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「ハロウィンのコスプレのアイデアに」──ティモシー・シャラメ主演『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』の監督と衣装担当が語る制作秘話

  • 2026.3.10
映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は3月13日より日本公開。
Marty Supreme映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は3月13日より日本公開。

映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』の衣装デザイナー、ミヤコ・ベリッツィは主人公にふさわしく大胆に夢を見る姿勢で、ある問いに向き合わなければならなかった。それは、「マーティ・マウザーという男は、自分をどのような存在として世界に見せたいのか」ということだ。

「それは必ずしも“今の彼”ではないんです」と、彼女はUS版『VOGUE』に語る。今の彼とは、1952年ごろのロウアー・イースト・サイドで靴のセールスマンをしている男(ティモシー・シャラメ)のことだ。彼は自分こそが世界最高の卓球選手だと確信しており、意志の力と利己的な策略、そして自己創造によって偉大になることを追い求める。この刺激的なキャラクター研究においては、まさに「服が人をつくる」のであり、成功するまで成功したふりをする彼の精神を体現している。

なにしろ、マーティは大きな野心を抱いている。それを表しているのが、彼のグレーのスーツだ。まだクリーニング店のビニール袋に入ったままのそれを、より現実的な夢を抱く同僚の靴店員に振りかざしながら、海外の大きな大会のために特別に買ったのだと語る。ベリッツィの目には、その一着こそがマーティという人物を最もよく表しているように映る。「それは、彼がなりたいと願う男そのものなんです」

映画監督のジョシュ・サフディは、2019年の『アンカット・ダイヤモンド』や、弟ベニー・サフディと共同監督した2017年の『グッド・タイム』でのコラボレーションを経て、彼女に本作の話を持ちかけた。彼女はその後、『Bonjour Tristesse(原題)』(2024)や『The History of Sound(原題)』(2025)、さらにHBOドラマ『ある結婚の風景』(2021)なども手がけている。

「この時代はミヤコのお気に入りの時代だったんです。僕が彼女に声をかけたのは偶然でしたが、本当に運命のようで興奮しましたし、特別な相乗効果が生まれました」とサフディは語る。

NYでロケ撮影中に言葉を交わすティモシー・シャラメと ジョシュ・サフディ監督。
MartyNYでロケ撮影中に言葉を交わすティモシー・シャラメと ジョシュ・サフディ監督。

主人公と同じくニューヨーカーであるベリッツィは、映画の冒頭に登場する、窮屈なロウアー・イースト・サイドの環境を思い描くことを大切にしたという。「あれがマーティの世界なんです。街にいること、そして何に影響を受けるのかを考えました」と彼女は語る。「近所で彼がインスパイアされているのは誰なのか? 彼は誰のようになりたいのか? そして、何にはなりたくないのか?」

そのなかには、マーティ自身も詐欺師として関わる裏社会の人物たちも含まれる。実際、彼のスーツは、彼が関係を持つことになる犬好きの犯罪者(アベル・フェラーラ)のシルエットを反映している。サフディは制作を進めるなかで、顧客にユダヤ系ギャングを抱えていたロウアー・イースト・サイドの仕立て屋の存在を知ったという。「股下の長さが富の象徴だったんです。お金を持っているほど、生地をたくさん使えた。そこにはマーティやギャングたちの、富を見せびらかし、自分をタフな男として演出したいという欲望が表れていました」

またサフディは、「マーティは派手な男だから、シャツに柔らかく流れるような質感を持たせることが重要」だと感じていたという。そして二人はすぐに、シャラメのスーツが学生風に見えないよう、肩パッドを入れるべきだと気づいた。「あのシルエットが見つかった瞬間、彼の存在感のすべてが変わりました。歩き方さえも」とベリッツィは語る。

そして、眼鏡もこのキャラクターにとって重要な要素だと監督は指摘する。「あれは、彼のスーツが持つギャング的な雰囲気との良い対比になっていました。上を目指そうとする彼の要素である、若さや視力の低さを映し出すものだったんです」

リアリティを追求するため、シャラメはまず視界をぼやけさせるコンタクトレンズを装着し、その上から実際に度の入った眼鏡をかけて視力を矯正していたという。サフディは、「普段眼鏡をかけている人たちが『ありがとう。単なる小道具としてかけているのを見るたびに、すごく気になっていたんだ』と言ってくれます」と笑いながら付け加える。ちなみに、彼自身は昔から眼鏡に憧れていたそうで、「10代の頃、眼科検診で嘘をついて眼鏡を手に入れようとしたんです。それで本当に目が悪くなりました」と言う。

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また二人は、当時も今も同じように、お金が人々の装いにどのような影響を与えるかについても考えたという。サフディは、道路を走る車の使用年数が平均12年であるという統計になぞらえて「この時代のロウアー・イースト・サイドでは、人々は1940年代に手に入れた服を着ているんです」と説明する。「ミヤコは、ロウアー・イースト・サイドが過去に置いていかれている一方で、アッパー・イースト・サイドは、ランウェイから出てきたばかりの最新オートクチュールの世界にするべきだと考えました」

元ハリウッドスターのケイ(グウィネス・パルトロウ)が暮らす上流階級の世界を描くにあたり、彼らは創設間もない頃のバレンシアガ(BALENCIAGA)ディオール(DIOR)に着目した。いずれも当時設立されたメゾンである。「あれは主要なファッションハウスがはじまった時代でした。ミヤコは、当時はすべてがとても純粋で、モダニティの幕開けだったと語っていました。いつも、僕にこういうことを教えてくれるんです」

