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【ネタバレあり】ナオキマンがひも解く『ブゴニア』に隠された真意…陰謀論に対する考えを揺るがす革新性

  • 2026.2.19

『女王陛下のお気に入り』(18)、『哀れなるものたち』(23)などの衝撃作を放ってきた鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、プロデューサーに『ミッドサマー』(19)の監督アリ・アスターを迎えて、新たに放つ『ブゴニア』(公開中)。地球が宇宙人によって滅ぼされようとしていると信じる陰謀論者たちと、彼らに宇宙人と思われて誘拐された製薬会社の女性CEO。この監禁事件の結末には、なにが待ち受けているのか!?

【写真を見る】そんなところにヒントが!?ナオキマンが教える、『ブゴニア』に隠された陰謀論シンボル…

MOVIE WALKER PRESSでは、陰謀論者のぶっ飛んだ言動の数々をはじめ、ブラックユーモアたっぷりの本作を、その道のプロである都市伝説や宇宙陰謀論などのコンテンツで人気のYouTuber、ナオキマンに語ってもらうインタビューを前後編でお届け。ネタバレなしの前編では、陰謀論初心者の編集Aが、ナオキマンの古今東西の知識と実体験から語られた解説をもとに、より陰謀論と本作への見識を深めることに成功。ということで今回はいよいよ、衝撃すぎると話題のラストへの解釈、リピート鑑賞したくなるポイントなどにも深く切り込む、ネタバレあり編をお届け!映画を観てから読んでいただくのがベターであることをはじめにお断りしておくが、これから観る人にとっても本作への興味が高まること間違いなしのはずだ。

女性CEOミシェルは、帰宅直後、突然2人の男に襲われる! [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.
女性CEOミシェルは、帰宅直後、突然2人の男に襲われる! [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

人気絶頂のカリスマ経営者であるミシェル(エマ・ストーン)は、陰謀論者のテディ(ジェシー・プレモンス)とドン(エイダン・デルビス)に誘拐されてしまう。「地球から手を引け」と支離滅裂な要求をしてくる2人と、「私は超有名人。このままだとFBIが動きだす!」と犯人に詰め寄るミシェルによる、まったくかみ合わない会話での心理戦が展開される。知能も話術も交渉術も完璧な女社長ミシェルは、狂信的な2人の陰謀論者にどう挑むのか?

※以降、『ブゴニア』のネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)に該当する要素を含みます。未見の方はご注意ください。

「ぶっちゃけ、金と権力さえあれば陰謀論は簡単に作れちゃうんですよ」

地下室へ監禁されてしまうミシェル。脱出すべくテディたちとの交渉を試みる [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.
地下室へ監禁されてしまうミシェル。脱出すべくテディたちとの交渉を試みる [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

「一見すると、『どうやってあの地下室から逃げ出すんだろう?』というハラハラスリラーなのに、急にアンドロメダ星人という要素が飛び込んできてファンタジーに戻される…その駆け引きが斬新で、あまりない展開でした」と、本作の予測不能なストーリーテリングを称賛するナオキマン。そう、同じく編集Aも、序盤は状況を察したミシェルが、下手したら殺されるかもしれない危険性もあるなか、すぐさま環境に適応してあの手この手で脱出を試みる様子を応援したものだった…。

映画好きでもあるナオキマンも、その物語構成の秀逸さに太鼓判を押す。「この映画では、パーソナルな問題と巨大な問題が対になっていて、そこがおもしろいですね」と語る。「例えばクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』では、“父と娘の物語”と“地球を救う問題”。今回で言うと前者は“誘拐事件”で、後者は“地球の破壊”」。たしかに、パーソナルという観点から本作をひも解いていくと、どうしてテディが陰謀論者となり誘拐をするに至ったのかもわかってくる。

誘拐犯の正体は、ミシェルの経営する会社で働くテディ [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.
誘拐犯の正体は、ミシェルの経営する会社で働くテディ [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

劇中では、テディが実はミシェルの会社で郵便係をしていることに加え、母親がミシェルの会社が作る医療用麻薬の治験に参加した結果昏睡状態になり、入院していることに胸を痛めていることが明かされていく。テディはあらゆる資本主義や権力者の犠牲になってきた存在であり、「誰も俺たちのことなんて気にかけていない」という自己否定に苛まれている。そしてテディは自身を取り巻く不幸のすべてが、ミシェルと会社の責任であると考え、彼女を責め立てるのだ。「テディ、かわいそう…やり方はともあれだけど、とにかくお母さんが大好きだったんだね」と、感情移入しがちな編集Aも、ほんの少しテディに同情する気持ちが働いたものだ。

