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空間から粒子が出現する様子を初めて捉えた――真空のゆらぎから質量が生じる可能性

  • 2026.4.14
空間から粒子が出現する様子を初めて捉えた――真空のゆらぎから質量が生じる可能性
空間から粒子が出現する様子を初めて捉えた――真空のゆらぎから質量が生じる可能性 / Cre4dit:Canva

空っぽの部屋を想像してみてください。

家具も空気も光も、全部取り去った、完全な「無」の空間です。

ところが現代物理学は、ずっと奇妙なことを言い続けてきました。

完全な真空は、実は何もない場所ではない、と。

目に見えないほど短い時間のあいだに、粒子と反粒子のペアが”ポッ”と現れては、すぐに消えている。

真空とは、そんなちらちらと泡立つ場所なのだ、というのです。

これは誰かの思いつきではありません。

そう考えないと、この世界のさまざまな現象がうまく説明できないのです。 だから物理学者たちは長いあいだ、真空はそういうものだと信じてきました。

けれど、その”出現の瞬間”を実験で捉えた人は、これまで誰もいませんでした。

あまりに一瞬の出来事で、捕まえる手立てがなかったのです。

真空の底で起きているはずの出来事は、理論の計算式の中にだけ閃く、幻のようなものでした。

しかし今回、アメリカのブルックヘブン国立研究所(BNL)に集まった国際チームが、ついにその瞬間の“決定的な証拠”を掴みました。

論文の中で研究チームは、「最初の証拠」という言葉を使い、真空からクォークという粒子が生まれたことを示す、史上初めての実験的な手がかりを得たと宣言したのです。

研究内容の詳細はは2026年2月4日に『Nature』にて発表されました。

目次

  • 真空は「沸き立つ海」である
  • 空間から粒子が出現する様子が初めて観測された
  • クォーク閉じ込め、質量の起源、量子もつれ、空間――4つの大問題に開いた扉
  • 専門家向け補足:この結果はどこまで言えるのか

真空は「沸き立つ海」である

真空は「沸き立つ海」である
真空は「沸き立つ海」である / Cre4dit:Canva

物質をどんどん細かくしていくと、最後は原子よりもずっと小さな素粒子にたどり着きます。

なかでも、陽子や中性子といったあなたの体を形作る粒の中身を担っているのが、「クォーク」と呼ばれる素粒子です。 あなたの体も、机も、星も、その根っこをたどれば原子核の中のクォークに行き着きます。

