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ローマと呼応する「ヴァレンティノ」の物語。歴史と夢想が響き合う“干渉”の美

  • 2026.3.24
Valentino

ローマという都市は、常に矛盾を抱えている。壮麗な歴史と退廃、宗教的権威と世俗的な快楽、忘れ去られた路地と圧倒的な美。その全てが複雑に重なり合いながら、独特の魅力を生み出す。この地を拠点とする「ヴァレンティノ」は、“Interferenze(干渉)”と題したコレクションを発表するために、世界中のゲストをローマへと招待した。

パラッツォ・バルベリーニ courtesy of Palazzo Barberini

会場となったのは、ローマの本質を象徴するバロック建築の傑作パラッツォ・バルベリーニ。1625〜33年にかけてカルロ・マデルノとフランチェスコ・ボッロミーニが設計し、その後ジャン・ロレンツォ・ベルニーニが完成へ導いたこの宮殿は、まさに異なる才能と時代の“干渉”によって生まれた建築である。荘厳な宮殿が持つ歴史と思想にインスパイアされたアレッサンドロ・ミケーレは、哲学書のようなコレクションノートで、「“干渉”とは対立ではなく創造の契機」だと説明する。建築とファッションに共通項を見いだす彼は、ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンの言葉を参照して、「真理は統合からではなく両極性を結びつけることにより発生する火花の中に立ち現れるのです」と記した。おそらく彼は、この“干渉”という概念に自分自身の立場を重ね合わせているのだろう。偉大なデザイナー、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが築いた歴史的メゾンの現在を担いながら、そこに自身の美学を織り込むことで紡ぐ物語。過去と現在、ブランドの伝統とデザイナーの個性。その間に生まれる緊張こそが、メゾンに新しい生命力をもたらす。

LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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パラッツォ・バルベリーニは、古典的な秩序の中にバロックの劇的な装飾が入り込み、遠近法の錯覚や自然の幻想的な表現が空間を支配する場所。天井にはピエトロ・ダ・コルトーナのフレスコ画『神の摂理の勝利』が広がり、建築の内部をまるで開かれた空のように変貌させる。ショーでは、宮殿の壮麗な階段とサロンを舞台に、芝生のランウェイがしつらえられた。自然が建築の内部へ侵入するこの演出は、ミケーレが語る「規律と逸脱」の緊張関係を象徴していた。

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その空間に現れたルックもまた、異なる時代や感性が交差する“干渉”の連続だった。コレクションは1980年代のムードを背景に、ミケーレ特有の夢想的でマキシマリストな美学、新たなセンシュアリティが結びつく。女性の権威を主張するビッグショルダーは、なめらかなレザーからベルベット、シフォンのドレスに配され、非常に柔らかな素材を用いて建築的なフォルムを形成。創業者の卓越したデザインとして知られるプリーツの直線に、ギャザーやフリルが生み出す有機的な曲線が重なり合う様子は、会場のバロック建築のディテールと呼応していた。アトリエの技術を物語る流麗なドレープは、宮殿に飾られた大理石の彫像のよう。モデルたちは、宮殿の階段をゆっくりと進みながら、天使や牧歌的な場面を描いた絵画の前を通り過ぎていく。建築、芸術、ファッションといった異なる時代の美が同じ空間で共鳴する瞬間となった。

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繊細なレースのランジェリートップにドレープを効かせたイヴニングスカート、光を受けてきらめく装飾、アーカイブを再現した存在感のあるジュエリー。顔を覆うほど大きなバイザー型サングラスは、どこか未来的でありながらも、バロックの演劇的な誇張を思わせるアクセントとなった。装飾はそぎ落とされ、キッチュな要素は排除され、審美的なエスプリを保ちながら、より着やすい方向へとかじを切っている。セレブを魅了するイヴニングドレスは、レッドカーペットで多く見かけることになりそうだ。ミケーレの過剰なまでにエキセントリックな嗜好(しこう)と、「ヴァレンティノ」特有の端正さと優雅さの間に、より確かなバランスを築くコレクションとなった。

Alessandro Lucioni

そして象徴的だったのは、ゲストに送られた招待状だ。リングケースのようなボックスには、小さなボタンが添えられていた。それはベルニーニが制作した枢機卿ピエトロ・ヴァリエールの胸像から外れたボタンを再現したものだという。ボックスにはラテン語の言葉で、「永遠の幸福を探し求めよ」と記されている。それが本質的に何を意味しているにせよ、ショーの一瞬の中には、「永遠の幸福」に触れる夢のような感覚が漂っていた。フィナーレでミケーレに送られた拍手喝采が宮殿に響き渡り、その余韻とともにローマの夜は幕を閉じた。

Hearst Owned
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