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『国宝』がノミネート! アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング部門の候補5作品を解説

  • 2026.3.13

『フランケンシュタイン』

『フランケンシュタイン』はNetflixにて独占配信中。
『フランケンシュタイン』はNetflixにて独占配信中。

『フランケンシュタイン』で怪物のデザインと特殊メイクを担当したのは、ギレルモ・デル・トロ監督と長年組んできたマイク・ヒルだ。『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)や『ナイトメア・アリー』(2021)などを経て、本作が5度目のコラボレーションとなった。幼少期から古典モンスター映画に熱中してきたヒルにとって、本作は「生涯の夢のプロジェクト」であり、デル・トロからは「君がいなければこの映画は作らない」と伝えられた。

デザインのコンセプトは、オスカー・アイザック演じるヴィクター・フランケンシュタインが“美しく完璧なものを作ろうとした最初の試み”。試行錯誤の跡は見えるも、丁寧に作り上げた形を目指した。ヒルは、血の気のない死体を思わせる紫や真珠のような光沢を持たせた肌色を考案し、18世紀の手術技法に基づいた幾何学的な傷跡をジグソーパズルのように繋ぎ合わせた。

また、怪物を演じたジェイコブ・エロルディの196cmという長身と完ぺきな骨格を最大限に活かし、ミケランジェロやカラヴァッジオの作品のような彫刻的な美しさを表現している。エロルディの全身に施された特殊メイクは、シリコンパーツ42個(頭部だけで12個)。5人のチームで、連日午前0時(時には前日午後10時)から装着作業を開始し、最長で10時間かかったという。

また、ミア・ゴスはヴィクターの弟ウィリアム・フランケンシュタインの婚約者エリザベス、そしてヴィクターの母クレアという二役を演じたが、後者ではオスカーに似せた眉の特殊メイクをほどこし、家族としての共通性を持たせた。

『罪人たち』

『罪人たち』はデジタル配信中。
SINNERS - Miles Caton, 2025.『罪人たち』はデジタル配信中。

史上最多16部門ノミネートを果たした『罪人たち』は、1930年代の南部が舞台のヴァンパイア・ホラー。ライアン・クーグラー監督はCGIよりも実物と特殊メイクによる実写を重視し、参考作品として『ジョーズ』(1975)や低予算スリラー『グリーンルーム』(2015)などを挙げている。特殊メイク担当のマイク・フォンテーンは『グリーンルーム』のスタッフであり、その実績をクーグラーが評価して今作に招いた。

従来のヴァンパイア像にこだわらず、自然界の捕食動物から着想を得たという。リアリズム重視で動物に襲撃された傷や火傷を医療写真で研究し、牙は獲物を固定しやすい後ろ向きの鉤状にした。目の表現では夜行性動物の目が暗所で光を反射する現象「タペタム・ルシダム」を再現しているが、これもCGIではなく、光の当たり方で色が変化するコンタクトレンズを俳優が装着して演じている。映画撮影に使用された前例はなく、クリエイターのクリスティーナ・パターソンが専用のソフトレンズを新規開発した。

SINNERS - Jack O'Connell, 2025.

キャラクターのほぼ全員が劇中で変身や負傷することを踏まえ、287ものシリコンパーツ、26セットの牙と30枚のコンタクトレンズが用意された。ジャック・オコンネル演じるキャラクターの頭部がギターで割れるシーンでは、頭部にグラスファイバープレートと磁石を埋め込み、ギターのレゾネーターが着脱できるように設計。また、マイケル・B・ジョーダンが映画の終盤で装着する14金製の歯も、ヴァンパイアの牙が内側から押し曲げたような尖った形状になっている。撮影現場では特殊効果スタッフとの協力で可能な限り実写を優先し、デジタルにはない生々しさを視覚化した。

『国宝』

吉沢亮『国宝』

日本映画として史上初めて本部門の候補に選出された『国宝』。ノミネートされたのはヘアメイクアップの豊川京子、歌舞伎の舞台化粧を担当した日比野直美、歌舞伎床山の西松忠の3名。吉田修一原作の同名小説を李相日監督が映画化した本作は、任侠の家に生まれ育った後、歌舞伎の世界に入った主人公・喜久雄の半生を描く。

当初、豊川は舞台化粧を含むすべてのメイクを一人で担当する予定だった。白塗りの経験はあったが、歌舞伎の舞台化粧は専門性が高いと判断し、日本舞踊のメイクアップを専門とする日比野に舞台化粧を委ねた。豊川は喜久雄をはじめキャラクターたちの50年もの歩みを担い、日比野は歌舞伎シーンを専任した。

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歌舞伎の演目シーンでは、喜久雄を演じる吉沢亮と親友にしてライバルの俊介を演じる横浜流星のクローズアップが多用される。白塗りの化粧は本来、舞台と客席の距離感を考慮したものだが、映像での接写を意識して「対応を変える必要があった」と日比野は説明している。また、通常の演目では2〜3時間保てば良いが、撮影では10時間近く綺麗な状態をキープする必要があったのも苦労したという。

KOKUHO - Ryo Yoshizawa, 2025.