ところがクォークには実は6種類あり、陽子や中性子などに使われているのは「アップ」と「ダウン」という2種類の、いちばん軽くてありふれたクォークです。

残りの4種類(チャーム、ストレンジ、トップ、ボトム)は、普段は姿を見せない、少し珍しいクォークたちなのです。

しかし、この本来なら珍しいクォークたちが、意外な場所に顔を出します。

それが、真空のゆらぎです。

何もないはずの真空にも、ごく微細なエネルギーのゆらぎが絶えず走っています。

そのゆらぎの正体こそが、エネルギーがほんの一瞬だけ粒子の姿を借りて現れ、すぐに消えていくという奇妙な現象。

このとき今回の研究で主役となるのが、”ストレンジ(奇妙)”という名前を持つこのクォークと、その相棒である反ストレンジクォークです。

ただその寿命はあまりにも短く、一秒を一兆回に分けた、そのさらに一兆分の一にも満たないほどの一瞬。

生まれて、消えて、また生まれて、消えて──。

現れたそばから消えていくこのつかのまの存在を、物理学者は「仮想粒子」と呼びます。

水面にぷくっと浮かんで、すぐに弾けてしまう小さな気泡、そんなイメージに近いでしょう。

とはいえ、これまでこの一瞬の気泡を、誰ひとりとして実験で掴まえた人はいませんでした。

理論の計算式の中ではたしかに存在が予言され、実在を示す間接的な状況証拠もいくつも積み重ねられてきました。

しかし、その姿を「まさに生まれた瞬間の粒子」として捉えた者はいない。

真空の内側は、長らく人類にとって、どうしても最後のひと押しで手が届かない領域だったのです。

そこで研究者たちは力技を試しました。

空間から粒子が出現する様子が初めて観測された

空間から粒子が出現する様子が初めて観測された
空間から粒子が出現する様子が初めて観測された / マンガチックに表現すれば、こうなります。 空間には綺麗な顔をした人間が埋め込まれていて、揺らぎによってときたま綺麗な顔だけが出現することがわかっていますが、それはあまりにも一瞬で消えてしまいます。 そこで研究者たちは空間の中にいる綺麗な顔の人間を物凄い勢いで殴りつけます。 すると綺麗な顔が、ボコボコの顔に変化して、回転しながら飛び出してきます。 そのボコボコの顔と回転を調べることで、空間から顔が出現したという証拠を得るのです。Credit:Measuring spin correlation between quarks during QCD confinement

この見えない世界に、どうにか手を伸ばせないか。

アメリカ・ブルックヘブン国立研究所に集う世界中の物理学者チーム「STARコラボレーション」は、大胆な方法で挑みました。

作戦はシンプルでした。 真空に、とてつもないエネルギーを叩き込んでやる。 そうすれば、一瞬で消えるはずだった仮想のペアが、消える前に本物の姿で留まってくれるはず──。

