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今泉力哉監督が語る“ロマンティック・ラブ”の醍醐味

  • 2026.4.14
©日本テレビ

“好き”とはなんなのか、“好き”な相手は一人だけ? 恋愛に迷う主人公が賛否両論を呼んだ1月期のドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』を手掛けた今泉力哉監督。映画『愛がなんだ』(2019年)、『街の上で』(2021年)、『窓辺にて』(2022年)、恋愛考察バラエティ『セフレと恋人の境界線』(2025年)など、恋愛における感情の機微を繊細に、時にユーモラスに描く恋愛劇の旗手として知られている。多様な生き方が尊重され、コスパ・タイパが重視される時代に考える「ロマンティック・ラブ」の醍醐味とは? 今泉監督に聞いた。

恋愛の小さい山や小さい波の苦しさにフォーカスしたい

『冬のなんかさ、春のなんかね』Huluほか各種配信サービスで全話配信中。 ©日本テレビ

「『冬のなんかさ、春のなんかね』は、恋人がいる主人公が別の男性とラブホに行ったり、一見奔放に見える姿に、主人公を好きになれないと言われたりしましたが、実はモデルにした人物がいて。その人も常に複数人の男性がいる感じでしたが、本人は楽しそうじゃなかったし、それなりに苦しんでいた。そういう人が少しでも生きやすくなるといいな、と思って。恋愛は、人生の中のそのときどきで答えや正解が変わるし、経験を積むほど許容できる範囲も広くなる。誰にでもいい面とマイナスの面があるので、非のない人を描きたいとは思わないですね」

『冬のなんかさ、春のなんかね』 Huluほか各種配信サービスで全話配信中。 ©日本テレビ

人の数だけ恋愛を通して覚える感情は多種多様。小さな揺らぎが作品の題材に。

「たとえば別れのときに、振られる側の痛みは描かれることが多いですが、振る側の痛みはあまり可視化されてこなかったと思う。そういうところもなきものにしたくないし、恋愛の中の小さい山や小さい波だってこんなに苦しいのに、っていうところにフォーカスしたい気持ちはあります。ただ、恋愛ものを作りながらも、恋愛が絶対必要なのかということもずっと考えています。アセクシャル(他者に対して性的欲求や性的魅力を感じない、感じにくい)やアロマンティック(他者に対して恋愛感情を抱かない、抱きにくい)じゃなくても、恋愛って本当に勘違いくらいのテンションで始まったりするのに、『みんななんで堂々と好きって言えるの?』と思っている人、好きな人がなかなかできないっていう人もいると思うので」

リミットや人生のタイミングで選択も正解も変わる

『セフレと恋人の境界線』Prime Videoで独占配信中。 ©2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.

人と人のわかり合えなさや、すれ違い、気まずさなど、言葉にできない感情のかすかな揺れをすくい取るユーモアさも今泉作品ならではの魅力だ。

「モテてきた人生ではなかったので、付き合った一人一人との間に起こったことはよく覚えています。今回のドラマ『冬のなんかさ~』でも男性が告白して主人公に『ちょっと待っててほしい』と言われるシーンは自分の学生のころの実体験で、どれだけ待てばいいのか、脈ありなのかもわからなくて悶々として。『ちょっと』って何日? 何週間?みたいな。それが人生初の彼女でした。好きになった人と、自分の趣味や好きなものが違ったりすると世界が広がる。アプリなどであらかじめ趣味が合う人と出会うよりも、違いがあるところこそが面白いと思うので、自分は『ロマンティック・ラブ』思考の人間なのかなと思います。ドラマでも描いたのですが、たとえば余命が半年だとしたら、好きに生きたらいい、会いたい人に会ったらいい、とか言われるのに、この先50年生きられるなら、一人の人を大切にしろ、結婚するべきだ、とか言われたりする。どのくらい生きられるかなんて誰にもわからないのに、リミットや人生のタイミングで、正解も誠実さも変わるのって変では?とか、二人の正解は二人以外にはわからないことにも興味があります」

『セフレと恋人の境界線』 Prime Videoで独占配信中。 ©2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.

“好き”な感情に振り回されず、価値観や将来設計など合理的に相手を選ぶ、今注目されている「ロジカル・ラブ」が関係が終わらないためのすり合わせだとしたら、「ロマンティック・ラブ」は“終わり”も内包しているといえるのか。
「恋愛感情的に好きになると、やっぱり終わりも見え隠れしますよね。一緒にいたいから好きということと、好きだから一緒にいられるということは別物というか、好きなのに一緒にいるほうが苦しくなってしまうことはあると思います。性的なことも絡んで、付き合って終わりがくるなら、別れて会えなくなるなら、付き合わないほうがいいと躊躇する人もいるんじゃないかと。ものすごい感情の熱量はないけど心地よさを選択するのか、そのときの感情に任せるのが正しいのか。恋愛の答えのなさにどうしても惹かれてしまいます」

“男女の友情は成立するか”の新機軸を描いてみたい

『セフレと恋人の境界線』 Prime Videoで独占配信中 ©2025 Amazon Content Services LLC or its Affiliates.

今泉監督が今興味を持っているのが、永遠のテーマ“男と女の友情は成立するか?”の新機軸。

「これまで男女の友情の議論って、お互いに性的な興味はなくて、同性の友達みたいにバカな話もできて、ずっと続いていくみたいなことを言われていましたが、僕がもうひとつ男女間で友情が成り立つものとして、一度すべてを経験して終わった後の男女に訪れるんじゃないかと。もう、裸も見て、キスもセックスもしたことのある関係性の二人、それが付き合っていた、いないにかかわらず、性的に惹かれるみたいなことを通り越した二人に友情の可能性があるかもしれない。結局性的な関係のない二人だと、友情になるくらい好きで仲は良いわけだから、どちらかが触れたいとか恋愛感情が生まれて、でも友情か恋愛か躊躇して苦しくなってしまうことって結構あると思うんです。でも終わった二人はそこはもう経験済み。別れた相手にはもう二度と会わないっていう人が多いと思うんですが、別に会ったらいいんじゃないか、会って話したら楽しい相手なわけで、その関係性、友情をいつか描いてみたいですね」

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今泉力哉/映画監督。1981年、福島県生まれ。大学時代から映画を作り始め、卒業後、大阪NSC(吉本総合芸能学院)を経て、本格的に映画の道へ。『愛がなんだ』(2019年)、『街の上で』('21年)など、会話に富んだ恋愛劇に定評がある。杉咲花・多部未華子W主演のPrime Original新ドラマシリーズ 『クロエマ』が、6月12日よりPrime Videoにて世界独占配信。

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『冬のなんかさ、春のなんかね』

まっすぐ“好き”と言えたのはいつまでだろう? 自分の好きと相手の好きは違う? 曖昧で正解のない“恋愛”を今泉力哉監督・脚本×杉咲 花主演で描いたラブストーリー。1月期に日本テレビで放送された。現在、Huluほか各種配信サービスで全話配信中。

『セフレと恋人の境界線』

「私たちってセフレ? 恋人?」。実話を基にした曖昧な関係を3本の短編映画とスタジオトークで斬り込む新感覚の恋愛考察バラエティ。短編作品を今泉力哉監督と山中瑶子監督が手掛けた。Prime Videoで独占配信中。

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