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母の遺品「80万円の毛皮コート」を査定に出した50代女性→その後、鑑定士から告げられた“想定外の結果”に驚愕【買取のプロは見た】

  • 2026.4.22
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

以前、リユース店の窓口で査定をしていた頃、値段をお伝えするのがつらい場面は何度もありました。

状態の悪い品について説明するのも気まずいものです。けれど、それ以上にしんどかったのは、ご家族が長年大切にしてきた品に、今の市場ではほとんど値段がつかないとお伝えしなければならない時でした。

いまでも時々思い出すのが、亡くなったお母様の遺品だというミンクのロングコートを持って来られた、50代くらいの女性のお客様です。

ミンクコートが出てきた時点で、正直身構えた

その方が来店されたのは、開店して間もない時間でした。大きめの紙袋を両手で抱えていて、少し迷うような様子でカウンターまで来られたのを覚えています。袋から出てきたのは、防虫カバーに入ったミンクコートでした。

「母の遺品を整理していたら出てきたんです。昔、80万円くらいで買ったって聞いていて……」

そうおっしゃっていました。

その言葉を聞いた時点で、こちらとしては少し身構えるところがありました。というのも、ミンクコートは品物として立派でも、今の中古市場ではかなり厳しいことが多いからです。

とはいえ、もちろん見ないで決めるわけにはいきません。毛並みや手触りを確認して、裏地も見て、においも確かめて、金具やホックの状態も一通り見ました。おそらく1980年代後半くらいのものではないかと思われる上質なミンクで、保管状態も年代を考えればかなり良い部類でした。

見た目だけなら、丁寧に保管されてきたことがよくわかる品でした。

ただ、正直に言えば、その時点で大きな査定額にはなりにくいだろうという感覚はありました。毛皮はここ数年、本当に相場が厳しいのです。

確認を終えてから、なるべくやわらかい言い方になるよう気をつけて、お値段をお伝えしました。

「申し訳ないのですが、こちらは5,000円でのお引き取りになります」

一瞬、間がありました。ほんの数秒だったと思うのですが、こちらにはずいぶん長く感じられました。

「……5,000円ですか?」

そう聞き返された時、こちらもつらかったのを覚えています。80万円で買ったと聞いていた品に5,000円。納得しにくいのは当然です。

大切なファーコートに値段がつかない理由

私は、こういう時は理由をなるべくきちんとお話しするようにしていました。

まず大きいのは、リアルファーそのものの需要が以前よりかなり落ちていることです。海外ではラグジュアリーブランドがファーフリーを打ち出す流れが続いていますし、ファッション誌やショーでもリアルファーを見かける機会はかなり減りました。市場全体で見ても、昔に比べるとかなり縮小しています。

店頭に立っていた頃も、毛皮に関する問い合わせは年々減っている感覚がありました。

買い取ったあとに販売先を見つけにくい、というのが正直なところでした。品物として悪くなくても、その先の需要が弱ければ、査定額はどうしても厳しくなります。

また、毛皮は見た目だけでは判断しにくい品でもあります。きれいに見えても、実際には裏側の皮革部分が劣化していることが少なくありません。長く保管されているあいだに油分が抜けて、革が硬くなったり、もろくなったりします。

毛並みがきれいだから安心、とは言い切れないのです。実際、表から見た印象は悪くないのに、袖を通した拍子に縫い目から裂けてしまうような品も見てきました。

もうひとつはデザインの問題です。昔のミンクコートは肩幅が広めで丈も長く、今の普段の服装にそのまま合わせるには少し難しいものが多いです。リメイクやリフォームの需要も昔ほど強くありません。

需要が減ったこと・状態に不安があること・デザインが古いこと。

いくつかの理由が合わさり、お客様の大切なコートにはほとんど値段がつけられなかったのです。

思い出を手放せなかった理由

事情をひと通り説明しているあいだ、お客様は黙って聞いてくださいました。

しばらくしてから、コートをそっと防虫カバーに戻して、

「やっぱり持ち帰ります。すみません」

とおっしゃいました。

無理に笑おうとしておられた感じがあって、それが印象に残っています。

売るつもりで持って来たけれど、5,000円では手放せない。たぶん、お母様の思い出までその金額に置き換えてしまうようで、気持ちの整理がつかなかったのだと思います。

査定の仕事をしていると、昔は高価だった品と、今の中古市場で評価される品が必ずしも一致しないことを何度も感じます。金額だけ見れば厳しい結果でも、だからといって、その品に意味がなくなるわけではありません。

遺品として出てきた毛皮をどうするかは、本当に人それぞれだと思います。売る、残す、別のかたちで活かす。どれが正しいと簡単には言えません。

ただ、査定額がその品のすべてではない、ということは、窓口に立っていた頃からずっと感じていました。


ライター:たるみくまお

リユース業界での買取窓口業務を経て、現在は技術商社に勤務する現役ビジネスマン兼Webライター。古物商許可証を保有し、ブランド品・高級時計の査定現場で数多くのお客様と向き合ってきた経験を持つ。現職では技術商社の最前線に身を置き、ITをはじめとする幅広い分野の知見を日々積み重ねている。また、過去に借金を抱えた経験から、マネーリテラシーの重要性を痛感し、現在も金融知識の習得を続けている。二次流通市場の裏側から、お金のリアルな話まで、現場で得た実体験をもとに等身大の言葉で発信中。

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