研究チームは、陽子を光の速さの99.996パーセントまで加速し、別の陽子と真正面から衝突させました。

この衝突の衝撃で、真空の海からストレンジクォーク対がまさに引きずり出される、という算段です。

ただし、ここで一つ厄介な掟があります。

どんなクォークも、単独では決して存在できない、という物理法則です。

そのため真空から引きずり出されたストレンジクォークと反ストレンジクォークは「クォーク➔ラムダ粒子➔陽子と中間子」と一瞬で変わってしまいます。

そして現在の物理学ではそれを止めることはできません。

「それならストレンジクォーク出現の瞬間なんか観測できないじゃないか?」

と思うかもしれませんが、大丈夫です。

物理学にはとっておきの手がありました。

最終的に飛び散る陽子と中間子には、真空から生まれた瞬間の”指紋”が残されているのです。

その正体が、「スピン」と呼ばれる性質です。

難しく考える必要はありません。

スピンとは、それぞれの粒子が持つ”向き”のようなもの、とイメージしてもらえれば大丈夫です。

コインに表と裏があるようなものです。

理論の予言によれば、真空から同時に生まれるストレンジクォークと反ストレンジクォークのペアは、必ず同じ向きのスピンを持って誕生するはずでした。

双子が生まれた瞬間から同じ顔立ちを共有しているように、このペアも生まれながらに共通の印を帯びているのです。

そして大事なのはここからです。

その印は、ストレンジクォークがΛ粒子に姿を変え、さらに陽子と中間子へと崩壊しても、最後まで消えずに受け継がれることが理論的に分かっていました。

つまり、最終的に飛び散る孫粒子の向きを精密に測れば、生まれた瞬間の双子のスピンを逆算できるのです。

ちなみに、なぜ数あるクォークの中でストレンジだけが今回の主役になれたのか。

それは、ストレンジだけが”律儀な運び屋”だからです。

アップやダウンのような軽いクォークの場合、変身後の粒子に複数のクォークの情報が混ざってしまい、元のスピンを読み取ることができません。

ところがストレンジクォークから生まれるΛ粒子は、元のクォークのスピン情報をほぼ100%そのまま受け継いでくれる──そんな特別な性質を持っていたのです。

もし揃っていれば、「この二つは真空から一緒に生まれた、紛れもない双子である」という動かぬ証拠になります。

コラム:なぜ「揃っていたら証拠になる」と言えるのか
研究チームが「スピンが揃っていれば双子の証拠」と言えるのは理由があります。 通常、陽子と陽子を衝突させて生まれる粒子たちのスピンは、互いに相関を持たない──これは物理学者のあいだで長年確かめられてきた事実です。 衝突のエネルギーは、無数の経路でさまざまな粒子に分配されます。 そこから生まれてくる粒子たちは、それぞれが独立したプロセスで作られるので、ある粒子のスピンとまた別の粒子のスピンのあいだには、基本的に関係が生まれずスピンもバラバラです。 ビリヤードの初球で飛び散る玉たちがバラバラの回転をするのに似ています。 しかし、もしその中に、同じ方向に回転する奇妙なペアが存在した場合、それはただ衝突でばらけた存在と断言するには無理が出てきます。 ですから、測ってみてスピンの向きに揃いが見られれば、それは”何か特別な起源を共有している”証拠になる、というロジックが成り立つわけです。 もっとも飛び散った2粒子のスピンが偶然同じ方向になるという場合もありえます。 ですが今回の研究では6億回の衝突事象を調べ、単なる偶然の可能性を潰しています。

結果は、見事に理論の予言通りでした。

スピンは偶然では説明のつかない強さで揃っていたのです。

偶然そうなる確率は、十万分の一以下。 統計のノイズではあり得ない、双子として生まれた確かな痕跡でした。

さらに興味深いことに、二つの粒子が離れた方向に飛び散ると、スピンの揃いは消えていました。

これは、離ればなれになる途中で周囲のノイズに揉まれ、双子の絆が少しずつほどけていった様子を、そのまま数字が映し出していました。

粒子たちに刻まれた指紋を丁寧に読み解くことで、真空の底で起きていたとみられる粒子生成の痕跡が、くっきりと浮かび上がったのです。

研究チームは論文のなかで、真空から生まれたクォーク対が、姿を変えながら最終的な粒子になるまでの道のりを、スピンという手がかりで初めて追跡できたと報告しています。

クォーク閉じ込め、質量の起源、量子もつれ、空間――4つの大問題に開いた扉

クォーク閉じ込め、質量の起源、量子もつれ、空間――4つの大問題に開いた扉
クォーク閉じ込め、質量の起源、量子もつれ、空間――4つの大問題に開いた扉 / Cre4dit:Canva

なぜこの実験が、それほど大きな意味を持つのでしょうか。

研究チームは論文のなかで、今回の発見がいくつもの大きな謎に新しい光を当てると述べています。

一つ目は、「クォークはなぜ独り歩きできないのか」という長年の謎です。

先ほどちらっと触れたように、クォークには不思議な掟があります。

それは、単独では決して存在できないというもの。

必ず仲間と手をつないで、ラムダ粒子や陽子といった”集団”の形でしか姿を見せないのです。

どうしてそんな決まりがあるのか。

なぜクォークたちは一人ぼっちになれないのか。

物理学者たちは長年この謎を追い続けてきましたが、決定的な答えはまだ出ていません。

ところが今回、研究チームはクォークが真空から飛び出し、仲間と手をつないでラムダ粒子になるまでの道のりを、スピンという手がかりで初めて追いかけることに成功しました。

“なぜ独り歩きできないのか”という謎を、その現場を追跡することで解きほぐす──そんな新しい道が開かれたのです。

二つ目は、「物の重さはどこから来ているのか」という意外な謎です。

あなたの体にある陽子や中性子は、三つのクォークで出来ています。

ところが驚くべきことに、クォーク三つ分の重さをすべて足し算しても、陽子全体の重さの1パーセントにも届きません。

2012年に質量を与えるとされたヒッグス粒子がかかるのも、この1パーセントの部分で残りの99パーセントは、材料のどこにも存在しないのです。

では、その膨大な質量はどこから来ているのか。

これは現代物理学でもまだ決着のついていない、最大級の謎のひとつです。

ただ有力な答えの1つとして、物質の重さの大半は、クォークが”真空という沸き立つ海”と触れあうことで生まれている──というものがありました。

ここで鍵になるのが、真空にクォークと反クォークのペアが大量に湧いては消えを繰り返している状態、物理学では「クォーク凝縮」と呼ばれる現象です。

このペアたちと触れあいながら動き回るクォークは、真空の波との絡まりで抵抗のようなものを受け、結果として重く振る舞います。

この凝縮が質量の起源を支えていると考えられてきましたが、実験で直接調べる手立てがなかったため、長らく理論の計算式のなかでしか語れませんでした。

今回の発見はその状況を変えました。 ストレンジクォーク対のスピンの揃い方を調べることで、この真空凝縮そのものを直接覗き込めることが、初めて示されたのです。

(※陽子の質量の起源は複雑で、クォーク凝縮、運動エネルギー、グルーオン場の働きなどが絡み合って生まれていると考えられています。クォーク凝縮はその一翼を担う重要な要素です)

