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指パッチンで超音速衝撃波を放つエビは自爆防止ヘルメットを装備していた

  • 2026.2.16

指パッチンみたいな一撃で、水中に「ドンッ」と衝撃波をばらまき狩りを行うエビがいます。

しかしこのエビは、自分の武器のせいで、いつも頭の目の前で小さな爆発のような現象を起こしていることになります。

アメリカのサウスカロライナ大学(USC)で行われた研究によって、このエビの頭にはオービタルフードと呼ばれる透明な“ヘルメット”があり、その素材と構造が衝撃波をうまくいなして、脳や目を守る仕組みが見えてきました。

研究では計算が行われ、ヘルメットの内部構造と素材の性質のおかげで自分が起こした衝撃波をうまくいなし、その結果として脳や目にかかる「ゆさぶり(ひずみ)」を約3割、「ためこまれるストレス(応力)」を約2割も減らしている可能性が示されました。

いまの人間用ヘルメットや防弾チョッキは、弾丸や破片から守ることは得意でも、爆発で生じる衝撃波から脳を守ることはあまり得意ではありません。

海底で暮らす小さなエビのヘルメットが、私たちの未来の防具を本当に変えてしまう日が来るのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年2月11日に『Journal of the Royal Society Interface』にて発表されました。

目次

  • なぜ超音速衝撃波を出すエビは自分をノックダウンしないのか?
  • 爆音エビの頭には自分を守る多層構造ヘルメットが存在した

なぜ超音速衝撃波を出すエビは自分をノックダウンしないのか?

なぜ超音速衝撃波を出すエビは自分をノックダウンしないのか?
なぜ超音速衝撃波を出すエビは自分をノックダウンしないのか? / Credit:川勝康弘

花火や爆竹の「ドーン」という音を近くで聞いたとき、胸や頭までズーンと響いた経験はないでしょうか。

あれはただの音ではなく、爆発で生じる圧力の波が空気の中を伝わり、近い場所ではとても速いショックウェーブとなって体の中までゆさぶっているからです。

もちろん、遠くから眺める花火の音そのものが危険というわけではなく、問題になるのは人のすぐ近くで起きる強い爆発です。

ショックウェーブは特に、脳や目のような神経組織(からだの情報を扱うやわらかい部分)にダメージを与えやすく、短期的にはふらつきや記憶力の低下、長期的には神経の変性や認知機能の低下、最悪の場合は死亡につながることもあります。

そのため戦場や爆発事故の現場では、「爆風で脳がやられる」という問題が長年大きなテーマになってきました。

ヘルメットやボディアーマー(防具)は弾丸や破片から守るのは得意ですが、ショックウェーブから脳を守ることはあまり得意ではなく、「爆風による脳損傷をどう防ぐか」はいまも世界中の研究者が頭を抱えている難問です。

実際、衝撃波のエネルギーが脳や目に伝わるのを十分に防いでくれるヘルメットはまだ存在しません。

(※爆発物処理班が着用する完全密閉型ならば衝撃波をかなり防げますが、戦場の兵士がそれを着て戦うわけにはいきません。)

ところが自然界には、そんなショックウェーブを毎日のように顔面で浴びているのに、平然と暮らしている生き物がいます。

それがスナッピングシュリンプ(テッポウエビの仲間)です。

このエビは、バネ仕掛けの大きなハサミを一気に閉じることで高速の水のジェットを発射し、その勢いでキャビテーションバブル(圧力の差で一瞬だけできる小さな泡)を作ります。

泡がつぶれる瞬間に、光・音・熱、そして強力なショックウェーブが生まれ、これを武器としてライバルや獲物にぶつけているのです。

指パッチンエビの「パッチンの威力」
テッポウエビ(スナッピングシュリンプ)は、片方だけ異様に大きなハサミをバネ仕掛けのように構えておき、「パンッ」と閉じるだけで、水中にとんでもない一撃を送り出します。ハサミの先の小さな窪みから絞り出された水は一瞬で30メートル毎秒前後、時速にすると100キロ近いスピードに達し、その勢いで前方に空洞の泡「キャビテーションバブル」がふくらみます。この一撃で押し出された水は、細いジェットになってハサミの先から飛び出し、その先で水圧が一気に下がることでキャビテーションバブル(空洞の泡)が生まれます。
しかし本当に怖いのはその次で、この泡がつぶれる瞬間に一気に周りの水がなだれ込み、圧力上昇とともに鋭い衝撃波が生まれるとされています。ハサミから数センチ離れた場所でさえ、80キロパスカルクラスの圧力変化が測定されています。さらに変態的なのは温度です。泡が完全につぶれる、そのほんの一瞬の内部では、計算と観測から5000ケルビン、摂氏にすれば約4800度を超える温度に達していると見積もられています。これは太陽の表面温度(約5800ケルビン)とほぼ同じオーダーで、「エビが指パッチンしただけで、ピンポイントとはいえ太陽表面級の高温が生まれている」と言っても大げさではありません。水中で音として測ると、218デシベルに達することもあり、これは銃声(空気中でだいたい150〜170デシベル)も大きく大きなロケット打ち上げ(200デシベル前後)に匹敵します。この威力は、周りの生き物から見れば冗談では済みません。小魚や別の甲殻類が至近距離でこの衝撃波を浴びると、神経がショックを受けて動けなくなったり、その場で気絶したりすることがあります。

