1. トップ
  2. いま見に行ける、磯崎新の名建築10

いま見に行ける、磯崎新の名建築10

  • 2026.4.7
Hearst Owned

ポストモダンの旗手として知られる磯崎新は、1931年大分県生まれ。1954年に東京大学工学部建築学科を卒業後、丹下健三研究室に入り、黒川紀章らと共に「東京計画1960」の立案に携わった。その後、1963年に磯崎新アトリエを設立。独立後は、初期の代表作である「大分県立大分図書館(現・アートプラザ)」を皮切りに、「群馬県立近代美術館」や、「つくばセンタービル」、「水戸芸術館」など、それぞれの地域のランドマークとなるような作品を発表していく。1980年代からは「ロサンゼルス近代美術館」など国外での活動も目立つように。

磯崎はまた理論家としても知られ、1971年の『空間へ』(美術出版社)など数多くの著作を発表。思想面でも戦後の建築界を牽引した。2019年にプリツカー賞を獲得。

丹下のもとで学びながらも、その研究室在籍時から個人としての作品を発表し、独自の理論で道を切り開いて来た磯崎。本記事ではそんな巨匠の初期作から、ポストモダン建築の傑作まで「いま見に行ける」10件を紹介。名建築に隠された「引用」や基盤になった理論に思考をめぐらせながら1件ずつ訪れてみてはいかがだろうか。


提供:大分市美術館

大分県立大分図書館(現・アートプラザ)(1996年)/大分

1966年に「大分県立大分図書館」として完成。自らが提唱した建築概念「プロセス・プランニング論」に登場する「成長する建築」を実現させた、初期の代表作(突き出した中空梁の断面による意匠で「成長」の「切断」が表現されている)。

コンクリート打ち放しの中空梁と巨大なペアウォール(2枚1組の壁)が生み出す特異なフォルムと、スキップフロアを多用した空間が評価され、磯崎にとって初となった日本建築学会賞を獲得した。

提供:大分市美術館

その後、県立図書館の新築移転にともない、市民のための文化施設「アートプラザ」として1998年にリニューアルオープン。改修設計は、磯崎自身の手で行われた。

現在は1階、2階には市民ギャラリーなどの場が設けられ、3階には、磯崎による建築作品の模型や資料が常設展示されている。

アートプラザ
住所/大分県大分市荷揚町3-31

Hearst Owned

群馬県立近代美術館(1974年)/群馬

1974年、緑豊かな群馬の森公園に開館した美術館。磯崎が数々の名作を世に送り出した、この年の先陣を切った作品。

実業家で、アントニン・レーモンドとの交流やブルーノ・タウトの招聘などで知られる井上房一郎の推薦により、設計の委託を受けた磯崎は、一辺を12mとした立方体フレームの集積を基本構造とし、外壁のアルミパネルやガラス面グリッドの一辺を120cm、エントランスホールの壁面、床面の大理石パネルは一辺60cm、床のタイルは一辺15cmの正方形に決定。構成要素全てが、12mを基準とした寸法の正方形となっている。

Photo : Shinya Kigure

この「増殖する立方体」という考え方は、1994年に増築されたシアター棟、そして1998年の現代美術棟増築によって立証。さらに、この後に設計される「北九州市立美術館」や、「つくばセンタービル」にも認めることができる。

Photo : Shinya Kigure

<写真>本館1階のホール。

群馬県立近代美術館
住所/群馬県高崎市綿貫町992-1
※群馬県立近代美術館は、設備更新工事のため2026年9月まで休館。

Hearst Owned

北九州市立美術館(1974年)/福岡

1958年開館の「八幡市美術工芸館」を前身として、1974年に現在の本館が開館した。同年に竣工した「群馬県立近代美術館」と並び、初期代表作とされる。1辺9.6mの正方形の断面を持つ2本の直方体の「筒」が南北に突き出ている斬新な外観が特徴的。地域のランドマークとして親しまれ、「丘の上の双眼鏡」と呼ばれることも。

1987年には、磯崎の設計により、本館に隣接して市民ギャラリーなどを備えたアネックス棟(改修工事のため、2027年3月末まで立ち入り不可)が完成した。

Hearst Owned

内部では、シンメトリーのエントランスは、「現代の大聖堂」をイメージして設計。外から見えた筒の内部は、コレクション展示室となっている。同室と企画展示室の広さは、それぞれ約1000㎡。当時、中国地方以西で最大級規模の美術館建築となった。

<写真>本館のエントランスホール。

Hearst Owned

<写真>アネックス棟のアトリウム(2027年3月末まで立ち入り不可)