ストレンジは、私たちの体の材料ではありません。

しかし、真空で起きている”絡まり合い”の性質はアップにもダウンにもストレンジにも共通して現れると考えられています。

ストレンジという”代表選手”を通じて真空の内部をのぞき込めるようになったということは、あなたの体重の99パーセントを支えている”見えない海”の正体にも、同じ手法で近づいていけることを意味するのです。

三つ目は、宇宙が生まれた瞬間を探るための新しい道具になります。

ビッグバンから、ほんの一兆分の一秒後。

宇宙は想像を絶する灼熱の状態にありました。

あまりに熱くて、クォークたちは仲間と手をつなぐ余裕もなく、自由に飛び回っていたと考えられています。

このとき、真空の性質は今とはまったく違っていたはずだ──物理学者たちはそう予想しています。

今回の研究で生まれた「スピンで追跡する手法」は、この宇宙最初期の真空の性質を調べるための新しい道具になります。

つまり、宇宙の始まりの瞬間を実験で再現し、その中身を探る手段が手に入ったのです。

四つ目は、量子もつれの新しい実験舞台が生まれたことです。

今回、二つの粒子が近くに飛んだときはスピンが揃っていたのに、遠くに離れると揃いが消えていました。

これは、一緒に生まれた双子の”目に見えない絆”が、離ればなれになる途中で少しずつほどけていったと解釈されます。

物理学ではこれを「量子もつれが解けていく過程」(量子デコヒーレンス)と呼び、量子コンピュータの研究でも中心的なテーマになっています。

興味深いのは、この量子的な絆が、実験室の精密な装置ではなく、”真空にエネルギーを叩き込む”というだけで自然に現れたことです。

これは見方を変えれば、真空という”何もないはずの場所”そのものが、量子的な絆を生み出す母体である可能性を示唆しているのかもしれません。

粒子物理学という”極小の世界の学問”と、量子情報科学という”未来のテクノロジー”が、今回のデータを通じて手を取り合う──そんな予感を感じさせる結果なのです。

専門家向け補足:この結果はどこまで言えるのか

今回の結果の核心は、STAR実験が直接見たものが「真空そのもの」でも「質量生成そのもの」でもなく、陽子どうしの衝突後に再構成された短距離のラムダ・反ラムダ対の相対偏極(relative polarization:2粒子のスピンのそろい具合)だという点です。

中心となる観測量は、崩壊後の陽子や反陽子の飛び方から元のスピン情報を引き出せる、ラムダ粒子特有の自己解析的な弱崩壊(self-analyzing weak decay:崩壊生成物の向きから親粒子のスピンを読める崩壊)を使って定められています。

著者らは、rapidity(ビーム方向の運動を表す変数)差とazimuthal angle(検出器を見下ろしたときの方位角)差が小さい、いわゆる短距離のラムダ・反ラムダ対でのみ正の相関を見いだし、その大きさをおよそ18パーセントと報告しています。

一方で、同種粒子どうしの組み合わせや、角度的に広く離れた組み合わせでは有意な相関は見えていません。したがって、この論文の新しさは、どの最終状態の組み合わせにだけ、初期状態の情報が残るのかを切り分けたことにあります。

著者らの解釈では、この信号はQCD真空(クォークとグルーオンを支配する理論が想定する真空)に由来する strange quark–antiquark pair(ストレンジクォークと反クォークの対)のスピン相関が、hadronization(クォークが複合粒子へ移る過程)を経たあとも完全には失われていないことを示唆する結果として位置づけられています。

