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「サッカー指導者」×「不動産事業」で唯一無二の何者かに 大阪大学サッカー部・木室孝輔監督が明かす、高学歴集団の「驚異的な粘り強さと集中力」

  • 2026.2.26

「スポーツ指導者」と聞くと、多くの人はアスリートの「セカンドキャリア」として連想する方が多いのではないか。多くの場合はそうではあるが、“例外”も少なからず存在する。大阪大学サッカー部で監督をつとめる木室孝輔氏もまたそのひとり。それでいて特筆すべきは、“例外”が複数あるということだ。現在28歳の木室氏は、現役どころか実はサッカー経験自体ない。それでありながら、19歳からマネージメントの道に入り、10年近く経った現在は、関西2部に所属するチームを預かるまでにいたった。さらに不動産会社の営業マンという顔を持っている。これまでの彼の経歴はどのようなものだったのか、話を聞いた。

リファラルから積み上げた

寒空厳しい1月某日。
大阪府吹田市にある大阪大学本学キャンパスで実施したインタビュー。練習前に行ったが、既に何名かはウォームアップの最中だった。現在大阪大学サッカー部はAチームBチームがあり、総勢80名が所属。木室さんは2025年シーズンから監督に就任。

画像1: 筆者撮影
筆者撮影

サッカー指導者のキャリアをスタートしたのは自身がまだ19歳だった2016年。地元である大阪府の高校でのコーチからだ。その後、兵庫県にあるFC淡路島(現:FC.AWJ)でコーチをつとめたあと、舞台を「大学」に移し、東京外国語大学・一橋大学そして現在の大阪大学となる。

サッカー未経験者で考えると異色のキャリアだが、木室さんによると、皆無というわけではないそうだ。ただ、経験があったとしても、自身と同年代で指導者を志すなら、通常はJリーグ下部組織や街クラブからキャリアを積むことが多いという。
中学校の時に海外サッカーを見て、サッカー興味を抱いてたという木室さん。どこに魅力を感じたのだろう。

「マネジメントに興味を持ちました。戦略的な部分ですね」

高校世代から指導者キャリアを歩むようになった木室さんだが、FC淡路島に赴任した際には、後にも影響される出会いがあったという。

「選手の中には元プロや世代別代表もいたんです。自分が特別何かをしたというわけではないんですが、指導するにあたっての『基準』を示してくれましたね」

コーチを経て、監督として大学サッカー界に足を踏み入れるのだが、きっかけとなったのが当時猛威を振るっていたコロナ禍。

「ちょうど当時指導者間でオンラインで交流することがあったんですが、そこで知り合った人に『東京外国語大学が監督を探している』という話をいただきました」

足場を固めていく中で、次なるステップに選んだのが一橋大学。指導実績に加えて、FC淡路島時代に採用したフォーメーションが合致したのが採用の決め手になったという。ちなみに、木室さん以前に指導していたひとりが元日本代表の戸田和幸氏。

拠点を関東に移した中で、現職の大阪大学に就任したのも「大学」がきっかけだったという。

「僕は同志社大学出身なんですが、そこのサッカー部指導者をされていた方から、『阪大(大阪大学)が監督を探している』とお話をいただいたのがきっかけですね」

名だたる大学に身を置いてきた木室さんだが、ビジネス文脈でいえば、「リファラル採用」でキャリアを積み上げてきた。それでいて、東京都3~4部(東京外国語大学)、東京都2部(一橋大学)、関西2部(大阪大学)と着実にステップアップ。その前段にあたるのが高校世代だが、途中FC淡路島で邂逅した「基準(世代別代表)」も含めて、子供から大人へと指導対象を変えている。これは将来“トップ”を見据えた際、限りなく近い存在と関わるため、意図的にしているという。

