1. トップ
  2. 「最近やたらと喉が渇く」エナジードリンクで水分補給→ある日、突然職場で意識を失い…40代男性を襲った“思わぬ悲劇”

「最近やたらと喉が渇く」エナジードリンクで水分補給→ある日、突然職場で意識を失い…40代男性を襲った“思わぬ悲劇”

  • 2026.3.25
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。日々みなさまの呼吸と循環、そして代謝を守る麻酔科医の松岡です。

今回ご紹介するのは、40代男性・Dさん(仮名)の実例です。

「最近やたらと喉が渇くし、だるい。最近忙しくて疲れが溜まっているんだろう、いつものエナジードリンクで気合を入れよう」

Dさんは、異常な口の渇きや頻尿を「ただの過労」と思い込み、いつものようにエナジードリンクを飲みながら激務を乗り切ろうとしていました。

しかしある日、職場で強い吐き気と息苦しさに襲われ、意識を失って倒れてしまいます。救急搬送先のICUで下された診断は「ペットボトル症候群(糖尿病性ケトアシドーシス)」。一命は取り留めたものの重度の糖尿病が発覚し、今でも毎日、インスリン注射と厳密な食事制限が欠かせず、以前のようには働けない日々に悔しさを滲ませています。

今回は「疲れを吹き飛ばすエナジードリンクが引き起こす、恐ろしい昏睡のメカニズム」について解説します。

喉の渇きを癒すはずの飲み物が招く「極限の脱水と昏睡」

疲れた時に甘いものを欲するのは、脳がエネルギーを求めていることによるごく自然な反応です。

しかし、糖分の多い飲料を水代わりに飲み続けると、「潤うどころか渇く」という恐ろしい逆転現象が起こります。

【体が酸性に侵され、昏睡に至るメカニズム】

・大量の糖分で血糖値が高くなると、尿の中に糖が溢れ出す
・尿中の糖分が、身体側から尿側に水を引きこむため、大量の水分が排出される(浸透圧利尿・多尿)
・身体は水を失うことで、脱水状態になり、強烈な渇きを感じてさらに甘い飲料を飲んでしまう
・極端な高血糖になると、細胞に糖を運ぶ「インスリン」が効かなくなって、細胞に糖が届かなくなる
・細胞は、糖の代わりに脂肪を燃やして活動を続ける
・脂肪を燃やしたことによって「ケトン体(酸性物質)」が大量発生し、体が危険な酸性(アシドーシス)に傾いて意識障害を引き起こす

「疲労」と「命の危機」の分かれ目

「ただの疲れ」と「危険な状態」の分かれ目は、体内に自覚のない高血糖が隠れている時に、大量の糖分を含むドリンクを飲み続けてしまうことです。

【飲料中の糖分】
・小瓶の栄養ドリンク(100mL):角砂糖4〜5個
・市販のペットボトル飲料、炭酸のエナジードリンク(500ml):角砂糖10〜15個分

糖尿病の初期や一時的な悪化の際には、「口渇(異常な喉の渇き)、多飲、多尿、体重減少、だるさ」といった症状が現れます。

しかし、目立った症状ではないために「最近忙しくて疲れているせいだ」「汗をかいて喉が渇いているだけだ」と自己判断しがちです。

疲労感を何とかしようとエナジードリンクを飲み、それがさらなる高血糖と浸透圧利尿を招き、脱水による強烈な渇きからまた甘い飲料をがぶ飲みしてしまう…。この「渇きを甘いもので癒やす」という行動こそが、ただの疲労を命に関わる昏睡状態へと急激に進行させる危険な境界線なのです。

手遅れになる前に、確認すべき3つのサイン

体が危険な状態に傾いているかどうかは、以下の3つのサインからチェックできます。

1. 異常な喉の渇きと、トイレの回数(尿量)の増加

いくら飲んでも渇きが癒えないのは、ただ疲れているからではありません。また、夜中に尿意で目が覚めるのは、水分が満ちているからではなく、体が必死に糖を排泄しようとしている危険信号です。

2. 食事しているのに、急激に体重が減る

細胞が糖を使えず、自分の筋肉や脂肪をどんどん分解して無理やり生き延びようとしている証拠です。

3. 強いだるさと、甘酸っぱい口臭

体が酸性に傾き始めると、呼気から熟れすぎたフルーツや除光液のような特有の匂い(ケトン臭)がし始めます。

異様な“喉の渇き”は医師に相談を!

疲労を回復させるために良かれと思って飲んでいたものが、いつの間にか体を追い込んでいた…。

Dさんの後悔は決して特別なものではなく、ストレス社会で忙しく生きる誰にでも起こり得ることです。多忙な毎日の中で、気合を入れようとエナジードリンクに手が伸びることに心当たりがある方も多いと思います。

対策は、「喉の渇きに対して糖分の多いドリンクは有効ではない」と知ることです。また、激しいスポーツ後でない場合、つまりデスクワーカーの疲労については、医学的にはエナジードリンクの糖分は不要なことがほとんどです。脳のエネルギー源はブドウ糖のみですが、食事を摂っていれば十分に足ります。

もし異常な喉の渇きを感じたら、飲み物を「水」か「無糖のお茶」に変えてみましょう。それでも渇きが治まらず、特に体重減少やだるさがある場合は、迷わず内科や糖尿病内科にぜひご相談ください。はっきりとした症状が出ず見過ごされがちではありますが、元気に働くためにもぜひ毎日のドリンクを見直してみましょう。


監修者・執筆:松岡 雄治

総合病院や大学病院、小児専門医療機関での勤務を通じて、幅広い診療科の周術期管理に従事。現在は急性期病院の麻酔科医として最前線の医療に携わっている。専門医としての高度な医学的知見を活かし、医療・健康・美容分野でのコラム執筆や医学論文の解説などを幅広く手掛ける。医療AI技術開発プロジェクトへの参画など多岐にわたる実績を持ち、読者に寄り添った分かりやすい医療解説に定評がある。保有資格は麻酔科専門医、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級など。