北九州市立美術館
住所/福岡県北九州市戸畑区西鞘ケ谷町21-1

Hearst Owned

つくばセンタービル(1983年)/茨城

筑波研究学園都市のシンボルとして、1983年に完成。ホテルやコンサートホール、レストラン、オフィスなどが入る複合施設。ビル群の中心には広場(写真)があり、ここではローマのカンピドリオ広場からテーマを引用し、さらに色を反転させた模様を確認することができる。そのサイズが、カンピドリオ広場とまったく同じであることにも注目したい。

Hearst Owned

ビル全体を見渡すと、歴史的引用は、このほかにも。ホテルのファサードは、ギリシア神殿などに見られる3段構成を意識しており、ノバホール(写真)正面に見られる鋸状(きょじょう)の柱には、新古典主義のフランス人建築家、クロード・ニコラ・ルドゥーの影響を感じさせる。

広場に戻り、水が流れるカスケードを見ると、茨城県南東部に広がる湖、霞ヶ浦を型どった形状をしていることがわかるなど、読み解くべき引用がどこまでも続く。

Hearst Owned

<写真>コンサートホール「ノバホール」の内部。

つくばセンタービル
住所/茨城県つくば市吾妻1-10-1


Hearst Owned

水戸芸術館(1990年)/茨城

水戸市制100周年を記念し、1990年に開館。コンサートホールATM、ACM劇場、現代美術ギャラリーが入る複合文化施設。そのシンボルは、なんといっても「100周年」にかけ、高さ100mとした塔だ。磯崎はこれについて「正四面体を組合わせることによって、三重螺旋を生みだし、その天に向かって無限に伸びていく形態によって、未来を象徴している」と語っている。チタンを用いた面は、太陽光を浴び、刻々と表情を変える。

Hearst Owned

塔のふもとの広場には、「水戸」という地名にちなみ、水を主題としたカスケードや芝生、3本の大木などを配置した。

HEARST

広場を囲むそれぞれの建物の仕上げには、地面に近いところに石をはじめとする重厚な素材を用い、上部では現代的な金属などを使った。また、水戸の街並みと調和するように、人間的なスケールで建物の形を文節している。

<写真>現代美術ギャラリーの内部。

Hearst Owned

<写真>「水戸室内管弦楽団」演奏会などが開かれるコンサートホールATM。

水戸芸術館
住所/茨城県水戸市五軒町1-6-8

Hearst Owned

奈義町現代美術館(1994年)/岡山

1994年に開館した、作品と建築空間が見事に一体化した美術館。国際的に活躍するアーティストである荒川修作+マドリン・ギンズと岡崎和郎、そして宮脇愛子に、一般の美術館では収集不能な巨大作品をあらかじめ制作依頼し、空間の設計について3組のアーティストと設計者である磯崎が話し合い、美術館として「建築化」した。

© 1994 Reversible Destiny Foundation. Reproduced with permission of the Reversible Destiny Foundation.

敷地内でも目を引く丸い断面をもつ円筒形の建物は「太陽」。この中には、荒川修作+マドリン・ギンズの作品《遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体》の世界が広がる。半月型の「月」には、岡崎和郎が手掛けた《HISASHI-補遺するもの》が恒久展示されている。また、「大地」は、宮脇愛子によるステンレスワイヤーの作品のための空間だ。

<写真>展示室「太陽」(南向き) 荒川修作+マドリン・ギンズ《遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体》

Hearst Owned

3つの建物の配置には、磯崎らしいメタファーも。「太陽」の軸は南北軸、「月」の平坦な壁は中秋の名月の午後10時の方向を指し「大地」の中心軸は、秀峰那岐山の山頂に向かっている。

<写真>展示室「月」 岡崎和郎《HISASHI-補遺するもの》

Hearst Owned

<写真>展示室「大地」 宮脇愛子《うつろひ》

奈義町現代美術館
住所/岡山県勝田郡奈義町豊沢441

Hearst Owned

京都コンサートホール(1995年)/京都

平安建都1200年記念事業の一環として、京都市が建設した音楽専用ホール。外観を覆うのは、主に石、ガラス、陶板の3種類の素材。それぞれが、幾何学的な形状をつくり上げている。建物全体は、平安京で定められた「真北」と鴨川が流れる方向、そして磁石が示す「北」をつないだ三角形を基本の配置計画として、設計されている。

黒い円筒形の上部には、星座が描かれた天井やUFOを思わせる舞台照明が独特な「アンサンブルホールムラタ」が収まる。

Hearst Owned

エントランスホールの床面中央の羅盤と十二支が描かれた12本の空調ポールは、風水に従って配置された建物の配置計画の鍵となる方位の概念を表現した。螺旋状のスロープを上ると、各ホールへ。