ビルの屋上で喜久雄が崩れた化粧のまま踊るシーンでは、日比野が作った顔を豊川が乱して完成させた。かつらは3〜4キロ、重いものは5キロあり、撮影中のワンカットで20回近く着脱することもあったそうだ。豊川は、国宝になるまでの50年にわたる時間の流れを、特に髪型を通して表現し、メイクではキャラクターの表情を徐々に変化させていくことができたと語っている。クライマックスで喜久雄が「鷺娘」を踊る場面では、流れた年月を表現するために舞台化粧の下に特殊メイクがほどこしてある。

『スマッシング・マシーン』

『スマッシング・マシーン』は5月15日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開。
THE SMASHING MACHINE - Dwayne Johnson as Mark Kerr, 2025.『スマッシング・マシーン』は5月15日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開。

ドウェイン・ジョンソンが1990年代後半から2000年代にかけて活躍した実在の格闘家、マーク・ケアーを演じる『スマッシング・マシーン』。メイクアップを担当したのは、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)と『スキャンダル』(2019)でアカデミー賞を2度受賞した日本出身のカズ・ヒロを中心とするチームだ。ジョンソンの顔に細密な特殊メイクを施し、格闘シーンでも外れないように設計されたウィッグを用意した。

撮影前の数週間の製作期間でさまざまなバリエーションのメイクを試し、顔や体におよそ15点のパーツを装着する仕様に落ち着いた。通常の撮影日、ヘアメイクにかかったのは3〜4時間。同日中に試合前後など異なる外見のシーンがある場合は、さらに3時間かけてメイクした。試合シーンは時系列順に撮影され、メイクが俳優の体感する時間軸と一致するようにしたそうだ。試合の進行に合わせて傷を段階的に追加し、耳・鼻・目のパーツは試合中・試合直後・ロッカールームと腫れ方の違いで使い分けたという。

THE SMASHING MACHINE - Dwayne Johnson as Mark Kerr, 2025.

ジョンソンをケアーに似せるため、特に注意したのが眉骨と眉の形、そして鼻だ。メイクで眉骨を下げて眉毛も太く足し、自然な瞬きが制限されないように1〜2ミリの空間を組み込んだ義瞼も作った。もう1つ課題だったのは、タトゥー処理。まずジョンソン自身のタトゥーを消し、その上にケアーのタトゥーを入れなければならない。一度に作業できる人数は限られるため、まず顔のメイクから始めて、その後にボディメイクを施した。ジョンソン以外にも格闘家役の俳優たちの大半がタトゥーを入れていたため、毎日それを隠す作業に時間が費やされたそうだ。その結果、撮影進行予定表に俳優たちの「シャツ着用の日」か「上半身裸の日」を明記して負担を分散した。

『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』

The Ugly Stepsister

候補作の中で最大のサプライズとなったのは、ノルウェー映画の『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』。キャラクターの名前は変えてあるが、グリム童話『シンデレラ』の義姉妹の1人をヒロインに据え、ルッキズムをテーマに再解釈したボディ・ホラーだ。主人公のエルヴィラは、王子の結婚相手に選ばれるべく、美しさに磨きをかけようと身体改造を重ねる。野蛮な美容整形手術を受けたり、痩身のためにサナダムシを呑み込んだり、さらには靴のサイズに足を合わせるためにつま先を切り落とす。

そんなグロテスクな描写を作り出したのが、特殊メイクのトーマス・フォールドバーグとヘアメイクのアンネ・カトリーヌ・ザウアーバーグだ。ともにデンマーク出身の2人は、1990年代から何度もコラボしており、今作では先に参加したフォールドバーグの誘いに応じてザウアーバーグが加わった。

The Ugly Stepsister

主演を務めたノルウェーのモデルで俳優のリア・マイレンは、撮影開始の半年前からフォールドバーグによるメイクテストを重ね、物語の前半でふくよかなエルヴィラを演じるために頬と鼻、小さな二重あごと首のパーツを装着。脱毛や嘔吐に苦しむようになると目に症状が出ていることを見せるため、コンタクトレンズをつけた。舞踏会でマイレンが着用しているブロンドのウィッグは、パリで買い集めた1950〜70年代のものを染め直し、カットしたものを組み合わせて撮影用にリメイク。ザウアーバーグの手により、2週間かけて制作された。

Text: Yuki Tominaga

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