画像: 20代ではあるがあくまで指導者として接する木室さん(左) 筆者撮影
20代ではあるがあくまで指導者として接する木室さん(左) 筆者撮影

ちなみに木室さんは現在28歳。学生たちとも年齢が近いが、そこの影響はあるのだろうか。

「ないですね。昔はありましたけど、今はもうなくなりました。組織としても大きいですし、スタッフ含めたら100名ほどいますしね」

高学歴集団あるある

大阪大学といえば、いわゆる「旧帝大」の一角に数えられる。部活動においても体育会系というより、色々とロジカルに判断しがちなのではないだろうか。

「そこは就任して2週間で結果を出したのも大きかったですね。彼ら自身が渇望していたものと合致していたことも大きかったと思います。『守って守ってカウンター』だけでは、リーグ戦は生き残れないということを痛感していたみたいなので」

この日の練習でもそうだが、木室さんはボールを大事にする戦術を志向している。たとえ格上でも勇気を持ってボールプレーを重視する。そのおかげで就任一年目は残留を成し遂げ、自身も続投となった。

一方で難しさもあるという。先述した通り、大阪大学は名門だ。しかしそれは学歴としての話で、スポーツ文脈でいうと推薦枠も存在せず、現所属部員の中には世代別代表経験はもちろん、Jクラブ下部組織所属有無に関しても、ジュニアユース出身が一名いるのみ。

「入りたい子がいたとしても、『受験頑張れよ!』としか言えないですよね」

卒業後の進路も就職…それも名だたる企業が基本線。学生生活の貴重な一部で、恐らく最後となるであろうサッカーに勤しむ者も多い。そんな高学歴集団特有の傾向もあるという。

「良くも悪くも素直ですね。賢いからなのか、“跳ねっ返り”がなくって。例えばミーティングをする時に、ちょっと強めの口調で煽るような言い方をすることもあるんですけど、それに反発するでなく素直に受け止める子が多いんですよ。試合中もどうしようもない失点やミスを引きずりがちですね」

良い方向に転ぶこともある。

「ミーティングの時間を長くやった場合でも、それを耐えられる集中力がありますね。そこはずっと勉強をやってきた頭の良さですよね。タスクを与えると、愚直に実行してくれます。“バッド”にさえなければやりきれる粘り強さがありますね。紙一重の部分です」

大学サッカー全体でも、国公立大学が上位カテゴリーに所属するのはほんのわずか。その中で、日本で7校しか存在しない「旧帝大」の一角に数えられる大阪大学が、関西2部で奮闘していることは賞賛を受けてもいいのではないだろうか。

学歴といえば、地頭の良さがいわゆる「サッカー脳」にも反映されるか否かも気になるところだが…

「それはないです。全然関係ないですね(笑)」

画像2: 筆者撮影
筆者撮影

二足の草鞋に至る切実な懐事情

木室さんを語る上で欠かせないポイントは、サッカー指導者の他に不動産会社の営業マンでもあるということだ。一橋大学監督時代に、社長と知り合ったことがきっかけで二足の草鞋を履くこととなった。この草鞋だが、相互補完が出来ているという。

「サッカー界って人の動きが年中あるんで、ある日突然引っ越しなんてザラなんです。その時に、『ここどう?』って引っ越しの提案が出来るのは強みですね。自分自身が当事者なんで解像度が高いのも強みです」

独自のポジションを築きつつある木室さんだが、それに至ったのは切実な懐事情もある。

これまで東京外国語大学、一橋大学、大阪大学と、名だたる大学を渡り歩いているが、あくまでスポーツ指導者として雇用され、いずれも職員でない。このことは、給与面にも影響を与えている。木室さんの名誉のため、具体的な数値は記さないが、東京外国語大学・一橋大学時代は、昨今政界を騒がせている「108万の壁」と大差ない。

画像3: 筆者撮影
筆者撮影

営業マン以前はアルバイトを兼務したという木室さん。“現職”では改善されたとはいえ、それでも大卒初任給よりも下回っている。

「サッカー界はお金ないですからね。それに下積みは必要なものと考えていますよ」

そう割り切る木室さんだが、同時に自身の境遇は再現性のあるものではないとも認めている。薄給だが、自身以外にも少なくない影響を与えているという。

「一橋大学では、僕の前任は学生がヘッドコーチだったんですが、前々任である戸田和幸さんのもとで薫陶を受けていた子だったんです。人としても優れていましたが、卒業後は大企業に就職していきました」