<写真>12本の空調ホールが象徴的なエントランスホール。

Hearst Owned

天の川のような照明が内蔵された大ホールの天井の凹凸と壁の竪リブの突起物は、高中音域の反射・拡散の役割を担い、天井と床の重量バランスは音が着実に下に戻るよう考慮されている。

<写真>大ホールでは、オーケストラの音源の非対称性などを考慮し、ドイツ製パイプオルガンと一部の客席を非対称に配置している。

京都コンサートホール
住所/京都市左京区下鴨半木町1-26


Hearst Owned

なら100年会館(1998年)/奈良

奈良市制100周年を記念してJR奈良駅前西側に建設された多目的ホール。「奈良の文化を育て、世界に発信するまさに“文化の船”」をイメージしており、「新しい奈良」のランドマークであり、文化発信の拠点となっている。

磯崎は、「古代都市の面影を残す景観への連続性」を意識して、楕円形の平面および(曲率が曲線長に比例して増加する)クロソイド曲面に沿って内側に傾斜する断面形状からなる幾何学的な外殻構造を採用。その表面は燻し調の瓦タイルで覆われている。

Hearst Owned

館内には、奈良県内最大の客席数を誇る大ホール(写真)、全面ガラス張りの中ホール、会議や展示にふさわしい小ホールなどが入る。

建設には、外壁と屋根を同時に施工する「パンタドーム構法」を採用。実際の工事では、電車のパンタグラフのように「くの字」に折り畳んだ228枚の外壁パネルを楕円形の屋根部とともに地上で組み立て、 64台のジャッキによって押し上げた。

なら100年会館
住所/奈良県奈良市三条宮前町7-1


Photo : Michihiro Ota

秋吉台国際芸術村(1998年)/山口

3億年という永い年月によって形作られた国定公園秋吉台のふもとに国内外のアーティストが表現創造活動を行うための拠点として、1998年にオープン。敷地内には、約300人を収容するホール、食堂、研修室、練習用のスタジオ、ギャラリー、そして最大100人が泊まれる宿泊室などが入る。

磯崎が掲げたテーマは「群島的空間モデル(アーキペラゴ)」。その言葉通り、各施設がちりばめられているが、「秋吉台国際芸術村」は駐車場をはさみ、大きく「本館棟」と「宿泊棟」に分かれている。

Photo : Michihiro Ota

本館棟のホール(写真)は、現代音楽の巨匠、ルイジ・ノーノのオペラ『プロメテオ』を上演することを念頭に設計された。座席は全て可動椅子になっており、何処にでもステージを設けられるような構造になっている。

また、宿泊棟にはサロンがあり、これは磯崎の設計により、大分市に建築された個人住宅「N邸」(1964年竣工、取り壊され現存せず)を再構築したもの。

秋吉台国際芸術村
山口県美祢市秋芳町秋吉50


撮影:山中慎太郎(Qsyum!) 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

山口情報芸術センター(2003年)/山口

「YCAM(ワイカム)」の名で親しまれるアートセンター。メディア・テクノロジーを応用したオリジナルの作品を制作・発表する場で、教育プログラムにも力を入れる。

全長171m。背後に見える山並みと呼応する波打つ外観が印象的だが、これは直列的に配置された各機能に必要な容量が表出されたもの。センター内には、3つのスタジオ、ギャラリー、図書館、キッズスペースなどが入り、シマトネリコの木が心地よい木陰をつくるガラス張りの中庭も4箇所に設置されている。

撮影:勝村祐紀 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

キーワードは「フレキシビリティ(柔軟性)」で、通路を含めたほぼ全てのスペースが、発表の場であると同時に制作の場にもなる。隙間が大きく、配線を比較的自由に取り回せるルーバー天井を採用したり、床にケーブルなどの配線に必要なアウトレットボックスを数多く用意したりと、技術面でも柔軟性が意識されている。

撮影:勝村祐紀 写真提供:山口情報芸術センター[YCAM]

<写真>センター内4箇所に設けられている中庭。ここで展示やパフォーマンスが行われることもある。

山口情報芸術センター
山口県山口市中園町7-7


参考文献:
磯崎新『空間へ』(河出文庫)2017年
宮沢洋『画文で巡る! 丹下健三・磯崎新 建築図鑑』(総合資格学院)2025年
「新建築」(1983年11月)
「新建築」(2003年12月)

元記事で読む
の記事をもっとみる