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建築家・山田紗子が「TOTOギャラリー・間」で初個展。建築が奏でる、空間のポリフォニーとは

  • 2026.4.14
GION

建築文化の発信に特化したギャラリー「TOTOギャラリー・間」。年に3回、気鋭の国内外の建築家をピックアップして、乃木坂のスペースで3カ月ほど個展を開く。今年、選ばれた一人が、山田紗子。1984年生まれで、慶應義塾大学でランドスケープデザインを学び、大阪万博の大屋根リングで有名な藤本壮介の事務所を経て、2013年に独立。宮沢賢治の故郷、新花巻図書館のコンペティションで共同設計者として選出され、勢いを増す中、スタッフの数もぐんと増え、六本木通り沿いの事務所に移転したばかりだ。

「自邸《daita2019》ができ上がったのをきっかけに、いまの事務所メンバーが集まってきました。そこから約5年の活動を俯瞰してみると、私たちがつくる建築はすでにそこにあるものや条件として必要になるものをそれぞれ豊かなメロディーとしてとらえて隣り合わせているんじゃないかと。その思いをこめて、“parallel tunes”という展覧名にしました」と山田は語る。

パラレル・チューンズとは山田による造語で、簡単に言えば、「個性を並走させる」ということ。展覧会のメインヴィジュアルになっている《miyazaki》は、施主が持ち込んだベッドや家具だけでなく、色鮮やかな柱や階段、それぞれの要素が個々に際立ちながら、三角形の空間にリズムを与えている。パラレル・チューンズが体現された代表例だ。

❝私たちがつくる建築は、すでにそこにあるものや条件として必要になるものを、それぞれ豊かなメロディーとしてとらえて隣り合わせているんじゃないか❞

《daita2019》Tokyo,2019 Kei Sasaki
《miyazaki》Kanagawa,2022 Rumi Ando

「チューンズ」とは英語で「旋律」を意味するので、音楽的な素養について尋ねてみると、意外な回答が得られた。「私自身は、楽器をあんまりやってこなかったんですが、中学生になる息子が音楽が好きで、よく自宅でピアノを弾いています。一緒にクラシックを聞いてるうちに、音楽の歴史に関心を持つようになりました。そんなとき、自宅を訪れた人がうちを、ポリフォニー(多声音楽)みたいだと言って。自分としては無意識でしたが、その感想がとてもしっくりきたんです」

実際、自邸《daita2019》は、敷地の半分が屋外で、テラスや階段、植物が庭の密度をあげながら、緩やかに外と内をつなぐ。鉄骨が斜めに伸び、本棚は階段をまたぎ、あちこちからカーテンが垂れる。箱型を水平垂直に分割する二世帯住宅や近代住宅とはまったく異なる文法を持つ。

「ホモフォニーが西洋音楽の主流になってからも、晩年のベートーベンや現代音楽は、構築的な響きを崩していくとき、ポリフォニーを取りいれています。硬直化した現代建築が、古代や近代以前を振り返る流れとどこか似ていると思いました」

自邸の着想源は、野生のマウンテンゴリラだという。20年近くゴリラを研究し、現在は年の半分をルワンダで過ごしている母とともに、ゴリラが森の中で枝やくぼみを使って即興的に居場所をつくっているのを見て、生活習慣も価値観も違う大人たちがストレスなく同居する場づくりの参考になると考えた。元々、山田の母は野生動物を撮影する映像ディレクターで、山田が幼い頃から頻繁にアフリカや世界のへき地に赴いていたそうだ。

「母がケニアのサバンナや中国の森の奥地からときどきファックスを送ってきていて、その場所の様子や動物たちのことが書かれていました。ファクスがだんだんメールになって、写真も送られてくるようになり、母が撮影した映像を小さな画面で見せてもらうこともありました。ひとりっ子だった私にとって母という近しい存在が、自分とは違う場所や時間を行き来する生活を繰り返す中で、こことは違う世界が確かに存在するんだという感覚が、小さいころからありました。もしかすると、並走する世界の感覚は、そのときの経験に由来するのかもしれません」

親の移動を通して、地球の裏側で進む時間が意識の中に刻まれ、身体化した世界観を持つ。母の蔵書や作品を通した自然がまた、イマジナリーな原風景となり、独特の世界を山田の内面に構築していったようにも思う。ひょっとすると、母が野生動物の群れの中で軽やかに過ごしている姿を日本から想像していたからこそ、自宅を設計する際に、ゴリラのすみかに見立てることができたのかもしれない。

《nu:kuju》Oita, 2025 © Yosuke Ohtake

しばしば、建築家は環境負荷や社会的責任を問われるが、山田は構造、法規、コスト、環境など、特定の要素だけを特権化することはない。新作の観光牧場《nu:kuju》でも、ランドスケープと建築の両方をデザインしながら、人間も動物も一つの要素としてフラットに、ときにスケールを無視して扱うことができた。

「空間が置かれる環境を新しく一からつくるということは、街中の新築でも、考えづらいし、まして、コントロールできない自然環境ではありえないことです。牧場のような人工と自然がせめぎ合う場所にも歴史があります。私たちはイメージボードをつくりながら既存を整理して、何を加えるとそれらの関係がより生き生きとするのかを考えていきます。こうしたドローイングは最終的に本物として現実世界に建ち上がる建築よりも、ときに純度の高い理想や価値観が刻まれることもあります」

山のそばに羊が描かれ、畜舎の輪郭と外部空間が混ざり合うイメージボードは、TOTOギャラリー・間の天井高2.4mまで引き伸ばされて、展示される予定。また、もう少しで完成する蛇型の別荘を含む3つの巨大な模型も、事務所の中でひしめいていた。

ポリフォニーのように、それぞれが「歌う」ように存在する建築は可能か。個々につくられたプロジェクトが、展覧会という非日常的な環境の中で集められたとき、それらはどのように合奏するのだろう。

▶建築家、山田紗子の初の個展。山田のルーツには、多様な生命が奏でる、無数の歌声が響く大地がある。山田が目指す建築とは、統制された旋律美ではなく、それぞれの存在が主張し、反響し合うことで新たな音律を生み出す、騒がしくもにぎわしい在り方。複雑さを増す世界を多声的と肯定しつつ、躍動感のある環境を創り出す。本展では、ギャラリー空間を環境と捉え、自然、生物、ランドスケープなどが共鳴する独自の世界を表現する。4/16~7/12、TOTOギャラリー・間

GION

山田紗子: 山田紗子建築設計事務所代表。東京藝術大学大学院で建築を学び、在学時に東京都美術館主催「Arts&Life:生きるための家」展で最優秀賞を受賞。近年は「EXPO 2025 大阪・関西万博休憩施設」などの公共空間設計も。第3回日本建築設計学会賞大賞、第36回吉岡賞、Under 35Architects exhibition 2020 Gold Medal、第3回小嶋一浩賞など受賞歴多数。

Realization: Mina Oba From Harper's BAZAAR May 2026 Issue

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