サッカーはトップに行くための手段

話を聞く中で印象的だったのが、木室さんにとってサッカー指導者が、サッカー界でトップに行くためにもっとも「可能性」があるというのだ。中学時代に志した時点で、研鑽を積もうと考えたという。

「人を動かすというところに凄く魅力を感じて。『これなら』という考えが生まれました」

オフシーズンには積極的に色々な人と関わりを持つようにしていると言い、筆者が知り合ったのも、とある経営者コミュニティだったりする。現在の大阪大学サッカー部にしても、数十名規模を統率していることでもあり、経営者とのコミュニケーションが大いに参考になるという。

反面、二足の草鞋生活は、“中途半端”に見られることも多いといい、そこに歯がゆさを感じることもあるという。

「僕はプライベートも含めて、どれも全力でやりたいんですよ」

そもそも、かつてはアルバイトをするなどしてギリギリの生活を送っており、そのような指摘はお門違いとしか思えないのだが、捧げることが好まれる悪しき風習でもある。

木室さん自身、同志社大学という関西を代表する名門を卒業しており、経済的な意味ではもっと“楽”な方法がある中で、休む間を惜しんで日々過ごしている点は記しておきたい。デュアルキャリアという生き方はもっと尊重されるべきであろう。

インタビュー終了後は、個別とAチームBチームそれぞれの指導に入った。そこには、確かに未経験者を微塵も感じさせない熱量のこもった指導者の姿が。今後は重要視しているという「旧帝大戦」で好成績を目指す。

画像: インタビュー終了後は、髪を束ねて監督モードに。筆者撮影
インタビュー終了後は、髪を束ねて監督モードに。筆者撮影
画像: 学生たちを指導する木室監督(写真中央の白いキャップを被っている人物) 筆者撮影
学生たちを指導する木室監督(写真中央の白いキャップを被っている人物) 筆者撮影

そしてその旧帝大戦だが、2月10日から16日にかけて開催。結果はというと…見事に優勝を果たした。それもAチームBチーム揃っての完全制覇となる。

「僕ら(大阪大学)の理念のひとつに、『国公立大学をけん引する』というのがあるんです」

有言実行を果たした大阪大学。強豪私学相手にどう対峙するのか要注目だ。

ちなみに関西2部リーグは、1部優勝経験があり、粟飯原尚平(水戸)や昨年のJFL得点王である藤本憲明(福山シティ)など、OBに多数のJリーガーを輩出している近畿大学や、20回近い1部優勝経験と2度の総理大臣杯優勝経験を持つ大阪商業大学、同じく1部優勝や総理大臣杯準優勝経験を持つ桃山学院大学などが所属。
昨シーズンは、藤井智也(湘南)、茂平(大分)、國分伸太郎(山形)などの母校で、主要大会での優勝経験も豊富な立命館大学、宮大樹(名古屋)、松田力(富山)・陸(パトゥムユナイテッド)兄弟、堂安憂(堂安律の兄)などを輩出し、2022年シーズンには1部で準優勝したびわこ成蹊スポーツ大学が所属していた。※両校とも2026年シーズンは1部に復帰

関西学院大学(2023・2025総理大臣杯準優勝)、阪南大学(2024総理大臣杯優勝)、関西大学(インカレ優勝2回、総理大臣杯優勝1回)、京都産業大学(2023インカレ準優勝)、大阪体育大学(インカレ優勝2回、総理大臣杯優勝3回)、そして木室さんの母校同志社大学など、全国でも有数の名門校が1部に名を連ね、そうした面々としのぎを削った強豪校が、時に2部での戦いを余儀なくされるほど競争が激しいのが関西学生サッカーリーグだ。

その中で「旧帝最強」となった大阪大学がどう挑むのか。春の開幕を心待ちにしたい。

取材・執筆:向山純平

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