録音してみると、スナッピングシュリンプは昼夜を問わず「パチン! パチン!」と鳴き続けており、そのショックウェーブは自分の頭にも、相手とほとんど同じ強さで当たっていることが分かっています。

しかもこの“パチン”は、武器であると同時に仲間とのコミュニケーション手段にもなっていて、彼らはまさに「しゃべる拳銃」のような生活をしているのです。

では、そんな危険なショックウェーブを顔の目の前で連発しているのに、なぜスナッピングシュリンプの脳は無事なのでしょうか。

以前の研究で、研究者たちはこのエビの目と脳の上にオービタルフードと呼ばれる透明なヘルメット状の突起があることを見つけました。

さらに極小の圧力センサーを使って調べると、このヘルメットの外で測ったショックウェーブよりも、内側で測ったショックウェーブのほうが大きく弱まっていることが分かりました。

また、あえてオービタルフードを取り除いたエビにショックウェーブを浴びせると、運動の調整が乱れ、隠れ家に戻るのが遅くなるなど、脳がダメージを受けたような行動が現れました。

つまり、オービタルフードは研究者たちが初の例と位置づけた「ショックウェーブから脳を守る天然ヘルメット」と言ってよさそうです。

ただし、ここで新たな疑問が生まれます。

オービタルフードは見た目には甲らの一部が少し伸びただけの、薄い半透明の板にしか見えません。

どうしてこんな薄い板が、あの強烈なショックウェーブをそこまで弱められるのでしょうか。

そこで今回、研究者たちはスナッピングシュリンプのオービタルフードと普通の甲らを徹底的に比較し、「どんな素材の性質と構造が、ショックウェーブをいなす秘密になっているのか」を明らかにしようとしました。

もしその仕組みが分かれば、エビが使っている“衝撃波いなしヘルメット”のアイデアを、人間のヘルメットや装甲に持ち込むことはできるのでしょうか。

爆音エビの頭には自分を守る多層構造ヘルメットが存在した

爆音エビの頭には自分を守る多層構造ヘルメットが存在した
爆音エビの頭には自分を守る多層構造ヘルメットが存在した / Credit:Structural and mechanical properties facilitate shock wave damping by helmet-like orbital hoods in snapping shrimp

エビのヘッドギアはどんな仕組みで厄介な衝撃波を防いでいるのか?

最初に行われたのは、オービタルフードと普通の甲らを小さく切り出して、機械でグイッと伸ばす「引っぱり試験」です。

長さ数ミリの試験片を装置にはさみ、短い時間で三割ほど伸ばしてそのまま保ち、時間がたつにつれてどれくらい力が抜けていくかを測りました。

これは粘弾性(ゴムのように弾む性質と、水あめのようにゆっくり変形する性質が合わさったもの)を調べる典型的な方法です。

すると、オービタルフードは普通の甲らに比べて「硬さ」はおよそ半分しかないのに、引っぱった直後からしばらくのあいだに抜けていく力の量は約二倍という結果になりました。

研究者は、瞬間的な硬さと時間がたったときの硬さの比を指標として「どれくらいエネルギーを中で散らしてしまえるか」を計算しており、その指標はオービタルフードのほうが小さく(つまりより粘ってエネルギーを散らせる側に)なっていたのです。

つまりエビのヘルメットは、ガチガチに硬い盾ではなく、「ちょっと柔らかいけれど、そのぶん衝撃のエネルギーを中でじわ〜っと散らしてしまうクッション」のような素材だと言えます。

ある意味で、エビは「硬さを犠牲にしてでも、ねばりで守る」タイプのヘルメットを選んだことになります。

これが、ショックウェーブをいなすための第一のコツだと考えられます。

では、なぜそんな粘弾性が生まれるのでしょうか。

同じエビの甲らなのに、ヘルメット部分と普通の背中では何が違うのでしょう。

そこで研究者たちは、透過型電子顕微鏡(TEM:とても細かい内部構造を観察できる電子顕微鏡)を使って、オービタルフードと普通の甲らの断面を観察しました。

エビの甲らは、大まかに「外側の薄い膜」「中間の比較的硬い層」「内側の厚い層」という三つの層に分かれています。

このうち内側の厚い層には、キチンという繊維がラメラと呼ばれる極薄のシート状になって何十枚も重なっています。

電子顕微鏡で測ると、オービタルフード全体の厚さは平均で約13マイクロメートルほど(実際には12.7マイクロメートル)しかなく、普通の甲らは約26マイクロメートルとそのほぼ二倍の厚さがありました。

