1. トップ
  2. 恋愛
  3. 音楽チャートで有名なBillboardが〈本の総合ランキング〉を作った理由とは? 2025年11月に始まったブックチャートの今後の展望について聞いてみた【インタビュー】

音楽チャートで有名なBillboardが〈本の総合ランキング〉を作った理由とは? 2025年11月に始まったブックチャートの今後の展望について聞いてみた【インタビュー】

  • 2026.3.19

この記事の画像を見る

アメリカで最も権威ある音楽チャート「Billboard」の日本版「Billboard JAPAN」。ライセンスを有する阪神コンテンツリンクが2025年11月、新たに紙・電子・図書館を横断した 複合書籍チャート「Billboard JAPAN Book Charts」をローンチした。

チャートの立ち上げを率いたのは、同社 ビルボード事業本部 研究・開発部 上席部長の礒﨑誠二さんだ。自著の執筆をきっかけに構想をひらめき、ジャンル別、年代別に分かれたチャートを実現。書籍のセールスだけではなく、読者のアクションも指標に用いたチャートは、出版関係者などに広く注目されている。日本初であり、「Billboard」としても世界初となるチャート誕生にあった背景とは。ローンチまでの軌跡、今後の展望などを聞いた。

■出版業界独特のプロモーションへの興味がチャート立ち上げの原点に

――礒﨑さんは過去に、アメリカで最も権威ある音楽チャート「Billboard」の日本版「Billboard JAPAN」を立ち上げました。その背景は著書『ビルボードジャパンの挑戦 ヒットチャート解体新書』(リットーミュージック)でも明かしていましたが、出版後の反響はいかがでしたか?

礒﨑誠二(以下、礒﨑):ある企業では社員の課題図書に指定してくださったり、別の企業では新入社員の方全員に配ってくださったりしました。音楽業界でも、レコード会社や音楽出版社、広告代理店、メディアの方々に購入いただくことが非常に多かったです。また、BE:FIRSTやSnow Man、櫻坂46などの様々なアーティストのみなさんを取り上げたので、ファンダムの方々にも多く手に取っていただいて、ヒットチャートの「攻略」という観点から読んでくださる方も多かったですね。

――そして新たに、2025年11月には日本初であり、「Billboard」としても世界初となる総合書籍チャート「Billboard JAPAN Book Charts」(以下、Book Charts)をローンチしました。きっかけは、ご自身の著書だったそうですね。

礒﨑:2024年2月末に刊行した本を執筆したのが、2023年11月から12月にかけて。翌2024年1月に校了して、翌月には本を出版するスピーディーな時間の流れにまず驚きました。一般的に、音楽はもっと時間がかかるんです。おおむね、仮音源ができてアーティストのレコーディングがあり、実際の音源が完成したら、フィジカル(現物)のCDを販売するまでにMV公開やダウンロードでの先行配信がある。その間、音楽業界では数カ月から1年以上をかけてプロモーションするのが慣例ですし、出版業界では刊行後にプロモーションがスタートするのも驚きました。

――その経験から、実際に「Book Charts」のプロジェクトをスタートされた背景は?

礒﨑:著書の売れ行きが気になったので出版社の方に問い合わせたら、書店やECサイトで販売されるフィジカルの本、電子書籍のようなデジタルでのデータを合算したランキングがないと聞いたんです。興味がわき、出版取次関係者、書店関係者、ECサイト関係者にも事情を伺ってみると「Billboardの音楽チャートのように、本の総合チャートがあれば」という声が上がってきて。僕の著書を読み理解を示してくださる方もいらっしゃいましたし、「Billboard」のチャートにおいてはCDセールスだけではなく、SNS上で「アーティスト&楽曲を両方ツイート(現・ポスト)した数」や「カラオケで歌われた回数」といった消費者の動向もチャートに組み込む知見もありましたので「十数年にわたるノウハウを活かして、本のチャートを作ったらどうなるのか?」と思い立ちました。

■消費者のアクションも可視化して「読者の熱意」もチャートに反映

――「Book Charts」のローンチまでには、どのような苦労があったのでしょうか?

