを破った人」として終わっていた可能性もあります。

その後の関わり

その後は、夜間の過ごし方について一緒に考える関わりに変わっていきました。

完全にスマートフォンを排除するのではなく、「どうすれば少しでも楽に夜を過ごせるか」を中心に。

例えば、「寝る前に少しだけ話してみますか」「音楽を流すのはどうですか」といったように。

そんなやり取りを重ねながら、少しずつ別の方法を探していきました。

Aさんも、あるときこう言いました。

「前よりは、ちょっとマシかもしれないです」

見えていなかったもの

あの日、枕カバーの中から出てきたスマートフォンは、ただの違反物ではありませんでした。

そこには、Aさんが一人で抱えていた時間がありました。

「バレると思ってなかったです」

その一言の裏には、「見つからなければいい」ではなく、「見つかったら困るものだった」という気持ちがあったのかもしれません。

ルールを守ることは大切です。

しかしそのルールの外側で、誰かがどんなふうに踏ん張っているのか。それに気づけるかどうかで、関わり方は大きく変わると感じた出来事でした。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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