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黒沢清監督『黒牢城』の撮影現場に潜入!圧倒された“職人監督”としてのすごさと、初時代劇への想い

  • 2026.4.28

「まったく新しい一つの時代劇映画の“古典”みたいな感じになってくれたらいいな、というのを目指しています」。

【写真を見る】黒沢清監督の指導に真剣な表情を見せる、宮館涼太

世界三大映画祭の常連であり、第77回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞した『スパイの妻』(20)や、アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品となった『Cloud クラウド』(24)など、国内外で高い評価を得続ける巨匠・黒沢清監督。キャリア初の時代劇となる『黒牢城』(こくろうじょう/6月19日公開)の撮影の合間に、真っすぐな視線で語った言葉が印象的だった。

2025年10月、MOVIE WALKER PRESS編集部は、数々の時代劇を生み出している松竹京都撮影所で行われた『黒牢城』の撮影現場に潜入し、“職人監督”黒沢清のすごさを目の当たりすることができた。本稿では、大規模なセットで繰り広げられる撮影現場の様子を、黒沢監督と石田聡子プロデューサーのインタビューと共にお届けしていきたい。

連続する怪事件に、城主と囚われの天才軍師が挑む!

第166回直木賞と第12回山田風太郎賞をW受賞した米澤穂信による同名⼩説を映画化した『黒牢城』。舞台は織田信長が“覇王”として君臨していた戦国時代、本木雅弘が演じる荒木村重は、突如として信長に反旗を翻し、摂津国(現・兵庫県伊丹市)の有岡城で籠城作戦を決行する。そんな時、孤立無援の密室と化した城内で、少年が殺される事件を皮切りに次々と怪事件が発生。城外は織田軍、城内には裏切り者…誰もが疑心暗鬼になっていくなか、村重は牢屋に幽閉していた敵方の天才軍師・黒田官兵衛(菅田将暉)と共に謎の解決に挑んでいく。

クセ者たちの思惑が交錯!『黒牢城』人物相関図 [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会
クセ者たちの思惑が交錯!『黒牢城』人物相関図 [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会

主演を務めた本木のほかにも、菅田、吉高由里子、青木崇高、宮舘涼太、柄本佑、オダギリジョーら映画界を代表する豪華キャストに加え、ユースケ・サンタマリア、吉原光夫、坂東龍汰、荒川良々、渋川清彦、渡辺いっけいら実力派キャストが結集。全員“クセ者”ばかりの登場人物たちの思惑が飛び交う、手に汗握る戦国系心理ミステリー大作だ。

本物と見まがうような大規模セット!“職人監督”黒沢清の撮影現場に潜入

本作は、籠城中の村重たちを、春夏秋冬の1年を通して描く構成となっており、この日撮影されたのは序盤にあたる冬のパート。雪が降り積もる有岡城内で、弓矢で少年が殺される事件が発生し、村重は右腕の郡十右衛門(オダギリジョー)や乾助三郎(宮舘)と共に、どこから矢が放たれたのか現場検証していくという、推理ミステリーとしてのおもしろさが詰まった場面だ。

足を踏み入れるだけで思わず笑みがこぼれてしまう『黒牢城』の城内セット [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会
足を踏み入れるだけで思わず笑みがこぼれてしまう『黒牢城』の城内セット [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会

意気揚々と松竹京都撮影所の門をくぐり、撮影が行われているステージの中に踏み入れると、本物と見まがうような大規模な城内のセットにまず驚かされた。ある時代を“再現”した建物であるのに、どこか歴史の重みも感じられるほどだ。庭には寒水石で表現した人工の雪が積もり、ステージの中は室内であるのに、照明の工夫によって日中の空の下のような明るさを感じることができる。

撮影の流れとしては、カット毎に2台のカメラの位置を変更し、それに応じて照明等をセッティング、準備が終わり次第カメラテスト(リハーサル)を行い、本番へと移っていく。今回、計3シーンの撮影見学を行ったが、出演キャストは本木雅弘、吉高由里子、宮舘涼太、オダギリジョーと超豪華。戦国武将として、一国の主としての威厳を感じられる演技を披露する本木や、遠目からもその所作から可憐さが見て取れる吉高が演じる村重の妻・千代保など、それだけで心躍るものがある。だが、黒沢監督の撮影現場を目の当たりにすると、驚くほどにすべてが正確に、かつスムーズでスピーディに進んでいく様子にとにかく圧倒された。

監督のビジョンを完全に理解したスタッフたちによって、スピーディにセッティングが進んでいく [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会
監督のビジョンを完全に理解したスタッフたちによって、スピーディにセッティングが進んでいく [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会

どのカットを撮影するにも、多くても3テイク程度。長回しの場面でも1発でOKとなるカットもあり、明確なものを除くと筆者の目ではもはやOKとNGの違いを見分けることは不可能なレベルであった。スムーズに進行していく一方で、村重のもとへ助三郎が駆け寄るカットの撮影では、カメラテストの合間に宮舘に黒沢監督が直接演技指導する姿も見受けられた。だが、その内容は移動するタイミングの「わずかなテンポの違い」の説明であり、通常想像する演技指導とは視点が異なるのが印象的だった。