礒﨑:一番大変だったのはセールスの数字として、フィジカルとデジタルの販売データをかけ合わせるところでしたね。書店やECサイトで流通する本にはISBN(国際標準図書番号)のコードがあるので、数字を追いやすいんです。ところがデジタルの本、すなわち電子書籍にはISBNのコードが割り当てられていない。電子書籍は話ごと、巻ごとと販売形式も様々ですし、まず、どのように補捉するのかを考えるところからのスタートで、人力でチャートにひもづけていく仕組みを作るまでが大変でした。

――チャートの特徴として、セールスだけではなく「図書館での貸出利用数」及び「ユーザー投稿サイト等の記事数」も反映されています。

礒﨑:図書館での貸出利用数については、音楽チャートで参考にしていた「ネット接続機器にCDを読み込ませた回数」を示す指標「ルックアップ」がヒントになりました。過去のレンタル市場をフォローアップするための指標で、すなわちCDに対して消費者がどのようなアクションを起こしたかを数値化したものだったんです。ただ、レンタル文化になじみのない海外の方には通じず、僕は当時「聴き放題のサブスクリプション代わりの指標」だと説明していました。一方の本で考えると、デジタルの電子書籍には「読み放題」のサブスクリプションはありますが、フィジカルでは見当たらない。そこで、思い至ったのが無料で何でも読み放題になる図書館だったんです。

その礎には、音楽チャートにもあった「消費者のアクション」の可視化があります。「ユーザー投稿サイト等の記事数」も同様ですね。現状では「note」さんと「ブクログ」さんからデータ提供を受けていますが、作品ごとの投稿数、読者レビューの点数や好評価の数値だけを機械的に追っているわけではないんです。ユーザーの方々がどれほど熱意を込めてレビューしているのかを内容から判断して、その熱意がどれほどシェアされているのかも考慮して、チャートに反映しています。

■新たなチャートも視野に入れて海外で人気ある本に再びスポットを当てられれば

――ローンチ後、読者やメディアからのチャートに対する反響はいかがでしょうか?

礒﨑:出版関係者の方々から「フィジカルとデジタルのデータをかけ合わせるとこうなるのか」と、興味関心を寄せてくださる声を多くいただきました。図書館やユーザー投稿サイト等のデータを網羅的に可視化した前例はなく「この作品はまだ売れるかもしれない」と、期待する声も関係者内で上がったそうなんです。現状のチャートでは、いわゆる本のジャンルでは「Bungei(文芸)」「Manga(漫画)」「Economy(経済)」「Culture(文化)」とカテゴライズしていますが、投稿サイト等を見ると「Bungei」のジャンルで特に、作品の背景や解釈を語りたがる読者の方々が多かったのも発見でした。

――カテゴリとしては総合チャートの「Hot 100」に加えて、急上昇チャートの「Hot Shot Books」、さらに「Showa(昭和)」「Heisei(平成)」「Reiwa(令和)」と、年代ごとのランキングもあります。

礒﨑:この先、カテゴライズは見直す余地もあります。現状の「Hot Shot Books」は主にメディアで取り上げられて注目度が急上昇した本がチャートインしています。NHKの『あさイチ』やTBSの『王様のブランチ』のような情報番組、TikTokなどのSNSで注目が急激に高まった本も対象となっており、リアルタイムに順位が急上昇する本もあります。

年代ごとのランキングもありますが、ローンチ後、特に驚いたのは「Showa」のランキングでした。チャート全体では毎週3500〜5000冊分のデータを集計していますが、昭和に刊行された本は30冊ほどしかランキングに入らないんです。集計では初版が昭和であっても平成、令和と再販されている本についてのデータを統合する苦労もありますが、そもそも、昭和の本はおそらく刊行された当時を知らない読者との接点が生まれないんです。音楽よりはるかに長い歴史を持つ「書籍」というコンテンツで、かつての名作が継がれていないのは寂しさをおぼえますし、文化としてのもったいなさも感じました。

――これからの進化も期待されますが、最後に「Book Charts」の展望を伺いたいです。

礒﨑:ローンチから1年、2026年11月を目標に国外で読まれている日本の本をランキング化した「Global Japan Book Chart」を作りたいと思っています。実は「Book Charts」のローンチ以降で「世の中で愛され、読まれている本は必ずしも大手出版社の作品とは限らない」と分かったんです。そこから派生して、海外で今なお愛されている本があるのなら「再びスポットライトを当てられるかもしれない」と思っています。

セールスだけでは測れない「ヒット」を可視化する。それこそが「Billboard JAPAN」及び「Billboard JAPAN Book Charts」の命題なのだろう。礒﨑さんは将来的に「音楽チャートと書籍チャートをかけ合わせて、アーティストなどの支持を目に見える形で提示できれば」とも語っていた。その背景には「人」のアイデアや努力もある。今後の動向からも目が離せない。

取材・文=カネコシュウヘイ、撮影=後藤利江

元記事で読む
の記事をもっとみる