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25年の結婚生活、その先にあるものとは?『これって生きてる?』ブラッドリー・クーパー監督とキャストが語る、個人を“再定義”していく物語

  • 2026.4.17

サーチライト・ピクチャーズが贈る、ブラッドリー・クーパー監督の最新作『これって生きてる?』が公開中だ。長編監督第3作となる本作では、俳優として数々のヒット作に出演してきたクーパーが、『アリー/ スター誕生』(18)、『マエストロ:その音楽と愛と』(23)に続き、今作でも愛する2人の関係の変化をテーマに映画を撮った。

【写真を見る】順調なはずだった夫婦が、置き去りにしてきた夢と向き合うなかで離婚の危機を迎える

子どもにも恵まれ、順調な人生を歩んできた中年夫婦アレックス(ウィル・アーネット)とテス(ローラ・ダーン)が、それぞれ置き去りにしてきた夢と向き合うとき、関係性に変化が生まれ、新たな自分たちの姿を知ることになる。クーパー監督と主演のウィル・アーネット、ローラ・ダーンの三人が、この映画の核心について語った。

「夫婦はそれぞれの成長プロセスを経ることで個人としても成長できる」(ブラッドリー・クーパー)

監督、脚本そしてアレックスの親友ボールズ役の3役を担ったクーパーは、「子どものころからスタンダップコメディの大ファンでした」と語る。1990年代末、大学院進学のためにニューヨークへ移り住んだクーパーは、本作の舞台となるグリニッジ・ビレッジの老舗コメディクラブ「ザ・コメディ・セラー」に通いつめた。スタンダップコメディへの個人的な愛着と、友人の実話がこの映画を形作っていった。

「脚本執筆段階から、実際に自分の身に起きたとしたらどんな展開になるか、常に問い続けていました。そして、どこにユーモアを滑り込ませられるかも。人生の最もつらい時期にも、おかしな瞬間が必ずあるものです。少なくとも自分の経験ではそうだったので」。“夫婦の別離”の理由が大きな喧嘩でも裏切りでもなく、冒頭から静かに始まっているのはそのためだ。「人生において、終わりは必ずしも大惨事によって訪れるわけではありません。2人の心が別々の方向に向かっていることにある日気づく。ああ、もうやっていけないんだな、と」。

【写真を見る】順調なはずだった夫婦が、置き去りにしてきた夢と向き合うなかで離婚の危機を迎える [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
【写真を見る】順調なはずだった夫婦が、置き去りにしてきた夢と向き合うなかで離婚の危機を迎える [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

長年連れ添った夫婦、テスとアレックスの異なる立ち位置も物語の重心を担う。「テスは元オリンピック選手としてすでに多くのことを成し遂げ、人生という山を下り始めているところ。もう一方のアレックスは、結婚と家庭生活以外の領域で個人としてなにかを達成しようと挑戦することをこれまで一切やってこなかった人物」とクーパーは分析する。「それぞれの成長プロセスを経ることで私たちは個人としても成長できる、ということを探求したかったんです。アレックスがスタンダップコメディを通じて自分をさらけ出す行為が、テスに向けて長年届けられなかったコミュニケーションの代替となっていく。そして映画のクライマックス、屋根裏部屋で2人が言葉をかわすあの場面につながります」。

「『いまの私を見て』と言える女性を演じることに贅沢さを感じた」(ローラ・ダーン)

テスを演じるのは『マリッジ・ストーリー』(19)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したローラ・ダーン [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
テスを演じるのは『マリッジ・ストーリー』(19)でアカデミー賞助演女優賞を受賞したローラ・ダーン [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

元アスリートらしく、機敏で率直なテスを演じたローラ・ダーンは、ブラッドリー・クーパーと10年来の友人だという。クーパーの前2作の制作過程でも、脚本を読み、スクリーンテストを見守り、編集室にも顔を出した。ダーンはこの作品への出演オファーを受けたとき、脚本をまだ読んでいなかったにもかかわらず、即座に了承した。キッチンで立ち話をしている際に出演オファーを受けた、そのときの情景をよく覚えているという。「ブラッドリーが言ったのは、これは人が人生のなかでいかに自分を再定義し続けなければならないかという物語だということ。20年前に結婚した相手は、いまの自分でも、いまの二人でもない。その核心がとても深く刺さりました」。そして、こう続ける。

「テスはオリンピック選手のように、物事に精度をもって取り組む人です。私はこれまで、非常に個性的な女性たちを演じてきたことをとても幸運に思っています。でも、痛みを抱えながら理解を求めて探し続ける、これほど緻密で多層なキャラクターを演じたことはありませんでした。それから、映画のなかで自分の身長がこれほど個性として活かされたのも初めてでした。二人とも背が高いので、ウィル(・アーネット)と私は目線がぴったり合うんです。長身の男性と並んで、縮こまらずに対等でいられるのが不思議な感覚でした」。さらにダーンは、テスという人物がいかに現代的かについて彼女なりの考察を語る。「『いまの私を見て』と言える女性を演じることに贅沢さを感じました。セクシーでもあり、新しくもあり、ラディカルで、複雑で、脆くて、そして大人のなかに宿る子どもの部分のようでもあります。その全部を見てほしいと言える人物を演じられることが、本当にありがたかった」。

本作はクーパー監督の友人の実話をもとに制作された [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
本作はクーパー監督の友人の実話をもとに制作された [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

