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映画『炎上』森七菜×長久允監督「新宿を顔に出す」「地面と同化して撮影」歌舞伎町に生きる少女が見た夢【ロングインタビュー】

  • 2026.4.7

日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞した『国宝』をはじめ、『秒速5センチメートル』、『ひらやすみ』など、2025年も八面六臂の活躍を見せた森七菜。2026年、彼女の最初の長編劇場公開作となるのは、長久允監督によるオリジナル作品『炎上』だ。

カルト宗教の信者である厳しい両親との生活に耐えきれず家を飛び出した樹理恵/通称じゅじゅ(森)が、SNSを頼りに「父親が一番嫌いな場所」と思われる新宿・歌舞伎町にたどりつく。そこでさまざまな少年少女たちと出会ったじゅじゅは、安心できる居場所として微かな希望を見つけ、日々を過ごしていく。

強烈なネオンが24時間ともる歌舞伎町で、善悪の区別も判断も、もはや概念もないまま毎日を生きるじゅじゅの姿が、リアルさを帯びてスクリーンに映し出される。森の演技はトー横に生きる少女のそれでしかなく、そんな森の表情をつぶさに捉えた長久允監督の演出は不穏に満ちた。撮影期間、身も心もどっぷりと新宿に浸かったという森&長久監督に、ロングインタビューした。

映画化のために長久監督は5年間ほど企画を温めていたそうですね。『炎上』を描くきっかけは何でしたか?

長久監督:トー横キッズのSNSで切り抜かれた姿や、報道で描かれる姿を見て、それは一面に過ぎないんじゃないかな、と思ったのがきっかけでした。強烈な行動ばかりが切り抜かれているけれどもそこは氷山の一角で、もっといろいろなことを彼・彼女たちは思っているだろうし、感じているだろうし。自分たちの目や耳に入るものではなく、まずは彼らに話を聞きたいなと思ったところから始まりました。

『WE ARE LITTLE ZOMBIES』やほかの製作した作品も『炎上』と共通していて、とにかく今を生きていくし、つらいことがあっても生きている限り人生が続くのであるというのは、僕の価値観にあるものだったりします。トー横キッズの話を聞いて僕の価値観と共鳴したので、この物語を作ろうと思いました。

森さんは脚本を受け取って、どのように感じたんでしょうか?

:いつも脚本を読むときに、「この未来あるな」と思うか、「めっちゃ好きだけど、もしかしたらご縁がないのかな」と思うか、その二つの感覚があるんです。『炎上』の脚本を読んだときは「この未来あるな」と思いました。読んだときからその未来を受け入れていた感じというか、すごくご縁を感じたんです。「これからこの作品と過ごすんだなあ」というちょっとした予感があって、そのときから地続きでじゅじゅと関わってきた気がします。

歌舞伎町でロケを敢行されたそうですが、実際に足を踏み入れてみてどのような印象でしたか?

:歌舞伎町はやっぱりちょっと特別な場所というか、空気から全然違うんですよね。撮影するときは新宿に泊まろうと決めていたので、実際に泊まって毎日現場まで歩いて通っていたんです。

そうでしたか!もともと普段から現場の近くに拠点を構えているのでしょうか、この作品だからというのがあったんですか?

:地方ロケのときはありがたいなと思いながら(泊まりで)やっているんですが、都内の撮影だとなかなかできなくて。それでも新宿は本当に特殊な空気のある場所なので、家の中に新宿を作ることもできないですし(笑)、「やっぱ泊まるっきゃないな」と思いました。毎朝起きると空もちょっと違う感じがするし、晴れているんだけどフィルターがいっぱいかかっているような“新宿フィルター”を感じたりもしていました。毎秒きちんと感じながら土台を作りたかったので、今回は泊まる選択をしました。

けど実は私、昔、新宿に住んでいたんです。だから新宿のことはめちゃくちゃ大好きで、昔インタビューしてもらったときにも「好きな街は新宿です」と答えていました。住んでいたからこそ、どこか特殊な街というのは知っていて。そこに住んでいるときならではの体調というか、場所から受け取るものがすごくたくさんあると思っていました。気がすごく強いからこそ受け取ってよかったなと思う部分もありましたし、新宿を顔に出すには、やっぱり住むしかないなと思っていました。

