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【注目アーティストfile.32】素材と人、キャンバス上のコミュニケーションが作品――相澤安嗣志

  • 2026.2.27
YOKO YAMASHITA

ファッションのスタイリングを楽しむように、もっと気軽にアートを生活に取り入れてほしい――そんな思いでキュレーションしたアート作品をELLE SHOPで販売中! 今回は、東京発の現代アートギャラリーKANA KAWANISHI GALLERYディレクター河西香奈さんとタッグを組み、アーティスト相澤安嗣志さんに注目。素材を新たな視点で活かし、素材と対話するように作品を生み出す相澤さんの創造の裏側と、表現へと託す思いをインタビューした。作品の詳細・購入はELLE SHOPへ。

Recommended by.KANA KAWANISHI GALLERYディレクター河西香奈さん

KANA KAWANISHI GALLERYディレクター河西香奈さん YOKO YAMASHITA

「相澤さんは大学在学時に日本画を学んだ経験から、さまざまなメディウムの自然現象を引き出して作品に落とし込むという、とても特殊な仕事をされています。相澤さんの作品は、お部屋にあれば、花を飾るような雰囲気が生まれると思います。花も自然物で、自らの力で開いていく姿を感じられることが素敵だと思いますが、相澤さんの作品にもそんな魅力があります」

素材と人とが取り交わす、キャンバス上のコミュニケーションという作品

鉄やシルクなど、天然のものに人の手が加わった素材を対象に作品づくりを行っている相澤さん。なかでも今回ELLE SHOPに出品する作品〈Origin〉は、その代表的な取り組みのひとつで、顔料に鉄を混ぜて塗り、磁石で作品を描くという。

「大学時代に、鉄を錆びさせるという作品を作っていたのですが、さらに鉄を掘り下げてみよう、とリサーチするなかで、『磁力』というワードが出てきたんです。磁力は目に見えないエネルギーだけれど、地球にはなくてはならないもの。これを利用して作品を作れないかと考えました」。キャンバスに塗料と鉄粉を混ぜたものを塗り、裏から磁石を動かすことで、身体的にドローイングをしていく。一度きれいに描かれた磁力線も次の線が重なると崩れてしまうので、それを修正するためにまた次の線を描く。「塗料が半硬化するまでの間、僕はずっと磁石を動かし続けていて、キャンバス上で取り交わされたその僕と素材のコミュニケーションの結果を作品としています」

「Origin #93」(H730 × W530 × D40mm、2024) Atsushi Aizawa


里山の小学校で育まれた、人と自然が尊重し合う関係

自然と人間の関わりに興味をもったのは小学生の頃。「里山で育って、通っていた小学校も里山の中で授業を行う学校だったんです。里山を通して、自然と人がお互い無理をせず尊重し合う態度みたいなものを学びましたし、それは作風だけでなく、僕自身の人格形成の土台にもなっています」

とはいえ、それをアートで表現しようと考えたのは少し先のことだった。「小さい頃から絵は得意だったのですが、高校を卒業するときには将来のビジョンもなく、フリーターに。そんななか孤独を感じ、改めて自分が社会と接続するためにできることはないかと考えたとき、唯一絵が得意だったので、それを使って社会と接点をもとうと決意しました。願書締切のギリギリの日に多摩美術大学に願書を出したんです。ただ、美大受験のことなど何も知らなかったのですが、いざ受験しようとすると、油絵学科なら油画など、専門分野の実技試験があったんです。唯一日本画科の『水彩画』なら小中学校でやったことがあるから、と日本画科を受験しました」。なんと無事合格し、美術人生のスタートを日本画で歩き始めたという。

〈Origin〉の制作風景。キャンバスの裏で磁石を動かすと、鉄粉を混ぜた塗料に表情が生まれる。 YOKO YAMANAKA

しかし日本画で進んでいくというイメージが湧かず、その後は独自の道を歩き始める。「はじめは鉄板を錆びさせるという行為を作品にしていて、そこから鉄との向き合い方を変えたり素材を広げたりして、今に至っています」。半ば消去法で選んだ日本画の道だったが、日本画で美術教育のスタートを切ったことは、現在の作風にも深くつながっているという。「日本画というのは、制作環境や水質といった自然の要素が大きく、岩絵具そのものも天然物質だったりするので、『自然物をいかに扱うか』というところが重要な鍵になりますし、それは僕自身が里山から学んだものともリンクしています。この〈Origin〉という作品も、その日の湿度によっても鉄粉の量でも変わる。僕はあえてその量を決めず、毎回画面上で素材とのコミュニケーションを行うということをしています。制作中も、冷暖房もできるだけ使いません。それは、人が自分だけでは生きられず、環境の影響を受ける自然の一部であるということを、僕自身が忘れてしまわないように、という思いがあるんです」

近くで見るとわかる、鉄粉を混ぜた塗料の繊細で力強い立体感。 YOKO YAMASHITA

科学がなかった時代から変わることのない、人と自然の関係性

アート作品を作るというより、ライフワークに近い、と相澤さん。「人の生き方とかもののあり方というような、本質的な部分と対峙しているような思いがあります。物理的にはキャンバスの中で磁石を動かして、磁力線が重なったらきれいな線が乱れ、それを直そうとするとまた乱れ、という繰り返しを行っていますが、少し離れた視点で見ると、自然によって人の行動が作られていくということや、人が何かをしようとすると環境に何らかの変化が起き、それを補うためにまた何かをしなくてはいけない、といった繰り返しであることは、科学がなかった時代から今に至るまで、まるで変わっていないと思うんです。そういう人間と自然とのつながり方の起源という意味で〈Origin〉と名づけました」

Shuhei Yoshida, Courtesy of FUJI TEXTILE WEEK

この先、どんなふうに進んでいくかについても聞いた。「この2年ほどはシルクにハマっています。いろんなところに足を運び、シルクに関するリサーチを行っている途中。シルクの養蚕も里山とつながる合理性をもった農業であり、人々の信仰にも結びついているんです。そういう地域文脈というか文化人類学的な側面にもすごく興味があります。まだこれだという決定的なアウトプットが見つかっていないのですが、もしかしたら門外漢として今まで手を出してこなかった写真とか映像といった表現を選ぶ必要があるかもしれないし、一周回って、ちゃんと絵で描くということがあるかもしれません」

作品を購入した方には、それほど扱いに神経質にならずに楽しんでほしい、という。「有機的なものを観ていると、人は必ず何か感じますよね。ほっとするのか、ゾワッとするのか、ワクワクするのか。そのときこそ、その人と素材とのコミュニケーションが生まれる瞬間なんじゃないかなと思います」

「Origin #51-2」(H300 × W300 × D20mm、2020) Atsushi Aizawa

ATSUSHI AIZAWA

PROFILE 1991年神奈川生まれ。2011年多摩美術大学美術学部絵画学科日本画専攻入学、2015年多摩美術大学美術学部情報デザイン学科メディア芸術コース卒業。磁気や錆など自然界の物質性を取り込みつつ、見えない力を可視化する試みを続ける。日本画的な色彩感覚とメディア技術を融合させ、自然の力学と記憶の層を重ねる作品群を制作。

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