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上映時間“89分”の美学。チンパンジー×狂犬病『おさるのベン』監督が語る、ホラー映画を怖くする秘訣「すべてを削ることから始める」

  • 2026.2.19

南国の楽園・ハワイの森の奥にたたずむ一軒の高級住宅が恐怖の舞台へと変わる密室パニックスリラー『おさるのベン』が、2月20日(金)より公開を迎える。それにあわせてMOVIE WALKER PRESSでは、本作を「人生で初めて観た怖い映画へのラブレター」だと語るヨハネス・ロバーツ監督にインタビューを敢行。作品の成り立ちや、影響を受けた作品・クリエイター、そしてホラー映画づくりの流儀について話を聞いた。

【写真を見る】原点となったのはスティーヴン・キング原作『クジョー』!狂犬病に感染した犬が人々を襲い食い尽くす…

友人を連れてハワイにある実家へと帰省した大学生のルーシー(ジョニー・セコイア)。彼女を迎えてくれたのは、作家で聴覚障がいを持つ父のアダム(トロイ・コッツァー)と、妹のエリン(ジア・ハンター)、そして言語学者だった亡き母が研究のために赤ん坊のころから育ててきたチンパンジーのベン。家族との再会に心躍らせるルーシーは、プールやパーティなど楽しい休暇を過ごすはずだったのだが、いつもは賢くてかわいいベンの様子に異変があらわれ…。

「チンパンジーは、狂犬病がなくても恐ろしい一面を持ち合わせている」

ホラー映画作家として、ありとあらゆるタイプの“恐怖”を題材にしてきたロバーツ監督。代表作である「海底47m」シリーズでは人喰いザメの脅威を描き、『ストレンジャーズ 地獄からの訪問者』(18)では殺人鬼、『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』(21)ではいわゆるゾンビ(=アンデッド)。そして今作では、“狂犬病”にかかったペットと過ごす恐怖の一夜が描かれていく。

狂犬病×チンパンジー×密室!『おさるのベン』監督にインタビュー! [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
狂犬病×チンパンジー×密室!『おさるのベン』監督にインタビュー! [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

動物の潜在的な恐怖を描くという点では、「海底47m」シリーズと同様“モンスターホラー”に分類することができる。とはいえ大きな違いがあるとすれば、“襲う側”と“襲われる側”の関係性であろう。「親密で愛おしい家族の一員であるペットが変貌してしまう。それは恐ろしい出来事であると同時に、胸が張り裂けるような悲しみを引き起こすものです」。そう説明しながらロバーツ監督は、本作がスティーヴン・キング原作によるルイス・ティーグ監督作『クジョー』(83)の影響下にあることを公言する。

ペットとして飼われていたセント・バーナード犬が狂犬病にかかり、次々と人を襲っていく『クジョー』。1976年生まれのロバーツ監督にとって、それが“人生で初めて観た怖い映画”だったようだ。「『クジョー』は私が映画監督になりたいと思うきっかけになった作品であり、間違いなく『おさるのベン』にも大きな影響を与えています。なぜなら、私はずっと、いつか自分でもこのような映画を撮りたいと願い続けてきたからです」。

狂犬病の特徴のひとつが、“水を怖がる”こと。主人公たちはプールに逃げ込むのだが… [c]Everett Collection/AFLO
狂犬病の特徴のひとつが、“水を怖がる”こと。主人公たちはプールに逃げ込むのだが… [c]Everett Collection/AFLO

そんな念願の企画に着手したのは十数年前。「母の飼っている犬がプールの周りを走り回っているのを見た時にひらめいたんです。もし犬ではなく別の種類のペットが狂犬病にかかったら、なにが起こるだろうかと」。調査を進めていったロバーツ監督がたどり着いたのは、人間にもっとも近い知能を持つとされ、同時に人間をはるかに凌駕する腕力を携えた“チンパンジー”だった。「調べれば調べるほど、彼らは狂犬病がなくても恐ろしい一面を持ち合わせている動物だと知りました。非常に邪悪で凶暴で、その性質が、映画にこのうえない恐怖を与えてくれる。そう確信しました」。

ジョン・カーペンターから受けた影響と、“音”へのあくなきこだわり

CGやモーションキャプチャーに頼らず、生身の人間が演じているベン [c]Everett Collection/AFLO
CGやモーションキャプチャーに頼らず、生身の人間が演じているベン [c]Everett Collection/AFLO

こうして“狂犬病”と“チンパンジー”という2つの重要なモチーフを手にしたロバーツ監督は、その恐怖をより的確に表現するために、「実写重視」のアプローチを選択する。「怖さと感情移入を生む唯一の方法は、視覚効果を使わずに実写でコンセプト全体を表現することでした。そうすることで、観客にも俳優にも、より生々しい体験を届けることができる」。しかし本物のチンパンジーを撮影に使うのは危険が伴う。そこで俳優のミゲル・トーレス・ウンバにチンパンジーのスーツを着用してもらい、凶暴化したベンを演じてもらうことに。