「新宿を顔に出す」、すごく素敵な表現ですね。

:現場に歩いて行く間に、面白い部分をいっぱい見かけるんですよ。朝なのに光っていてネオンがあったり、タイムトラベルのように時間の概念がなくて。あるのは明るい空か暗い空かだけ、みたいな感じは、やっぱり新宿ならではのものがありました。1日中あの広場(トー横広場)のところにいると、もうすごいんですよ。音楽が全部のモニターから鳴っているので、あのとき流行っていたアーティストの曲が3つのモニターから同時に流れてくる、みたいな(笑)。そういう、なんかちょっと頭がまた別の次元に行く感じがちょうどよかったです。

長久監督:本当にそうですよね。音で言うと、常に20カ所くらいから大きい音が鳴っているみたいな状態でした。森さんが言うように、グワングワンな磁場の中、スタッフも俳優もみんなが地面に同化しながら撮っていけたのかなと思う撮影期間でした。それがちょっとしんどいときもあるけれど、そのしんどさも、そこで生きていく人が感じている重みとか力だったり、重力だったりすると思うんです。普通の撮影だと、場所を作っていって撮っていくものなので、あそこまでの重力を感じながら本当の撮影ができるということはなかなか稀でした。あの場に受け入れられている……と言っていいのかはわからないですけど、あの場は本当にありがたいと思いました。

現場では、予期せぬ出来事も起こりましたか?

:撮影していると、いろいろな人が通るんです。だから監督のタイミングや自分のタイミングでスタートが切れなかったり、たまに撮影が中断してしまったりなど、いろいろなハプニングもありました。ただし、そういうものが自由度につながった感じがしたので、いい意味で自分の歯車がバカッと外れた瞬間がいっぱいありました。私は、場所とそこを通る人たちにすごく感謝をしていました。

長久監督:自分の感想になりますが、『炎上』を観ていただく観客の皆さんはトー横広場に最初にじゅじゅがやってきたとき、悪い話が始まっちゃうのかと思うかもしれないですよね。でも、じゅじゅが広場にやってきて自己紹介する場面では、撮りながら「ここに来られてじゅじゅはよかったな」と思ったんです。脚本を書いているときには意図して思っていなくて、森さんの演技を見て初めて感じました。樹理恵という少女が、あのとき「じゅじゅ」という名前をつけられて、ここに入れてよかったなと。演技を見て初日に強く彼女を応援する気持ちになったことを、すごく覚えています。

今のお話につながりますが、今回森さんはじゅじゅという役への浸透度が非常に高かったと思うんです。撮っていて、そのあたりの手ごたえはどのように感じられていましたか?

長久監督:本当に浸透、ですよね。撮影中~クランクアップまで、お互いじゅじゅに向かって作っていく、浸透させていく森さんと共に歩む期間でした。

:私は本当に面白かったですし、楽しかったです。台本を見て考えることはいっぱいありますけど、現場に行ってみないとわからないことも多いですし、監督の頭の中をのぞいて初めてわかることもいっぱいあるんです。自分がすごく試されているような気分もあったので、驚きもたくさんありました。すべてが楽しくて、新鮮で、「芸術が爆発!」という感じでした。

長久監督:そう言ってもらえてよかったです。人によっては、僕のこうしていくこと(意思)をなかなか全部伝えられるわけじゃないので「何をやっているかわかんないんですけど……」となることも多いんです。森さんのように捉えてもらえていて、安心しました。

監督からの演出で印象的だったことや、それにともないご自身のお芝居を変えたなどもありましたか?

:じゅじゅは暗い過去があり、吃音というものも抱えて…というバックグラウンドを持つ少女なので、自分の中ではどこか“暗い女の子”で固まっちゃいがちだったんです。トー横キッズという設定もあったので、どこかはめようとしている自分がいました。でも監督から最初にじゅじゅのキャラクターについて聞いたときに、もっと彼女にとっての普通があった上で、さまざまなことが起こって今の彼女がいるだけなんだ、と。決して暗いだけじゃなく「普通に生きています」という子だと認識しました。人生の緩急みたいなところを、物語的じゃない風に私も描きたいと思ってやっていました。なので……例えば、アオイヤマダちゃん(じゅじゅの親友となる三ツ葉葉子役)と普通に友達として接して何気なく会話をしているシーンは、自分としてはめちゃくちゃ大事で。彼女を描く上で大事な数秒間だなと思っていたので、大切にしましたし、すごく緊張しました。それは監督に気づかせていただいたので、本当に感謝しています。

演じ終わった今、森さんから見て、じゅじゅはどんな子だったと感じますか?