とはいえテディに見られるように、問題の根本に向き合う前に、ほかのなにかのせいにしたがるのが陰謀論者にありがちな傾向の一つだと言われているそう。「この映画は本当に核心的な部分をついているなと思いました。テディたちを見て、『やばい、しっかりしなきゃ』と思う人たちもいるんじゃないでしょうか。困難をなにかのせいにして生きていくのは、いろんな意味でキツい。でも困難を乗り越えた先の風景を、多くの人が見ていますから」。陰謀を見る前に、現実を見る。そこにこそ、苦難を超えるヒントがあるのだ。

ナオキマンの解説に「へ~!」が止まらない!
ナオキマンの解説に「へ~!」が止まらない!

「なるほど、自分の不幸をすべて人のせいにするのもよくないよな…」と納得しかけた編集Aだが、いきなり「ただ…ぶっちゃけ、金と権力さえあれば陰謀論は簡単に作れちゃうんですよ」と暴露したナオキマン!「ええ!どういうことですか!?」と困惑する編集Aに、その真意を明かしてくれた。

「例えば、よく知らない無名の医者が、感染症に効くワクチンを開発したと言って不特定多数の人に打たせようとしたら、結構怖いですよね。しかし世界的に知られる製薬会社がワクチンを打たせようとしたら、それがどんなものであれ、皆さん、“これは安全だ”と思い込んでしまうでしょう。権力があれば思い通りに事を遂行できるし、都合の悪い点があれば、金の力で揉み消してしまえる。歴史は勝者が築くものですから、それが成功すれば歴史になります。しかしテディのような弱者には歴史は作れない。それが現実なんです」。まさに目から鱗!つまり本作においてはミシェルが強者、彼女の主張をなんの疑いもなく信じてしまうということか…だからこそ、今回のあの結末に衝撃を受けてしまう…ということなのか!?

「人類はこの葛藤をなんだかんだ乗り越えられる気がしてます」

自身の経営する企業を成長させてきたミシェルは、かなり頭が切れる自信家 [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.
自身の経営する企業を成長させてきたミシェルは、かなり頭が切れる自信家 [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

「また、テディが頭のおかしい人であると見ればただの誘拐犯ですが、彼の訴えることが本当であれば地球を救わないといけないと思えてくる。その2つを行き来している点が巧いですね」。そう、頭のおかしい陰謀論者と頭の切れる女性CEOの駆け引き――巧妙な演出のうえでそう信じていた物語が、ラストのクライマックス展開を前にとんでもない方向へ転がっていく。すったもんだの大騒動の果てに、観客が知るのは…。

ネタバレアリの記事とはいえ、物語のラストを具体的に紹介するのは自重するが、ナオキマンは次のように語る。「僕はこの映画を見終わって、奇跡のリンゴと言われている木村秋則さんという農家の方のお話を思い出しました。ご存知ですか?」。「奇跡のリンゴ」…聞いたことがあるような。そうだ、たしか実話を基に、阿部サダヲ主演で映画化された作品がそんなタイトル!と編集Aは思い出した。「僕は木村さんに会ったことがあるんですけど、本人曰く宇宙人に何回もさらわれているらしいんですね。で、宇宙人が言うんですって。『この世界のことはもう解読してるから、お前ら本当にしっかりしないと、ボタン一つですべて終わらすぞ』って」。

養蜂を行うテディは、ミツバチの減少は陰謀によるものだと主張 [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.
養蜂を行うテディは、ミツバチの減少は陰謀によるものだと主張 [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

調べてみると、木村秋則さんは農薬が原因で奥さんが体調を崩したことをきっかけに、完全無農薬でのりんご栽培に取り組んだ農家の方だ。そういった背景まで母親が治験で昏睡状態になったテディと酷似しているじゃないか。ここまで実在の人物とリンクしているなんて…。ということは、地球を大切にせず、欲に憑かれ、言い争いを繰り広げている愚かな人類の行く先は…。