ところが、その中に含まれるラメラの枚数は、普通の甲らが平均で約35枚だったのに対し、オービタルフードでは平均で約57枚と、約1.6倍に増えていたのです。

1マイクロメートルあたりのラメラ枚数に直すと、普通の甲らがおよそ2枚なのに対し、オービタルフードはおよそ6枚という“超薄切りサンドイッチ構造”になっていました。

厚さは半分近いのに、層の枚数は約1.6倍ということは、一枚一枚がとても薄い「超薄切りサンドイッチ構造」になっているということです。

薄い層がたくさんあると、その境目が増えます。

境目はすべりやすい部分なので、衝撃が来たときに層どうしが少しずつずれながら変形することができます。

その結果、外から入ってきたエネルギーは、この「インターフェースのすべり」で散らされやすくなる可能性があります。

研究者たちは、こうした多層サンドイッチ構造が、さきほど見つかった「半分の硬さと二倍のエネルギー吸収力」を生み出している大きな理由の一つだと考えています。

素材とミクロ構造の違いがわかったところで、次に気になるのは「それが本当に脳を守る力につながっているのか」です。

そこで研究者たちは、マイクロCTでエビの頭部を丸ごと撮影し、オービタルフード・甲ら・目・脳・体の位置関係を再現し、その形をもとに断面モデルを作って計算に使いました。

マイクロCTの画像からは、オービタルフードが目のカーブに沿うようにかぶさり、そのあいだに水の部屋のような空間があることも分かりました。

この水の部屋は平均でおよそ70マイクロメートル(論文では68.3マイクロメートル)ほどの厚みがあり、前側に口が開いて海水とつながっています。

前の研究では、この水の部屋の前側のすきまをわざとふさぐと、オービタルフードが衝撃波の強さを変える力が弱くなることも報告されており、水を押し出してエネルギーをそらす仕組みが働いている可能性が高いと考えられています。

実は、テッポウエビの仲間にはこのヘルメットがない種類や、目の上を部分的におおう「未完成フード」、上からだけおおう「完全フード」、この種のように横からもすっぽり覆う「完璧フード」などいくつかの段階があることも分かっています。

その結果、オービタルフードがあるときには、ない場合に比べて、目と脳にかかる変形の大きさ(ひずみ)が約28%、内部にたまるストレス(応力)が約22%それぞれ減ると予測されました。

さらに、オービタルフードの粘弾性の値を少しだけ変えてみると、興味深いことがわかりました。

実験から求めた「本物のエビと同じ値」のときがいちばん守りの性能が高く、それより硬くしても柔らかくしても、脳や目を守る力が下がってしまったのです。

もしヘルメット部分が普通の甲らと同じ性質だったら、ここまでの防御力は出ないという結果も出ています。

研究者たちは論文の中で、オービタルフードは衝撃波減衰のために最適化されているように見えると述べています。

これらを総合すると、オービタルフードは「たまたまそこにある殻」ではなく、「ショックウェーブを弱めるために、素材の性質と中身の層構造、形と水の部屋まで含めて、かなり細かく“チューニングされたヘルメット”」だと言えそうです。

ある意味で、オービタルフードは「素材+構造+水」を組み合わせた三段構えのショックウェーブいなしシステムだと言えます。

そして有限要素シミュレーションの結果から、その性質は今回シミュレーションで試した範囲では「これ以上いじってもあまり良くならない」レベルまで進化によってチューニングされている可能性もあります。

小さなエビの頭の中で、材料科学と流体の物理と進化がガッチリ手を組んでいる──そう考えると、このヘルメットが、ただの薄い甲らの一部にはもう見えなくなってきます。

この成果は、対衝撃波の防具設計に重要なヒントを与えてくれます。

現代の防具は弾丸や破片には強いものの、爆発で生じるショックウェーブから脳を守るという点ではまだ十分とは言えません。

ですが今回の研究により「硬い一枚板で防ぐ」のではなく、「薄い層を何十枚も重ね、内部に水などの流体の部屋を設けてエネルギーを吸収してそらす」という、「エビ式ヘルメット設計」の発想を人間の防具設計に持ち込めるかもしれないことが示されました。

論文でも、研究者たちはスナッピングシュリンプでの発見が、生き物をお手本にしたショックウェーブ減衰型アーマーの設計を刺激し、爆発による脳損傷から人を守る手助けになることを願っていると述べています。

もしかしたら未来の戦場や災害現場では、兵士やレスキュー隊員が、エビのオービタルフードそっくりの「多層ゼリーヘルメット」を当たり前のようにかぶっているかもしれません。

元論文

Structural and mechanical properties facilitate shock wave damping by helmet-like orbital hoods in snapping shrimp
https://doi.org/10.1098/rsif.2025.0769

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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