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キューブ型の「軒ゼロ」に惹かれて…憧れだったはずが、相談者を襲う“意外な落とし穴”【一級建築士は見た】

  • 2026.4.4
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「キューブ型のスタイリッシュな外観に惹かれて、軒のない家を建てたいんです」

設計の現場で、こうした相談を受けることが増えました。

確かに、軒の出(屋根が壁より外に突き出た部分)をなくした四角いシルエットは、現代的でシャープな印象を与えます。都市部の限られた敷地において、この「軒ゼロ」という選択は、デザインだけでなく実利的な面でも大きな魅力を持っています。

軒のない設計がもたらす3つのメリット

軒のない四角い家が選ばれる背景には、主に3つの強みがあります。

・モダンでスタイリッシュな外観:
無駄を削ぎ落としたミニマルなデザインは、幅広い層から支持されています。

・建築コストの削減:
屋根の構造をシンプルにできるため、材料費や施工の手間を減らすことが可能になります。

・居住空間の拡大:
特に都市部の狭小地では、軒をなくすことで建物を敷地いっぱいに寄せ、室内空間を最大限に確保できるという大きな強みがあります。

「傘のない」リスク

一方で、建築実務の視点で見ると、軒は家を雨や日差しから守る「傘」の役割も果たしています。この傘をなくした設計では、建物の耐久性を維持するために、通常以上の配慮が求められることも事実です。

軒がない家において注意すべきは、雨水の浸入です。屋根と外壁の接合部は、住宅の中で雨漏りが発生しやすい箇所の一つですが、軒がないと雨が直接この部分に叩きつけられます。また、窓周りの汚れも目立ちやすくなります。

軒がないと、サッシに溜まった埃が雨で流され、外壁に「雨だれ」の跡を作りやすい傾向にあります。これにより、数年で外観の美しさが損なわれてしまうケースも考えられます。

さらに、紫外線の影響も無視できません。軒による日除け効果がないため、夏場の日差しが室内にダイレクトに差し込み、冷房効率に影響を及ぼしかねないのです。外壁やサッシのコーキングも常に強い日差しにさらされるため、劣化のスピードが速まる可能性も考慮しなければなりません。

一級建築士が教える「四角い家」で後悔しないための備え

デザインの美しさと性能を両立させるためには、以下のような対策を検討することが有効です。

・高耐久な部材と止水処理:
軒がない分、通常よりもグレードの高い防水部材や、汚れに強いセルフクリーニング機能付きの外壁材を採用することが大切です。

・小さな庇の活用:
屋根全体のシルエットは四角く保ちつつ、窓の上にだけ小さな庇を設置するだけで、雨漏りや日射のリスクを軽減できる場合があります。

・点検計画の策定:
軒のある家に比べて外装の劣化が早まる可能性を想定し、10年〜15年ごとの定期的な点検と、修繕費の積み立てを早めに計画しておくことが重要です。

四角い家という選択は、都市部での合理的な住まい方の一つといえます。しかし、日本の気候において軒が果たしてきた役割を理解した上で、その弱点を補う設計やメンテナンスを行うことが不可欠です。

「見た目の美しさを追求すると同時に、将来の建物の健康状態を冷静にシミュレーションすることが大切」ということです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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