:とても難しいですけど、彼女は何にでもなれるなと思いました。出会ってきた人や受けてきた影響みたいなもので、良いほうにも悪いほうにも全部持っていかれるなあって。だから、ある意味ずっとじゅじゅのポテンシャルを感じながら、向き合っていた気がします。撮影をしている間は、じゅじゅとしては未来を1回も考えたことがなくて。目標や夢こそあっても、とにかく“今”感がすごかったんです。夢中というか、いっぱいいっぱいというか。だから結末の次がどうなるかも、私自身もまったく想像がついていないんですよね。映画を観て、彼女たちに光のある未来があるといいなとすごく感じたので、これから観ていただく皆さんにももしそう映っていたら、じゅじゅとしてもちょっとだけうれしいと思ってしまいますね。

監督は森さんと接していく中で感じたことや、ちょっとしたエピソードなどあればぜひご紹介ください。

長久監督:あるシーンを撮った後に「監督はフィジカルなことしか褒めてくれない!」と森さんから僕は言われたのを覚えています(笑)。

:そう、そうなんです!褒めについて、監督は「運動神経いいですね」とか「今の動きいいですね」とかフィジカル方面なんです。

長久監督:形しか褒めていないところが、そうだよなあ、反省しようと思いました。

そのほかができていることは大前提としてのフィジカルの褒め、ということですよね?

長久監督:もちろん!そうです!!

:それを言ってほしかったんですよ~(笑)。

長久監督:間接的に今伝えてもらいました!

でも少し意外でした。森さんでも褒められたいと感じることがあるんですね。

:褒められたいです(笑)!褒められることで、私はぐんぐん伸びます。

長久監督:では次は褒めまくる映画を撮ります!

最後に、FILMAGAは映画好きが多く集まるサイトなので、お二人が最近観た映画やドラマで印象に残った作品を教えてください。

長久監督:2作品挙げてしまいますが、『ひゃくえむ。』は素晴らしかったです。あと、『災 劇場版』もめちゃくちゃ好きでした。ホラーとしてというよりも、取材に紐づいた各職業の方々のディティールや仕草が真摯で輝いていたんです。フィクションで作られたものではあるけれど、人を描くということに対してとても敬意があるように感じて、素晴らしいなと思いました。

:私は映画でもドラマでもなく、リアリティー番組シリーズの位置づけになるんですけど、いいですか?最近『メンバーズ・オンリー ~究極のセレブ in パームビーチ~』を見たんですけど、めちゃくちゃ面白くて一瞬で全部観ました。セレブの高級住宅街での話で、「これ、ガチ!?」と驚く出来事の連続なんです。セレブたちにも序列があって、着ていいドレス、着てはダメなドレスがあって「あんたはこれ着ちゃダメよ」みたいな(笑)。もう食い入るように見ちゃいました。

長久監督:気になる!観よ~。

森さんは次に観る作品などをどうピックしていますか?

:まずはさわりを見ます。そうしたリアリティーショーやドキュメンタリーが好きなので、海外のモデルたちのオーディション作品とかも見ましたね。直接的な表現の仕方がすごく面白くて、戦いになると感情があらわになるので最高です、スカッとします!

(取材・文:赤山恭子、写真:You Ishii、森七菜ヘアメイク:イ・ボヨン、森七菜スタイリスト:高橋 茉優)

(森七菜衣装:ワンピース¥49,500 CABaN(キャバン)問い合わせ先:キャバン 丸の内店 03-3286-5105、トップス¥24,200 DES PRÉS(デ・プレ)問い合わせ:デ・プレ 0120-983-533)

映画『炎上』は、4月10日(金)より全国公開予定。

出演:森七菜、アオイヤマダ、曽田陵介、広田レオナ、一ノ瀬ワタル
監督・脚本:長久允
公式サイト:https://enjou-movie.jp/
(c)2026「炎上」製作委員会

※2026年4月1日時点の情報です。

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