論文中では、真空中の chiral condensate(クォーク対の凝縮状態)に由来する quark pair が spin-triplet(2つのスピンが平行にそろった状態)で生まれるという考え方を土台にし、その痕跡がラムダ・反ラムダ対に移っている可能性を論じています。

ただ実際に観測されたのはあくまで最終状態ハドロンのスピン相関であり、そこから初期のクォーク対の性質を逆算しているのです。

論文でも「高エネルギーの陽子どうしの衝突で、ラムダと反ラムダのあいだに正のスピン相関が見えた最初の証拠」というように表現しています。

それでもこの結果は、量子真空に由来すると解釈されるクォーク対のスピン相関が、実在粒子の観測量として現れうることを示す実験結果として位置づけるられるものです。

一方で最も大きな注意点は、feed-down(より重い粒子の崩壊から混ざってくる成分)の扱いです。論文では、測定されたラムダ・反ラムダ対のうち、両方とも一次生成とみなせるものは少数で、かなりの割合がより重い strange baryon(ストレンジバリオン:ストレンジクォークを含む重いバリオン)の崩壊由来だと見積もられています。

つまり、観測されたスピン相関は「きれいな一次生成ラムダ対」だけの信号ではなく、複数の起源が重なった結果です。著者らはこの点をモデル計算に折り込み、短距離領域では SU(6) model(古典的なクォーク模型)と整合的だと論じていますが、この一致はモデル依存の解釈を含んでいます。

とくに、ラムダのスピンを strange quark がどの程度担っているのかという問題は、今回の結果でかなり絞られたとはいえ、まだ完全に閉じたわけではありません。

また、著者らは別の起源候補にも一定の検討を加えています。たとえば、gluon splitting(グルーオンがクォーク対へ分かれる過程)については、測定した運動量範囲ではシミュレーション上の寄与が小さいとしていますし、hadronic final-state interaction(粒子が最後に出てくる直前の相互作用)についても、femtoscopic correlator(ごく短距離の最終状態相互作用を見る相関量)を用いて影響は小さいと論じています。

さらに、共通の生成面に対する単純な global polarization(全体的な偏極)では説明しにくいことも補足的に示されています。ただし、こうした除外は「すべての競合機構を最終的に片づけた」という意味ではありません。本論文は、どの機構がどの運動学領域で寄与しているかを今後さらに検討するための観測量を提示したものといえます。

とくに後半で論じられているのは、decoherence(デコヒーレンス:量子的なそろいが環境との相互作用で失われること)と entanglement(量子もつれ)の扱いです。

著者らは、粒子どうしの運動学的な分離が大きくなるにつれて相関が弱まることを、デコヒーレンスや他の相互作用機構の可能性と結びつけて議論しています。しかし同時に、相対偏極という一つの量だけでは、量子もつれの全体像までは決めきれないことも認めています。

論文中でも、より一般的な correlation tensor(相関の全成分を表す記述)に基づく解析や、feed-down の影響をさらに厳密に見積もる必要があるとされています。

したがって、今回の結果を「量子もつれの決定的観測」と書くのは強すぎます。より限定的には、ハドロン化の過程における量子的相関を実験的に議論できることを示した結果と表現できます。

最後に、この研究を mass generation(質量生成)や confinement(閉じ込め:クォークが単独で存在できない性質)の文脈でどう位置づけるかです。

今回の論文は、ハドロン質量の起源を直接解明したわけではありませんし、カイラル対称性の破れと閉じ込めの因果関係を最終的に決着させたわけでもありません。

一方で、これまで理論や格子計算で議論されがちだった問題に対して、最終状態のスピン相関という実験的な窓を与えたことは重要です。

この手法は今後、より高い運動量領域での gluon splitting の寄与の切り分けや、重イオン衝突での chiral symmetry restoration(カイラル対称性の回復)の探索にもつながりえます。

今回の成果は、未解決の問題に対して新しい実験的手法を与えた点に意義があります。

元論文

Measuring spin correlation between quarks during QCD confinement
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09920-0

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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