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「うるさすぎる!」良かれと思った“駅の構内放送”がトラブルに…元駅員が今も引きずる痛恨の失敗とは

  • 2026.4.24
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。元鉄道駅員の川里です。

今回は、私が駅員時代に経験した「よかれと思って起こしてしまったトラブル」をご紹介します。桜が舞うような季節の雨の日に起きた、いまでも鮮明に覚えている出来事です。

春の嵐、到来

「桜が咲くころになると、雨も風も強くなるよなあ」と毎年感じている方も多いのではないでしょうか。

いわゆる「春の嵐」が気になるのは鉄道会社や駅員も同じです。というのも、あまりに雨や風が強すぎると列車の運転を見合わせることになってしまうためです。

その日は午後から雨脚が強まり、屋内にいても外の強い雨音がはっきりと聞き取れるような天気でした。私はその日、駅に宿泊する係ではなく、午後8時ごろに退勤する予定でした。

「こんな天気で帰れと言われてもなあ…」

退勤まであと1時間ほどになっても、雨は弱まる気配がありません。

どのような職種でもそうかもしれませんが、駅員同士ではよく「退勤1時間前くらいからが最も危ない」と言い合っていました。

危ないというのは、退勤できない事情が発生しやすいということです。実際に複雑な旅程のきっぷをお求めのお客さまが来駅されたり、長いご意見の電話を受けたりした記憶があります。もうすぐ退勤だと油断してお釣りを渡し忘れてしまったこともありました。

運転見合わせの放送

なにも起きてくれるなよ、と念じるも、残念ながら指令からの一斉連絡を告げるチャイムが鳴ってしまいました。

「〇〇駅から△△駅までの区間は雨量計が規制値を上回ったため、一時的に列車の運転を見合わせます」

つまり、大雨による一時的な運転見合わせです。

このような連絡を受け取った際、駅員は構内放送でお客さまに運転見合わせを知らせる必要があります。指令からの連絡は情報を正確かつスピーディに伝達するため難解な専門用語を含んでいますが、お客さまに案内するときはもっと丁寧で簡単な言葉にしなければいけません。

この場合は、たとえば以下のような文章となります。駅で似たような案内を聞いたことのある方もいるのではないでしょうか。

「お客さまに、列車の運転見合わせについてご案内いたします。ただいまより大雨のため、列車の運転を一時的に見合わせます。運転再開の時刻など新しい情報は決まり次第、放送にてご案内いたします。お客さまにはご迷惑をおかけし、申し訳ございません。恐れ入りますが、いましばらくお待ちください」

よかれと思って…

このとき改札には3人ほどの駅員がいましたが、放送用のマイクを持っていたのは私でした。そこで私が先ほどの例のように、いま起きている状況の説明、これからどうなるかの案内、そして最後にお詫びを放送しました。

この日は大雨ということで、いつもより声量を大きくするよう意識しました。

マイクを下ろしてすぐ、ホームに続くエスカレーターからスーツ姿のお客さまが改札に向かってきました。おや、放送が雨のせいで聞き取れなかったのかなと思いましたが、ものすごい剣幕でお客さまがまくしたてたのは、まったく逆のことでした。

「放送の声がうるさすぎる!音割れしていて聞こえなかった!」

どうやら意識しすぎた大声に加え、運転見合わせという異常時を伝えなければという緊張から無意識に早口になっていたことで、スピーカーが音割れして聞き取れなくなってしまっていたようです。

ただでさえ大雨のなか、なんとか駅までたどり着いたのに列車は運転見合わせで、しかもそれを伝える放送が聞き取れないとなれば、お客さまのお怒りも当然です。

大きな事故は無し、日常に戻った駅

帰宅ラッシュのピークは過ぎており、お客さまの数も多くなかったため、私はほぼ定時で退勤することができました。

退勤前にお客さまからお叱りを受けたことを報告したところ、上司は「お前は悪くないよ」とかばってくれました。

幸いにも雨による事故や災害は起きず、翌日にはこの春の嵐が過ぎ去ったので、列車は何事もなかったかのように始発から定刻で運転を始めました。

私も通常通りの勤務を続行したのですが、心の中では完全には切り替えられず、放送案内で直接お叱りを受けたことを引きずっていました。

私は悪いことはできるだけ早く忘れてしまおうとしているのですが、今回に限って引きずってしまったのには理由があったのです。

特に引きずったわけ

実は私は、駅員としての数ある業務のうち放送案内だけは上手くできる自信を持っていました。ほかの同期や新入社員が「マイクを持つと緊張する」「うまい言い換えの表現が出てこない」と苦労している中で、なぜか私はすらすらと放送案内ができていたのです。

上司や先輩から褒められた数少ない思い出も、そのいくつかは放送案内に関するものでした。

それだけに「放送が聞き取れなかった」というご意見は私にとってショックでした。運転見合わせや運休が発生したときでも、ゆっくりはっきり発音することと適切な声量でマイクを扱うことは、どちらもできていたはずです。

元々自信のない部分で失敗しても「あ、やっちゃったなあ。次から気をつけよう」で済ませていますが、放送案内なら自信があるぞと思っていたところでの失敗だったため、いつもよりショックが長引いたのです。

いま振り返ると「うぬぼれるなよ」という天からのメッセージだったのかもしれません。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。


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