「まるで『ハロウィン』を撮影しているような気分でした」と、ロバーツ監督は充足感たっぷりに振り返る。「昔ながらの撮影手法で臨むことができたので、ジョン・カーペンターがホラー映画の王者だった時代に戻って映画づくりをしている感覚を味わい、子どものように楽しんでしまいました。やっぱり私のなかには、1980年代のホラー映画が染み付いている。だから恐怖のスタイルは『ハロウィン』の影響がはっきりと出ているし、シンセサイザー・サウンドの音楽にも『クリスティーン』の影響が出ていると感じています」。

カーペンター作品を彷彿とさせる奇怪なシンセサイザー・サウンドが、ホラー映画ファンに刺さる! [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
カーペンター作品を彷彿とさせる奇怪なシンセサイザー・サウンドが、ホラー映画ファンに刺さる! [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

監督作の多くで自ら音楽を担当している稀有な映画作家であるジョン・カーペンター。その影響を受けているロバーツ監督もまた、キャリア初期の監督作では自ら音楽を兼任していたことがある。「音楽の響き、音の響きは制作プロセス全体のなかで一番好きな部分であり、監督として強い情熱を注いでいます。特にホラー作品では、音が重要なのです」と熱弁を振るう。そして「本作には、“音”が完全に排除されることで逆に重要な意味を持つシーンがあります」と、映画後半のとあるシーンについて説明する。

それは、父アダムが帰宅するシーン。薄暗い家の中で、聴覚障がいを持つアダムが徐々に異変を感じ取っていく様子が、音楽を含めた一切の音を排除したなかで描かれる緊張感のある一幕だ。アダムを演じているのは、『コーダ あいのうた』(21)でアカデミー賞助演男優賞に輝いたデフアクター界を代表するトロイ・コッツァー。彼が配役されたことでアダムは聴覚障がいを持つ役柄に設定変更され、このシーンが生まれたという。

一家の父アダムを演じたのはオスカー俳優のトロイ・コッツァー [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
一家の父アダムを演じたのはオスカー俳優のトロイ・コッツァー [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

「観客はこのシーンで、突然薄暗い空間へと放り込まれ、そこでなにが起きているのか、この後なにが起こるのかを、トロイと同じように五感を研ぎ澄ませながら必死に探ることになるでしょう。映画館という絶対に安全な空間にいるとわかっていても、たちまち不安と恐怖に包まれ、もしかすると安全ではないかもしれないという感覚に陥りながら、チンパンジーの居場所を見つけようとする。こうした体験を観客にしてもらうことが、ホラー映画の監督としてはとても楽しみなことなのです」。

「ホラー映画はわずかな上映時間の差で決まる」

ロバーツ監督のフィルモグラフィを見ると、ほぼすべての作品に2つの共通点が見受けられる。一つはすべてがホラージャンルであること。そしてもう一つは、90分前後で完結するタイトな作りをしていること。唯一の例外は『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』だが、それでも107分。「特に『海底47m』や『おさるのベン』のようなワンシチュエーションの映画は、タイトな時間枠のなかで成立する必要があると考えています」と、ロバーツ監督はその理由について説明する。

わずか90分の短い上映時間のなかに、恐怖も家族愛のドラマも凝縮! [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
わずか90分の短い上映時間のなかに、恐怖も家族愛のドラマも凝縮! [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

作家性の強い監督と商業的な面を重視するプロデューサーが、映画の長さをめぐって対立するという話は、映画界ではよくあること。その場合、プロデューサー側が作品をより短くするよう要求するのがほとんどだが、ロバーツ監督は「私がプロデューサーと戦うならば、それは長くするためではなく短くするためです。もし私が“ディレクターズカット”を作るなら、絶対に短くします。長くなることはありません」と断言する。

そして、「私は作品を編集するにあたり、すべてを根こそぎ削ることから始めます。そのあとで、必要だと感じた部分だけを徐々に戻していくのです。ホラー映画においてはわずかな上映時間の差で成否が決まる。ちょうどいま『海底47m』シリーズの第3作にプロデューサーとして関わっているけれど、監督のパトリック・ルシエに『もっと短く』『これはいらないよ』『もっとノンストップのジェットコースターのような展開に』と指導しなくちゃならないんだ」と笑いを浮かべていた。

『おさるのベン』は2月20日(金)より公開! [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
『おさるのベン』は2月20日(金)より公開! [c]2025 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

まさにホラー映画に精通した作り手であるロバーツ監督だが、それゆえの悩みもあるようだ。「普段ホラー映画を観ると、すごく退屈してしまうんです。トリックも作りかたも大体全部把握しているので、純粋に映画に入り込むことがとても難しい」。それでもどうしても忘れ難いホラー映画体験として挙げるのが、いち時代を築いた“Jホラー”の代名詞である『リング』(98)だったという。

「当時イギリスではほとんど上映されていなかったので、少し経ってからVHSで鑑賞しました。怖がらせ方からテンポの取り方まで、本当にゆっくりと不気味で美しくて、妙に不安な気持ちになったのをいまでもはっきりと覚えています。ホラー映画の新たな世界を見た気がして、可能な限り多くのことを吸収しようとしてきました。だから『リング』は私のホラー人生の永遠の基準です。貞子がテレビから出てくるシーンの衝撃は、死ぬまで忘れることはないでしょう」。

文/久保田 和馬

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