ファッションスタイリストとしてキャリアをスタートさせたベリッツィは、マーティやケイの衣装から、ニュージャージーのボウリング場に集う何十人ものティーンエイジャー、さらには安価な時間貸しホテルの住人たちの衣装に至るまで、あらゆる装いを手がけた。言うまでもなく、16カ国の卓球ナショナルチームのユニフォームもその一部だ。

各チームのポロシャツはそれぞれ異なるシルエットを持ち、ウォームアップウェアや胸のワッペンも個別にデザインされている。いくつかの国については参考となる画像を見つけたが、それ以外は完全に彼女の創作だったという。それらは映画の序盤、各チームが集合写真のためにポーズを取る場面で一瞬だけ映し出される。

「本当にミヤコの審美眼を物語るシーンです」とサフディは語る。「あのショットは大好きなんですが、すぐ次に進んでしまうので、映画の世界がどれだけ構築がされているのか、観客がじっくり味わう時間がないんです」

多くの衣装は一から制作された。サフディもベリッツィも、服は着古され、リアルだと感じられることが重要だと考えているからだ。「自分たちで作れば、わざと傷ませたり、生活感がある感じを出したりできるんです」とベリッツィは説明する。

するとサフディが口を挟む。「僕が関わった映画に対してもらう最高の褒め言葉は、“生活感がある(lived-in)”という形容詞なんです。なぜなら、私たちが人生を捉えるとき、そこにあるのはカメラのために作られたものではなく、すでに存在しているものだからだ。ミヤコは長年の取り組みからパーソナルスタイルを理解しているので、キャラクターの魂や本質と、その人が身にまとう服とを結びつける方法を知っているんです」

たとえば、マーティの奔放な恋人レイチェル(新星のオデッサ・アザイオン)がペットショップでの仕事中に着ている紫のニットセーターについて、彼はこう称賛する。「動物の尿がかかっても構わないと思えるようなタイプの服なんですが、それでも彼女の本質を感じさせる色をしているんです」

ニュージャージーの田舎への小旅行でのマーティとレイチェルの衣装は、サフディがその場面をどう演出するかにまで影響を与えたという。彼はそのシーンを、大恐慌時代に銀行強盗や殺人を繰り返したカップルである「ボニーとクライド」の場面と呼んでいる。

田園風景の中、オープンカーに乗る都会的なカップルを写した1920年代の写真が着想源となり、マーティのマルーンブラウンのスーツと、レイチェルのベージュブラウンのギンガムチェックにセーラーカラーをあしらったシャツドレスが決まった。「都会から来て、何かよからぬことを企んでいる人物が田舎で着ていそうな服、という感じがしたんです」とサフディは語る。「目を閉じてこの映画を思い浮かべると、あのペアルックが浮かびます。田舎にいる都会の詐欺師たちです」

アカデミー賞候補者が集うオスカー・ノミニーズ・ランチョンに出席したミヤコ・ベリッツィ。
98th Oscars Nominees Luncheonアカデミー賞候補者が集うオスカー・ノミニーズ・ランチョンに出席したミヤコ・ベリッツィ。

ベリッツィの制作は、何千枚もの写真が散乱するオフィスから始まった。「とても神聖な空間で、いつも音楽が流れていて、窓はない。独特の雰囲気でした」とサフディは満足そうに語る。「俳優たちがその役を体現できる場所だったんです。ミヤコはキャラクターをイメージできる服をラックごと持ち込み、彼らがどんなものに惹かれるかを見ていました」シャラメが手に取った赤い革の手袋は、最終的にベリッツィのお気に入りの一つとなった。「街で赤い手袋をはめながらホットドッグを食べている様子は最高だと思ったんです」

また、彼女はフラン・ドレシャー、アイザック・ミズラヒ、サンドラ・バーンハードといったニューヨークの著名人の衣装を手がけることに高揚したが、彼女にとって最も印象的なフィッティングは、間違いなく『マン・オン・ワイヤー』の主人公であり綱渡りの名人、フィリップ・プティ本人だった。彼は映画内で一瞬のカメオ出演を果たしている。「彼に会ったときは本当に心を奪われました。あの瞬間は一生忘れられません」と彼女は熱く語る。

多くの若い観客は、ベリッツィに「衣装が現代的だ」と伝えてくるが、彼女は少し困惑しているという。「『これって今の服装みたい。みんなこんな格好をしている』と言われるんです。でも、その背後にある歴史をちゃんと理解しているわけではない。だからこそ、その歴史やオーセンティシティを理解してもらい、インスピレーションを感じてもらえたらと思います」

一方サフディは、観客が映画の衣装から得てほしいことは、もっとシンプルだと語る。それは、ハロウィンでのコスプレのアイデアだ。彼は、2025年のハロウィンにはすでに何人かのマーティを見かけたそうだ。「眼鏡に口ひげ、ふわっとしたオーバーサイズのシャツ、その下に白いタンクトップ。警察から逃げるときのあの格好です」とサフディは言う。「僕たちはいつもそういう話をしています。キャラクターの本質をアイコニックに表現する方法。それは、予算内で簡単にハロウィン衣装に落とし込むことができるのです」。まさに、マーティ本人にもふさわしい大きな夢だ。

Text: Lisa Wong Macabasco Adaptation: Hanae Iwasaki

From VOGUE.COM

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