しかし、ナオキマンは「僕は、希望は常に持ってます。ジャンプ主人公思想なんで」と絶望した編集Aに救いの手を差し伸べてくれた!「いまも世界で戦争が行われてますけど、人類はこの葛藤をなんだかんだ乗り越えられる気がして。こうやって活動してみんな生きてるってことは、乗り越えられる試練なんだと思うんです。なので、希望は常に抱いてますね。本作を見ていて感じたのは『すべてはお前ら人間次第なんだよ』という問いかけです。誰かのせい、なにかのせいにせず、課題を解決していくことが、いまを生きているひとりひとりに必要なんじゃないでしょうか。金持ちのせいにするなよ!ミシェルのせいにするなよ!自分たちの問題は自分たちで解決しろ!そういうことなんだと思います」。なんと壮大な人類に向けたメッセージなんだ!「問題に向き合え、乗り越えろ!」ナオキマンの解説で、すっかり本作の深みにはまってしまった編集A。

「テディのような疑問を抱く人は必要だと思います」

ナオキマンは、テディのような存在も必要だと解説する [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.
ナオキマンは、テディのような存在も必要だと解説する [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

一方で、「陰謀論を全否定もしていないのが、この映画のいいところ」とナオキマンは続ける。「世界には地球を破壊しかねない、様々な問題があります。農薬もそうだし、太陽光パネルもそうですね。そういうことを世界に気づかせるうえで、テディのような疑問を抱く人は必要だと思います」。テディがとった方法は人道的に見ても決して褒められたものではないが、彼のような問題提起のきっかけとなる役割が必要なのも、また事実なのだろう。実際に、テディ役を演じたジェシー・プレモンスは本作のインタビューの中で「多くの人が陰謀論に染まっていく時、その人のなかに恐怖心を起こしている“種”自体は、誤りではない」と語っている。テディは信念も手段も強引で、筋金入りの変人のようにもみえるが、実は彼を突き動かしている怒りや恐怖心は極めて現実的なものなのだ。

「陰謀論者はヤバいやつ。だからこそテディが悪に違いない」と思い込んでいた編集Aだったが、知らぬ間に植えつけられた先入観による、偏った見方だったことに気づかされた。ここまで陰謀論サスペンス、風刺の効いたブラックコメディ、社会派ドラマ、終末談など、様々な側面を読み解いてきた。しかし裏を返せば、それだけ情報量が多いということ。「なんだか、見逃してしまった部分も多い気がしてきました」と、編集A。すると「結末を知って、改めて観直すと、また違った見方ができるかもしれません」とナオキマンもリピート鑑賞すればもっと本作のおもしろさを追求できるはず、とプッシュ。

【写真を見る】そんなところにヒントが!?ナオキマンが教える、『ブゴニア』に隠された陰謀論シンボル… [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.
【写真を見る】そんなところにヒントが!?ナオキマンが教える、『ブゴニア』に隠された陰謀論シンボル… [c]2025 FOCUS FEATURES LLC.

「ヨルゴス・ランティモス監督の作品は以前の映画もそうでしたが、シンボルを多く入れこんでいます。本作でいえば、ミシェルが経営する会社のコーポレートロゴには三角形が用いられています。フリーメイソンとかイルミナティとかも、三角形に目ですよね。大体、陰謀論が絡む組織が使うモチーフなですよ」。「ええ、全然気づかなかった!」と感嘆の声をあげる編集A。これは、本作の結末を考え直すためにも、見逃したであろうシンボルを見つけるためにももう一度観に行くしかないな!と決意した編集Aだった。

ナオキマンの解説をヒントに、映画『ブゴニア』を深く読み解いてみてほしい! 撮影/興梠真穂
ナオキマンの解説をヒントに、映画『ブゴニア』を深く読み解いてみてほしい! 撮影/興梠真穂

最後に、ナオキマンが本作に興味を抱く人たちへこんな言葉を贈ってくれた。「巨大な権力が、あるいは別の生命体が彼方からやってきて皆さんを支配しているのか…この映画を観たら、ある種その答えにちょっとだけ近づけるかもしれないですね。物語を深いところまで読み取れたら、本当に戦うべき相手も見えてくるんじゃないでしょうか」。前代未聞の誘拐サスペンスには、二重三重のサインがある。何度も味わって、その謎を解いてみてはどうだろう?

取材・文/相馬学

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