撮影開始の数か月前から、ダーンとアーネット、そしてクーパーの三人でリサーチやワークショップ、読み合わせを重ね、映画のなかでは直接描かれない「25年間の結婚生活」を身体に馴染ませていった。「テスのキャリアや情熱、子どもたちに対する思い以外の、現在の関係に至るようになった真相には直接触れません。でも私たちはその25年を体の中で感じ取らなければならなかった」とダーンは語る。「ブラッドリーはクライマックスのシーンで、ただウィルを見ている私の顔に、結婚の25年間すべてを宿らせてほしいと言っていました。カメラをこちらに向けるから、ただそこにいてくれればいい、と。私は『え?』と思いました(笑)。でも、やり遂げなくてはならなかった。自然に、痛みを伴いながらも、どこか笑いも含んだ感じで」。それらのシーンでクーパーは撮影も担当し、手持ちカメラを至近距離で操作していたという。

「どこにでもいる男の誠実な肖像でありたかった」(ウィル・アーネット)

アレックスを演じるのは、エミー賞4度ノミネートの名優ウィル・アーネット [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
アレックスを演じるのは、エミー賞4度ノミネートの名優ウィル・アーネット [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

一方、ウィル・アーネットにとって、この映画はコメディアンとして知られる自分自身に真正面から向き合うチャンスだった。「ブラッドリーとは知り合って25年以上になりますが、その間に人生の様々なステージを経て、お互いのことを本当によく知るようになりました。浮き沈みも経験し、若いころからいまに至るまで、お互いを見てきたからです。だから、根底に信頼があるんだと思います」とアーネット。彼は、撮影準備からニューヨークの「ザ・コメディ・セラー」に通い、実際のスタンダップ・コメディを披露する訓練を積んだ。ある夜、二本続けてステージに上がり、最初のセットは満員の笑いを取り、意気揚々としていたところへ「隣のステージに空きが出た」と告げられた。5分後、二本目のステージに上がると「一発目のジョーク、無反応。二発目のジョーク、無反応。生まれて初めて完全にすべった。唯一聞こえた笑い声は、会場の奥からだった。見るとブラッドリーが腹を抱えて笑っている。僕が惨敗するのを見て」。それでもステージをやり切って感じたのは、妙な解放感だったという。

コメディとドラマの境界について問うと、アーネットはこう答えた。「コメディはタイミング、ドラマはどちらかというと緩急です。(この役柄を演じるのが)いまの自分の年齢だったからよかったのかもしれません。本物らしく感じさせるための緩急がつかめていたから。シーンの感情的な部分と笑いがつながることで物語にアクセスしやすくなり、真実味のある方法で表現できるようになりました。そこがコメディとドラマの二つが交わるところかもしれません」。

アレックスは赤裸々な夫婦の関係を“笑い”に変えながら、新たな生きがいを見つけていく [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
アレックスは赤裸々な夫婦の関係を“笑い”に変えながら、新たな生きがいを見つけていく [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

そもそもアーネットがこの役と出会ったのも、クーパーと共通の友人であるイギリスのコメディアン、ジョン・ビショップから実体験を聞いたことがきっかけだった。「人生の岐路に立つ男の話を聞いたとき、いまの自分にとって響くものがありました。物事は、ちょうどいいタイミングで起きるものでしょう。2年前の自分にはこの役はできなかったと思う。あの時期に自分の感情にこれだけアクセスできていたかどうか、わからないので」。20歳でトロントからニューヨークへ渡り、俳優を志して以来ずっと抱いていた夢が、54歳でようやく形になった。アーネットがアレックスというキャラクターに込めたのは、そんな思いだった。「誰もが知っている人物、たとえば隣に住んでいる男、バスで見かける男、私たちの日常のなかにいる男、人生の岐路に立ち、それでも最終的には愛する人ともう一度つながりたいと願っている、そういうどこにでもいる男の誠実な肖像でありたかったんです」。

クーパーは、監督としての指針を「真実の絶え間ない追求」と断言する。全編ほぼ1本の40mmレンズ、手持ちカメラで撮り切るという撮影手法も早い段階から固めていた。今作では自らカメラを操作し、俳優のすぐそばで全編を撮り続けた。「カメラを手にすることで、以前の2作で主演俳優として現場にいたときと同じように、物語のど真ん中にいられるようになりました。俯瞰から見守るのではなく、フィールドのなかに入っていられる感覚がとても好きなんです」。そのカメラが最も躍動するのが、映画のクライマックスに向かうショットだ。「アレックスは屋根裏部屋から立ち上がり、家の中を歩き、そのままステージへ上がる。ようやく、自分の感情を表現する場所を見つけた。僕はカメラで彼を追おうとしている。ウィルは歩き、僕から逃げようとしている」。ダーンに対し、「二人の25年間を宿らせた表情をしてほしい」という演出をしたシーンを、クーパーは別の視点からそう描写している。過去2作でも、愛した人との関係が変化する道のりを描いてきたクーパー監督は、また新たな「愛の物語」を作り出した。

アレックスとテスが見つけた、“かけがえのない人生”とは? [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.
アレックスとテスが見つけた、“かけがえのない人生”とは? [c]2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

今作には、親友であり監督であるクーパーへの、ダーンとアーネットの格別の信頼が宿っている。映画を見終わったとき、名優としてだけでなく、名匠としても着実に階段を登るブラッドリー・クーパーの誠実さを感じられることだろう。

取材・文/平井伊都子

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