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「セリーヌ」の日常を高めるワードローブ。個性と交わり“スタイル”になる服

  • 2026.3.19
LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

マイケル・ライダーによる「セリーヌ」が始動して以来、その動向は早くも業界関係者やモードラバーの注目を集めている。なぜこれほどまでに惹きつけられるのか? その理由は、今季のコレクションノートに記されたライダー自身の言葉に端的に表れている。「古さと新しさが混ざり合い、緊張感と夢見心地を併せ持つスタイル。誰もが見つけて着たいと夢見るものを作り出すこと」

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コレクションに宿るのは、はやりを意味するファッションというよりも、個性とアティチュードが交差することで生まれる揺るぎない“スタイル”である。ライダーによる3度目のシーズンは、ブランドの核にあるパリジャン・シックを基盤に、その美学をより明確に示した。そこにあったのは、服を着るという行為そのものに立ち返り、何をまとうかによってその日の歩き方や気分さえ変わってしまう、あの感覚の強さを差し出していた。見せるための演出的な衣装ではなく、日常の動作や生活のリズムの中に入り込みながら、その全てを引き上げるリアルなワードローブである。

Courtesy of Celine / LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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その核心を最も明確に物語っていたのがテーラリングである。今季のシルエットは、スクエアに整えられた肩、すっと引き伸ばされた縦のライン、絞られたウエスト、そしてわずかなアシンメトリーによって緊張感を帯びていた。パンツは太ももに沿って細く落ち、裾でさりげなく広がる。鋭いカッティングのブレザーや、ボクシーだが流動的なロングウールコート、流れるようなサテンのセットアップ。どれも完璧に整いすぎることなく、少しだけ均衡を外したバランスによって、かえって着る人の身体や気配を際立たせていた。

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同時に、ライダーは過去のコードを参照しながらも、ノスタルジアに閉じこもることはない。完璧にカッティングされたブラックのミディスカートは、無数のスタイリングが可能な万能アイテム。フレンチスタイルの定番であるピーコートや、春先に理想的なライトベージュのトレンチコートも登場する。何度も袖を通すことを前提に設計された実用的なアイテムには、20年代の華やかさから50年代の小粋でエレガントな雰囲気まで、複数の時代の断片が見え隠れしながらも、コレクション全体はどこか現代的な軽さをまとっている。

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その個性はスタイリングにおいてさらに際立つ。クローシュやボーラーを思わせるハット、構築的なレザースカーフ、存在感のあるアシンメトリーのイヤリング、重ねられたチャームネックレスやシェルのモチーフ。まるで旅先で見つけた品や古着店での思いがけない発見、あるいは家族から受け継いだ宝物かのように、着る人自身の人生とキャラクターによって完成するスタイルが漂う。厳格なテーラリングの上に、こうした少し風変わりな要素が重ねられることで、ルックは一気に人間味と親密さを帯びる。さらに、ニュートラルを基調としたカラーパレットに、バイオレットやリップスティックレッドが差し込まれることで、禁欲的なミニマリズムではなく“生きたスタイル”へと導かれていた。

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ライダーは、「素晴らしい服の下に、乱雑で複雑で重層的な内面が透けて見える瞬間に惹かれる」と語っている。そこには、ファッションをよろいや仮面としてではなく、むしろ個性が縫い目の間から漏れ出すための装置として捉える視点がある。完璧さだけを目指すのではなく、矛盾や不完全さ、わずかなエキセントリシティを意識的に残すこと。だからこそこのコレクションは、磨き抜かれていながらも冷たくなく、洗練されていながらどこか人間的なのだ。シャープなテーラリング、ほのかなビートニクの気配、ロックンロールの無頓着さ、そしてパリらしいエレガンスに少しの反骨心と遊び。その語彙(ごい)をどう語るかは、着る人に委ねられている。ライダーの「セリーヌ」は、“服を選ぶ”という日常の行為に、再び豊かな意味を取り戻させる世界を提示している。

Hearst Owned
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