そして、この日の黒沢監督が特に熱を入れて、テストやリテイクを繰り返しながら撮影したのは、どこから矢を放ったのか検証するために、矢に紐をつけて引っ張る“矢の動き”を捉えたカットだった。キャスト陣による演技でもなく、天候といった自然的な要素でもなく、引っ張られた矢の“動き”。もはやなにか物理の実験をしているかの様で、何度も矢を引っ張りテストを繰り返し、その動きを鋭い視線で見つめる監督の姿が心に強く残った。

【写真を見る】黒沢清監督の指導に真剣な表情を見せる、宮館涼太 [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会
【写真を見る】黒沢清監督の指導に真剣な表情を見せる、宮館涼太 [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会

そんな撮影現場から、筆者は前作『Cloud クラウド』のインタビューで黒沢監督が話していた、「全然作家じゃないんです。ただの職人です」という発言を思い出した。黒沢監督といえば、世界的に作家として語られる映画監督の第一人者だとこれまでずっと思っていたが、この現場を目撃することで考えが変わる。監督にとっての撮影現場は、新たな可能性を引き出す場ではなく、映画を構成する要素を集めていく工程のように思え、それを指揮していく姿はまさに“職人”のようだと、まざまざと感じられた。

「原作がおもしろかったということに尽きます」(黒沢)

“職人監督”としての黒沢監督を目撃することができ、それだけでも貴重な体験であったのだが、やはり一つ疑問が残る。「どうして黒沢清監督が時代劇を監督することになったのか」だ。これをプロデューサーの石田に問うと、現代の世界情勢にも通じるような作品のテーマ性が決め手であると明かしてくれた。

黒沢監督初の時代劇となった『黒牢城』 [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会
黒沢監督初の時代劇となった『黒牢城』 [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会

「新たな時代劇への挑戦、ということを目指して、『黒牢城』を製作しようと考えたわけではありませんでした。舞台は戦国時代ですが、この作品は村重と官兵衛の2人による謎解きというミステリーが軸になっていて、その裏に隠れた様々な人物たちの思惑を読み解いていく心理サスペンスのようでもある。村重が謎と対峙する度に『いったいどこに導かれていくんだろう』と引き込まれていく感じが非常におもしろく、映像化への魅力を感じました。また、この作品の“籠城している人”や“囚われた人”の物語、彼らが向き合っている大きな問題は、いまの自分たちが直面している社会の状況や世界情勢と似ているなとも感じました。ある極限状態の中にいる人たちの間に生まれる緊迫感や現代にも通じる普遍的なテーマを潜んでいる作品ならば、是非黒沢監督とご一緒したいと思い、ご相談することにしました。黒沢監督に最初にお話した時は、『僕に時代劇ですか』という感じで驚かれていましたが(笑)」。

これに対し黒沢監督は、「原作がおもしろかったということに尽きます」と作品への強い思い入れを真摯に語る。「もともと時代劇は漠然とやってみたいのはありましたが、時代劇と言えばすぐ浮かぶのはいわゆるチャンバラ。チャンバラをやってみたいという単純な欲望がありましたが、心理劇のような時代劇をやってみたいというのは、原作を読むまでまったく思っていませんでした。ただ原作を読んで、時代性を抜きにした普遍的なテーマと、一種の推理小説のような謎解きのおもしろさに、監督できるものならやりたいと思ったんです」と、オファーを受けた当時を振り返る。

城内で起こる怪事件に荒木村重と黒田官兵衛が挑む、推理要素も多い『黒牢城』 [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会
城内で起こる怪事件に荒木村重と黒田官兵衛が挑む、推理要素も多い『黒牢城』 [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会

2024年のエミー賞で最多18冠を獲得したドラマ「SHOGUN 将軍」や、自主制作ながら記録的ロングランとなった『侍タイムスリッパー』(23)など、いまや国内外で時代劇に新たな関心が寄せられ、本作も第79回カンヌ国際映画祭のカンヌ・プレミア部門に正式出品が決定している。かつては斜陽と呼ばれていた時代劇製作の現状について、黒沢監督は「時代劇的なドラマは、1970年代、1980年代よりポピュラー」だと持論を話してくれた。

「時代劇映画は予算がかかったり、難しい要素があると思いますが、この時代を扱ったドラマへの関心がなくなっているとは決して思わないですね。むしろ若い方もこういった題材はよく知っている印象もあって、一般に通用するものだろうと信じて進めております。そして、ある種の時代劇にふさわしい俳優は、本木さんを含めて日本にはまだまだしっかりいると感じています。だからキャストの方々は、無理なく戦国時代の人たちになれている、なっているはずだといまは思っています」。

『黒牢城』は6月19日(金)公開! [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会
『黒牢城』は6月19日(金)公開! [c]米澤穂信/KADOKAWA [c]2026映画「黒牢城」製作委員会

そんな黒沢監督が本作で目指したのは、「まったく新しい一つの時代劇映画の“古典”」。カンヌ映画祭出品に際して到着したコメントでは、本木は「ステレオタイプの侍ムービーではなく、新たな人間ドラマ」、菅田は「時代劇でありながら会話劇でもある、日本でもあまり例のない作品」、吉高は「この作品を海外の方々に届けられることには、確かな意味がある」と、それぞれ本作の新しさとテーマ性に触れていたが、いったいどんな作品に仕上がっているのか?黒沢監督の新たな代表作となることに期待しつつ、6月19日(金)の劇場公開を楽しみに待ちたい。

取材・文/MOVIE WALKER PRESS編集部

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